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ご質問にお答えします!『若い登場人物のセリフにはどの程度流行り言葉を入れる?』

脚本家志望の方からこちらのご質問をいただきました。

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ご質問ありがとうございます。

ご質問を読んで私が最初に感じたことは、「若い登場人物」というくくり方は大き過ぎる、ということです。
中学生にも、高校生にも、いろんな子がいます。
流行り言葉を積極的に使うタイプの子、まったく使わない子、本当は使いたくないけれど空気を読んで使っている子、会話では使うのが気恥ずかしいけれどLINE等の文章では使う子、等々……。
「流行り言葉」というたった一つの切り口で考えただけでも、いろいろなタイプが想定できます。

脚本家が原稿を書く際に判断すべきは、
「若い登場人物だから流行り言葉を使わせるかどうか?」
ではなく、
「自分が描こうとしている登場人物は、流行り言葉を使うようなタイプかどうか?」
ということだと思います。
仮に「田中花子(17歳)高校二年生」という登場人物を描く場合、作品を通して表現しなくてはならないのは「女子高生らしさ」ではなく、「他のどの女子高生とも違う、田中花子らしさ」です。
私ならば「田中花子像」を詳細に思い描き、流行り言葉を使いそうな子だと思えばセリフに書きますし、そうでないと思えば書きません。

質問者さんは「流行り言葉を使わせないと、若者らしさが消える気がする」と書かれていますが、その思い込みは捨てたほうがいいと思います。
例えば、質問者さんが電車内で、流行り言葉とは程遠い、とても大人びた口調の男子中学生を見かけたとしましょう。
その男子中学生が、友だちと熱心に話している内容が「学食のメニューからカレーライスが無くなるのに絶望していること」だとしたら、そのギャップが微笑ましく、かわいいなと思いませんか?
若さを表現する方法は、「流行り言葉を使うかどうか」以外にもいくらでもあるということです。
むしろ「流行り言葉を使わせることだけで若者らしさを表現する」という手法はステレオタイプなのではないか?ということを考慮すべきだと私は思います。

これは、「若者の言葉使い」に限った話ではありません。
私がシナリオ教室に通っている頃、プロとして活動している先輩がこんなことを言っていました。
「脚本家志望の人の作品におじいさんが出てくると、セリフの語尾が『~じゃ』になってることがあるんだけど、そんな昔ばなしみたいなおじいさん、みんな本当に見たことある?」
登場人物に”いかにも”な、ステレオタイプの喋り方をさせると、書き手は「キャラクターが描けているような気分」になりがち、ということなのでしょう。
ですが、これはとても危険なことだと思います。
脚本家が「~じゃ」という言葉使い以外に、キャラクターを描く工夫を何もしていなければ、リアリティーのない人物となってしまい、作品全体に”絵空事っぽさ”を漂わせる要因にもなるからです。

矛盾したことを言うようですが、私たちが書く脚本は原則として「絵空事」です。
この世に実在するわけでもない人物を仕立て上げて、その人の身に大変なことが起きたぞ!と書き、読者、観客に「この話に一喜一憂してください」と求めることが「ストーリーを描く」ということなのです。
なぜ読者、観客は、私たちが作る絵空事にわざわざ付き合ってくれるのでしょう?
それは、「絵空事でいいから、とびきり面白いストーリーを聞かせて! 見せて!」と期待しているからです。
この期待に応えるには、「とても絵空事とは思えない程のリアリティー」、「まるで現実であるかのように感じられる本当らしさ」が必要だと私は考えています。
絵空事だからこそ、嘘っぽい人物、絵に描いたような人物を描いてはいけない、ということです。

これらのことを熟慮した上で、ご自身の作品に登場する若者に流行り言葉を使わせるかどうかを判断することをお勧めします。

これからもお互いがんばりましょう!

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