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ご質問にお答えします!『脚本でカメラアングルの指定はしないと教わりますが…』

脚本家志望の方からこちらのご質問をいただきました。

「脚本家はカメ...

ご質問ありがとうございます。

これまでに何度も、脚本家志望の人や「かつて脚本家や映画監督を目指したことがある」という人から同じような質問をされました。
「できあがった映像をみて、『私が思っていた絵と違う!』と腹が立つことも多いんでしょう?」
「脚本家と監督が別の人だと、イメージの統一ができないですよね?」
どちらの質問に対しても、私の答えは「いいえ」なんですが、「いいえ」と答えると、なぜか不服そうな顔をされることが多いです。
なんで不服なんですかね?(笑)

「私はこういう表現をまったく想定していなかったけど、凄くいい!」という”嬉しい誤算”ならばいくつも思い当たりますが、「思ってたのと違う!」と不満に思ったケースは、これまでに脚本を書いた映画、ドラマをふり返っても、すぐには思い浮かばないです。

これには、以下の3つの理由があると思います。
1)脚本をゆだねるスタッフ、キャストが全員プロだから
2)決定稿になるまでに、監督と何度も打ち合わせを重ねるから
3)執筆中にすべてのシーンを「完成した映像」でイメージしているわけではないから

それぞれ詳しくご説明していきましょう。

1)脚本をゆだねるスタッフ、キャストが全員プロだから
映像作品デビューするよりもずっと以前、私が小劇場系の舞台作品(自主制作のもの)を書いていた頃には、公演を客席で観て「違う!」と不満を覚えたこともあります。
こういう公演では出演者の中に「プロ未満の人」がいる場合もあり、他のキャストに比べて明らかに演技が未熟だと感じると、「そうじゃないんだけど!」とイラついていました。
ですが当時は私も脚本家として「プロ未満」でしたし、キャスト、スタッフから私の原稿に対して「こうじゃないと思うんだけど!」と不満をぶつけられることもよくありました。

スタッフにせよ、キャストにせよ、メンバー内に拙い人もいるけれど、そこは経験値の高いスタッフ、キャストに教えを請うたり、カバーしてもらったりしながら何とか上演に漕ぎつける、というのは小規模な自主制作の舞台においては珍しいことではありません。

これに対して、現在私が映画やドラマの脚本を書く際のスタッフ、キャストは、みなさん各分野のプロです。
完成した作品に私が不満を覚える確率が各段に下がったのは、当然のことだと思います。

2)決定稿になるまでに、監督と何度も打ち合わせを重ねるから
映画にせよ、ドラマにせよ、脚本家は書き上げた原稿を「赤の他人の監督」にゆだねるわけではありません。
たとえ初めて一緒に仕事をする監督であっても、大抵はプロットの段階から打ち合わせを重ね、ハコ書き、脚本と書き進めていきます。
時には、「脚本の第3稿まで書いてみたけれど、一旦ハコ書きに戻って仕切りなおそう」といったケースもあり、それらのすべての過程を監督と共有するわけです。

そうすると自然に、脚本家と監督の間で作品全体のイメージが共有されていきます。
「カメラアングルを一緒に決めていく」といった類のことではなく、「自分たちは一体どんな作品をつくろうとしているのか?」という本質の部分が共有されていくので、後に監督が撮った映像を見て、私が「違う!」と感じるようなことは起きにくいのだろうと思います。


3)執筆中にすべてのシーンを「完成した映像」でイメージしているわけではないから
質問者さんがおっしゃる「そうそう! これが見たかった!」も、「思ってたんと違う……」も、「脚本家は完成した映像をイメージしながら原稿を書いている」ということが前提になっていると思います。
ですが私の場合、執筆中にすべてのシーンを「完成した映像」の形でイメージしているわけではありません。

例えば私が「放課後の教室で男子高校生・太郎と、女子高生・花子が話している場面」を書くとしましょう。
書きながら私が頭に描いている映像には、以下のA)、B)、C)が混在しています。
A)太郎・花子のどちらかの視点で、話し相手や教室内の風景を見ている(太郎か花子の一人称視点)
B)教室内のどこかに視点があって、太郎と花子を見ている(三人称視点)
C)完成した映像のイメージ。「映画のスクリーン/テレビ画面に映し出された太郎と花子」を見ている。

切り替えのタイミングに明確な法則はなく、何となくA)、B)、C)の間を行ったり来たりしながら原稿を書いているという感覚です。
分量は、A)とB)が同程度で、C)だけがグッと少ないです。
質問者さんがおっしゃる「映像で浮かぶシーン」「押しつけがましくならないように、カメラアングルを監督に伝えたいシーン」は、おそらくC)を指しているのではないでしょうか?

私はC)が極端に少ないので、できあがった作品を観たときに「思ってたのと違う!」と感じるケースが少ないのだと思います。
執筆中に頭の中に「自分にとって正解の映像」をつくり上げているわけではないので、できあがった作品を初めて見る時は大体、
「ほぉ~、こういう映画/ドラマになったんだぁ」
という気持ちです。

因みに、脚本を学び始めたばかりの頃の私は、C)の視点のみで書いていました。
ですが学びつづける中で、
「この書き方では、脚本に真実味が生まれないのではないか?」
「私の作品がどうも絵空事っぽいのは、”画面の向う側のお話”を書いているからなのでは?」
と思うに至り、どうしたものかと試行錯誤するなかで、A)、B)の視点が中心になっていきました。

あくまで私の個人的な感覚をご説明しているので、ほかのプロがどうなのかはまったくわかりません。
ですが、実感としてはA)、B)の視点を持ったことで、作品のリアリティが増したと感じています。

これからもお互いがんばりましょう!

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