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ご質問にお答えします!『長編の脚本が書けません』

脚本家志望の方から、こちらの質問をいただきました。

こんにちは。脚...

ご質問ありがとうございます。

長編を書こうとした際に「ラストまでたどり着けない」のでもなく、「中盤で力尽きる」のでもなく、「序盤で止まってしまう」というのは、率直に言って重篤な問題だと思います。
御自分でも書かれている通り、いろんな要因があり得ますが、この投稿では、私が一番確率が高いと思うことのみをお伝えします。

【中川が推測する要因】

質問者さんは、長編を書こうとしている時であっても「短編の習作に収まりそうなネタ」を選んでしまっているのではないでしょうか?
一年半もの間、短編の習作しか書いていないとなると、発想の回路がそのように固定されている可能性があります。
「脚本の勉強を始めて一年半ほど経ったので、そろそろ長編にもチャレンジしたいが、うまくいかない」とのことですが、「一年半の長きに渡って短編の習作しか書いていないからこそ、長編が書けないのでは?」と私は感じます。

ここまでお読みになった質問者さんは、
「いやいや、長編を書きたい気持ちはあるけれど、どうにも書けないから、結果として短編しか書いていないんですよ」
と思われるかもしれません。
そうなると、「鶏が先か、卵が先か」の話になりますが、それでもやはり私は、一年半もの間、短編の習作だけを書き続けるという学び方が質問者さんにとって適切だとは思えません。

【改善策をお伝えするための前提】

では、どうすればこの問題を解決できるのか?
それをお伝えする前提として、まず、上述の「短編の習作に収まりそうなネタ」について詳しくご説明します。

以前、「ご質問にお答えします!『葛藤を描くコツは?』」という投稿をしました。
この中で、「1時間のドラマや2時間の映画の背骨にはなり得ない、弱い葛藤」の例を挙げています。

例えばある人物がセレクトショップに買い物に出かけたとします。
店内を一通り見たところ、「ほしい!」と思う服が2着ありました。
いずれも値段は1万円弱。
ところが今日の予算は1万円まで。両方買うことはできません。
一体、どっちを選んだらいいんだろう?

このような弱い葛藤であっても、短編習作のネタにならば、できてしまいます。
例えば、以下のような感じです。
………………
休日にセレクトショップに買い物に来たOLの花子が、2枚のブラウスを手に取る。
どちらも花子が好きなパステルラーで、やさしい雰囲気。
値段は両方とも1万円弱。花子の今日の予算は1万円。
鏡の前で2枚のブラウスを交互に体に当てて悩んでいると、女性店員が「どっちもカワイイですよね」と声をかけて来た。
「パステルもお似合いですけど……こういうのもいいんじゃないですか?」
と、店員が手渡して来たのは、黒のシャープな雰囲気のブラウス。
絶対自分では選ばないタイプのものだが、勧められて花子は試着してみる。
すると意外にもよく似合い、驚く。
翌日、黒のブラウスを着て出社する花子。
同僚たちに褒められて嬉しい。
服のおかげか、この日は自信をもってふるまうことができ、会議でも、普段なら言えないような思い切った発言ができた。
………………

面白いかどうかはともかくとして、「先入観を捨てて人のアドバイスに従ってみたら、新しい自分が見つかった」という、「ちょっといい話」的な10分程度のストーリーを成立させられそうですよね。
そしてこの種の「ちょっといい話」は、新聞や雑誌の読者投稿のコーナーでよく見かけると思いませんか?
これは「日常に転がっているちょっといい話」の”ネタのサイズ”が、読者投稿のコーナーあたりにピッタリだからです。
ですが、1時間のドラマや2時間の映画に使うには、「日常のちょっといい話」は、ネタのサイズがあまりに小さすぎます。

このように、ネタや題材には、コンテンツの種類ごとに適切なサイズがあるのです。
質問者さんは「長編を書こうとしても、序盤で止まってしまう」とのことなので、「そもそも短編の習作にしかなり得ないサイズのネタで、長編を書こうとしているのではないか?」と思うのですが、いかがでしょうか?

【中川の推測に基づく改善案】

ここまでの私の推測が正しいという前提で、改善案を2つお伝えしておきます。
改善案1)「到底自分の手には負えない」と感じるネタ、題材を選ぶ
改善案2)ストーリーを考える前に、「登場人物の掘り下げ」を行う

それぞれ具体的にご説明しましょう。

改善案1)「到底自分の手には負えない」と感じるネタ、題材を選ぶ
上記の通り「質問者さんが選んでいるネタのサイズが、長編を書くには小さすぎる」というのが中川の推測です。
もしそうならば、思い切って”大きなネタ”を選んでみましょう。
「とてもじゃないけど、自分の手に負えない……」と感じるネタを敢えて選ぶということです。

最初は勇気が要ると思いますが、慣れるしかありません。
ここで、今回のご質問を読んだ直後の私の正直な感想をお伝えしておきます。
「プロ野球選手になりたいので一年半、家で素振りを続けて来ました。そろそろ実際にバッティングをしたいです。この間、バッターボックスに立ってボールを投げてもらったら、こちらに向かって硬球が飛んでくるのが怖くて逃げてしまいました。どうしたら良いでしょう? ……みたいな話だな……」

仮に、この通りのことを言うプロ野球選手志望の人が目の前にいたら、質問者さんはどうアドバイスしますか?
「そもそも野球って、そういうスポーツだよ! 怖くても慣れるしかないし、どんどんバッターボックスに立ちなよ!」と言いたくならないでしょうか?
今の私は、そういう気持ちです。

改善案2)ストーリーを考える前に、「登場人物の掘り下げ」を行う
映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと  シド・フィールドの脚本術』という本でも紹介されている方法です。

上に書いた「OL花子の短編ストーリー」のようなもので良いならば、登場人物の掘り下げはしなくても書けてしまいます。
(※注意※ あくまで「習作として書くならば」という話です。きちんと「作品」として書く場合には、短編だからといって人物の掘り下げが要らない訳ではありません。)

花子の勤め先はどんな会社なのか?
独身なのか、既婚なのか? 独身なら彼氏はいる?
一人暮らし? それとも家族と暮らしている?
出身地はどこ? 兄弟はいる?
趣味は? 口癖は?
等々……。
「とにかく短編を書き上げること」までが目標なら、これらの考察は、しなくても成立します。
ですので質問者さんには、登場人物の掘り下げをするという習慣がないのかもしれません。

もしそうならば、ストーリーを考える前に、登場人物の掘り下げを行ってみてください。
「自分が描きたいと思う人物像」を具体化していくのです。
頭に思い浮かべるだけではなく、アウトプットした方がいいです。
そうするうちに、「こういう人物なら、こういう行動を取るのでは?」「こういうストーリーがあり得るのでは?」というところまで発想が広がっていくのではないかと思います。

これからもお互いがんばりましょう!

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