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ご質問にお答えします!『照明も音響も使えない場所での公演について』

こちらのご質問をいただきました。

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ご質問ありがとうございます。


【質問者さんが「不可能」と思ってしまう要因は?】

演劇用の脚本を書こうとされているとのことですが、「照明音響がないと不可能だと思ってしまう」とおっしゃっていることから、これまで質問者さんは、演劇ではなく、映画やドラマといった映像作品用の脚本を学び、書いてこられたのではないかと推測しています。
(違っていたら、すみません。以下、この推測に基づいて書きます。)

映像用脚本と舞台用脚本の違いは多々ありますが、そのひとつに「時間と空間の移動を表現するのが容易かどうか」が挙げられます。
映画、ドラマといった映像作品であれば、シーンの変わり目で、10年でも100年でも、書き手の好きなだけ時間を経過させることができます。
また「時間をさかのぼる」という表現も、技術的には難しくありません。

さらに映像作品では、「主人公が暮らすアパートの一室のシーンの次に、宇宙空間を描く」といった具合に、空間の移動も(制作の予算と技術があれば)書き手の思うがままです。

これに対して演劇は、「時間と空間が、ほぼ固定されている作品」が多いと思います。
通常、演劇用の劇場には音響、照明の設備があり、セットを組んだり、場面を転換したりすることもできますが、だからといって映像作品と同程度に時間や空間の移動を表現する作品は少ないはずです。

質問者さんが「照明音響がないと不可能だと思ってしまう」のは、「照明や音響を使った演出によって、時間と空間の移動を表現できないから」なのだろうと推測しているのですが、実は演劇の世界においては「時間と空間が固定されている作品」は特に珍しいものではありません。
その点から考えて、私が質問者さんにお勧めしたい対処法は、「できるだけ多く戯曲を読んで参考にする」ということです。



【演劇の世界に目を転じてみましょう】

試しに、私の本棚から大好きなニール・サイモンの戯曲を取り出して、劇中で「時間と空間の移動」がどのぐらい行われているか確認してみましょう。

「ニール・サイモン戯曲集Ⅰ」より

『裸足で散歩』
空間の移動:なし。第一幕から三幕まで、すべてニューヨークのアパートの一室が舞台。
時間の移動:幕が変わるごとに数日ずつ進む。

『プラザ・スイート』
空間の移動:なし。ニューヨークのプラザホテルのスイート719号室が舞台。この部屋に泊まる三組の客のストーリーを描くオムニバスストーリー。
時間の移動:宿泊客の変わり目で時間が移り変わってはいるが、各ストーリー内での時間の移動はない。

……という具合ですので、質問者さんはまず「映像作品の脚本を書く場合の考え方」から「一幕モノの舞台を書く」という発想に、頭を切り替えると良いのではないかと思います。
一般的な地域の図書館にも、意外に多くの戯曲が置かれていると思いますので、可能な限りお読みになってみてはいかがでしょうか。

【戯曲を書く際のポイントは?】

映像作品の脚本を書いてきた人が、戯曲に取り組む際には、以下のようなポイントを意識すると良いと思います。
・会話の面白さ、味わいを重視すること
・アクセントを作るために、登場人物の”出ハケ”に工夫をすること

詳細は、こちらの投稿に書いてあるので、お読みいただければと思います。

また、コロナ禍による緊急事態宣言中に数多く制作された「リモートドラマ」も、参考になるのではないでしょうか。
リモートドラマは、会話の面白さが作品のキモになっていることが多く、Zoom等の画面内だけでストーリーを完結させなければならないため、「空間の移動」を使わずに描かれている作品が多いです。

手前味噌ですが、私が脚本を書いた以下の作品も参考になるかと思います。
「会話を通して、登場人物間の関係をどんどん変化させていく」「基本的に、画面に同時に登場するのは二人だが、三人目が現れるとストーリーの流れが変わる(舞台でいう”出ハケ”に当たる)」の二点を意識して書いています。


これからもお互いがんばりましょう!

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