見出し画像

ご質問にお答えします!『「ベタだけど面白い」と「単なるトレース」の違いは?』

脚本家志望の方から、こちらのご質問をいただきました。

画像1

ご質問ありがとうございます。
「『ベタだけど面白い』と『単なるトレース』の違いは?」
「オリジナル企画を立てる際の留意点は?」
と、ご質問が二つありますが、二つ目を先にお答えした方が良いと思うので、順番を入れ替えさせていただきます。

オリジナル企画を立てる際の留意点は?

私が一番重視しているのは、「自分自身が、圧倒的に面白いと信じられる企画を考えること」です。
当たり前すぎる答えに聞こえるかもしれませんね。
ですが、オリジナル企画を立てる時にはつい、「今、流行っている事象を取り入れよう」「世間にウケそうな題材を扱おう」と考えがちなのではないでしょうか?
私自身もそういう時期がありましたが、今は、この種のことは一切考えません。
より正確に言うと、「話題になっている事象や流行りのものに自分が深く関心があり、それを描きたいと強く感じるなら題材とするが、”流行っているから”という理由だけでは絶対に取り上げない」ということです。
「世間が面白いと言いそうなこと」ではなく、「誰が何と言おうと、私個人が絶対に面白いと信じること」を企画にするわけです。
これを鉄則としておけば、オリジナリティのある企画になると考えています。
人は皆、他の誰とも違う固有の存在なので、特定の個人が、自分の興味や関心、表現したいことを掘り下げ切れば、自ずとオリジナリティが生まれるはずです。

オリジナル企画における脚本家は、作品全体の”熱源”のような存在です。
人が触れたら火傷するほどの熱さで「この企画は面白いんだ!」と、脚本家が信じているからこそ、その熱がスタッフ・キャスト、そして観客の皆さんへと伝わっていくのではないでしょうか。
「まあ、こういう作品があってもいいんじゃないの?」といったぬるさで提案した企画に対して、スタッフ・キャスト、観客の皆さんが脚本家以上の熱を感じるはずがない、というのが私の考えです。

とは言え、「今、〇〇が流行っているから、とりあえずそれで企画立てとくか」というノリで提案をする人がいた場合に、うっかりそれが通るということはあり得ます。
それでも観客には、企画のぬるさが不思議なほど伝わるものだと思いますし、少なくとも、私はそういう企画の立て方をしたくありません。

ただし、「心底面白いと信じきれる企画」は、そう簡単には思いつきません。
着想を得たり、企画の細部を固めたりするために多くのリサーチが必要ですし、「来たぞ!」と思える瞬間が訪れるまで思考を深めるのは非常につらいです。
現実問題として、「来たぞ!」に至らないうちに時間制限が来て、微妙な企画を提案してしまう場合もあります。
それでも、「来たぞ!」と思えた企画が、コンペ等で選定された経験が何度もあるので、私はこの考え方は間違っていないと信じています。


「ベタだけど面白い」と「単なるトレース」の違いは?

上記のことを踏まえた上で、「ベタとトレースの違い」について私の考えをお答えします。
ベタという言葉にはネガティブなニュアンスが含まれますが、これを「型」と言い換えることもできると思います。
作劇のルールやセオリーを学んで「型」を知っている書き手は、自作をより面白くしようと知恵を絞る中で、「この部分は、型に従うことで面白くなるはずだ」と判断をすることもあれば、「ここは、あえて型を破った方が良いだろう」と考えることもあります。
「型」を知っている書き手が、それを効果的に使った時、人によってはそれを「ベタ」と表現するかもしれませんが、観客の多くは、質問者さんが書かれている通り「ベタだからこそ、面白い」と感じるはずです。

ですが、書き手の筆力が足りていない場合や、単純に手抜きをしている場合には、「本当はもっと独創的な手を使いたいけれど、思い浮かばないから型通りに(または、既存作品の真似を)しておこう」というケースもあるのではないでしょうか。
これが、質問者さんのおっしゃる「ただのトレース」に当たるのだろうと思います。
つまりは、一つ目のご質問への回答と同様、「ベタだけど面白い」と「ただのトレース」のわかれ目は、「書き手の熱量次第」というのが私の考えです。

噺家の故・立川談志は、弟子にこのように教えていたそうです。
「型から入れ。型があるからこその型破り」
「型ができてない者が芝居をすると型なしになる。メチャクチャだ。型がしっかりした奴がオリジナリティを押し出せば型破りになれる」
「ベタ」と言われるような表現であっても、書き手が型を知り、型を使いこなしているのであれば、それは観客の心に響くはずです。

時おり、型を知らない人が「ベタ」を闇雲に馬鹿にするのを見かけますが、私の経験上、そういう人の作品ほど、ありがちで、どこかで見たような新鮮味のない表現だらけだと感じています。

これからもお互いがんばりましょう!

ご質問のある方はこちらからどうぞ。
※シナリオコンクールの規定、審査基準に関してはお答えできませんので、その点はご了承ください。


脚本、小説の有料オンラインコンサルも行っていますので、よろしければ。


これまでに脚本家志望のみなさんからいただいたご質問への回答は、こちらのマガジンにまとめてあります。

スキ♡ボタンは、noteに会員登録してない方も押せますよ!

#脚本 #シナリオ #エンタメ #質問 #マシュマロ
***********************************
Twitterアカウント @chiezo2222

noteで全文無料公開中の小説『すずシネマパラダイス』は映画化を目指しています。 https://note.mu/kotoritori/n/nff436c3aef64 サポートいただきましたら、映画化に向けての活動費用に遣わせていただきます!