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ご質問にお答えします!『直しの要望に納得できない時の対処』

脚本家予備軍(?)の方から、こちらの質問をいただきました。

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ご質問ありがとうございます。

監督やプロデューサーと打ち合わせをされているようなので、質問者さんは一般的な脚本家”志望”の人ではなく、”予備軍”の状態にあるか、あるいはすでにデビューされているのかもしれませんね。


【はじめに】

私がnoteで脚本志望のみなさんからのご質問にお答えするようになってから、これが90本目の投稿です。
毎回心掛けているのは、「お答えしているのは、あくまでも私見である」ということです。
脚本を書く上でも、脚本家を目指してさまざまな活動をする上でも、ほとんどの場合、「唯一無二の正解」というのは存在していません。
ですが、プロとして活動している人間の私見は、プロを目指す皆さんにとっては何らかの意味があり、役に立つはずだと信じて投稿しています。
「私見であること」を前提とした回答なので、「〇〇が正しいです!」といった具合に、断言をすることは極力避けています。
これまでの投稿を読んでもらうと、「私は○○だと”考えている”」「これが適切だと私は”思う”」と答えていることが多いはずです。

【「意見を伝えて話し合う」以外の答えはありません】

上記のことを踏まえた上で、今回はあえて断言します。
脚本家が監督やプロデューサーからの直しの要求に納得できない時にするべきことは、「冷静に自分の意見を伝えて話し合う」以外にはありません。
それが「理想的」なのではなく、脚本家がたったひとつ行うべきことが「自分の意見を伝えて話し合うこと」なのです。
「意見を言いにくい時の対応が知りたい」「納得いかない箇所はスルーして直さずに提出する方法もあると思うのですが……」とのことなので、”要望をうまくかわして、なかったことにするハック”みたいなものを期待されているのかな?と思うのですが、「そういうものは存在しません」というのが私からのお返事です。

決して「あなたが納得しようがしまいが、監督やプロデューサーの意見は聞き入れなくてはいけない」と言っているわけではありません。
「自分の意見を伝えて話し合うこと」は、脚本家の仕事の一部、しかも重要な要素であるとお伝えしたいだけです。
例えば新人の魚屋さんが先輩に、
「朝、ゆっくり寝たくて魚河岸行くのがダルい時もあるじゃないですか? そういう時どうしてます?」
と尋ねたら、どんなリアクションをされると思いますか?
「いやいや、どうするもこうするも、早起きして仕入れに行くのも魚屋の仕事の一部だから! 魚さばいて売るのだけが仕事じゃないから!」
となるんじゃないでしょうか。
今の私は、この先輩と同じ気持ちです。

ただし、「早起きして魚河岸に行くのも魚屋の仕事」に比べると、「監督やプロデューサーと適切にコミュニケーションを取るのも脚本家の仕事」というのは、”誰が考えてもわかる常識”ではないと思います。
脚本家を目指している人であっても、プロと接する機会でもなければ仕事の全容を知るのは難しいでしょうし、質問者さんは今、初めて、習作やコンクール応募作を書いていた時には経験しなかった事態に直面して戸惑われているのだろうな、と想像できます。
想像はできるんですが、”うまいことスルーする方法”はないんです。
逃げずに向き合って、意見を交わし合うしかありません。
慣れないうちは「言いにくいな……」と思うのが普通だと思いますが、プロになり、プロであり続けるための通過儀礼のようなものなので、乗り越えるしかないです。


【話し合いの放棄は、完全に悪手】

「納得いかない箇所はスルーして直さずに提出する方法もあると思うのですが、あまり良い手ではないですかね」とのこと。
ここもあえて断言しますが、「あまり良い手ではない」のではなく、「完全に悪手」です。
なぜ悪手なのかというと、理由は以下の二つです。
理由1)原稿をもっとよくできたかもしれないチャンスを脚本家自ら放棄しているから。
理由2)「共に作品をつくるチームのメンバー」である監督、プロデューサーに対して不誠実すぎるから。
それぞれ詳しくご説明していきましょう。

【悪手である理由その1】

まずは「理由1)原稿をもっとよくできたかもしれないチャンスを脚本家自ら放棄しているから」についてご説明します。

質問者さんは「監督やプロデューサーからの直しの要望が、どうしても、『その案を採用しない方が良い』と”感じた”とき、どのように対応されますか?」と書かれていますが、”感じて”いるだけだけでは、不十分なのです。
上述の通り、このご質問への私の回答は「監督、プロデューサーと意見を交わし合います」ということに尽きるですが、話し合いの前提として、脚本家が「なんか違うと思うんですよ」みたいなことを言うのは「意見」ではないです。
提案されたことに対して脚本家が違和感を覚えるということは、何か根拠があるはずです。
その違和感の根拠を言語化して伝えることが、「意見を言う」というです。

例えば監督やプロデューサーから「インパクトを強めるために、あるシーンを追加してほしい」と要望されているとしましょう。
その場合に脚本家が、
「仮にこのシーンと足すと、主人公が、ここまで描いてきたキャラクターと矛盾した行動を取ることになる。追加シーンには、主人公が”普段と違う行動”を取るような要素がないので、『インパクトが強まる』というメリットよりも、『キャラクターがぶれる』というデメリットが勝ってしまう」
といったことを伝えるのが「意見」です。

監督やプロデューサーが脚本家の意見に納得すれば、追加シーンを足すという要望を取り消すかもしれません。
取り消さないまでも、脚本家側が意見を述べれば、監督やプロデューサーも「なぜここにインパクトがあるシーンがほしいのか」をより詳しく説明してくれるのではないでしょうか。
そうなれば、互いの理解が深まりますし、脚本家はより良い代案を出せる確率がグッと上がるはずです。
脚本家が違和感の根拠を述べたことで、「それならば、主人公が”普段と違う行動”を取る根拠としてどんなことが考えられるか検討しましょうか」という流れになるかもしれません。
検討の結果、追加シーンのより良いアイデアが生まれて、作品全体がレベルアップする可能性も十分にあります。

いずれにせよ脚本家が意見を述べることは「作品がより良い方向へ向かうことへの入り口」であり、話し合いの放棄は「作品がレベルアップする可能性の放棄」を意味します。

自分とは異なる視点からのフィードバックをもらい、それについて検討することで原稿が磨かれていく、というのは脚本家という仕事の醍醐味のひとつです。
プロの脚本家であり続けたいならば、「話し合いの放棄は、自分にとっての機会損失」という意識を持つべきだと思います。


【悪手である理由その2】

続いて「理由2)「共に作品をつくるチームのメンバー」である監督、プロデューサーに対して不誠実すぎるから」について。

回数は少ないですが、私は過去に、特定のメインスタッフに対して「この人とはどうしても一緒に仕事ができない」と感じて、仕事を降板した経験があります。
耐えかねて降りたのはどんな時だったかと振り返ると、特定の相手が、脚本家である私に対しても、作品に対しても「不誠実だ」と感じた時です。
具体的な事例を挙げることは避けますが、「不誠実」というのは「真摯に向き合ってくれず、信頼できない」という意味です。

ドラマも映画も、チームでつくりあげる作品です。
実際問題、脚本家がどれだけ「いいホンを書きました!」と言ったところで、一人きりでドラマや映画を完成させることはできないですよね。
チームである以上、メンバー間の信頼は非常に重要です。
「監督やプロデューサーからの提案をスルーする」というのは脚本家の取る行動として不誠実すぎると私は感じますし、相手に誠実さを求める以上は、まずは自分が誠実であるべきだとも思います。

これからもお互いがんばりましょう!

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これまでに脚本家志望のみなさんからいただいたご質問への回答は、こちらのマガジンにまとめてあります。

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