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ご質問にお答えします!『書きたいことが広がり過ぎて困っています』

脚本家志望の方から、こちらのご質問をいただきました。

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ご質問ありがとうございます。

脚本に着手する前に、プロットを書いたり、キャラクターの掘り下げを行ったりしても、書きたいことが広がり過ぎてしまうとのこと。
それでは、以下の手順で書き進めてみてはどうでしょうか?


【ステップ1 ログラインを書いて、ストーリーの主軸を見極める】

脚本に取りかかる前に、プロットに基づいて「ログライン」も書いてみましょう。
ログラインとは、ストーリーを一行で簡潔に言い表したものです。
例えば『ローマの休日』であれば、
「ヨーロッパの公国の王女が、滞在中のローマの大使館を抜け出して、一介の新聞記者と恋に落ちる」
といった具合です。

「1行にまとめる」という制約を自分に与えると、「これから自分が描こうとしているストーリーの主軸はどこなのか?」を意識せざるを得ません。
ストーリーを一本の木に喩えるならば、「幹はどこなのか?」を見極めることになります。

とは言え、脚本には「幹」に当たる部分しか書かないわけではありません。
木には「枝」があり、そこには「葉」も生えています。
ストーリーにも「枝」や「葉」に相当する部分はありますが、書き手が意識すべきは「すべての枝も葉も、幹から派生している」ということです。
言い換えると、「幹と繋がりのない枝や葉を無理やり繋げようとしても、木の一部分にはならない」ということ。

これをストーリーに置き換えるならば、
「主軸(幹)に繋がらないエピソードやキャラクター描写(枝、葉)をストーリーにねじ込むことはできない。無理にねじ込むと、一貫性のない、雑駁なストーリーになる」
ということになります。
これを回避するための第一歩として、「ログラインを書いて主軸を見極めること」をお勧めします。


【ステップ2 エピソード、キャラクター描写の取捨選択をする】

質問者さんは、「エピソードやキャラ描写のアイデアが広がり過ぎてしまう」と書かれていますね。
それらをすべて脚本内に入れ込んで、雑駁なストーリーになるのを避けるには、取捨選択が必要です。
上述の通り、採り入れるべきは「主軸と繋がっているもの」。
より具体的に言うと、「主軸を描くために効果的に働くエピソード、キャラ描写は採用」ということになります。

ここでもう一度、『ローマの休日』のログラインの例を読んでください。
「ヨーロッパの公国の王女が、滞在中のローマの大使館を抜け出して、一介の新聞記者と恋に落ちる」

アン王女と新聞記者・ジョーの恋が主軸なので、本作は、二人が一緒にいるシーンが多いですが、ジョーがスクリーンに登場する前は、「アンが、ローマでの滞在先である大使館でどのように過ごしているか」が描かれています。
盛大なパーティーで疲れ果てた後、アンは豪華な寝室で、フリルたっぷりの可愛いネグリジェを着て、ふんわりとカールした髪を梳きながら不満を口にします。
「ネグリジェはイヤ。パジャマが着たい。上衣だけで」
お付きの女性は「お行儀が悪い」と言いたげに眉をひそめますが、アンは「何も着ずに寝る人もいるのよ!」と続けます。
パーティーのシーンでは自国の王位継承者らしく、優雅に振る舞っていたアンですが、ここでの言動は、まるで幼い女の子です。

さて、この「幼い女の子のようなアン」という描写は、本作の幹(主軸)とどのように繋がっているのでしょう?
ストーリー終盤、アンはジョーに恋心を抱きながらも、彼のもとを離れて大使館に戻る、という決断をします。
大使館に戻った直後のアンは、「パジャマが着たい」のシーンとはまるで別人のようです。
髪を短く切り、着ているのは可愛いネグリジェではなく、黒いガウン。
側近たちの前では甘えた女の子のようだったはずが、毅然とし、誇り高く振る舞います。
なぜ彼女は変わったのか?
「大使館を抜け出して偶然ジョーと出会い、生まれて初めて恋を知った」という経験が、アンを変えたのでしょう。

大使館に戻ってからラストに至るまでのアンの振る舞いは、観客の胸を強く打ちます。
「王位継承者として生きる覚悟」と、「これから一生涯、ジョーとの恋をかけがえのない思い出として胸に秘め、生きていく」という決意が伝わってくるからです。
仮にアンが冒頭から、「いつでも毅然と振る舞う、大人の女性」であったならば、終盤の見え方はかなり違っていたはずです。
「アンは、ジョーとの恋を通して大人の女性に成長したのだ」ということをより劇的に表現するために、冒頭では「幼い女の子」のように描かれているのでしょう。
その意味で、「パジャマが着たい」と女の子のように振る舞う描写は、主軸に対して効果的に働いており、「要らない枝葉を無理やりくっつけているシーン」ではなく、「幹に繋がった枝葉」として機能しているわけです。

これを参考に、質問者さんもエピソード、キャラ描写の取捨選択を行ってみてください。
繰り返しになりますが、ポイントは、
「主軸を描くために効果的に働くエピソード、キャラ描写は採用」
ということです。


【最後に】

ここまで「エピソード、キャラ描写は、思いつくままに脚本内に入れるのではなく、取捨選択が必要」とお伝えしてきました。
分かりやすくするために、「取捨選択」という言葉を使ってきましたが、厳密に言うと、脚本内に入れないエピソード、キャラ描写は「捨てる」のではなく、「裏に置いておく」と表現した方が、私としてはしっくり来ます。
脚本内に書き入れることはしなかったエピソード、キャラ描写を「実はこういうことがあった」「実はこの人物にはこういう一面もある」と、脚本家の頭の中に留めておく、ということです。

脚本家は作品内で、登場人物の一日24時間、一年365日をすべて描写するわけではありません。
ですが、登場人物を「架空の存在」ではなく、「この世のどこかに実在しているのだ」と考えるならば、作品上は描かれていない時間も、登場人物の人生は進んでいることになります。
この、ストーリーの「裏」に当たる部分を脚本家が思い描くことは、とても重要だと私は考えています。
これまでの執筆経験から、書き手が「裏」まで想定することで、登場人物にリアリティを与えられると実感しているからです。

ですので、質問者さんが「あれも伝えたい」「これも書きたい」と思い浮かんだアイデアは、「捨てる」のではなく、「脚本の裏で起きていること」と認識しておくと良いように思います。

これからもお互いがんばりましょう!

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