第1回小鳥書房文学賞 受賞作品のご報告

第1回小鳥書房文学賞の受賞作品(全12作品)が決定いたしましたので、お知らせいたします。審査員3名によるコメントもあわせてご覧ください。

募集期間:2020年5月〜11月 応募作品:全167作品

●受賞作品●
大石早州王『とりとめのない話』 
小石創樹『ヒトリノハオト』
鞠子まりこ『鳴いて、そして香れば』 
そーちゃん(福岡少年院)『元不良ヒヨコが大空へ』 
多田長次郎『茶鳥のチャドリー、ヒトを知る』
中村友理子『池くんの鶴』
西木ファビアン勇貫『私・芸能人・鳥』 
沼田夏輝『トリ』
堀部未知『ただ白くてほそ長い鳥』 
山上豊『夜明けのコーラス』
山田夏蜜『僕の王国』
吉岡幸一『鳥男のかなしみ』 

=========<審査員のコメント>=========

(ショートショート作家 田丸雅智より)

ショートショートという形式の小説を専門に書く「ショートショート作家」として活動している。ショートショートとは簡単にいうと「短くて不思議な物語」、もっというと「アイデアがあり、それを活かした印象的な結末のある物語」のことだ。
ぼくはふだん、自作の執筆と並行してこのショートショートの普及のためにいろいろな活動を行っている。そのひとつが、全国各地で開催しているショートショートの書き方講座。90分ほどの時間内でアイデア出しから作品完成、発表までを行うというものなのだが、メソッドに従って進めていけば誰でもショートショートが書けるようになっている。参加者はのべ2万人以上で、下は小学一年生くらいから上はシニアまでと幅広く、企業や少年院などでも開催していたりする。
別の活動を挙げるとすると、文学賞の審査員がある。ありがたくもこれまで多くの賞に携わらせてもらってきたが、たとえば2019年度からショートショート専門の賞にリニューアルし、2020年度の第17回では応募総数9000通を超えた松山市主催の「坊っちゃん文学賞」では審査員長を務めさせていただいている。
そんな中、今回の小鳥書房文学賞の審査員の打診をいただいたとき、最初におもしろい取り組みだな、と純粋に感じた。本賞はショートショートだけの賞ではなく、それも含んだ短いお話の賞である。そして、同じ短い小説といえども、ショートショートとそうでないものとでは毛色がまったく違ってくる。ゆえにこれは、ある意味で異種格闘技のような賞になるな、とワクワクしたのを覚えている。
町の本屋・出版社である小鳥書房が作家を発掘したいという情熱にも胸が熱くなった。こんな素敵な思いで立ち上がった賞に選ばれるということは、選ばれた作家さんにとっても幸せなことになるのではないか。
そんな経緯で、審査員をやらせていただくことを決めた。
作品の評価にあたっては、まず、ほかのふだんの審査ごとと同じショートショート作家としての視点を意識した。すなわち、審査作がショートショートの範疇と思われるなら、「アイデアがあって、それを活かした印象的な結末のある物語」になっているかを考慮した。その一方で、先述の通り今回は異種格闘技であり、ショートショート作家としての視点だけではまったく不十分である。その意味で、今回の審査ではもう少し広い、いち小説家としての視点も意識しながら審査を進めた。たとえば、作品の完成度。あるいは、たとえ完成度の面では物足りないと感じた場合も、全体や部分が魅力的であるかどうか。そのような観点を持って審査に臨んだ。
さて、いま改めて受賞作を眺めてみると、いい作品がそろったなぁと感じている。異種格闘技にふさわしく、バラエティに富んだラインアップになったな、とも。
個々の作品への感想は、あえてこの場では控えておきたい。というのが、ぜひ、あなたも含めたみなさんとお会いして、ワイワイとお話ししたいと思っているからだ。そのほうが、この血の通った温かい賞の趣旨にそうような感じが、個人的にはしている。
あなたは、どの作品がお好きでしたか? そうなんですね! その作品のそこのところ、ぼくもとっても好きなんですよ! ぼく? ぼくはこの作品の……。
そんな会話が交わせる日を楽しみにしている。
場所はもちろん、小鳥書房で。

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(NHK映像プロデューサー 伊集院 要より)

私は、12年前にNHKに中途採用で入局しました。入局前は、フリーランスとして手広くテレビ番組を制作していましたが、今の会社に入り、作り手として最も衝撃を受けたのが「ドキュメンタリー」という分野です。

我々の業界で、良いドキュメンタリーと言われるのは、“深い”ものです。“深い”ものとはどんなものか?それは起承転結が単純じゃない、まさに人生そのもの、世の中そのものです。美談だけを抽出したり、美談を美談に見せるために安易に困難を描いたりしない、複雑な物語構成になっています。そこには“ない”と“足りない”で溢れています。とても大事なシーンが、遠くから望遠で撮っているような映像で、はっきりと状況が分からなかったり、なぜこの人がこの活動をしているのか触れぬまま進行していたり。かと言って、消化不良過ぎると見進めてもらえなくなるので、見るモチベーションを保ちながら、それでいて人の頭の中をグルグルとかき乱し、どこか深い境地に連れて行く・・・。実際に映像と音声があるのに、“ない”と“足りない”を計算して作るので、ほんとうに面倒で、時間がかかります。

そんな私は、2017年1月に放送したNHKスペシャル「ばっちゃん」という番組を制作しました。不良少年の立ち直りを支えるため、手料理を振る舞う活動を40年近く続けている「ばっちゃん」と呼ばれている女性の様子を、8年にわたって取材したものです。「お腹いっぱい食べたら立ち直る」と、長年の経験からいとも簡単に極意を語るばっちゃんですが、人が立ち直るということが、そんなに簡単なはずはありません。「居場所」、「手料理」…、目の前で起きている現象を、それらしい言葉を並べて表現しようとしても、かえって本質から遠ざかっていくような感覚…。人が立ち直るとは何なのか?ドキュメンタリーで迫りました。

実は、小鳥書房さんも、同じ「ばっちゃん」を取材され「ちゃんと食べとる?」という本にまとめていらっしゃいます。私は拝読して「ばっちゃん」を長年取材してきたからこそ、この本が、いかに細部にまでこだわっているか、その繊細さと熱意が自然と伝わってきました。今回、文学賞の審査員の話を頂いた時、私のような門外漢に務まるのかと一瞬不安もよぎりましたが、同じ主人公で“表現”に挑んだ同志からの依頼という感覚でお受けすることにしました。

今回、審査するにあたり、その多くがフィクションだったのですが、「この架空の空間に身を置き、深いドキュメンタリーを作るとしたら…」と、自分のフィールドに置き換えながら、1つ1つの作品と対峙させて頂きました。しかし、“深さ”という基準だけでは審査できないほど、今回は本当に多様な作品が多く悩ましかったです。でも、その悩ましさをはね飛ばすほど、バラエティーに富み、個性あふれる作品を読み進めることは、何よりも奥深かったです。年齢も立場も、経験も違う多くの方々が、同じテーマを、それぞれのアプローチから真剣に挑んでいたからです。そして読み終え審査を終えた今、この文学賞そのものが、賞の受賞云々に関わらず、関わったすべての人が紡ぎ出した、深い深いドキュメンタリーであり、まちの小さな本屋・出版社が主催する小鳥書房文学賞の意義そのものだと思えてきました。

世界中が未知の感染症で大混乱に陥っている時に、小さな本屋さんが、「とり」をテーマに文学賞を主催し、多くの人が自由に「トリ」を描く。
そこに描かれた無数のトリたちが、この窮屈な時代を何食わぬ顔で自由に大空を舞っているようで、とても愉快だと思えるのです。

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(編集者・小鳥書房店主 落合加依子より)

小さな出版社であり、まちの本屋でもある小鳥書房による「小鳥書房文学賞」。どれくらい作品が集まるのかな、とドキドキしながらスタートしたこの試みに、2020年5月〜11月の募集期間を経て、167点にものぼる作品が届きました。ショートショート的作品から純文学的作品まで、「とり」文学の力作が勢ぞろい。作者の思いを想像しながら、ひとつひとつ、1字ずつ受けとめる。そうやって読んでいたら、本来10作品を選ぶはずが、どうしても絞りきれずに全12作品となってしまいました。

審査員の田丸雅智さんは、「完成度の高い作品や、完成度は未熟であっても魅力的な作品が、たくさんありました!」と向き合ってくださいました。伊集院要さんは、「受賞しなかった人たちが読んでも、納得できる作品を選ぶべきだと思いました」と。おふたりが作家、映像プロデューサーの立場から冷静かつ愛情をもって審査してくださったので、私は編集者の立場から作品を楽しく読むことができました。無名の文学賞の審査員を引き受けてくださったおふたりの心意気に、深く感謝をお伝えします。

作品をご応募くださったのは、中学1年生、漫才師、本屋の店主、親子でそれぞれ書いた方、80代の方、福岡少年院で過ごす少年たちなど、じつにさまざま。これほど多様な方々からご応募いただける文学賞は、もしかしたらほかにないのでは、とさえ思えます。文学賞に応募し続けて落ち続けている……という略歴の方もいて、思わず胸を打たれました。かつて岡本太郎は「夢を見ることは青春の特権だ」と言いました。暦の上の年齢とは関係なく、ハツラツと夢を見続けられる人が青年なのだと。まさに今回、作者のほとばしる青春に触れた思いでした。作品に優劣はなく、すべてが特別に輝いている小説。だから、この先も書き続けてほしいと心から願っています。

小鳥書房の本屋を訪れてくれる常連さんたちが、「はじめて小説を書きました」といって応募してくれたことも、たまらなくうれしかったことのひとつ。いつもは「お客さん」と「店主」として接していたのが、「作家」と「読者」という関係に変わる。この人はこんな表現をするんだ、と驚き、改めて魅力を知るきっかけにもなりました。作家への垣根を越える瞬間に立ち会うことができた私は、なんて幸せ者なんだろう。読むことと書くことで使う筋肉は違うけれど、誰もがもっと自由に羽を広げて空想していいはずです。

これから私たちは、受賞作品をまとめた本を編集することになります。167作品分の情熱のカタマリなのだから、手にとってくれる人を決して後悔させない一冊にしなければ! それに、第2回小鳥書房文学賞が開催できるかどうかは、この本の完成度とみなさんからの反応にかかっています。田丸さんは今回の文学賞を「異種格闘技」と表現されました。とすると、出版社として本屋として、「マスに向けた売れる作家の売れる作品」だけではない、本当にいい作品を世の中に届けたい……それが小鳥書房のファイティングスタイルとでも言いましょうか。たったひとりのための本づくり。その「たったひとり」は、作者と読者、どちらのほうも向いていたいと思うのです。

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ご応募くださったみなさま。このたびは本当にありがとうございました。これから編集作業がはじまるアンソロジー(秋以降に出版予定)にもご期待ください。進捗状況は小鳥書房のSNS等で追ってお知らせいたします。

ご応募いただいた作品のプリントを、擦り切れ汚れるほど何度も読みました。私たちにとっても幸せな時間でした!

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落合加依子が小さく営む出版社。「たったひとりが心から喜んでくれる」 本づくりがしたいと2015年設立し『ちゃんと食べとる?』 『モノポの巣』などを出版。 編集仕事に『怪と幽』ほか。小鳥書房文学賞を主催。文筆ファイター。 谷保の町で唯一の本屋と、地域に開いたシェアハウスも併設。