3月7日
アルバイト先の本屋さんが、とても忙しい。感染症の予防で皆外出を控えているはずなのに、もしも家から一歩も出られなくなったときのために長編の小説を買っていく方、学校が休みになったので子供たちのドリルや面白い科学の本など買っていく方。人気のコミックを大人買いする方、様々である。
本の関係者の端くれとしては、日本が落ちこんでいるこの時期に本屋さんに人が集うことは、その事実以上に意味がありそうで、とても嬉しい。本は売れない時代になっていると言われている。しかし、絶対になくなるものではないと思う。たとえその形態が変わったとしても、人々は本を求める。そういう確信がもてる。
本を買いにくる人たちは、そんなこと考えていないかもしれないけれど、お客様たちの心の声に耳をすますと、そんな本の可能性がみえてくるようで希望がある。
外に出られなくなっても、学校が休みになってしまっても、この本があれば大丈夫。そういった声が聞こえてくるようである。
本屋や本のよいところは、その多様性にある。ファッション、自然、タレント、旅行、哲学、純文学、エンタメ文学、写真、スポーツ、趣味、音楽、動物、ペット、植物、園芸、料理、製菓、インテリア、政治、ビジネス、経済、法律、就職活動、語学、などなどの多くの種類のものがギュッと凝縮されて、紙に印刷された媒体という形になって集まっている。
働いている時にはしばしば、本の背表紙を見ながら、この限られた空間のなかにどれだけの情報や物語があり、それらが他でもない一人一人の手によって作られたものであることを想像する。本の中に耳をすます。そうすると果てしない高揚感と感動で、人間の長い歴史のなかでの文化の素晴らしさを神秘的にすら感じる。
目に見えている事実の背後には、耳をすますことでしか得られない景色がある。その存在は現実とは少しちがって美しいものだ。だけど、それは現実からの逃避ではなく、あくまで現実を支えている世界なのである。その美しい世界の存在を予感しながら毎日を過ごしていけば、なにか大事なものを守っていける気がする。
そんな3月7日。
エチカ
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