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悪意がすぐそこに、いたのに

昔から、その場で言われた冗談が分からない。
その言葉のまま、真正面から受けとってしまう。

心がかき乱されると表情にでてしまうからだろう、
「分からなかった?」「冗談だよ」
その言葉を連続してぶつけられると、もうその場から立ち去りたくなる。

昔から、嫌味や悪意を込めた言葉に、すぐに気が付かない。
気づいた時には、すでに遅し。

言い返したり反撃もできずにいた恥ずかしさと悔しさと、何より
気が付かなかった自分が本当に嫌で、一人で泣いている。

分からないまま、気がつかなまま
でいることができたら、傷つくこともないのかもしれない。

でも、「違和感」を感じとることはできてしまうのだ。
今何かが私の「境界線」を土足で侵入してきたなって言う感覚。

「違和感」を感じた機会が多くなると、
段々と外に出られなくなる。人に会えなくなる、会うのが怖くなる。

一人でいたくなる。

殻にこもって、私を傷つけるものごとから遠ざかる。
そして、殻の中で、自分を自分で傷つけてしまう。

ここのところ、眠いけど寝たくない、そんな日が続いていた。寝不足が一番ダメなこと、自分が一番わかっているのに。人(私)は何度過ちを犯せば、学習するのだろうか。睡眠時間が短い日々のまま、夫と出かけた。4月に行った雑貨などの展示会が同じ場所で、また違ったテーマで行われていたからだ。前回、訳あってお迎えできなかった器を求めてのことだ。

とても狭いスペースに、私好みの器や装飾品たち。
お目当ての器作家さんも来ている。今日こそは器をお迎えしたい!

お目当ての器があった!

お迎えすることを夫に伝える。夫は頷いた。
そのまま作家さんの元へ、器を渡してお迎えしたい旨を伝える。

その作家さんはとても笑顔で
「前回もいらして下さっていましたよね」と言った。

私たちのことを覚えていてくれたんだ!!とても嬉しかった。
でもそのすぐ後に、その人は何か続けて言葉を発していた。

その時、私にはその言葉の意味がよく分からず笑ってその場を取り繕った。でもあの「違和感」をなんとなく感じていた。手がどういう訳か震えだした。早くこの場を去りたい、そんな気持ちにゆっくり到達していくのを感じていた。

「可愛くラッピング致しますね!お待ちください!」

ラッピングなんてしてもらわなくていい。
早く、去りたい。

でも、言い出せなかった。
言い出せないまま震える手で、お迎えする器を作家さんに渡した。

初夏のようなさわやかなラッピングをしてもらった器を抱えて、
ようやくその場を後にした。

帰りの車内で運転する夫が、「すごい悪意ある言葉言ってきたな、あの人」
とポツリと言った。

あぁ、やっぱりそうだったのか。
また私は、その場で意味を理解できなかった。違和感や体のSOSが合ったのに。

どうしてそんな言葉を向けられたのか。
今思えばそれは前回4月にお会いした時に、夫と私が器について質問したことに対するアンサーだったように思う。

普段使いにあたっての注意点や使いやすさを聞いただけのつもりだった。
しかし、作家さんにとっては嫌な質問だったのだろう。
私たちからの悪意として受け取ったのかもしれない。

私たち夫婦は並ぶと、とても印象に残りやすい、と思う。
きっとこの見た目もあって覚えていたところ、まさかまた来るなんて!と
いうことだったのかもしれない。

真意、は分からないのだけれど。


帰宅後、ラッピングを外さないまま私は、暗黒の殻にこもった。
嫌味や悪意を向けられたことから遠ざかるため、そしてそれに気が付かなかった自分のダメさを反芻するため。

睡眠不足もあったせいか、殻にこもったまま涙を流しながら
深い睡眠に何度も何度も落ちていく日々が続いた。

たくさん眠ったからか、朝から空が青くて天気がいいからか、
殻から出られた。

ようやく、器を取り出す。コーヒーを入れてみる。

うん、やっぱり気に入った、いい器だ。


コーヒーがよく合う、器。

しばらく忘れることはできないけれどコーヒーと一緒に、
あの日のことを流し込むことにした。

コーヒーは喉から体を巡って、飲んで幸せになった気持ち以外は
いずれ外に排出される。

あの日の事も、
「この器は好き」って気持ち以外はろ過されて、きっと
排出できるはずだ。

冗談や嫌味、悪意が分からなくても、いいか。
対応できなくて涙する、殻にこもるのもたまには仕方がない。

ただ、
外にでることを、人と接することをあきらめない私に、なりたい。


すぐそこに悪意、がいたとしても。


コーヒーのお供は
雪塩ちんすこう&発酵バタービスコ







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