小説「未来からのホットライン(シンエヴァ底本)」感想

 全体の50%を読むのに読了までの時間の90%を費やしてしまった。理論部分で脱落するともったいないので、「過去を改変すると世界全体が上書きで更新され、だれもそれを記憶できない」ことだけ踏まえて、真ん中のちょっと手前ぐらいから読むといいでしょう。物語後半のブッとばしっぷりとブッたぎりぶりが、じつに清々しい(きよきよしい)です。改変により救われた世界のその後をもっと描写してほしいのに、「オマエは賢いから、言わなくてもわかるだろ? これ以上は無粋になる……オレはクールに去るぜ」みたいに読み手を突き放すのは、さすがホーガン先生(やっぱ、ア・ホーガンよ!)って感じ。古い作品なんでもうネタバレ全開で話しちゃいますけど、「過去に三度(みたび)」の改変は、「計算ミスで失われた恋人とのデート」「ミニ・ブラックホール生成による地球崩壊回避」「ワクチンの早期実現で感染症(!)による人類滅亡回避」の3点でした。思えば旧エヴァは、カントクの私小説であると同時に、世情との無意識的なリンク(世紀末、終末、オウム)で、あの時代において象徴的な作品となりました。エヴァQにおいて再びその魔力をまとうため、「意識的に」震災へと紐付けようとして大失敗したことは記憶に新しい(すでにそれほど新しくはない)ですが、これを底本と仮定するならば、シンエヴァでは感染症的な何かがストーリーを駆動するギミックにすえられるのでしょうか。本作における、改変可能な過去という事実に対して生じる人々の疑心暗鬼にフォーカスしない、集団としての人類のポジティブな叡智こそを前面に押し出したカラッとした展開には、エヴァ破と同じものを感じました。新劇の特徴だったこの闊達な乾いた感じが、また戻ってくればいいのになあと思います。あと、人類滅亡の危機を回避することと恋人とのロマンス成就がオアの天秤になっていて、もしかするとシンエヴァは漫画版14巻の結末ーー記憶を失ったチルドレンが、私学受験のため冬の東京で再び集うというアレ。アスカとの新しい恋の始まりを予感させて終わるヤツーーをそのまま引きうつすのかしらん。過去改変のたびにすれちがう、このヒロインとの感じ、どっかで見たことあるなー、どこだったかなーと考えていたら、シュタインズゲートだった。調べてみたら、文章を過去へ送るところを含めて、やっぱりネタ元のようです。前も言いましたけど、自分のアンチョコ(死語)として秘しておきたい海外SF作品は、本邦の界隈において喧伝を避けられてマイナー化するという、あの現象ですね。

追悼「シン・エヴァンゲリオン劇場版:呪」

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