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女々ント・モリ

「女々しい男の人は嫌いなの」
 そう彼女は言った。いや、彼女だった人は言った。
 ちなみにそう言われてフラれるのはこれで二度目だ。もはや女々ント・モリ(自分が女々しいことを忘れるな)である。男らしさを求めるぼくの旅という名の迷走はここから始まった。

 まずは一人称をオレにした。これで男らしさはアップしただろう。オレだよ!オレ!オレオレ!──絶望的に似合っていない。こんなんじゃオレオレ詐欺だ。男らしさとはほど遠い。オレの考えはカフェオレより甘かった。

 それならばと、ヤフー知恵袋で質問してみた。女々しい男はなぜ嫌われるのですか?答えは簡単に出た。こんなことをヤフー知恵袋でするやつが男らしいはずがなかった。なんやかんや言われて傷ついて終わった。知恵袋で袋叩きにあうことになろうとは。サンドバッグを殴る男じゃなく、サンドバッグになって殴られる男が誕生した。女々しいとはこれほど罪深きことだったのか。涙の数だけ強くなれたと信じたい。

 次の策として、男らしいでググってみた。シンプルイズベストだ。男らしいの定義とは「いかにも男であると思えるようすである。体格・気質や行動・態度などが、男性のもつべきと考えられる特質を備えている。」goo国語辞書の出した答えがこれだ。いや、もうちょっと具体的に教えてくんねえかな?これじゃとてもグー!とは言えねえよ?こんなことを国語辞書に求めているやつが男らしいはずがなかった。国語辞書にグーで殴られただけだった。

 男らしい男って何なんだ。あいつはどうやら男らしい…という疑いの目で見ている人たちを問いただしたい。どうすれば満足するんだ。どうしたら認めてくれるんだ。頭の中であの声が聞こえてくる。

「女々しい男の人は嫌いなの」

 いまや他人よりも遠い人が残した置き土産。「つまらないものですが…」とでも前置きしてから言ってほしかった。オレはそれを思い出と一緒に後生大事に飾って生きている。そんなもの捨ててしまえばいいものを。そうか、別れた女性の言葉を捨てられない優柔不断さが女々しいのか。

 オレは女々しいをやめるぞ!オレは女々しいを超越するッ!お前の思い出でだァーッ!確かにジョジョのディオは男らしいよな。ああいう男を目指せばいいのか?そんなわけあるか!そもそも人間じゃあないんだぞッ!こんな発想をした自分が恥ずかしくて石仮面を被りたい。

 バカバカしい。もう考えるのをやめてしまおう。女々しいとか意識してるから女々しくなるんだ。今のオレがどんなに女々しくても、相手のことを誠実に考えて行動するしかない。それだけでいいじゃあないか。人から見られることばかり考えるんじゃない。自分を守るのもいいが、守りたい人のことをもっと見ろ。観察眼と洞察力だ。男らしいとか女々しいとか表面的なものの奥を覗け。そうしたらどうやって返事すればいいかわかるだろ?なあ!

「今まで付き合ってくれてありがとう。楽しかったよ、さよなら」
 そうしてオレの散った恋心はやっとこさ成仏したのだ。メメント・モリ。

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