「おひとりさま」の肝要

おひとりさま

「おひとりさま」といふ名詞をいつぞやから見聞きするやうに成った。複數で行動すべき(と社會の多數派が考へる)ところに單身で臨む人を指す言葉らしい。美化辞の「お-」と「-さま」とに挾まれてゐる割りに輕度の蔑稱であり、しば〳〵自虐にも使用される。

因みに、次の映畫に據れば、おひとりさまの總本山は海外旅行とのこと。燒き肉もそれなりの難度に有るやうに描かれてゐた。どちらも餘裕で出來るのだが。

獨身貴族

自分の記憶に據れば、昭和末期にはそのやうな人を專ら「獨身貴族」と呼んでゐたやうに思ふ。こちらにも良い響きは無いけれども、羨望の眼差しが幾分含まれる。なんせ貴族やし。

獨身貴族は、守舊派の一部が言ふところの「生産性に缺ける」人閒である (はい〳〵、惡うございましたね)。家族制度を崩壞させ、少子高齡化を加速させる憎っくき存在。そのやうな人閒に對する憧れを打ち消すべく、羨望感を伴はない「おひとりさま」が創造されたわけである。

以上はおひとりさまの被害妄想に過ぎない。眞に受けぬやう。

おひとりさまの良し惡し

とまれ、「おひとりさま」は市民權を得るに至り、かく言ふ自分も稀に、やはり幾分の自虐を込めて、使ってゐる。

しかし、これは、要らぬ嫉妬を受けぬための隱れ蓑でもあり、實際には「おひとりさま最髙!!」と感じることが少なくない。けふはおひとりさまの良し惡しを示したのち、その長所に憧れる人の爲におひとりさまの肝要を說く。誰かに賴まれたわけではなく、需要が有るかも分からないけど。

おひとりさまの難點

おひとりさまは、當り前ではあるが、ふたり以上を要することが盡く出來ない。これが難點の全てと言って良い。連れを有らまほしく感じることは、たとへば次のとほり。

(1)
a. 旅先でトイレに行く際などに荷物を見といてもらふ
b. 旅先で飮食物を分け〳〵する
c. 旅先で雜談する
d. 旅先でイチャつく
e. 重病時に世話してもらふ

(1e) 方面に下だるにつれ、相手に對する要求が大きくなるが、自分の場合、思ひ浮ぶことの殆んどは旅先におけることである。(1c) は友人との動畫通話で代替できるし、(1d) は妄想で補ひうる。異色?の (1e) も、さういふ有償提供がきっと有るだらう、知らんけど。これらが深刻に映らないのであれば、おひとりさまに向いてゐる。

おひとりさまの利點

おひとりさまには良いところも無論有り、僕の目にはこちらの方が多く映る。思ひ浮かぶ利點をひとつ〳〵振り返るに、「自分以外のことを考へずに濟む」といふ1點に集約できさうである。

(2)
a. 好きなものを好きなだけ飮み食ひできる (健康は不問)
b. 家事の質・量を自由に調整できる
c. 豫定の調整が容易い
d. 近親者の不機嫌や不幸がそも〳〵存在しない
e. 他者に對して取り繕はずに濟む

(2) はいづれも日常のことである。さう成るやうに狙ったわけではなく、自然とこれらが竝んだ。(2) の否定に當たる事柄 ((2a') 好きなものを好きなだけ飮み食ひできない、など) を複數個抱へることは、僕には心理的苦痛が大きい。たとへば、(2b) に擧げた家事なんぞは、獨りでゐれば、誰にも氣を遣はずに濟むことである。ところが、他者と暮らせば、相手が求める質・量に左右される。高水準を求めるあまり、結局、相手の家事まで負ってしまひ、毎日腹立たしく感じてゐる人は少なくない (Twitter にはその手の怨嗟が溢れてゐる)。掃除の行き屆いた家など求めてゐないのに、意識の高い相手にあれこれ命じられるといった境遇も、またつらい。

幸か不幸か

獨斷と偏見とにより選定した難點 (1) と利點 (2) とを再度見比べるに、僕にはやはり、利點 (2) が壓倒的に大きく感じられる。人と關はる機會は仕事か遊びかに留め、他者に合はせることの心理的苦痛を極力抑へる生活が合ってゐるらしい。

人から稀に頂戴する感謝、應援、稱讚などは確かに嬉しいけれども、幸か不幸か、僕はさういった喜びを自家發電できる。どこのものだったか、最近目にした多樣性啓發ポスターに言ふ「自分で自分を抱きしめられる人」なのだらう。人閒のやうな社會的動物に生まれながら、孤立を好む性格に育ってしまった點は、ちょっと勿體無く思ふけれども。

しご]た ちん]ちん そつぁ たん]たん。もろ]た ぜんな] そつい] かえ]て [に]かと かっ とっの] がそりん]に しもん]で '仕事はテキトー、酒はグビ〴〵。貰った錢は酒に替へて、新しいのを書く時のガソリンにします' 薩摩辯 [/]: 音高の上がり/下がり