加具土命の暗晦
壱
嗚呼、ふきのとうを見よ!
黴の住まい眼前に植わらん。
その姿幻の如し、
喰われぬ空の遍く艶めき輝る月、
火の審美と水面の破顔、
大蛇ふきのとうを一瞥して恐る、
かの身、現今に安寧のあらざると言えり。
平伏せる雨夜のような背後、
鴃舌は悲泣す、陰惨の暴君に疲れ。
否。
伸べ広がるページェント也、
意志の捕食者也、
世界に垂涎の繋縛を成し、
凍てつく時、月の樹は揺曳したり。
明日こそ不可避の災いあれかし。
まつろわぬトカゲに災いあれかし。
弐
或る鳥嘆かう、火の花絶えざることを、
遥かより獄炎の暴風雨、その跫音は時の壁を知らずして、
想起せん、幽寂荒みてあはれ臥しものを。
佞姦は運命に近似すと信ず、即ち拒めざるもの也。
焦燥。
既製の弥終に沐浴せししこめ、
偸安にあらん現今を認めよ。
あふるる考を足らしめよ、たとい洪水の末期なろうとも。
明日こそ瞠目の甘雨降りしきることあらまほし。
竜笛のごと、この姿立ち昇るけしきあらまほし。
参
忘れた国よ、その旋法よ。
颶風は干戈のごと遍く薙ぎて、
思慮粉塵へ、苛みの烈火に無のみ感ず。
奇怪の情、河注ぎて尚うまず、
霧の帳に道は入りて面その動かざることを見せる。
肆
雲隠る。
いにしえに似て儚く、
天翔ける笛の祖は雨を降らしける。
音荒くれて静謐は絶え、
地、理さえ凌駕し惑乱す。
天みずから名づくりし光を忘りて、
猜疑の毒牙降臨す、瞞着の翼即ち闇を惹く
闇真の闇也。
嗚呼雲隠る。
時誰も思い出さず。
伍
とうに浄き真夜の御簾に、
苛みの跫音全く過ぎ去らぬまま、
焔、偸安の逆鱗をば喰らえども栄えず。
明日さえ届かぬ、
今さえ知り得ず、
加具土命、愈々沈淪の水牢の身を感ず。
妖は花と語らわんことを希求す、されども花も水牢なり。
黒煙とうとう悲泣したり。
花の現の如くあり、永劫を報せる黒煙の着火。
陸
闇さえ盲いた此岸の表層、
精霊、我執に化けて止まぬ。
牙は悪しき罰の春を伝い、
脆さを溶かして嘲る、その様秋さえ知らぬ。
浮遊の一幕、うたた寝さえ拒みて、
息継ぎを恨み、惨死の陥穽橋まで残喘を追いやる。
さあ。
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