加具土命の暗晦


嗚呼、ふきのとうを見よ!
黴の住まい眼前に植わらん。
その姿幻の如し、
喰われぬ空の遍く艶めき輝る月、
火の審美と水面の破顔、
大蛇ふきのとうを一瞥して恐る、
かの身、現今に安寧のあらざると言えり。
平伏せる雨夜のような背後、
鴃舌は悲泣す、陰惨の暴君に疲れ。
否。
伸べ広がるページェント也、
意志の捕食者也、
世界に垂涎の繋縛を成し、
凍てつく時、月の樹は揺曳したり。
明日こそ不可避の災いあれかし。
まつろわぬトカゲに災いあれかし。

或る鳥嘆かう、火の花絶えざることを、
遥かより獄炎の暴風雨、その跫音は時の壁を知らずして、
想起せん、幽寂荒みてあはれ臥しものを。
佞姦は運命に近似すと信ず、即ち拒めざるもの也。
焦燥。
既製の弥終に沐浴せししこめ、
偸安にあらん現今を認めよ。
あふるる考を足らしめよ、たとい洪水の末期なろうとも。
明日こそ瞠目の甘雨降りしきることあらまほし。
竜笛のごと、この姿立ち昇るけしきあらまほし。

忘れた国よ、その旋法よ。
颶風は干戈のごと遍く薙ぎて、
思慮粉塵へ、苛みの烈火に無のみ感ず。
奇怪の情、河注ぎて尚うまず、
霧の帳に道は入りて面その動かざることを見せる。

雲隠る。
いにしえに似て儚く、
天翔ける笛の祖は雨を降らしける。
音荒くれて静謐は絶え、
地、理さえ凌駕し惑乱す。
天みずから名づくりし光を忘りて、
猜疑の毒牙降臨す、瞞着の翼即ち闇を惹く
闇真の闇也。
嗚呼雲隠る。
時誰も思い出さず。

とうに浄き真夜の御簾に、
苛みの跫音全く過ぎ去らぬまま、
焔、偸安の逆鱗をば喰らえども栄えず。
明日さえ届かぬ、
今さえ知り得ず、
加具土命、愈々沈淪の水牢の身を感ず。
妖は花と語らわんことを希求す、されども花も水牢なり。
黒煙とうとう悲泣したり。
花の現の如くあり、永劫を報せる黒煙の着火。

闇さえ盲いた此岸の表層、
精霊、我執に化けて止まぬ。
牙は悪しき罰の春を伝い、
脆さを溶かして嘲る、その様秋さえ知らぬ。
浮遊の一幕、うたた寝さえ拒みて、
息継ぎを恨み、惨死の陥穽橋まで残喘を追いやる。
さあ。

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