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世の中にはこんなにたくさんのLOCKがある

本日7月29日からテレビ朝日系で『ノッキンオン・ロックドドア』というドラマが始まるそうです。

同名の小説を基にしたそうですが、出版社のサイトでその本のカバーを見たところ、英語表記は「KNOCKIN'ON LOCKED DOOR」となっているように見えます。

「KNOCKIN'ON」に出てくるアポストロフィは、「▲▲ing」を砕けた感じで言う時の「▲▲in'」のそれであると思われます。

それはいいとして、onとの間に空白なく印字されているのが気になります。knockin'とonは別単語なのですから。

例えば「don't」ならば元々2つの単語doとnotをくっ付けた印としてアポストロフィがあるわけで、1単語にしたのですから空白が無いのが当然ですが、それとは異なり「knockin'〔空白〕on」としなければならないのではないでしょうか。

もっとも、出版社サイドとしてはそんなことは承知の上で、視覚的効果か何かの理由でくっつけたのだとは思いますが。

もう1つ気掛かりなのは、「locked door」の扱いです。

doorという名詞は可算の扱いですから、単数形で登場するならその前に冠詞か所有格が必要です。

「a wooden door」「leave the door open」「Knockin' on Heaven's Door」といった具合に。

まとめると、正当な英語としては「KNOCKIN' ON THE LOCKED DOOR」などとした方が良いと思うのですが、まあ、これ以上余計なお世話はやめておきましょう。

lockその1

それはともかくとして、「ロック」です。

前回投稿『ロックの曲だからといって、歌詞に出てくるROCKが「ロック」のことだとは限らない』では、同じrockというつづりでも系統の異なる2つの単語があることを確認しました。

そもそもの話になりますが、日本語には「アールのラ行」と「エルのラ行」を確実に区別する表記方法はないので、「ロック」と表記されたものが実はlockの方かもしれません。

この小説/ドラマの「ロック」はまさに「エルの方のロック」であるわけです。(動詞lockの過去分詞locked)

他の例を挙げると、「ハードロック」です。

メディアに時々登場する企業の中で、アメリカに本社のある「ハードロックカフェ」は「Hard Rock Cafe International, Inc.」なので「アールの方のロック」ですが、日本の会社「ハードロック工業株式会社」は「Hardlock Industry Co.,Ltd.」が英文表記の「エルの方のロック」です。

「同社の「ハードロックナット」はクサビの原理を応用し、凹凸一対から成り立っており、滅多なことでは緩むことがないことから、その技術力を買われ、多数の企業に採用されている。」
ウィキペディア

個人的には乗り物関係の採用事例がメディアで取り上げられているのを見た気がしますが、同社のサイトで「納入実績」のページを見ますと、幅広い工業分野にわたって使われていることが判ります。

以下は、その「ゆるまない」原理を解説した動画です。

『ハードロックナットはなぜゆるまないか』
https://www.youtube.com/watch?v=cJ_ljlj86Mg

錠前

「key鍵」を差し込んで施錠する「錠前」のことであり、この2つの単語はよく対(つい)で使われます。

「under lock and key
錠を下ろして;安全に,厳重に
The papers are kept under lock and key.
その書類は厳重に保管してある」
(ベネッセコーポレーション Eゲイト英和辞典)

「Open your heart to me, baby
I hold the lock and you hold the key」
(アメリカの歌手Madonnaの曲『Open Your Heart』の歌詞)」

もっとも、keyの方はlockという相手がいないと存在意義がありませんが、lockにはkeyの無い物もあります。窓の施錠に使う、半月形のcrescent lockクレセント錠にはkeyはありませんよね。

動詞用法を確認しましょう。

「Hotel room doors are supposed to lock automatically.
ホテルの客室ドアは自動的に施錠されることになっている」

これは自動詞用法であり、「錠前の付いている物」が主語になっています。

一方他動詞用法で「錠前の付いている物」を直接目的語にするのが次の例文です。

「He locked up the shop and went home.
彼は店を閉じて帰宅した.」
(研究社新英和中辞典)

ところが他動詞用法でも直接目的語の性質が異なる使い方もあります。

「He locked up [away] the documents in the safe.
彼は書類を金庫にしまい込んだ.」(同)

この文では「錠前の付いている物」である「金庫」は前置詞inの句として登場し、直接目的語になるのは、施錠可能な場所に「仕舞い込まれる物」であることがお分かりになるでしょう。

固定

施錠するとカチッと固定されるわけで、その「固定」の感覚を錠前以外に見る使い方があります。

「arm lockアーム・ロック」は挌闘技における関節技で、相手の腕をそれなりの方法で固定することで肘や肩に痛みを起こさせます。

『肩と肘を極める!アームロックとは?プロ格闘家が徹底議論【格闘大辞典 アームロック】』
https://www.youtube.com/watch?v=KYRuRYwDHOE

「lock forwardロック・フォーワド」あるいは単に「lockロック」はラグビーのポジションの1つです。

「ロック(lock)とは日本語で「錠」という意味を持ち、スクラムを組む際にプロップの股に片腕を入れ、外れないようにしっかり錠をかける(ロックする)ことからきているんだよ。」
(『教えて!ラガマルくん』)

lockそのものではありませんが、それに別の語要素を付け加えた「interlock連結させる」という言葉もスポーツで見かけます。ゴルフをやる方にはお馴染みの「interlocking gripインターロッキング・グリップ」です。

ゴルフ・クラブの握り方の1種であり、左手の人差し指と右手の小指を絡ませて両方の手を「固定」させるやり方です。

『インターロッキンググリップに変えて分かった2つのメリット』
(『ゴルファボ』)

この「固定」の感覚の動詞用法を見ましょう。

「She locked her arms about his neck.
彼女は両腕をぎゅっと彼の首に回した.
Traffic was locked up at the intersection.
交差点で交通が渋帯していた.
They locked him up overnight.
彼らは彼を一晩監禁した.」
(研究社新英和中辞典)

これらの文では「彼女の両腕」「交通」「彼」が固定されていることになります。

「柵、囲い」から

古い時代の英語においてlockには「柵、囲い」という意味がありましたが、それの延長線上にあるのが「閘門(こうもん)」です。

「運河・河川などの、水面に高低差のある場所で、水面を昇降させて船を行き来させるための装置。閘室とよぶ前後を扉で仕切った水面に船を入れ、扉の開閉によって水位を昇降させてのち、一方を開いて船を進める。」
(小学館デジタル大辞泉)

どういう手順でなされるのかを描いた図がウィキペディアにありますので、そちらをご覧ください。

この意味のlockに「port港」が組み合わされたLockportロックポートという地名があります。

「ロックポート(英: Lockport)は、アメリカ合衆国ニューヨーク州の北西部、ナイアガラ郡の都市であり、同郡の郡庁所在地である。2010年国勢調査での人口は21,165 人だった。エリー運河の一組の閘門(ロック)から市名が付けられた。市の周りを同名のロックポート「町」(2010年の人口20,529人)が囲んでいる。」
ウィキペディア

自動車関係のlock

車雑誌の記事などで、「この車種はロックトゥロックが2.5回転」といった表現を見たことがありますか?

英語ではもちろん「lock to lock」となりますが、このlockはどういった「固定」かと言いますと、ハンドル(英語ではsteering wheel)をいっぱいに切ってこれ以上動かないところまで行った状態・角度のことです。一方のlockから反対側のlockまで切り返すのに、もしも「ロックトゥロックが2.5回転」ならばハンドルが2回転半することを意味します。

詳しくはこちら。

WEB CARTOP【今さら聞けない】自動車のロックトゥロックって何?

この意味のlockは例えば次のように英文に現れます。

「The steering wheel was on full lock.
ハンドルはめいっぱい切られた状態だった」

また、車が滑ってしまうことを防ぐ装置としてABSというものがありますが、これは「anti-lock braking system」の頭文字をとって繋げたものです。

タイヤが路面を適切に捉えることのできる摩擦がない場合(例えば速度が高すぎたり、路面が非常に濡れていたりして)、ブレーキ・ペダルを踏んでもタイヤがロック、つまり「固定」状態になってしまって地面を噛むことができずにスリップし、車を運転者がコントロールできなくなります。

そのロックを防ぐために、機械の方でブレーキを細かく緩めたり制動したりして、「固定」を避けてくれる仕組みです。

更に自動車関係のlockと言えば、教習所でも習った「vapor lockベーパーロック現象」が思い浮かびます。

「ブレーキに使われている摩擦材が持った熱の冷却が間に合わずにブレーキキャリパ(またはホイールシリンダー)が過熱し、制動力を伝達するブレーキフルード中の水分が沸騰してしまい、ブレーキ配管内に気泡(蒸気=vapour/vapor)が発生することによって起こる。
液体はほとんど圧縮されないため効率良く圧力を伝えることができるが、気体は凝縮するまで体積を減らし続けるため、ブレーキペダルを踏んでも気泡が小さくなることでその動きが吸収されてしまい、ブレーキ液の圧力はほとんど変化しない。そのため、ブレーキペダルからの力がキャリパピストン(ホイールシリンダーピストン)まで伝わらなくなり、結果としてブレーキが効かなくなる。」
ウィキペディア

こちらに解説動画があります。

『【フェード現象・ベーパーロック現象】下り坂で突然ブレーキが利かなくなる原因を探る。』
https://www.youtube.com/watch?v=1AOfxSubRdg

「道路網」という意味でgridという単語を使うことがありますが、lockと合体させてgridlockとすると、その地域全体の「道路網の交通渋滞」を意味し、比喩的に、政治的に「身動きの取れない状態」のことも表します。

「The major gridlock yesterday was caused by faulty traffic lights.
昨日の大渋滞は信号故障によるものだった。
The nation is sickened by partisan gridlock in Congress.
国民は党派間の争いによる議会の停滞に辟易している。」
(Weblio英語基本例文集)

社会とlock

動詞lockと副詞outを組み合わせた場合、基本的には錠前をかけて誰かをoutの状態にする、つまり「締め出す」ことを言います。

先程話題に出てきた、ホテルのドアの「オートロックautomatick lock」でやられてしまった人は

「I locked myself out.
かぎがなくて入れなくなった.」
(研究社新英和中辞典)

という状態になるわけです。

更に

「(争議中に)〈労働者を〉(職場から)締め出す, ロックアウトする」(同)

という用法もあり、これは名詞lockoutの方が有名かもしれません。

労働者側が行う「ストライキ」の反対とでも言いましょうか、経営側が労働者を工場その他に立ち入らずに就業を拒否する「ロックアウト」です。

スポーツ界でも行われたことがあり、以下の記事にはアメリカの野球界で行われたロックアウトの例が解説されています。

【MLB】ロックアウトとは?ストライキとの違いもご紹介!

別の副詞downと組み合わせるとどうでしょう。

「1 他
〈囚人を〉房に閉じ込める;

((略式))刑務所の囚人全員を房に入れてドアをロックする
2 他
〈警察などが〉〈場所の〉出入りを厳重に規制する」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

名詞形lockdownは皆さんもよくご存じです。

「ロックダウン(英: lockdown)とは、危険や差し迫った脅威・リスクなどを理由に、特定地域もしくは建物へ入ったり、そこから出たり、その中を移動したり(そのいずれか一つまたは複数)が自由にできない緊急の状況をいう。」
ウィキペディア

ロケット

と言っても宇宙に飛び出す「ロケットrocket」ではなく、身に着ける方の「ロケット」です。

「小型写真・毛髪・形見の品などを入れて時計鎖や首飾りにつける装飾を施した小さなケース」
(研究社新英和中辞典)

これは「lock + et」という構成の言葉であり、後半の-etは「小」のニュアンスを付け加える接尾辞なので、locket全体では「小さな錠前」となります。

lockその2

その1の方のlockに比べて使える範囲が狭いのですが、一応確認しておきましょう。

基本的には「頭髪の房」のことです。

「a lock of hair growing (or falling) over the forehead
額まで伸びた(あるいは垂れ下がった)髪の房」
(日本語WordNet)

複数形にして「頭髪」全体を言うこともあります。

「uncombed locks
櫛(くし)を入れていない髪」
(小学館ランダムハウス英和大辞典)

更に、髪の毛を離れて、羊毛や綿花などの「ひと房」をも意味します。

「locks of the corn
幾束ものトウモロコシ」(同)

お読みいただき、ありがとうございました。ではまた。

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