小説「春枕」エピローグ
一年がめぐり、ふたたび春がやってきた。
今年もまた、桜の季節だ。
わたし春花は、いつもそうしているように桜の木の机を撫でた。
この木を机に仕立て上げてくれた宮大工さんは、言った。
「この桜が生きるように、自分なりに真剣に向き合います」と。
宮大工さんに新しい命を吹き込まれた桜は、確かにここで、わたしとともに生きている。
春がやってきても、もう二度と、この木は花を咲かせることはない。
しかし、春枕を訪れたお客さまの心の中に、永遠に散ることのない花を咲かせる。
臆病さには勇気、孤独や悲しみには愛、絶望には希望という花を。
心の奥深くに眠っていて気づかないだけで、人はかならず、美しい花を咲かせることができる。
わたしは桜に仕える身として、日々、そのお手伝いをしているだけだ。
春枕のお店を出るころには、春のあたたかい日差しの中で桜が満開になるように、お客さまの笑顔がほころびますように。
そんな祈りにも似た思いで、今日も心を込めておもてなしをする。
「いらっしゃいませ。春枕へようこそ」
(完)
🌸あとがき🌸
「銀座のまちで『春枕』というお店を出したので、うちの店を舞台にした物語を書いてほしい」と、友人から頼まれたことがきっかけで書き始めた小説です。
わたしと友人は2人とも和歌が好きという共通点で仲良くなったので、取り入れてみました。
この物語には、「春枕」の店主である友人•春花さんの思いをギュギュッと詰め込みました。
とてもわたし一人では書けなかった物語です。
わたしにとっては初めて書いた本格的な小説でしたが、執筆活動がとても楽しくてあっという間に書き上げてしまいました。
拙い文章でしたが、ここまで読んで下さったみなさまには、心から感謝申し上げます。
そして、素敵な機会を与えて下さった春花さん、本当にありがとう!
どうか、読者のみなさまの心の中にも、満開の桜の花が咲きますように。
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