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前提条件世界{二章、五神脈々}

これは、狂気と力に取り憑かれた、僕たちの戦いの話・・・。


「いつまで続けるんだろうね。こんなこと。」

「本当だよね。早くこんなこと止めればいいのに。」

「そりゃ、すぐには無理でしょ。」

「何でですか?」

「だって、私の毘之家もあなたの建侯家も大昔にお互い、身内や親戚を殺してる。今に始まったことじゃないのよ。」

「・・・でも、僕死にたくない。」

「そりゃ、颯はまだ10歳だもんね。長生きしたいわよね。」

「そんなこと言ったら私だってまだ死にたくないですよ!というか、そんな問題じゃないのは灯華さんだって分かってるはずじゃないですか‼」

「・・・まあ、そりゃ・・・ね。なにもあたしだってこのまま殺し合いが続けばいいなんて思っちゃいないわよ?・・・大の大人が子供を寄ってたかって殺すなんてどう考えてもおかしいもの。」

「・・・まあ、そりゃ俺もそう思うが、今俺たちは何も出来ないと思うぜ?」

「じゃあ、このまま何もするなってことですか‼」

「そうじゃねえ。今は“まだ”何もしない方がいいって言ってんのさ。なんせ、俺たちがこうして会ってること自体が相当危険なんだからよ。」

「確かにそりゃそーだな。争ってる五神家の子供たちが友好的に話してるなんて、親にバレたら勘当もんだぜ。」

「それは何処だって一緒でしょ?」

「まあな。」

「・・・で、要件をさっさと済ませちまおうぜ。」

「そうだな。で、現状はどんなところだ?」

「・・・僕の須羽家は基本、殺しはしてはいません。相手が退いてくれるのであれば退くという態度は一貫しています。」

「私の建侯家も基本殺しはしてないですけど、やる時はやりそうな感じです。それに最近お父さんが一撃必殺の技を編み出したって言ってます。」

「それって、どんな技か聞いてる?」

「いえ、“実戦でのお楽しみだ”って言って教えてくれません。ただ時間がかかる技だと言っていました。」

「時間がかかる、一撃必殺の技か・・・。まあ、考えても分からないな、次。」

「あたしの毘之家は結構好戦的な感じ。会った敵を根絶やしにする感じ。だから、水正の一族以外は出来るだけ会わないように注意して。あのくそジジイとババア、敵全てを倒しておかないと満足出来ないみたい。」

「灯華。迅雨の親みたいに君の親にも注意した方がいいことなどはあるか?」

「・・・そうね。あ、確か初見殺しの技があったわ。」

「どんな技だ?」

「惨い技よ。人間の体を灰にする技。体が灰のように崩れ去る技よ。」

「・・・厄介だな。」

「でも、あんたなら全身に水を薄く纏えば、火傷程度で済むかも。灰にするって言ってもあたしたちの力の根幹は火だから。」

「・・・にしても厄介な技だ。・・・他にはあるか?」

「んー・・・どうだろ。多分あると思うけど・・・うち、そんな仲良くないから分からない。ごめん。」

「いや、とても参考になった。特に初見殺しを知れたのは、身を守る為には、とても有効だ。」

「・・・親には話せないですけどね。」

「・・・そこは我慢してくれ。それを話せば、ここでの密会がばれ、君たち自身が危険に晒される。」

「・・・密会してるなんて言ったら、うちは殺されかねないしね。」

「・・・そのようだな。じゃ、次。」

「俺のところは、上手く話せるか分かんねえが、とりあえず親父は岩石みたいな土の使い方をする。だから、小さな隕石を操るような感じだ。で、母さんはすげー細かい土を使う。塵とか砂のような。それを流動的に使える。」

「それもそれで厄介ですね。」

「・・・気を付けた方がいいことは?」

「母さんが、カウンター技があるって言ってた。」

「カウンター技ですか・・・。」

「ああ。どんなのかは分からないがとりま、頭に入れておいてくれ。」

「りょー。じゃ、最後水正。」

「はいはい。うちのところは親父が氷とか冷水と言った冷たい水を使う。でおふくろが熱湯とか湯気みたいな熱い水を使う。」

「気を付けた方がいいことはあるの?」

「んー基本全部気を付けてほしいかな笑。親父の技は浴び過ぎると体が冷え過ぎて、命に関わる。おふくろの技も浴び過ぎると火傷する。どっちも戦いの後に響く技だ。注意してくれ。」

「・・・了解。」

「じゃ、今日はこれで解散だ。」

「分かりました。」

「お互い、敵として会わないことを祈ってるよ。」

「・・・そうですね。」

しかし、この後、五神のうち二つの家が敵として邂逅してしまう・・・。


~~~~~


「今日も上乗だったな。」

「そうね。」

「(何が上乗よ。ただ単に相性が良かっただけじゃない。・・・にしても颯の家族じゃなくて良かった・・・。)」

「次はどう—・・・。」

「どうしたの?炎焼。」

「前を見ろ。」

「・・・‼」

「いやはや、ここでまさか毘之家の頭目様に会えるとはね。」

「・・・冷霧‼」

「あたしもいるんだけど?」

「蒸雨‼」

「(・・・嘘、よりによって水正の一族に会っちゃった‼)」

「(・・・マジかよ。)」

「・・・あなた、どうする?」

「・・・こいつらの相手は分が悪い。退くぞ。」

「目の前で作戦会議なんて・・・なんてお間抜けなのかしら‼熱傷水‼」

そう言うと、水正の母親は熱気を帯びた水を私たちに向けて放って来た。

「・・・灯華、時間を稼げ。」

「(チッ‼くそジジイ‼)大火炎‼」

私は、大火炎によってその熱気を帯びた水を相殺した。

「子供を前に出すなんて、酷い父親だ。ま、だからと言って攻撃しないわけじゃないんだけどね。凍傷水。」

水正の父親がそう言うと、冷気を帯びた水が私の大火炎を消しつつ、そのまま私たちに向かって来た。

「(・・・やばい、持たない‼)」

「馬鹿、こういう時は避けるんだよ‼」

私の母がそう言うと、私の服の襟を掴み私の体を後ろに引いた。

「(・・・ふう。無事だったか。)」

「流石。でもこれは—(ん?なんだ?体が異常に熱い。)」

「どうかしたのか?冷霧。」

「(・・・何か分からんが火の攻撃を受けている‼とりあえず、冷水・鎧身‼・・・これで様子を見るか。)・・・いや?どうもしないよ。」

「(・・・強がっているといい。)そうか。」

そんなやり取りをしている中、私は父が水正の父親に向かって何か力を使っていることに気づいた。

「(・・・おかしい。体温が下がらない。)」

「・・・冷霧‼その煙は・・・⁉」

「煙?(・・・いや、これは湯気だ‼)」

「(・・・冷霧め。体に冷水を纏うことにより灰火・崩身の熱を逃がしたか。しかし)燃えるように熱いだろ。その体。」

「・・・クッ、炎焼。貴様何をした‼」

「・・・今だ。退くぞ。」

私たちは、水正たちが動揺している隙に撤退することが出来た。

「チッ‼逃げられた‼」

「大丈夫か⁉親父‼」

「水正。俺にありったけ水をかけてくれ。」

「お、おう。」

「・・・にしても冷霧。炎焼に何を食らったんだい?」

「・・・恐ろしい技だよ。体が芯から熱くなり、恐らく、最後には内部から発火する。今回は俺が冷水を纏ったから、体温が異常に上がる程度の火傷で済んだが、本来は体を木炭の灰のようにボロボロにする技だろう。」

「・・・冷水ですら蒸気に変える熱ですものね。」

「ああ。今回は運が良かったかもな。」


~~~~~


「・・・今回は重大な報告がある。」

「・・・何だ?」

「・・・うちの家と水正の家がついに相まみえた。」

「え?」

「・・・水正。あんたの親父さん、大丈夫だった?」

「ああ。軽い火傷で済んだ。」

「・・・ふう。何より。」

「おいおい。内輪で話してねえで俺たちにも詳しく説明してくれよ。」

「・・・そうだな。まず、俺と灯華の家が出会った。」

「それで、水正の親父さんとおふくろさんが同時に仕掛けてきた。」

「そして、灯華がまずおふくろの技を相殺。その後、親父の技を躱して、その間に灯華の親父さんが俺の親父に初見殺しの技を仕掛ける。」

「けど、死なずに終わり、その間にあたしの家は撤退。・・・んな感じよ。」

「・・・成程ねぇ。」

「で、何か聞きたいことはある?」

「・・・水正さんのお父様はどうやってその初見殺しの技を見切ったのですか?」

「それ、俺も聞きてえな。今後の参考にしたい。」

「んー・・・教えはするが、参考にはならないと思うよ?」

「それでも・・・聞きたいです‼」

「水正。話しなさいよ。あたしも聞きたいし。」

「・・・分かった。まず、親父は技を食らった時、体が異常に熱くなったと言っていた。そこでとりあえず体温を下げようとした親父は冷水を身に纏った。結果これが功を奏した。身に纏った冷水のお陰で、熱が逃げ、技の発動が防げたってわけだ。」

「成程。灯華さんが以前、言っていたことをしたんですね。」

「ああ。けど、技の威力は話に聞いていた以上だ。なんせあの後、親父は暫く体温が下がらなかった。冷水を使う親父で火傷するんだ。多分俺じゃ防げないかもな。」

「・・・かもね。でも、技を食らったのがあなたの親父さんで良かったわ。」

「何言ってるんですか⁉灯華さん‼」

「ありがとう。迅雨。でも、俺もそう思う。あの時、俺かおふくろがあの技を食らってたら、五体満足では済まないだろう。」

「・・・それってどういう意味ですか?」

「比喩でもなんでもなく、腕か足。将又頭が崩れ落ちてたかもしれない。」

「・・・特に、あんたのおふくろさん熱湯だもんな。」

「ああ。だから水使いなのに火と相性が悪い。」

「・・・じゃ、情報共有もしたし、そろそろ解散しようぜ。」

「・・・はい。次も生きて会いましょう。」


~~~~~


「ふう。今回は運が良かった。」

「そうだね。檜河家は相性が良いからやり易かった。」

「にしても、迅雨は相変わらず実戦には慣れないか?」

「うん・・・(というか、慣れたくないよ。人殺しなんて‼)」

「まあ何れ——。」

「・・・お母さん?(・・・噓でしょ。)」

「・・・建侯家か‼」

「(・・・次は迅雨か・・・‼)」

「(・・・水正さんだ・・・。)」

「水正。俺と蒸雨に。」

「分かった。」

「それと、今回は撤退だ。隙を作るよ。」

「了解。」

「撤退って、このまま逃がすわけないでしょ‼穿雷‼」

お母さんがそう言うと先が尖った雷が水正さんたちの方へと伸びていった。

「波水壁‼」

水正さんがそう言うと水の壁が私たちと水正さんたちの間に出現した。

「・・・上出来だ。水正。」

「でも、少し食らうぜ、親父。」

「それは仕方ない。一々気にするな。」

「(・・・よし、天露が時間を稼いでいる間に・・・‼)」

お父さんは何やら水正さんたちに攻撃をする為、力をためていた。

「(・・・確か迅雨の親には時間がかかるが一撃必殺の技があったな・・・。ということは、戦闘が長引くのはまずい。さっさと退かないと‼)」

「熱傷水‼」

水正さんのお母さんがそう言うと、熱気を帯びた水がこちらに飛んできた。

「迅雨‼」

「迅雷矢‼」

私は微弱ながらも素早い雷を熱気を帯びた水に放った。

しかし、それでは熱気を帯びた水は消しきれなかった。

「(・・・まずい、あれじゃ弱い‼)穿雷・槍雨‼」

お母さんは熱気を帯びた水を相殺する為、槍のような形の雷を放った。

「・・・クッ‼(やはり相性が悪い‼蒸雨の熱傷水に伝ってきた。これではロクに技も出せん‼)」

「そろそろかしらね。霜太‼まだ?」

「もう終わる‼だから迅雨と天露は離れてろ‼」

お父さんは攻撃を仕掛ける準備が出来たようで、私とお母さんはお父さんの雷の影響を受けないように、その場から少し離れた。

「(何を始める気だ・・・‼)」

「じゃ、さようなら。檜河家の皆さん。」

ドカン‼バリバリバリバリッ‼

「・・・何⁉」

「(・・・何が起きたか知らんが、水を纏っておいて正解だったな。)蒸雨‼」

「ああ‼霧雨・昇華‼」

水正さんのお母さんがそう言うと、やけど跡が残りそうなくらい熱い湯気がその場一帯を覆った。

「・・・熱‼(これでは・・・熱気で奴らが見えん‼)」

「・・・逃げられたわ。」

「(良かった・・・水正さん無事逃げられたみたい。)」

私は水正さんが死ななかったことと、私たち家族が無事だったことに安堵した。

しかしその安堵も束の間——。

「塵砂・炭石。」

水正さんのお母さんが放った湯気に何か砂のようなものが混ぜって来た。

「・・・にしても熱いし、砂っぽいし嫌な技だねぇ‼」

「堅牢石・霰。」

そして、突如霰ほどの大きさの石が掠れば肌を簡単に切り裂くような速さで降り注いできた。

「・・・天露‼奇襲だ‼」

「分かってる‼穿雷・槍雨‼」

お母さんはその石を雷の力で全て粉々に砕いた。

しかし、その瞬間——。

「・・・かかった。」

バリバリバリバリッ‼ババババン‼

まるでお母さんの技に呼応したかのように爆発が起こった。

「・・・なっ、爆発した⁉」

「大丈夫か⁉天露‼迅雨‼」

「私たちは少し食らったけど大丈夫‼霜太、あんたは⁉」

「俺も食らったが大丈夫だ‼それより・・・。」

「やあ、建侯家の諸君。僕たちのプレゼントはどうだったかな?」

「・・・お前は、堅地‼」

「それに、塵鳳もいるじゃない。」

「久しぶりねぇ、天露。すっかり大きくなって、嬉しいわ。」

「(迅雨の家だったのかよ・・・‼)」

何と私たちは今度は坦坑さんの家と接触してしまったのだ。

「にしても、今のを食らってよく無事だったわね。」

「よく言うわ‼これくらいで死ぬと思ってないくせに。」

「・・・目くらましに目くらましの上塗りとは、芸が細かいな。」

「こうでもしなきゃ成功しないからな。」

「だろうな。蒸気に塵や砂が混ざってるなんて普通は気にしない。」

「で、これからはどうする?」

「いきなり劣勢だな‼霜太‼」

「クッ・・・。」

「返す言葉もないみたいだし、そろそろ——。」

ポツン・・・。

「ん?どうした?塵鳳。」

「いや、ただの雨よ。気にしないで。」

「(雨・・・そうか!)天露‼迅雨‼撤退するぞ‼」

「この状態からどうやって退くのかしら?」

「・・・伝雷・通水‼」

お父さんがそう叫ぶと、糸のような雷が雨粒の一つ一つをまるで渡り歩くかのように通った。

「痛っ‼」

「からの——微縛雷‼」

そして、その雷は坦坑さんたちまで届き、坦坑さんたちの身動きを金縛りのように奪った。

「(・・・動けない‼)」

「撤退‼」


~~~~~


「毘之家対策として纏っていた水がこんなところで役に立つとはな。」

「どういうこと?冷霧。」

「今回水正には、前回、炎焼が使用した技の対策として全員に水を纏わさせた。」

「ほら、建侯家との戦いに集中してる時に、あの技されたら終わりだろ?」

「・・・確かにね。」

「だが、それが意外にも建侯家の技にも有効だったようだ。」

「・・・あの時、一体何が起きたんだ?親父。」

「あれは、お前の水が敵の雷を逃がしたんだろう。俺たちの体に通る前に。恐らく霜太が俺たちの体に電撃を溜めようとしていたんだろう。炎焼の技の雷版だ。俺たちの体に致死量の電気を溜めた後、弾けさせ・・・絶命。まあ、そんなところだろう。」

「・・・えげつない技。」

「またもや、運が良かったな。俺たち。」


~~~~~


「・・・ふう。あの時雨が降ってくれて本当に助かった。」

「じゃなかったら、あたしたちあそこで嬲り殺されてたね。」

「(・・・‼)」

「けど、あの時、何で爆発したんだ?」

「本当よね。最初は毘之家と城堂家が組んでるのかと思って警戒してたんだけど、その様子もないし。」

「・・・摩擦じゃない?」

「ん?どういうことだ?迅雨。」

「あの砂煙、微かに炭みたいのが混じってた。あの中でお母さんは穿雷・槍雨を撃ったでしょ?」

「敵の落石を砕く為にね。」

「それが罠だったんだよ。私たちはその落石を防ぐ為に雷を出す。でもその時出した雷が炭に擦れて、摩擦で火がついて誘爆したんじゃないかな。」

「・・・成程。良い技持ってるわね。塵鳳の奴。」


~~~~~


「ったく・・・あの時、雨が降らなきゃ仕留められたのによ。」

「まあ、それもあるでしょうけど、あたしたちの油断もあるわよ。」

「まあ、雷を扱う一族に雷使われて死ななかっただけでもよしとしようぜ。親父。」

「ん~~納得いかんなぁ・・・。」


~~~~~


「さて、恒例の情報交換だがまず俺から話す。今回は俺の家が迅雨の家と会った。」

「え?俺も会ったぜ?」

「坦坑お前も?」

「ん?どういうこと?」

「あ、それは私の家は水正さんの家と会った後、坦坑さんの家にも会ってるので食い違いはないです。」

「成程、あの後、会ったのか。」

「はい。」

「・・・それでよく生きてたな。」

「・・・まあ、奇跡的に。」

「そうなんだ。」

「はい。」

「あの・・・経緯を聞いてもいいですか?」

「ああ、済まん済まん汗。灯華と颯君は分からないよね。まず俺から話そう。今回は迅雨の家と会って雷で追いつめられた。けど、何故か分からないけど雷がいきなり弾けて、迅雨たちが驚いている隙に撤退した。」

「・・・は?何言ってるか全然分かんないんだけど?」

「ええ~~・・・そんなぁ。」

「あたしが説明します。まず、あたしたち建侯家と水正さんの檜河家が相まみえました。その後、あたしたち建侯家は水正さんたちを徐々に追いつめていきました。そして、最後の詰めというところで、以前父が話していた時間のかかる一撃必殺の技が不発に終わり、父が動揺している間に、熱い霧を仕掛けられ、水正さんたちに撤退されたということです。」

「さっすがぁ‼分かりやすい説明ね‼」

「(・・・僕はそんな大差ないと思うけど。)」

「あ、あれ、一撃必殺の技だったのか。」

「え、水正気付かなかったの?」

「いや、雷の一撃必殺を想像してたから、俺はてっきり、空からくるめちゃくちゃでかい雷かと・・・。」

「そんなん、敵味方関係なく、くらっちゃうじゃん笑。」

「そ、そうだな笑。」

「・・・で迅雨。その技は結局どんな技だったんだ?」

「えっと・・・その・・・。」

「それは、俺から説明しよう。親父が言うには灯華。お前の親父さんが使う初見殺しの技の雷版だそうだ。」

「あのくそジジイの?」

「ああ。仕組みは、敵の体内に致死量の電気が溜まるまで待ち・・・弾けさせる。そんな技だ。」

「えぐい技ばっか考えるな。」

「・・・それに、その仕組みなら一撃必殺ですね。」

「ああ。なんせ避けられない落雷のようなものだからな。」

「・・・で、その後の話の詳細は?」

「続けて私が。その後は水正さんたちの放った目くらまし技にさらに坦坑さんの城堂家が砂嵐のような目くらましをかぶせて仕掛けてきました。続けて坦坑さんたちは隕石を降らせてきました。なので私たち建侯家は雷で応戦。しかし、その時何故か複数の爆発が起きました。その爆発のお陰で私たちは負傷し、劣勢に立たされました。ですが、その時運良く雨が降ったので、父が微弱な雷を雨に通し、一時的に坦坑さん達を行動不能状態にし、撤退。という流れです。」

「・・・成程。」

「坦坑さん。あの時爆発したのは何故ですか?」

「あれは、前話した母さんのカウンター技だ。仕組みとしては、まず、目では確認出来ない程の着火物を塵に混ぜて相手の周りに広げる。その後、別の技で攻撃するよう仕向ける。そうすると当然相手は反撃する。その反撃のタイミングで相手の出した技から、空気中に浮遊している着火物が攻撃の摩擦によって着火。連鎖爆発を起こす。という、自滅を狙った技だ。」

「・・・嫌なくらい合理的な技。」

「・・・息子の俺もそう思う。本来なら連鎖爆発を起こした時さらに追撃し、息つく暇もなく、責め立てるんだろうが、今回は俺たちの両親が調子に乗ってて助かったな。」

「ええ。あそこで顔をわざわざ見せてくれて助かりました。でなければ今頃生き埋めにされてたかもしれません。」

「・・・だな。」

「さて、今回の情報共有も終わったことだし解散しようか。」

「そうね。・・・にしても今までよく死ななかったわよね、私たち。」

「それは言えてるな。特に水正の親父さんは何だかんだで運がいい。」

「それ、本人も言ってた。・・・まあ、とりあえず、これから先も生きて会おう。」

「了解。」

しかし、この水正さんの発言とは裏腹に次の戦いでは、五神家初の死傷者が出てしまう・・・。


~~~~~


「・・・父さん。僕たち何時まで逃げ続けるの?」

「何時までって、何時までだろうなぁ。」

「何時までだろうなぁ・・・って、何だよ・・・。」

「そしたら颯。お前は敵と戦いたいか?」

「・・・戦いたくない。」

「父さんも戦いたくない。そしたら、なるべく上手く逃げ続けるしかないだろ?」

「・・・それはそうなんだけど。」

「颯。母さんもあなたと同じで戦いたくないわ。それに、相手を殺してほしくもないの。」

「・・・何で?」

「これからは、手を汚さずに生きられる時代が来てほしいからかなぁ。あたしや荒貴はもう遅いけど、あなたならまだ間に合う。あなたは先の時代を生きて?」

「う、うん・・・。」

「・・・手を汚さず生きられる時代か。想像出来ないけど、いいな・・・それ。」

「でしょ?」

「ああ‼」

「・・・須羽家の皆さん、お初にお目にかかる。」

「・・・お前は、毘之炎焼‼」

「悪いが、ここで死んでもらう。」

「(・・・灯華さん‼)」

「(颯・・・‼)」

「まて‼俺たちは戦うつもりはない‼だから、待ってくれ‼」

「・・・信じられんな。」

「本当です!何なら、あなたたちが撤退するまで、ここを動きません‼」

「・・・この時代に、戦いを放棄するなんて、どうかしてるわ。」

「信用出来ん。油断を誘う罠かもしれんしな。」

「(・・・撤退を提案したいけど、今提案したら、今度はあたしがまずい・・・‼)」

「・・・ダメなのか。」

「・・・焔。」

「了解。球火・蛍火。」

灯華さんの母さんがそう言うと、球体状の炎が蛍のように飛び交い、僕たちに向かって来た。

「・・・荒貴‼」

「分かってる‼風壁・嵐‼」

父さんはその炎を父さんを中心として作り出した風の壁で吹き飛ばした。

「(かき消したか。ならば・・・)灰火・弾炎。」

灯華さんの父さんがそう言うと、目の前に炭を砕いたような粉状のものが舞い散り、その後、擦れて爆発し父さんの風の壁を相殺した。

ビュウウウゥ・・・サァ・・・ババババン‼

「(・・・俺の風を炭が弾けた際の爆発で相殺したか。)」

「相性が悪くても、それなりには、やれるみたいね。ねえ、炎焼。試したい技があるんだけど、今ここで使ってもいい?」

「・・・いいぞ。」

「ありがと。・・・じゃあ、早速。貴方たち覚悟なさい?・・・天照の息吹。」

灯華さんの母さんが手の平を口の前で上に向け、息を吹きかけると、まるでおとぎ話に出てくる龍が火を噴いたかのように、僕たちの居た平原は炎でうめつくされた。

「(・・・この規模はまずい‼)奏‼」

「ええ‼後ろに下がりなさい‼颯‼」

父さんと母さんは咄嗟に僕を後ろに突き飛ばし、僕の前に立ちふさがった。

「風壁・嵐‼」

「軟風・霧散‼」

父さんが風壁で大部分の炎を受けつつ、母さんが軟風・霧散で風の流れを支配し、炎を四方八方へ逃がした。

ゴオオオオオオオオオオオオッッッッ‼

「(・・・身内ながら、なんて規模なの・・・‼)」

「フッ・・・天照の名前に相応しい技だな。」

「父さん‼母さん‼」

しかし、灯華さんの母さんの技は想像以上に強力で、元々の相性の悪さも重なり、父さんと母さんは途中から風の力で逆に炎の力を強めてしまい、炎の中に飲まれてしまった。

「(・・・防ぎきれない‼)グアアァァッッ‼」

「(颯・・・・・・‼)クッ・・・ゥ・・・・——。」

「ふう・・・。どう?」

「凄い威力だ。」

「でしょ?」

「(無事なんでしょうね・・・颯・・・‼)」

「父さん‼母さん‼大丈夫⁉」

「・・・俺は大丈夫だ‼奏‼お前は大丈夫か⁉」

「——————。」

「(・・・起きてこない。まさか‼)おい‼奏‼返事をしろ‼」

「——————。」

「そんな・・・嘘だよね・・・母さん‼」

「一人、仕留めたわね。」

「ああ。あと二人。さっさとやるぞ。」

「(まずい‼)颯‼今すぐ退——。」

「灰火・崩身。」

灯華さんの父さんがそう言うと、父さんの片腕から突如煙が出てきた。

「(何だ⁉体が急に熱く・・・)ぐあああああっっっ‼」

「(・・・噓でしょ⁉腕が煙とともに消えていく‼)」

「うああああああああっっっっっっ‼」

僕は母さんに引き続き父さんまで殺されると思い、何か妙なスイッチが入っていた。

「ん?何だ?」

「死ねえええぇぇぇっっ‼鎌風・断——。」

「(・・・まずい‼)加具土命の羽衣‼」

僕は灯華さんの父さんを殺す気でとても鋭利な風を放った。

「・・・炎焼?」

「大丈夫だ。心配——ゴフッ・・・‼」

「炎焼‼炎焼‼(・・・胴体の半分が切られている‼)」

「(・・・地獄だわ・・・。)」

僕が技を放ったおかげで、父さんに向けられていた灯華さんの父さんの技は止まっていた。

「・・・颯。」

「・・・父さん‼」

「・・・最後に、お前に・・・伝えておくことがある。」

「そんな・・・最後だなんて言わないでよ‼」

「・・・悪いが、出血し過ぎて、もう長く持ちそうにない。」

「・・・そんな‼」

「・・・颯。・・・人を、恨むなよ。・・・生きていれば必ず望みは消えない。須羽家を・・・任せたぞ。」

「・・・父さん?ねえ、父さん‼父さん‼何か言ってよ‼」

「(・・・何で、一番親が必要な颯が・・・‼)」

「・・・灯華。あなたも泣いてないで、父さんの仇を討つよ‼」

「う、うん・・・‼(別に、あんたたちの為に泣いてるわけじゃないわよ‼)」

「大蛍‼」

灯華さんの母さんは僕に向けて、ミニチュアの太陽のような炎を放とうと力をためていた。

「・・・脈風・鋭風。」

僕はそれを止める為、伝承にある妖怪。鎌鼬が起こすような風を再現した。

「(うっ、鋭い風が脈を打つように強弱つけて流れてきて、うかつに動けない。)」

「風球散。」

そして、灯華さんの母さんの球体状の炎を真似、球体状の風を作り、それを灯華さんの母さんのミニチュア太陽にぶつけ、球体状の風をその太陽の中で弾けさせた。

それにより、灯華さんの母さんの技は解除された。

「(くっ‼大蛍が・・・‼こうなったら・・・)天照の——。」

「鎌風・断。」

灯華さんの母さんがさっきの龍のような炎を出したのと同じ構えをしたのを見た僕は、それを発動させない為、片腕を風の力で切り飛ばした。

「・・・お母さん‼腕が‼」

「え?・・・痛ッ‼(あの子・・・冷静さを欠いてるかと思ったら、的確に父親と同じ方の腕を切り飛ばして意趣返しをしてくるじゃない・・・‼)灯華‼引くよ‼」

「逃がさない・・・‼」

「分かった・・・‼(颯・・・ごめんね‼)大火炎‼」

僕は灯華さんの母さんの息の根を止めようと、風の力を使おうとしたが、灯華さんに技を放たれた時、ふと我に返り、体が動かなくなってしまった。

「・・・・・・・・・。」

僕は灯華さんの後ろ姿と足元にある両親の死体を見て、只々、呆然と悲しみに暮れ、立ち尽くすしかなかった。


~~~~~


「・・・灯華。もういいわ。」

「・・・‼。・・・何がいいの?」

「・・・私を置いていきなさい。」

「・・・嫌だ。」

「・・・このまま、あたしを連れてたら、今度はあなたが殺されるわ。だから私を置いていきなさい。」

「・・・嫌だよ‼」

「いいから、おいていきなさい‼何で最後くらい、親の言うことが聞けないの‼」

「・・・あの時、最初から退いてればこんなことにはならなかったのに・・・‼」

「・・・本当ねぇ。・・・本当、何やってたのかねぇ。私たちは。寄ってたかって、子供も親も殺して・・・こんなの、あなたたち子供に見せたかったことじゃないのに・・・。」

「・・・そんな風に思ってたなら、さっさとやめてたらよかったじゃん‼」

「・・・本当よねぇ。死に際に気づくなんて、つくづくダメな大人よね。・・・ごめんね。情けない親で・・・。」

「・・・母さん?・・・母さん‼ねぇ返事してよ‼母さん‼」


~~~~~


「・・・今回はどうだった?」

「・・・・・・。」

「(・・・今回は颯君を包む雰囲気が特に重いな。)」

「ねえ、颯。何があったの?」

「・・・言いたくない。」

「言いたくないって、あんたねぇ・・・‼」

「迅雨‼・・・ことの詳細はあたしから話すから、颯のことは責め立てないで?」

「・・・分かりました。」

「ありがと。」

「・・・ってことは今回争ったのは・・・。」

「そう。あたしの毘之家と颯の須羽家よ。」

「・・・大丈夫か?灯華。見た感じだと、君も大分辛そうに見えるが・・・無理に話さなくてもいいんだぞ?」

「・・・正直あたしも話すのは辛い。けど、私は颯よりは年上だし・・・それに、ちゃんと聞いてもらいたいの。」

「・・・分かった。どうしてもキツかったら、途中で切ってくれて構わない。」

「ありがと。じゃ、話すわね。結果としては最悪だったわ。あたしの両親と颯の両親は死んだ。」

「・・・・・・。」

「・・・そうか。」

「経緯としては、まず、あたしの親が颯の両親を殺したの・・・それで・・・。」

「・・・灯華。無理すんな。もういい。」

「・・・ごめん。」

「お前は悪くない。大丈夫。もう話さなくていい。」

「・・・ごめん。」

「・・・水正さん。ここからは僕が話します。」

「颯くん⁉・・・大丈夫なのかい?」

「・・・大丈夫ではないですけど、この話はみんなに聞いておいてほしいんです。僕が犯した罪と一緒に。」

「(・・・罪?)」

「颯、あんた・・・‼あれは不可抗力よ‼あんたは悪くない‼」

「(・・・?)」

「いや、灯華さん。経緯がどうであれ、僕の意志でやった以上、あれは僕の罪だよ。僕はその罪から逃げたくないし、水正さんたちには隠したくないんだ‼」

「・・・そう。・・・強くなったわね。颯。」

「ありがとう。灯華さん。・・・そしたら早速話したいと思います。いいですか?」

「・・・いいよ。けど、無理だけはしないでくれ。」

「・・・分かりました。まず、さっきも言いましたが、広い平原で灯華さんの毘之家と僕の須羽家が接触しました。当時、僕たち須羽家は撤退を考えて、毘之家に撤退を提案します。しかし、棄却されました。その後、攻撃をされたので、防衛の為、応戦。一回目の攻撃は難なく防げました。しかし、二回目の攻撃。この時に僕の母さんは・・・灯華さんのお母さんに殺されました。」

「・・・どんな技か聞いても大丈夫か?」

「・・・大丈夫です。坦坑さん。・・・といっても、僕もよく分からないです。ただ、とてつもなく大きな炎の塊です。山一つ燃やせそうなくらい強力でした。」

「・・・ここら一帯を燃やせそうなくらいか?」

「・・・余裕だと思います。」

「それ、天照の息吹よ。」

「天照の息吹?」

「母さんが技を出す時、そう言ってた。“これなら相性の悪い檜河家にも勝てるわ”って言ってた。」

「・・・成程。水を全て蒸発させてもなお、火が残る技か。」

「・・・続けてもいいですか?」

「あ、ああ。」

「その天照の息吹というのを父さんも食らいましたが、その時は重傷で済みました。僕はその時、母さんを殺された怒りで我を忘れてました。」

「我を忘れるって・・・?」

「何というか・・・妙に頭が冴える感じだよ。」

「その時に、うちのくそジジイが颯のお父さんに初見殺しの技を使ったのよ。」

「・・・どんな感じなんですか?」

「・・・颯。」

「大丈夫です。灯華さん。話してください。」

「・・・体の末端から煙が出て、その部分が煙とともに消えていくの。」

「・・・じゃあ、死体は・・・。」

「残らないわね。でも、颯のお父さんの場合は、颯が割って入ったから片腕で済んだんだけどね。」

「・・・死体が残らないって、えぐ過ぎるだろ。」

「ほんとよね。でも、最終的にそれを出したくそジジイは颯が殺したんだけどね。」

「・・・お前が?」

「・・・本当です。そしてこれが、僕の罪です。」

「だから、あれは、しょうがないって‼」

「・・・でも。」

「(・・・齢十歳で大人を倒すほどの力か・・・いや、今、そんなことはどうでもいいか。)それより、続きを聞いてもいいかな?」

「あ、はい。僕が灯華さんのお父さんを殺した後、今度はお母さんを殺そうと腕を風で切り飛ばしました。そして、その後灯華さんたちは撤退。以上になります。」

「・・・そうか。」

「私たちは撤退した後、母さんは血が止まらなくなって、死んだわ。」

「・・・そうなんですね。」

「・・・で、お前たちはこれからどうすんだ?」

「え?」

「食べ物とか住処とか色々だよ。」

「・・・あたしは、うちに食料とかお金とかあるから、暫くはそれをもってここを離れるわ。一人でいたら、殺されちゃうし。」

「颯君はどうする?」

「・・・僕も、うちにお金があるから、暫くそれで暮らします。」

「・・・出来ることなら、灯華も颯君もうちで一緒に匿ってあげたいんだが・・・。」

「親が納得しませんもんね。」

「ああ。俺も何とかしてやりたいんだがな・・・。」

「・・・あ、そうだ。お前たち、一緒に旅に出たらどうだ?」

「え?どういうこと?」

「だから、そのまんまの意味だよ。灯華も颯もこの土地にいたら、いつ俺たちの親に殺されるか分かったもんじゃない。だったら、一旦ここを離れて、まずは生き延びることを考えた方がいい。」

「・・・確かにそれはそうですけど。」

「颯。あんたはどう?」

「・・・僕は灯華さんが良ければ、一緒に行きたいです!」

「じゃ、決まりだね!」

「はい‼」

「・・・そしたら、暫く会えなくなるな。」

「そうね。でも必ず戻ってくるわよ。」

「・・・頼むぜ?」

「あんたたちこそ、誰か一人でも欠けたら承知しないわよ?」

「分かってます!」

「じゃ、これから先もっと大人になったら、それぞれの家を紹介出来るくらい平和になろう!」

「また大きく出たな笑。だが、その話乗ったぜ!」

「笑。じゃ、そろそろ解散しましょ?颯は一旦家にあるものを整理したら、ここに再度集合!」

「了解です!」

「じゃ、また会おうぜ!」

「ええ‼」

しかしこの後、さらなる死者が出ることを僕たちは知らなかった。


~~~~~


そして、僕と灯華さんがこの土地を旅立ってから数日後・・・。

「(灯華と颯君は元気でやってるだろうか・・・。)」

「水正!何ボーっとしてるんだい!また、毘之の奴らが来たらどうするんだい?」

「あ、そ、そうだよな汗。悪いおふくろ。(その毘之家はもういないんだけどな。)」

「もう少しで峠を抜ける。気を抜くなよ。」

「ああ。」

「「「・・・‼」」」

「(・・・こんなところで、会っちまうとは・・・‼)」

「・・・運がいいんだか悪いんだか、分からんな。冷霧。それに・・・霜太。」

「そうだな。堅地。」

「(・・・よりによって、水正と迅雨の家に同時接触かよ・・・‼)」

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

「(・・・蓄電・霧散身。)」

お父さんは一撃必殺の技を睨み合いながら、密かに準備した。

「じゃ、最初は派手に行かせてもらうぜ!堅牢石・霰!」

坦坑さんのお父さんは以前仕掛けてきた技を私たちに仕掛けてきた。

「・・・天露。」

「分かってるわよ。・・・はあ、芸がないわね。穿雷・槍雨。」

バリバリバリバリッ!・・・サァ・・・。

そして、お母さんも前と同じように坦坑さんのお父さんの技を雷の力で砕いた。

「(・・・いつも通り砕いたわね、なら・・・)・・・砂槍雨。」

そうすると今度は坦坑さんのお母さんが砕かれた石を使って、砂で槍のような塊を作り、私たちに放ってきた。

「(・・・今だな。)・・・氷雨。」

坦坑さんの一家が私たちにある程度意識を割いている隙を狙って、水正さんのお父さんが坦坑さんたちに、水正さんのお母さんが私たちに水の力で攻撃を仕掛けてきた。

「熱傷水‼」

「堅牢壁・城塞‼ったく・・・いつもと同じで、人の隙を狙うようないやらしい手だぜ。なあ?冷霧‼」

「攻め方としては当然だ。」

坦坑さんたちは土の壁で水正さんのお父さんの攻撃を防いだ。

「・・・クッ。」

「一方で霜太の方は砂の方は防いだが、熱湯の方は食らったか。」

一方、私たちは空から降ってくる砂の槍をあえて水正さんのお母さんの技の中に飛び込むことで被害を最小限に抑えた。

砂の槍で串刺しになるくらいなら、火傷の方がまだ生存率が高いからだ。

「・・・にしても、敵の技を利用してあたしの砂槍雨を相殺するなんて中々やるじゃない。」

「けど、火傷してたんじゃ、意味ないんだけどね。」

「・・・言わせておけば‼」

「天露‼心配するな。もうすぐ、一人は仕留められる。」

「(・・・何言ってやがる?)」

「・・・水正‼」

「分かった‼」

水正さんのお父さんは何か感づいたのか、お父さんが一撃必殺の技を発動する前に水正さんに指示を出した。

「おいおいどうした?何焦ってん——。」

ドカン‼————プシュウ・・・。

水正さんのお父さんが水正さんに指示を出したのと紙一重のタイミングで、突如坦坑さんのお父さんが雷の力で丸焦げになった。

「・・・一人。」

「・・・何‼今の・・・⁉」

「・・・あなた‼」

「————。」

「(・・・即死かよ・・・親父‼)」

「(・・・成程。本来はあのようになる技だったのか。)」

「(・・・確かに、一撃必殺の技だ。)」

「あと、二人だ。」

「(・・・やばい‼坦坑さんも殺されちゃう‼)」

私がお父さんに坦坑さんを狙ってほしくないと思っている時、坦坑さんのお母さんはこれ以上は不利だと思ったのか、撤退の準備をしていた。

「・・・砂塵・針石‼坦坑‼退くよ‼」

「(・・・クッ‼砂が無数の針のように広がり、動けない・・・‼)」

坦坑さんのお母さんは砂の先端を針のように尖らせた糸のようなものをその場に張り巡らせ、私たちの身動きを封じた。

「泥・土石流‼」

「波水壁‼」

「迅雷・二槍‼」

そして、置き土産として坦坑さんが放った技を見て私はいかにも敵対しているかのような態度で、一種のパフォーマンスのように技を放った。

「・・・退いたか。」

「最後の置き土産と言ったところだろう。」

「・・・どうする?」

「・・・お互い退かないか?」

「・・・何を言ってるんだい⁉冷霧‼」

「蒸雨。気持ちは分かるが、もうこれで終わりにしないか?」

「(・・・親父。)」

「・・・信用出来んな。それは今。お前が圧倒的有利な状況だから言えるセリフだ。それに、お前だけ生き残りたいなんてもう許されないぞ。」

「そうよ。今まで私たちはどれだけの人を殺してきたと思ってるの。」

「天露とやらも言っていることは分かってる。だからこそここで——。」

「・・・‼」

「散々人を殺しておいて、あんたたちだけ生き残るなんて、虫が良過ぎるわ‼あんたらも、旦那のもとに行きなさい‼」

「・・・塵鳳‼」

なんと、坦坑さんのお母さんは撤退を装い、私たちの隙を窺っていた。

「砂槍雨‼」

「(・・・まずい‼塵鳳が霜太に抱き着いているせいで、うかつに技が出せない‼)」

「子供も道ずれよ‼」

坦坑さんのお母さんは決死の覚悟で敵である私のお父さんを道ずれにしようとしていた。

「(・・・そんな、颯と生き残るって約束したのに・・・‼)」

「波水壁‼」

砂の槍が私たちに向かってきて絶体絶命かと思っていたその時、水正さんが水の力で坦坑さんのお母さんの技を相殺した。

「(・・・⁉)」

「(・・・水正‼)」

「(・・・水正さん‼)」

「・・・もう、やめようぜ!みんな‼」

「(・・・あの子が、助けてくれたの・・・⁉)」

「もう・・・殺し合いなんて沢山だ‼」

「(あいつは、冷霧の子供か⁉)」

「・・・生きる為に殺して殺して殺して・・・それで一体何が残ったんだよ‼」

「水正・・・。」

「うっ・・・うっ・・・うううっ・・・‼」

「(・・・塵鳳。)」

「母さん・・・‼」

「・・・もう、やめようか。」

「・・・そうね。」

「・・・でも、他の一族はどうするのよ?」

「それなんですけど・・・毘之家と須羽家はもうないんだ。」

「・・・嘘⁉」

「本当だよ。母さん。どっちも、子供一人残してみんな死んじまった。」

「・・・子は親の知らないところで繋がっていたというわけか。」

「・・・悪い。親父。」

「いや、気にするな。子が信頼出来ない背中を見せた親の責任だ。」

「・・・で、その子たちは、今何処にいるの?」

「もうこの土地にはいない。二人一緒にどこかに行っちまった。」

「・・・そう。」

「でも、もう一度ここに戻ってくるって約束したの。」

「・・・そうか。」

「・・・とりあえず、もう戦いはやめにしよう。それで、もっとみんなで協力して平和に暮らそう。」

「・・・そうだな。」

こうして、水正さんたちは何とか生き残ることとなったそうだ。

そして、僕と灯華さんが旅をして、この地に戻るのは、また別の話・・・。

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