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天使たちの天外戦線(三章、予め知る苦悩)

ビランチ「はぁ・・・。」

ドラーク「お疲れ様。ビランチ。」

ビランチ「ありがと。早速なんだけど、ここで少し休むわ。」

ネニア「分かったよ。」

シェンス「おつ~ビランチいる?」

ドラーク「いるけど、今丁度お休み中よ。」

シェンス「そっか。じゃ、邪魔しちゃ悪いわね。」

ネニア「私で良ければ聞こうか?」

シェンス「え?」

ネニア「何か聞きたいことがあるから来たんでしょ?」

シェンス「・・・まあ、そうだけど。」

ネニア「どう?私じゃ駄目な用かな?」

シェンス「別に駄目じゃないけど・・・。」

ドラーク「話してみなさいよ。珍しくネニアがこう言ってるんだから。」

ネニア「珍しくって何だ。」

ドラーク「ごめんごめん笑。でもネニアも色々思うところがあるんでしょ?」

ネニア「まあ・・・そうだよ。」

ドラーク「笑。」

シェンス「じゃあさ、ぶっちゃけ聞くけど、今の天界の天使たちってどう思う?」

ネニア「・・・どう思うって?」

シェンス「色々ムカつかない?」

ドラーク「・・・どういうところが?」

シェンス「まず、ことあるごとに“俺たちは完璧だ!”って言うところ。」

ネニア「まあ、それは私も少し引っかかるところはあるけど・・・。」

シェンス「でしょ?特に下位の天使たちに多いのよね。上位の天使はそんなこと言わないんだけど、あいつら何を勘違いしてんのか妙に傲慢なのよ。」

ドラーク「そしたら直接そいつらに言ってあげればいいじゃない。」

ネニア「そうだよ。シェンスは比較的位の高い天使なんだから、言うに値すると思うよ。」

シェンス「言ったわよ。でもあいつら言っても理解出来ないみたいで“俺たちの完璧さは智天使でも理解出来ないくらい高みにある!”とか言って話になりゃしないわ。」

ドラーク「そりゃ厄介だわ。」

ネニア「そしたら、もう放っておけば?」

シェンス「嫌!」

ネニア「何で?」

シェンス「智天使としてのプライドが許さないわ!無能に無能だと自覚させるだけの力が無いんじゃ、智天使と名乗るのも烏滸がましいわ!」

ドラーク「でも、言葉も通じない奴にどうやって自覚させんのよ?」

シェンス「ん~・・・あ、無能な天使がいればいいんじゃない?」

ネニア「無能な天使?」

シェンス「正確には天使と全く同じ姿をした無能な存在!例えば、知恵と不死性を無くした存在とか!それをあいつらに見せることで、無理やりにでも自分自身と比較させてやるのよ!あいつらが本当に完璧ならどんな事象だろうとどんな不条理だろうと完璧と言い張れるはずよ!」

ドラーク「・・・まあ、理論上はそうね。」

シェンス「よし!そうと決まれば、その存在とそれを入れる星はビランチに作ってもらいましょ!ネニア!ビランチに今のこと伝えといて~!」

ネニア「わ、分かったよ・・・。」

ドラーク「(・・・ネニア。今の話、何が何だかあんまり分かってない感じね。)」

ネニア「・・・ちゃんと話を聞けたのかな?」

ドラーク「聞けたんじゃない?それより、さっきの話どういうことか分かった?」

ネニア「・・・あんまりかな。」

ドラーク「ま、それは改めて私がビランチに伝えるわ。」

ネニア「ありがとう。(・・・にしてもチクエ。あんたの予知は一体どこにいっちゃったんだ・・・。)」


~~~~~


モルテ「・・・退屈ですね。」

モルタ「そうだな・・・。」

モルテ「そういえば、今回の天使長はビランチでしたね。」

モルタ「そうだな。」

モルテ「(・・・チクエの時も、その前も大して生活に違いはなかった。きっと今回もそうだろう。このまま代り映えのしない毎日が続くことに何か意味はあるのだろうか・・・。これから先、何か変わることはあるのだろうか・・・。)」

モルタ「・・・モルテ?」

モルテ「(・・・何だ⁉)」

モルタ「モルテ?」

モルテ「・・・・・・・・・・・・(・・・これは・・・。)ウッ!」

モルタ「モルテ!大丈夫か⁉」

モルテ「あ、頭が・・・‼」

モルタ「(・・・クソッ!誰か上天使は・・・いや、確かもう直でも大丈夫だったな!だが、モルテをこのまま一人で放っておくわけには・・・。)」

ヴィーゴ「モルタ!モルテ!」

モルタ「ヴィーゴ!」

ヴィーゴ「遠くから見て様子が変だっただから近くまで来たよ!何があったの⁉」

モルタ「モルテが突然頭を抱えて苦しみだしたんだ!」

ヴィーゴ「なら、モルテは僕が見てるよ!」

モルタ「頼む!俺はビランチを呼んでくる!」

ヴィーゴ「任せたよ!」


~~~~~


モルタ「ビランチ!ビランチはいるか⁉」

ビランチ「あら、モルタじゃない。早速相談?」

モルタ「違う!今、モルテが頭を抱えて苦しんでいる!俺では原因が分からない!済まないが来てくれないか⁉」

ネニア「もしかして・・・。」

ビランチ「分からないわ。モルタ、とりあえず今から行くから案内してくれる?」

モルタ「了解だ!」


~~~~~


モルタ「モルテ!ビランチを連れてきたぞ!」

ビランチ「ヴィーゴ!今どんな状況?」

ヴィーゴ「詳しくは分からない!けど未来がどうとか言ってる!」

ビランチ「(それって・・・)分かったわ。それだけ聞ければ充分よ!」

ヴィーゴ「?」

ビランチ「(ネニア。)」

ネニア「(どうだった?)」

ビランチ「(出たわよ。)」

ネニア「(分かった。すぐ行く。)」

ビランチ「(お願いね。)・・・モルテ。話は出来そう?」

モルテ「・・・ハァ・・・ハァ。・・・何とか。」

ビランチ「良かった。・・・とても申し訳ないんだけど、ヴィーゴ。モルタ。少しだけ離れててもらっていい?」

モルタ「・・・モルテを治してくれるのか?」

ビランチ「そのつもり。」

モルタ「・・・分かった。」

ヴィーゴ「・・・頼んだよ。」

ビランチ「ええ。」

ネニア「来たよ。ビランチ。」

ビランチ「ネニア。」

モルテ「ネニアまで・・・私は今どういう状況なのですか?」

ビランチ「・・・モルテ。あなた、未来が視えたの?」

モルテ「は、はい!そうなんです!信じてもらえないかもしれませんが・・・。」

ネニア「信じるよ。」

モルテ「え?でも・・・何も確証もないんですよ?」

ビランチ「大丈夫。信じるわ。」

モルテ「ビランチ・・・。」

ネニア「モルテ。少し探らせてくれる?」

モルテ「え、ええ・・・。」

ビランチ「・・・これは、魂が肉体から離れた形跡があるわね。」

ネニア「それと、多大な神力が消費された形跡も。」

ビランチ「恐らく、魂が肉体から離れて未来に行き、その魂が神力の力を使って未来を固定しているんだわ。」

ネニア「予知って、こんな構造になってたんだね。」

モルテ「(・・・。)」

ビランチ「魂が肉体から離れて未来に行き、固定してしまうまでが無意識下で行われてしまっているから、意識でコントロールするのは無理ね。だからモルテ。あなたは悪くないわ。」

モルテ「あ、ありがとうございます・・・。」

ネニア「未来の固定は多分、見るという行為がきっかけで行われているね。」

ビランチ「そうね。」

ネニア「だから、モルテの予知を封じるには魂を飛ばさないようにすればいいってことだね。」

ビランチ「そうね。・・・どうやる?」

ネニア「・・・構造を構築・時間停止・構築の三重にしよう。まず、基礎として時間停止で魂が肉体から離れないようにしたい。けど、時間停止だけだとモルテ自身の肉体活動も止まっちゃう。」

ビランチ「だから、あなたの構築でその時間停止の干渉を防ぐってことね。」

ネニア「そうだ。目的の時間停止を内側と外側の両方から覆うことで干渉を防ぐ。それに加えて構築の効力もその時間停止で補ってもらう。」

ビランチ「成程。構築を時間停止で永続させるのね。」

ネニア「そうだ。」

モルテ「(・・・流石、元天界の双璧。チクエ前天使長に次ぐ実力者たちだ。凄く安心する・・・。)」

ネニア「じゃ、ビランチ。早速やるよ。」

ビランチ「ええ。モルテ。少しじっとしててね?」

モルテ「は、はい。」

ネニア「・・・・一層目出来たよ。」

ビランチ「ええ・・・・はい、二層目完了。」

ネニア「よし・・・・三層目完了。このまま慣らすよ。」

ビランチ「ええ・・・。」

ネニア「・・・・よし。出来た。」

ビランチ「ふう・・・やったわね。」

ネニア「お疲れ。モルテ。」

モルテ「それはこちらのセリフです。」

ビランチ「・・・どう?調子は。」

モルテ「・・・・・今のところ大丈夫そうです。」

ネニア「良かった。」

ビランチ「また何かあれば遠慮なく私たちに言ってね?」

モルテ「(・・・)はい。」

ヴィーゴ「もう大丈夫かい?」

モルテ「はい。ビランチとネニアのお陰で何とかなりました。」

ヴィーゴ「良かった・・・。」

モルテ「済みません。ご心配おかけして。」

ヴィーゴ「良いんだよ♪何事もなかったんだ。それで充分さ!」

ビランチ「じゃ、私たちは行くわね?」

モルテ「ええ。」

ネニア「またね。」

モルテ「はい。」

ヴィーゴ「じゃ、大丈夫そうだから僕も行くよ。」

モルテ「はい。気を付けて。」

ヴィーゴ「君こそね?」

モルテ「汗。」

モルタ「じゃ、俺も行く。」

モルテ「モルタ。あなたは待ってください。」

モルタ「・・・何でだ?」

モルテ「先程の頭痛のことで少し話が・・・。」

モルタ「未来がどうとか・・・ってやつか?」

モルテ「はい。」

モルタ「・・・それってつまり。」

モルテ「ええ。未来が視えたのです。」

モルタ「どういう事なんだ?未来が視えたってのは?」

モルテ「分かりません。ですが・・・ビランチとネニアにこの話をした時。何故かすぐに信じてくれました。」

モルタ「・・・要するにモルテには予知の神力が出たってことだよな?」

モルテ「結果から見ればそうですね。」

モルタ「・・・ビランチとネニアには何か確信があったのか?予知がモルテに出ると。」

モルテ「それも分かりません。ただ・・・。」

モルタ「ただ・・・何だ?」

モルテ「彼女たちは予知を封印することだけは予定していたように見えました。未来が視えたと言った時、即座に理解し、そしてすぐに封印の話をしていましたから。」

モルタ「・・・ってことは、天界の天使の中で予知を発現する者が現れることは予測してたってことか?」

モルテ「そうだと思います。まあ、それは私にとってとても助かることであったのですが、今度はまた新たな問題が出てきたんです。」

モルタ「・・・何だ?それは?」

モルテ「予知神力で見た未来の内容です。」

モルタ「何を見たんだ?」

モルテ「・・・・・・・・。」

モルタ「・・・そんなに言いずらいことなのか?」

モルテ「・・・はい。」

モルタ「そしたら、無理に話さなくていい。」

モルテ「いや、誰かに聞いてもらわないと持ちそうにありません。」

モルタ「・・・・そうか。」

モルテ「・・・・少し先の時間軸で、天界中の天使たちが、戦い合う未来が視えました。」

モルタ「それって・・・天使同士で争うってことか?」

モルテ「・・・恐らく。私が視たのは何らかの出来事が原因で袂を分かったビランチたちとその後、争う天界中の天使たちです。」

モルタ「・・・・。」

モルテ「それと・・・これは・・・言いたくはないのですが・・・。」

モルタ「・・・・何だ?」

モルテ「その戦いで・・・ソレは消されてしまう。」

モルタ「何⁉あのソレだぞ?」

モルテ「恐らく・・・それ程までに激しい争いになるのでしょう。」

モルタ「・・・。」

モルテ「・・・どうしたらいいのでしょうか?」

モルタ「・・・済まん。俺には分からん。」

モルテ「ですよね・・・。」

モルタ「・・・出来たなら、もう少し早くに封じてほしかったな。」

モルテ「そうですね・・・しかし、これから先はもう分かりません。」

モルタ「・・・分からないって・・・ある意味、救いだったんだな。」

モルテ「・・・ええ。・・・・・・はぁ。」


~~~~~


プロイビー「はぁ・・・。」

グラント「あらプロイビー。どうしたの?」

プロイビー「何でもないわよ。」

イプノ「何でもないなら、そのため息はつかないんじゃないのかい?」

グラント「そうよ。何かあるなら言ってみてよ!」

プロイビー「そしたらさ・・・聞くんだけど、私の神力ってどう思う?」

イプノ「・・・全知のことかい?」

プロイビー「そう。」

グラント「それ!良いわよね!」

プロイビー「え?」

グラント「あなたの全知!私それ使えたら良いな~~って昔からずっと思ってたのよ!」

プロイビー「・・・そうなの?」

グラント「うん!」

プロイビー「どうして?」

グラント「だって何か、かっこいいじゃない!」

イプノ「かっこいいって・・・。」

グラント「それに持ってるのが天界でもあなたくらいだから、何か特別感あるし!」

プロイビー「・・・そうかな?」

イプノ「僕もいいと思うよ♪使い方によっては色々出来そうだし。」

プロイビー「・・・そうか。そうね!ありがとう!グラント!イプノ!」

グラント「ん?何が?」

プロイビー「いや、やっぱ何でもない!」

グラント「そっか!」

イプノ「(・・・グラントの明るさがプロイビーの悩みを無自覚に消し去ったな。)」

グラント「イプノ!今日は天界の端に行くわよ!」

イプノ「え?何で?」

グラント「無の空間を見たいから!だからついてきなさい!」

イプノ「いきなり過ぎるだろ!」

グラント「しょうがないじゃん!今行きたくなったんだもん!」

イプノ「全く・・・。」

グラント「じゃ、プロイビー!行ってくるねー。」

プロイビー「行ってらっしゃーい笑。」

イプノ「(僕に選択肢はないのか・・・。)」


~~~~~


ドラーク「お帰り。」

ビランチ「ただいま。」

ネニア「・・・遂に、やったね。」

ビランチ「・・・そうね。」

ドラーク「?」

ネニア「そういえばビランチ。あんたが寝ている間にシェンスが頼みごとをしてきたんだ。」

ビランチ「頼みごと?何かしら?」

ドラーク「あなたに私たちと全く同じ姿をした無能な存在を作ってほしいんだって。」

ビランチ「何でまた?」

ネニア「下位の天使がむかつくからだって。」

ビランチ「それだけの理由で?」

ドラーク「・・・正確には、その天使たちに無能だって自覚させる為だって。本当に完璧なら不完全な天使と同じ姿の存在を目の当たりにしたとしても、完璧を保てるはずだって。」

ビランチ「・・・要するに皮肉?」

ドラーク「・・・まあ、そうね。」

ネニア「どうするんだ?」

ビランチ「・・・動機は不純だけど・・・知恵の促進としては一考に値するから・・・まあ、考えとくわ。」

ドラーク「了解笑。」

ネニア「・・・ビランチ。」

ビランチ「どうしたの?」

ネニア「やっぱり、私はここに居るべきじゃないと思うんだ。」

ビランチ「・・・どういうこと?」

ネニア「今まではチクエとの約束を果たす為に一緒にいたけど、これからは私が一緒にいるべきじゃない。天使長の座を自分都合で断った天使が、その天使長の近くにいるのはやっぱり適さないと思うんだ。だからこれからは、離れたところに居させてほしい。」

ビランチ「・・・私は気にしないけど・・・。」

ドラーク「でも、ネニアの言った通りこのまま近くにいれば下位の天使たちに示しがつかないのも事実よ。天界の長に対する不信につながる可能性も無くは無いわ。」

ビランチ「まあ・・・そうだけど。」

ネニア「・・・大丈夫。天界のことは私も真剣に考え続ける。チクエから託された天界だ。このまま無駄にはしたくない。」

ビランチ「・・・そうよね。」

ネニア「それに、今まで泣きべそかいて迷惑かけたし。」

ビランチ「だから、それは気にしてないってば。」

ネニア「・・・ありがとう。」

ビランチ「・・・分かったわ。あなたの好きにしなさい。」

ネニア「ありがとう。じゃ、天使長。くれぐれも無理しないで。」

ビランチ「分かったわ。」

ドラーク「・・・行っちゃったわね。」

ビランチ「ええ。でも、彼女にも彼女なりの覚悟があるんだと思うわ。」

ドラーク「それは私もそう思う。じゃなきゃ、いつも無口な彼女があなたの休んでる間に態々シェンスの相談に乗ったり、あそこまで話すことなんてないもん。」

ビランチ「彼女も色々考えてくれていたのね・・・。」

ドラーク「ところでビランチ。話は変わるんだけど・・・フォールとは会った?」

ビランチ「会ったけど・・・何かねぇ。」

ドラーク「何かって、何かあったの?」

ビランチ「いや、会った時何か言いたそうな顔してたんだけど、特に何も言わず行っちゃったのよ。一応遠慮なく言うように声はかけたんだけど・・・。」

ドラーク「・・・そうなんだ。なんかあいつって誰も信用してない感じよね。」

ビランチ「そうね・・・彼ってこの天界の中でもかなり警戒心が強いから、そう簡単に相手を信用しないっていうのは性格なんだと思うわ。」

ドラーク「その警戒心って、ビランチから見たらどれくらいの高さなの?」

ビランチ「オルゴよりは上かしらね。」

ドラーク「え?あいつより上なの⁉」

ビランチ「ええ。まず警戒心が高い天使だと大体、ブッピラ、ヴェッキ、ウナ、ネニア、オルゴあたりが挙がるわよね?」

ドラーク「ええ。」

ビランチ「その中でもし仮に段階分けするとしたらブッピラとウナは最下層ね。」

ドラーク「何で?」

ビランチ「警戒するのは最初だけだから。まあ、普通に警戒心が高い程度ね。次がネニアとオルゴ。」

ドラーク「そこは分かるわ。何か核心的なことが出るまで信じないからね。」

ビランチ「ええ。彼女やオルゴは暫く油断をしない。けど、ある程度相手のことが分かってくると警戒は解けてくるわ。」

ドラーク「まあ、でもそれもある意味普通よね。」

ビランチ「そうね。でもフォールは違うのよ。彼は相手のことがある程度分かってきても、絶対に油断しないの。」

ドラーク「・・・何で?」

ビランチ「さあねぇ・・・でも彼を見てると、非常事態に一番迅速に動けるのは彼のようなスタンスだなって思うわ。」

ドラーク「でも、そのスタンス疲れない?」

ビランチ「疲れるでしょうね。常に気を張ってるから。」

ドラーク「・・・確かに、ヴェッキもそんな感じよね。」

ビランチ「ええ。彼もフォールと同じで常に臨戦態勢。まるで裏切られることすら想定しているかのようなスタンスを取っているもの。」

ドラーク「だからオルゴより上なのね。」

ビランチ「ええ。裏切られた時の対応を想像するとブッピラとかネニアは裏切られた瞬間は多分一瞬狼狽えると思うの。」

ドラーク「でも、フォールやヴェッキにはそれが無いと。」

ビランチ「多分ね。」

ドラーク「けど、分かる気がする。そういう場面で彼らが躊躇するのがあんま想像出来ないもん。」

ビランチ「裏切られた瞬間にもうその状況に対応してるのが彼ら。私たちはまだ状況を飲み込むので精一杯。」

ドラーク「はあ・・・こう考えると、天使長って大変そうだなってつくづく思うわ。」

ビランチ「そう思うなら、色々手伝ってね?ドラーク。」

ドラーク「はいはい笑。」


~~~~~


フォール「(・・・チクエ。何で何も言わずに消えちまったんだ。・・・俺はこれからどうすればいい?こんなぬるい奴らばっかの天界でどう存在すればいいんだ・・・。)」

ヌーラ「おや、フォールではありませんか。」

フォール「・・・ヌーラ。」

ディストル「これはこれは、神力を持たない座天使様じゃねーか。」

ヌーラ「ディストル。そういった穿った言い方は良くありませんよ。」

アルジェント「けど、いっつも俺たちを見下してるよな。」

フォール「別に見下してるわけじゃない。事実、お前たちよりは強いから見下した形になってしまっているだけだ。」

リスパリオ「何?聞き捨てならんな。」

ヌーラ「こら、リスパリオも。」

リスパリオ「しかし・・・。」

フォール「ヌーラ。彼らは俺に神力がないということで、自身より階級が高い座天使より強いと思ってるみたいだ。ならここでうだうだ言い争っても意味はない。実際に経験して自分の甘さを痛感した方が早くないか?」

ヌーラ「ですが・・・。」

アルジェント「ヌーラよぉ。本人がああ言ってんだ。経験させてもらおうぜ。その甘さとやらを。」

ディストル「そうだぜ。あいつがどれ程のもんか知るいい機会だしな。」

ヌーラ「(・・・これはもう止まりませんね。)分かりました。ですが、度が過ぎれば私が止めに入ります。いいですね?」

フォール「心配しなくていい。消しはしない。」

ディストル「ったく、舐めてくれるぜ!」

そう言うとディストルはフォールに向かって突きをかました。

フォール「・・・!」

フォールは咄嗟に剣を合わせ、鍔迫り合い状態に持ち込んだ。

ディストル「アルジェント!」

アルジェント「おう!」

ディストルが声をかけると、アルジェントはフォールの背後から切りかかった。

フォール「はぁっ!」

ディストル「グッ!」

アルジェント「ウッ!」

フォールは咄嗟にもう一つの剣を出し、ディストルとアルジェントを剣で弾き飛ばした。

リスパリオ「はっ!」

リスパリオはフォールが二人を弾き飛ばした隙を狙って剣を振りかざした。

フォール「甘い。」

しかし、フォールは上に飛び上がり、リスパリオの攻撃を躱した後、そのまま頭を下にした状態でリスパリオに切りかかった。

リスパリオ「・・・クッ!」

リスパリオは咄嗟に切りかかった時の助走を利用し、そのまま強く踏み込むことでフォールの間合いから逃れ、攻撃を避けた。

フォール「(ほう・・・今のを避けるか・・・。)・・・!」

フォールが着地する瞬間を狙いディストルは盛大な突きをかました。

ディストル「はぁぁっ!」

しかし、着地した瞬間フォールは思い切り地面を蹴り、上へと高く飛び上がった。

フォール「(・・・こっちはこっちで躱したつもりが掠るか・・・中々の突きだな。)」

アルジェント「取ったぁ!」

フォール「!」

アルジェントは飛び上がったフォールに向かって物凄い速さでつっこんでいった。

ヌーラ「はい、そこまで!」

アルジェント「え⁉」

アルジェントがフォールに一太刀を浴びせようとした瞬間、ヌーラが間に入り、その起こりを止めた。

ヌーラ「私から見て度が過ぎたと判断しました。なので双方ここまでです。」

フォール「・・・。」

アルジェント「ヌーラ。何で止めたんだよ~。止めなかったら俺たちが勝ってたのに!」

ヌーラ「そうかもしれませんがフォールが更なる反撃をしていたかもしれません。それに勝ち負けを簡単に口にしてはいけません。何があっても平穏に過ごせればそれに越したことはないのです。」

ディストル「そりゃあ、何があっても黙って受け入れろってことか?」

ヌーラ「そういう事ではありません。」

フォール「・・・終わったなら俺は行くぞ。」

アルジェント「あ、逃げんのか!」

リスパリオ「(・・・難儀だな。)」


~~~~~


フォール「・・・はぁ。」

ヴェッキ「・・・フォール。」

フォール「・・・ヴェッキか。」

ヴェッキ「・・・。」

フォール「・・・。」

ヴェロ「何か用ですか?」

フォール「いや別に?」

トラン「なら睨むのは止めてもらいたいな。喧嘩を売られているように感じる。」

フォール「別に睨んではいないさ。元々こういう目つきなんだ。悪いな。」

トラン「・・・そうか。」

ラーマ「・・・トラン!」

トランは突如フォールに向けて、刀を振りかざした。

トラン「ほう、流石座天使。この奇襲に対応出来るんだな。」

フォール「当たり前だ。抑々目の前に立っている時点で奇襲になってないからな。」

トラン「言うじゃないか。」

フォール「そこにいるお前たちもかかってきたらどうだ。本当は戦いたくてうずうずしてるんじゃないのか?」

ヴェロ「別に戦いたいわけではありませんが、軽視されるのはいささか納得いきませんよね。」

ヴィツ「・・・ヴェロの言う通りだな。」

ラーマ「ヴィツまで!」

フォール「ラーマ。お前はどうだ?来ないのか?」

ラーマ「俺はやりませんよ。」

フォール「・・・甘いな。そんなんで、存在を脅かされた時動けるのか?」

ヴェッキ「(・・・。)」

ラーマ「・・・そんなの、その時が来てみなきゃ分からない。」

フォール「だろうな。」

そう言うとフォールはラーマに突如切りかかった。

ラーマ「!」

フォール「ほう、ちゃんと動けるじゃないか。」

ヴィツ「(よし!)」

ヴェロ「(隙ありです!)」

フォールがラーマに切りかかった瞬間にヴィツとヴェロは背後からフォールを襲った。

フォール「甘い。」

しかし、ヴィツとヴェロは簡単に蹴り飛ばされてしまった。

ヴィツ「グッ!」

ヴェロ「ウッ!」

フォール「ヴェッキ。お前はやらないのか?」

ヴェッキ「遠慮しておく。どこかの誰かさんと違って俺は迷ってないからな。」

フォール「!」

ラーマ「(・・・?)」

フォール「・・・まあ今度からは、俺に一撃入れられるように備えておくんだな。」

ヴィツ「あ、待て!」

ヴェロ「・・・はぁ、一体何だったんですかね。彼は。」

ヴェッキ「さあな。ま、色々あるんだろ。」

ヴェロ「けど、あの態度はあまり良くないですよね。」

トラン「ホントだぜ。上があの調子じゃ、下としてもあまり気分が良くない。」

ヴェッキ「・・・そうだな。」


~~~~~


フォール「・・・。」

ヌーラ「フォール。」

フォール「・・・ヌーラ。何の用だ?」

ヌーラ「いえ、少し様子が気になりまして。」

フォール「気にするな。心配されるほど落ちぶれちゃいない。」

ヌーラ「そういう事ではなくてですね・・・。」

フォール「何だ?もしかしてヌーラも俺と戦いたいのか?」

ヌーラ「・・・そうですね。もしかしたら立ち会いたいのかもしれないです。」

フォール「(・・・!)」

ヌーラ「なので、フォール。少し立ち会ってもらえませんか?」

フォール「良いだろう・・・。」

そう言うとフォールはヌーラに向けて剣を振りかざした。

ヌーラ「!」

フォール「どうした?立ち会うんだろう?」

ヌーラ「・・・ええ、そうですよ!」

そう言うとヌーラは鍔迫り合い状態から少し後ろに下がり、フォールの体勢を崩した後、飛び上がり、刀の峰で肩を叩いた。

フォール「!」

ヌーラ「フォールこそどうしました?もし今私が峰以外で肩を叩いていれば危なかったですよ?」

フォール「そうだな!」

ヌーラ「フォール。ただ立ち会うのも退屈でしょう。少し話をしませんか?」

フォール「何を話すんだ?」

ヌーラ「あなたの好きな話を。」

フォール「俺の好きな話?今俺は話したいことなどない!」

ヌーラ「そうでしょうか?私には今も先ほども決壊寸前に見えたのですが?」

フォール「何が言いたい!」

ヌーラ「何かあるなら吐き出してしまいなさい。でなければ、前天使長と同じような道を辿ることになりますよ!」

フォール「!」

ヌーラ「私は彼が何となく不調をきたしていたことを感じていました。そしてその理由が心にあることも。またフォール。君がとても用心深い天使であることも知っています。」

フォール「それが何だって言うんだ!」

ヌーラ「しかし、今のままでは君もいつか必ず心に不調をきたす。私は心を病み、存在が危ぶまれてきた天使たちを幾度となく見てきました。君にも同じように消えてほしくはないのです!」

フォール「・・・無理だ。俺は・・・変われねぇ。俺の性格はこれ以上変わらねぇ。抑々、今まで天界が何事もなく平穏に回っていたのは、代々天使長が不死を捨てて身を捧げてきたからだ。・・・俺たち下位の天使はそれに甘んじて平和を享受してきた!でも、本当にずっとそれでいいのか⁉・・・いや、良いわけがねえ!それにこんなやり方が何時までも続くわけがねえ!」

ヌーラ「・・・。」

フォール「このままじゃ、優秀な天使たちは次々と消えて行っちまう!だが、下位の天使たちはそんなこと気にも留めずことあるごとに完璧だと言いやがる!俺はその状況が腹立たしくてならねえ!その完璧はお前らのものじゃねえ!お前らの実力じゃねえ!あいつらが・・・チクエやビランチのように優秀な奴らが身を捧げて作り出してくれたものだ!それなのに!奴らは甘過ぎる!少しくらいは神力を誇れるくらい磨いても罰は当たらねえはずだ!ヌーラ!お前はどうなんだ⁉お前はこんな天界に未来はあると思うのか⁉」

ヌーラ「・・・。」

フォール「誰もいなくなってからじゃ、もう遅えんだぞ!」

ヌーラ「それは分かっています!」

フォール「だったら!」

ヌーラ「しかし・・・!」

ネニア「未来はあるよ。」

フォール「・・・ネニア!」

ネニア「フォール。この天界はこれからも続くよ。」

フォール「・・・どうしてそう言える?」

ネニア「私たちがいるからだ。ヌーラ。フォール。あんたたちには話しておこう。私とビランチがチクエに託された天界の話を。」

ヌーラ「(・・・?)」

フォール「天界の話だと?」

ネニア「ああ。チクエから見た天界の話。彼は私に・・・いや、私とビランチに天界を託して消えていった。」

フォール「・・・けど、次はビランチだろ?」

ネニア「それは、消えるのがってこと?」

フォール「そうだ。」

ネニア「天使長はもう消滅しない。」

フォール「何?どういうことだ⁉」

ネニア「二人とも。これから少し長い話をするから、腰を据えてくれないかな?」

ヌーラ「え、ええ・・・。」

ネニア「・・・よし。」

フォール「ネニア。もう天使長が変わらねえってのは一体どういうことだ?」

ネニア「そうせかさないでよ。今からちゃんと話すから。」

フォール「・・・分かった。」

ネニア「まず、二人とも。天使長は何で代々消えてしまうか分かる?」

ヌーラ「・・・何となく心に原因があるのは分かりますが正確には・・・。」

ネニア「そうか。天使長が何故代々消えてしまうか。その理由は予知神力にあるんだ。」

ヌーラ「予知神力ですか?」

ネニア「そうだ。」

フォール「・・・確か代々天使長しか有してない神力だよな。」

ネニア「うん。チクエはさ、自分が消える前に天使長が何故代替わりを行うのか。それを私とビランチに話してくれたんだ。予知神力によって心を病み、知恵が制御出来なくなって、そして不死と知恵のバランスを保てなくなり消滅するって。」

フォール「じゃあ今度はビランチが消えちまうだろう。」

ネニア「さっきも言ったけどもう天使は誰も消えない。」

フォール「何故だ?」

ネニア「今回ビランチは予知神力を譲渡されていない。」

ヌーラ「え・・・?」

ネニア「チクエは自分が消える前に予知神力による悲劇を繰り返さない為に、予知神力を消そうとしたんだ。」

フォール「・・・だが、その神力は確か天界で誰か一人は必ず持ってなきゃいけねーんじゃねーのか?」

ネニア「そうだよ。」

フォール「・・・消して良かったのか?」

ネニア「消えてない。」

フォール「は?」

ネニア「消そうとしたんだ。けど消えなかった。チクエは私とビランチにこの話をする前に予知神力の力を使って予知を消す未来を見たと言っていた。結果は自分がいない未来だって。それで、私とビランチに予知神力は恐らく自分が消えた後に出るだろうから、もし出たら封じて使えないようにしてほしいって頼まれたんだ。」

ヌーラ「・・・では、今現在予知神力はどこかで出ているかもしれないのですか?」

ネニア「モルテにでた。だから私とビランチでその力を封じた。」

ヌーラ「・・・そうですか。」

フォール「じゃあ、今予知は封じられて、これからはビランチ政権が永続するってことか?」

ネニア「そう。」

フォール「・・・都合が良くねえか?」

ヌーラ「何がです?」

フォール「色々だ。予知神力を譲渡しなくて良かったのも、神力を封じられたのも全部だ。・・・ネニア。何かまだ話してねぇことはないのか?」

ネニア「・・・まあ色々あるけど、隠してることはない。」

フォール「なら色々質問させろ。まず、何でチクエは消えねえとならなかった?」

ネニア「詳しくは分からない。けど、彼は予知神力は複数の天使で所持することは出来ないから封じるには自分が消えることで予知神力を新たに発現する過程を踏む必要があると言っていた。」

フォール「・・・次の質問だ。何故チクエはネニアとビランチ以外に神力が出ると分かった?」

ネニア「それは勘だって言ってた。」

フォール「は?」

ネニア「楽観的過ぎるよね。もし私かビランチに出てたら封じることもおジャンになってたっていうのに。」

フォール「あ、ああ。・・・まあ、結果は大丈夫だったから良かったが。・・・最後の質問だ。チクエは最後に何か言ってなかったか?」

ネニア「・・・ビランチとじゃなく、私と二人の時に何故私に天使長を頼んだのか聞いたら、天界をより良く出来ると思ってって言われた。あと僕一人じゃこんな愉快な天界には出来なかったって。多分チクエは私やビランチだけじゃなくてフォールやレナとか下位の天使たちもちゃんと同じ天使としてみてたんだと思う。」

フォール「・・・だろうな。そういう奴だ。あいつは。」

ネニア「・・・フォール。変わらなくていい。そのままでいいよ。」

フォール「・・・!」

ネニア「私だって変われない。私はどうしたって天使長には向かない。」

フォール「俺だって、用心深いと言われんのは変えられねえ。」

ネニア「だから、フォールはその用心深さでこの天界を守ってよ。私はチクエやビランチのように他の誰かと協調することは出来ないけど、誰よりも力がある。ビランチさえ対処出来ない事態に対処出来るようにいつも目を光らせる。ビランチが道を誤った時に止めることが出来る唯一の存在としてあり続ける。・・・それじゃ駄目かな?」

フォール「・・・良いんじゃねえか?」

ネニア「そっか。・・・なんか私が相談に乗ってもらったみたいになったね笑。」

フォール「そうだな笑。(・・・チクエ。お前がいなくなった後でも、希望はあるかもしれねえな。)」

ヌーラ「どうやら、私はお邪魔みたいですね。」

フォール「ヌーラ!」

ヌーラ「?」

フォール「いや・・・その・・・済まなかった。」

ヌーラ「良いんですよ。辛い時はお互い様です。・・・代わりに私が辛い状況に陥った時は頼みます。」

フォール「分かった。任せろ。」

ヌーラ「笑。頼りにしてますよ。では。」

フォール「ああ。」

ネニア「じゃあ、私も行くよ。」

フォール「そうか。・・・ありがとう。」

ネニア「いいんだよ。私は天使長になり損ねた存在だ。感謝なんていらない。」

フォール「・・・分かった。なら今度は行動で示すとするさ。」

ネニア「うん。何かあったら遠慮せず言ってね。」

フォール「ああ。」


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ビランチ「さて、そろそろ見に行こうかしらね。」

ドラーク「あれ、ビランチどっか行くの?」

ビランチ「ちょっと宝物庫を見ておくのよ。」

ドラーク「成程。行ってらっしゃい。」


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フルート「・・・これと、これと・・・お、これも良いな!」

ビランチ「フルート。」

フルート「えっ!ビランチ⁉な、何で此処に・・・?」

ビランチ「それは私が天使長だからよ。」

フルート「(・・・そうだった汗。もうチクエじゃないんだっけ汗。)」

ビランチ「チクエは時々見逃してたけど、私はそうはいかないからね?」

フルート「ちょ、ちょっと待ってくれよ~。珍しいから少し見てただけじゃんかよ~汗。」

ビランチ「じゃあ、今すぐ箱に戻しなさい。今回は罪に問わないけど、次からは罰を与えるからね?」

フルート「・・・分かったよ。じゃ、失礼——。」

ビランチ「待った。その手の中のものも置いていきなさい。」

フルート「・・・ばれてたか笑。」

ビランチ「逆に良くばれないと思ったわね。この距離で。」

フルート「ばれなきゃいいかな?って思ってさ笑。」

ビランチ「もう。とりあえずそれも戻して、ここはもう来ないように。」

フルート「へいへい。」

ビランチ「(・・・ふう。)」

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