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同等条件世界{二章、五神の未来}



「・・・ッ!」

「・・・風太。」

「・・・漿郗。それに無水も・・・ってかさ、ここ何処?」

「森。」

「そんなのみりゃ分かるよ。」

「じゃあ何で聞いたのよ。」

「それは分かんねぇのかよ笑。」

「冗談よ笑。」

「笑。」

「・・・で、改めて聞くが、ここは何処だ?」

「・・・分かんない。風太は?」

「さっきも言ったけど分かんねえよ。」

「私や無水ならいざ知らず、世界中飛んでる風太が分かんないって、ちょっとやばくない?」

「確かにな。というか、俺たちに何があったんだ?」

「それも分かんねぇ。急に軽くめまいがして目の前が真っ白になったと思ったら、この有様だ。」

「私も同じ。」

「そうか。・・・風太。ちょっと飛んで周りの景色を見てくれないか?」

「分かった。」

無水に言われ、俺は空に飛びあがり、周囲を見渡した。

「(・・・飛べば町かなんか見えるかと思ったけど、マジで森しかねぇな。)」

「・・・どうだった?」

「漿郗の言った通り、マジで森しかねぇ。」

「じゃあ、どうすんのよ・・・。」

「・・・とりあえず歩こうぜ?さっき川みたいなのが遠くに見えたから、そっちに行こう。」

「何?もしかして飲み水確保の為に歩くの?」

「それもあるけど、単に場所移動だよ。何時までもここに居たってしょうがねぇだろ?」

「もう・・・何時代よ。」

「令和だ。」

「んなことは分かってんのよ!」

「だが、風太の言うようにここに何時までもいてもしょうがない。移動しないと森は出られない。」

「・・・はぁ、何が悲しくて森の中を移動しなくちゃならないのよ。あ、そうだ!風太、あんたの風送りでちゃちゃっと飛べば解決じゃない⁉」

「それはそうなんだけどさ・・・出来れば、見立てが欲しいんだよね。」

「どういうこと?」

「さっき上がった時、端から端まで森だったからさ、せめて遠くの方に町とか森の終わりとか、そういった飛ぶ見立てが無いとちょっと飛びたくない。」

「そんなの飛んでればすぐ見つかるでしょ。」

「いや、体力温存しておきたいじゃん?もしもの時の為に。」

「もしもって、何よ。」

「ほら、めちゃくちゃ大きな谷とか。その先に町があったらどうするんだよ。」

「成程。風太なら飛べるけど俺たちは飛べないからな。」

「そう。ま、お前たちを置き去りにしていいならここから飛んでもいいけど。」

「それは勘弁!こんな森のど真ん中でどうしろってのよ⁉」

「だろ?今ここで俺の力は唯一と言ってもいい緊急移動手段なんだよ。電車も車もないここではな。」

「・・・分かったわよ。歩くわよ。」

「そうそう。別に歩くのはお前だけじゃないんだ。こっちだって飛べるなら飛びたい。」

「唯一の救いは今日が始業式とか終業式じゃないってことだな。」

「だな笑。あの教科書の山は今の俺たちには重すぎる笑。」

ということで俺たちは山の中を歩くこととなったのだ。


~~~~~


「ねぇ・・・やっぱおかしくない?」

「まだ言ってるのか?」

「ん?なんの話だ?」

「電波の話だ。」

「なんだ、それなら山の中ってことで落ち着いたろ。」

「でも、届くとこは届くじゃん。」

「ここは届かないんだろ?」

「最悪・・・。」

「完全にスマホ中毒だな笑。」

「そ、そんなことないわよ汗。」

「まぁでも珍しいよな。ここまで完全にスマホが使えない森なんて。」

「・・・確かに。漿郗程じゃないが、ここまで電波が届かないとなるとちょっと不安になってくるな。」

「マジでなんも出来ないじゃん・・・。」

「ほんと、ここ来てからずっとブルーだな笑。」

「だってさ・・・ってか、ここって外国?国内?」

「・・・多分国内。」

「分かるのか?」

「木の種類がそれだから。外国だともっとカラカラな感じの木が多い。」

「へぇ・・・。」

「国内はこうした適度に水分のありそうな木が多い。」

「植物博士みたいだね。」

「確かに笑。でもだからこそ不思議なんだよな・・・。」

「何が?」

「国内でこんな場所あったかな?って。あるなら父さんとか須羽さんから聞くはずなんだけど・・・。」

「確かに、こんな特異な場所何かあったら危険だもんな。」

「だろ?電波がまったく届かない場所なんて今の時代稀有だぜ。」

そんな感じで話をしながら山の中を歩いていると、草むらから突然人が現れた。

「・・・こ、こんにちは汗。」

「・・・どこの者だ?」

「へ?」

「家は何処だ?」

「家はって・・・何家か?ってことですか?」

「そうだ。」

「(何でそんなこと・・・?)城堂家・・・です。」

「そうか。・・・ここでは何をしていたんだ?」

「え、それは・・・。」

「建侯家探しだろう?」

「え?」

「直系の堅地が殺されたからな。」

「(けんじ・・・?なんの話だ?)」

「けどそれはこちらよりはましだろう。」

「炎焼と焔は油断が過ぎた。よりによって優勢であるはずの風に後れを取るとは・・・。」

「ねぇ・・・この人たち何の話をしてんの?」

「さぁ・・・。」

「悪いが建侯家は見ていない。」

「そっちはどうだ?」

「何が・・・ですか?」

「須羽家だよ。見ていないか?」

「み、見てないです・・・。」

「そうか。じゃあな。」

そう言うと、草むらから出てきた人は何処かへ行った。


~~~~~


「何だったんだろうね・・・さっきの人たち。」

「時代劇みたいな恰好して、けんじが殺されたとかなんとか言ってたな。」

「・・・。」

「無水?」

「・・・なぁ。変なこと言っていいか?」

「何?」

「ここって、本当に現代なのか?」

「・・・どういうこと?」

「俺たちが今いるのって、過去か何かなんじゃないのか?」

「な・・・なにバカなこと言ってるのよ汗。」

「お前たちも見ただろ?さっきの着物を着た人たち。」

「何だよ汗。着物を着てるから過去だってことか?」

「それだけじゃない。俺たちはさっき人に会ったんだぞ?なのにスマホが未だに繋がらないなんておかしいだろ。」

「・・・確かに、人と会えるところまできて、電波が未だに繋がらないのはおかしいけどさ・・・。」

「それにこの場所自体そうだ。お前ですら知らない場所が国内にあるのか?」

「こんなに広い場所は・・・知らねぇな。」

「でも、もし仮に過去なら私たちはどうすればいいの⁉」

「・・・。」

俺たちが言葉を失っていると、先ほど会った人たちと別れた方角から物凄い爆発音がした。

ドン!ドン!ドン!

「火柱!」

「灯華!何故同族に力を向ける⁉」

「それはあなたたちが、建侯家に攻撃を仕向けたからでしょ⁉」

「それの何がいけないんだ⁉」

「言ったはずよ!争いはあの日より収めよと!これは五神家頭目たちの決定!背けばただじゃすまないと!」

「そんなもので下の者が納得すると本気で思っているのか⁉」

「そもそも、直系でありながら建侯家となれ合っている時点で我ら毘之家に未来はない!」

「そんなことは・・・。」

「・・・誰?」

「・・・その者たちは城堂家だ。これが何を意味するかお前たちなら分かるだろ。霜太。」

「・・・。」

「(くっ・・・何て間の悪い!)」

「さぁ、君たち。頭目の敵だ。どうする?」

「(万事休すか・・・!)」

「あ、あの・・・さっきから何の話をしてるんですか?」

「⁉」

「何を言っている?君たちは派系の城堂家だろ?」

「いや、城堂家は俺だけです汗。」

「なら後ろの二人は何処の家だ?」

「俺は檜河家です。」

「私は毘之家です。」

「・・・どういうことだ。何故別々の家系が一つ所に居る。」

「何故って言われても・・・。」

「(・・・よし。彼らのお陰で、流れが少し変わり始めたわ。)で、貴方達。この先はどうするの?」

「・・・。」

「退くの?退かないの?」

「・・・ったく。お前は親のように油断するなよ。」

「あんな、子供を嬲るような奴らと一緒にしないで。」

「・・・ならいい。」

「・・・ふぅ。何とかなりましたね。」

「ごめんね。灯華ちゃん。迷惑かけて汗。」

「こちらこそすみません汗。うちの者が危ない真似をして。」

「しょうがないわよ。お互い因縁は深いもの。一朝一夕でどうこうなるものじゃないわ。」

「そうだよ。こればっかりは地道に行くしかない。それに彼らの怒りはもっともだから。」

「・・・そうですね。」

「・・・そ、それより、彼らは誰なんでしょう?」

「あ、その・・・。」

「さっきはありがと♪助かったわ。」

「い、いや・・・俺たちは何もしてないっすよ汗。」

「それでも、助かった。」

「い、いえ・・・。」

「じゃ、気を付けてね。」

「はい。」

「行くぞ。迅雨。」

「(・・・迅雨?)」

「うん。」

そう言うと、四人の男女はその場を去った。


~~~~~


「・・・凄かったね。」

「・・・ああ。」

「・・・過去・・・だね。」

「・・・ああ。」

「さっきの私たちと同じくらいの女の人、灯華ちゃんって呼ばれてたよね。」

「・・・そうだな。」

「多分・・・っていうか、ほぼ確実なんだけどさ。あの人継承書に載ってる毘之灯華だよ。」

「それを言ったら、さっき迅雨って呼ばれてた千くんと変わらないくらいの女の子。母さんの子孫の建侯迅雨だよ。」

「あんな小っちゃい子だったんだね・・・。」

「・・・そうだな。」

「・・・。」

「はあああああぁぁぁ!」

「おいおいおいおい!何だこれは!俺たち夢でも見てんのか⁉」

「本当よ!なにこれ現実⁉」

「二人とも、落ち着け。」

「こんなの落ち着けって方が無理な話でしょ!」

「そうだぜ!過去にタイムスリップしてるなんて小説か漫画でしか聞いたことないぜ!」

「そうだな。」

「無水は何でそんな落ち着いていられるわけ⁉」

「俺の感情の峠はさっき着物の人たちを見た時に過ぎた。」

「かーーっ!そうかよ!」

「というか、驚いてる場合じゃないんじゃないか?」

「なんで?」

「さっきの人たちが俺たちの先祖でここが過去なら、一晩の宿を頼むチャンスだったんじゃないのか?」

「あ!」

「確かに!」

「あの人たち、どっちに行った⁉」

「多分・・・こっち!」

「じゃあ、追いかけようぜ!」

「うん!」

こうして俺たちは自分たちのご先祖様を追いかけることにした。


~~~~~


「ねぇ、方角本当にこっちで合ってんの?」

「・・・正直言うと結構前から合ってるか分かんねぇ。」

「何それ⁉」

「だって、見渡す限り木しかないんだぜ?それに方位磁針もないんだぜ?分かるかよ。」

「スマホのアプリがあるじゃん。」

「もう夜だぜ?流石の俺も充電残ってねぇよ。」

「・・・マジ?」

「マジ。」

「・・・今日はここで野宿しよう。流石にこれ以上歩くのは危険だ。」

「確かに、目標の川までは来たし、今日は休んだ方が良いかもな。」

「・・・焚火とかした方が良いのかな?」

「・・・いや、止めた方が良いだろ。」

「何で?」

「何故かは知らないけど、俺たちの先祖は凄く仲が悪いからな。焚火なんてしたら居場所を下手に教えるようなものだ。」

「・・・そうだね。何故かは分かんないけど敵意むき出しだからあまり目立たない方が良いかも。」

「・・・もう休もうぜ?」

「・・・そうだな。」

こうして、俺たちは木の陰に隠れながら一夜を明かすことにした。


~~~~~


「(・・・なんか、あんま寝れなかったな。)」

幸い、俺たちは盗賊などに襲われることなく朝を迎えた。

「じゃあ、行くか・・・。」

俺たちは自分たちの先祖に会う為、森を抜ける為に再び歩き始めた。

「ねぇ、これからどうすればいいのかな?」

「・・・まずは、森を抜けないとだろ。」

「・・・そうだよね。」

そうして暫く森の中を歩き続けていると、再び毘之家?の人たちと出会った。

「あ・・・ども。」

「・・・お前たち。」

「な、なんでしょう・・・?」

「一人一人、家が別々なんだよな?」

「(何だ・・・?この雰囲気・・・)そうですけど、それが何ですか?」

「・・・お前は、本当に城堂家か?」

「・・・何が言いたいの?」

「そこの小娘。申し訳ないが俺たちは見たことない。」

「お前たちはどうだ⁉」

毘之家らしき人たちが問いかけると、俺たちを囲むように他の家らしき人たちが現れた。

「私もそこの小僧は見たことが無い。・・・其の方は?」

「・・・我らも同じく。」

「だそうだ。つまりお前たちは我らの名を語っている愚物ということになる。」

「(・・・マジかよ。)」

「何故かは・・・分からぬがな。」

「俺たちは、長い時を経て多くの遺恨を残しつつも、互いの争いを収めた。」

「その通り。しかしそれを崩す輩への牙はまだ失っておらぬ。」

「何者かは知らぬが、我らの名を語った程度で共倒れをするほど弱ってはいない。」

「大方、西の一族の生き残りだろう。」

「(なんか勝手に話が進んでるな・・・。)」

「我らの地で我らを欺こうなど1000年早い。」

そう言うと、三つの家の人たちは俺たちに向けて一斉に力を使って来た。

「・・・!」

「霹靂御結界!」

無水がそう言うと、手の平に微弱な雷が発生し、俺たちに向けられた力が全て無効化された。

「何⁉」

「無水、今のは・・・。」

「響さんから教わった技の一つだ。」

「・・・成程汗。」

「・・・風太。」

「分かってる。・・・やろう。」

「自分達のご先祖様だからって、ここまでされちゃ、流石に黙ってられないもんね!」

俺たちの覚悟がある程度決まっていたころ、毘之家、城堂家、檜河家の人たちは混乱していた。

「あやつ・・・檜河ではないのか⁉」

「お前たち・・・何者だ⁉」

「だ、か、ら!さっきから言ってんでしょ!私は毘之家長子の毘之漿郗よ!煉火!」

漿郗がそう言うと、有名な某魔法小説の闇の魔法使いも真っ青な(青くはないが)炎が俺たちの周りを駆け巡った。

「・・・クッ!」

しかし、幸か不幸か三家の人たちは全員避けた。

「続けて・・・隕石!」

「何⁉こいつ・・・複数持ちか⁉」

「・・・糸水。」

檜河家の女性がそう言うと、川から途轍もなく細い水の糸が現れ、漿郗の落とした隕石を某先輩のように細切れにしてしまった。

「子供とはいえ、中々見どころはあるようだ。」

「うっそぉ・・・。」

「・・・風太。」

「・・・もう少しだ。」

「お前たち・・・まさか、混血か?」

「(・・・もしかして、血を穢すな的なことを言うのか?)そうだって言ったら・・・どうします?」

「不可思議・・・。」

「・・・何故?」

「我らはそこまで親しくない。仲は最悪。けれど親しい。しかし、血を交えるほどは親しくない。」

「(・・・多分、五神家がそうなるのはこの時代より後なんだろうな。)・・・そうなんですね。無水。いけるぞ。」

「分かった。百池。」

俺の合図とともに無水の百池で、およそ百個の小さな池を出現させ、三家をその場に足止めしようとした。しかし——。

「混化。」

城堂家の男性の技によって、無水の百池は土と混ぜられ無効化されてしまった。

「チッ!仕方ねぇ・・・霹靂御雷矢!」

「糸水。」

「針水。」

「壁土。」

「火巻。」

そして、俺の放った霹靂御雷矢も、いとも簡単に全ていなされてしまった。

「フッ・・・確かに別々の家のようだな。」

「ああ。連携がなってない笑。」

「(嘘だろ・・・滅茶苦茶強ぇ・・・。)」

「さて、そろそろ無駄な抵抗は止めてもらおうか。礫石。」

「・・・祓い風!」

「ほう・・・風も操るのか。」

「しかし、それ程技を持っていながら我らに劣るのか。流水。」

「龍水!」

「糸水。」

「凪!」

「・・・。」

「そろそろ体力も底をつく頃であろう。」

相手の言う通り、俺たちの体力は底をつき始めていた。

「さて、ここで終焉といこう。」

「(クソッ・・・ここまでなのかよ!)」

俺たちの気持ちが折れかけた時、森の影から途轍もない速さで移動する何かが俺たちの前に現れた。

「・・・クッ!」

「・・・いい読みだ。」

「ありがとう御座います!」

「お前は・・・!」

「何だ?俺を知ってるのか。」

「二つの剣を持ち空を蹴る剣士など、一人しかいない。」

「エッセレ・イモータ。」

「(え、エッセレ・イモータって確か、ソロモン王国の・・・。)」

「(この人、歴史の教科書に出てくるおっさんじゃん⁉)」

「正確にはスパタだがな。しかし、東の五神家に知って頂けているとは光栄の極みだな。」

「謙遜が過ぎる。あなたの名声は遠いこちらでもよく聞こえてくる。」

「ソロモン王国不死身の兵士団長・・・。」

「それに、隠れているようだが目に見えぬ力を使う魔女。」

「ヒルデガルド・ヨルディエ。」

「ヨルディエ!やっぱこの力は天使にかかわりのある奴しか見えねぇみたいだな。」

「だから言っただろう。そういう力なのだと。それはそうと私の名まで知っておいでとは恐縮ですな。五神の三家方。」

「何を言う。先の大戦ではよく顔を合わせていただろう?」

「そういえばそうでしたな。これは失礼。まさか、かの大戦で我らを梃子摺らせた者たちとは思えぬ所業でしたので。」

「それはこの者たちのことを言っているのか?」

「左様でございます。」

「これは我らの問題。部外者は口出し無用。」

「なんか、すごいことになって来たね。」

「だな。」

「風の噂では、五神家は争いを収めたと聞き及んでいますが・・・それは偽りなのですか?」

「この者たちが、それを崩した。」

「偽りではない。」

「・・・実は先程から見ていたのですが、言いがかりをつけていたのはあなた方のように見えましたが?」

「・・・何が言いたい。」

「不躾ではありますが、私はあなた方の直系家族と繋がりのある者から色々と聞き及ぶ事かあります。」

「・・・我らを脅しているのか?」

「とんでもない!しかし、派系家族にとって直系家族の命は絶対のはず。それを破るのは如何なものかと・・・。」

「その命を破った我々と事を構える・・・と?」

「そんなそんな!今はもう戦乱の世とは違い、泰平の時代。なんでも力で解決する時代ではありませんから!」

「よく言う。」

「では、その数の従者はどう説明する?」

「この者たちのことを言っているのですか?」

「そうだ。」

「この者たちは従者ではありません。」

「?」

「国の民で御座います。」

「この地には何用だ?」

「修練で御座います。」

「?」

「自衛の力を身に着ける為の修練。世が泰平を謡っても、現実はそうではありませんから。それは五神家の皆さまがよくご存じのはず。」

「・・・。」

「この地での修練も納め時かと思っていましたが、また次も来る必要がありそうですな。」

「・・・退くぞ。」

「ああ。」

そう言うと、三家の人たちは去っていった。

「・・・ふぅ。手間のかかる。」

「それはお前だ。ヨルディエ。態々遠征する俺たちの身にもなれ。」

「それは仕方なかろう。この地ほど適切な修練場所はないのだ。」

「木々で見晴らしが悪く、敵は何処にいるか分からない。落ち葉で足音は丸聞こえ。武器も満足に振り回せない・・・だったか?」

「ああ!こうした悪条件でないと修練にはならん!」

「・・・クルデーレの教えか?」

「勿論だ!」

「・・・で、お前は何でこいつらを助けたんだ?」

「直感で助けた方が良い気がしてな!」

「ったく・・・おい坊主。」

「は、はい!」

「大丈夫か?」

「は、はい・・・。」

「そうか。・・・ヨルディエもういいだろ。」

「・・・そうだな。」

「あ、あの!」

「何だ?」

「さっき、直系家族と繋がりがあるような口ぶりでしたけど、その人たちって何処にいるか知りませんか⁉」

「繋がっている者と知り会いというだけだが・・・確か、水の直系の家は分かる。」

「本当ですか⁉」

「ああ。確かこの方角をまっすぐ進めばつく。」

「ありがとう御座います!」

こうして、俺たちは直系の檜河家宅を目指すこととなった。


~~~~~


「にしても、さっきは助かったな。」

「だな。」

「あそこで割って入ってくれなきゃ私たち今頃冗談抜きで殺されてた・・・。」

「本当だな。」

「あの人たち、滅茶苦茶強かったな。」

「うん。私たち殆ど何も出来なかった。」

「響さんや留湖さんから技を教わったから、多少は戦えると思ったんだがな・・・。」

「えげつなかったよな。自分で言うのも何だけど。」

「何あれ?水で私の岩を切るなんてアリなの?」

「俺たちの時代でこそ、水で固いものが切れることは証明されているけど、それをこの時代でやってのける人がいるなんて・・・そりゃ強いはずだわ。」

「この時代ってさっきみたいなレベルの人たちがいっぱいいるんだろうね。」

「だろうな。」

「歴史上の人物に助けられるなんて、三葉に聞かせたら卒倒しそう。」

「イモータだろ?」

「うん。」

「あの人さ、天使とか言ってたよな。」

「言ってた。多分新野さんの力のご先祖様なんだろうね。」

「で、ヨルディエって人。あの人も新野のご先祖様でしょ。」

「でもヨルディエって人の名前は聞いたことないぞ?」

「なんでだろうね?」

「さあな。」

こうして話をしながら歩いていると、無水の直系である檜河家先祖の家へと着いた。

「・・・ここって、水分神社に似てない?」

「似てるというか、まんま本殿だな。」

「成程・・・昇旋さんたちが驚くはずだ。」

こうして話していると、千くんよりも小さな男の子が家から出てきた。

「・・・誰?」


~~~~~


「・・・誰?」

「あ、えっと・・・。」

「お、俺たち家が無くてさ汗。悪いんだけど、この家に檜河家のご当主様は居る?」

「・・・少々お待ち下さい。」

「・・・めっちゃ睨まれた。」

「あの子が無水の先祖の水正さんかな?」

「じゃないのか?」

「君たちか?私に用があるのは。」

「は、はい汗。」

「何用かな?」

「・・・いきなり来て、こんなことを言うのはおこがましいとは思うのですが・・・俺たちを暫く家においては貰えないでしょうか?」

「(・・・)家が無いそうだね?」

「はい。」

「・・・まずは、経緯を聞こうか。」

「ありがとう御座います。」

そう言うと、俺たちは家の中に案内された。


~~~~~


「親父、誰だ?この子たち。」

「それを、今から問う。」

家の中に入ると、先程の少年とピストアさんと同じくらいの男性。そして当主であろう男性とその妻らしき人がいた。

「(あれ?どういうこと?)」

「さて、まず何故君たちは私の所に来たのかな?」

「それは、さっきも言いましたが——。」

「私が聞いているのは、何故君たちはこの私に指定してここに来たのか?ということだ。」

「(成程・・・そう取られるのも無理はない。)・・・それは、俺たちが知っている五神家で所在が分かり、尚且つ助けてくれそうな家があなた方だけだったからです。」

「どういうこと?」

「私たちは直系の人たちが争いを収めたことを知って、それなら私たちを助けてくれるんじゃないかって思ってここまで来たんです!」

「・・・名前は?」

「城堂風太です。」

「檜河無水です。」

「毘之漿郗です。」

「(みんな家が違うのか・・・それに)君たちも五神家だったのか。」

「・・・はい。」

「見たところ仲が良いみたいだが、君たちはどういった関係なのかな?」

「幼馴染です。生まれた時から家同士で繋がりがあります。」

「(嘘を言っているようにはとても見えないが・・・)いまいち、信じられないな。」

「本当なんです!」

「あ、いや、君たちの繋がりのことを言っているんじゃないんだ。」

「?」

「冷霧はあれだけ険悪だった五神家がこうも仲良くしている姿が信じられないって言ってるんだよ笑。」

「・・・流石、蒸雨。その通りだ。ところで、君たちは其々五神の名を名乗っているが、それが本当なら力を見せてほしい。」

「分かりました。」

ということで、俺たちは外に出て冷霧さんたちに力を見せることとなった。

「じゃあ、まずは私から。」

「・・・うん。確かに毘之家の火ね。」

「あとは・・・。」

「・・・それは。」

「あ、私、父が城堂家で母が毘之家なんです!」

「成程、混血か・・・(にしても。)」

「確かに・・・不思議。」

「次は俺ですね。」

「・・・うん。私たち檜河家の水ね。」

「ありがとう御座います。あとは・・・。」

「え・・・雷?」

「俺は父が檜河家で母が建侯家なんです。」

「・・・このような者がいれば、噂位聞きそうなものだが・・・。」

「(やっぱ、ドンドン疑念が高まってるな・・・でも見せるしかない。)次は俺が行きます。」

「・・・うん。まずは城堂家の土ね。」

「あとは・・・。」

「建侯家か。」

「最後に・・・。」

「え⁉これって・・・。」

「颯君の風じゃないか⁉」

「どういうこと⁉」

「俺は城堂家の父と建侯家の母を持っています。風は何故か分かりませんがこのように使えます。」

「・・・凄いな。」

「因みに私も火と土以外に溶岩って言って火と土が混ざったものが使えます。」

「俺も水と雷以外に氷が使えます。」

「あ、氷は私も使えるよ♪」

「あ、そ、そうだったんですね汗。」

「(さっすが、先祖・・・笑。)」

「とりあえず、君たちが五神家だということは今ので良く分かった。続きの話は家に戻ってしようか。」

「はい。」

そう言われ、俺たちは家の中へと戻った。


~~~~~


「さて、もう少し君たちについて聞きたいことが出来た。先程君たちは家同士で繋がりがあると言ったね?」

「はい。」

「出来ればそれをもう少し詳しく聞きたい。」

「・・・分かりました。まず、先程も言いましたが俺の父は城堂家です。」

「そして、私の父も城堂家です。」

「この二人の父は兄弟です。」

「兄弟⁉」

「それに、俺の母と風太の母は姉妹です。」

「そこも・・・繋がっているのね。」

「はい。」

「こちらもいくつか聞きたいことがあるんですが、よろしいですか?」

「・・・何だい?」

「あなた方の・・・名前を聞いても?」

「あっ笑、そうだったね。風太くんたちだけ名乗らせてこちらが名乗らないというのは失礼だね。自己紹介が遅れた。私は檜河冷霧だ。」

「私は檜河蒸雨。よろしくね♪」

「俺は檜河水正だよろしく。」

「(この人が・・・。)」

「ほら、颯君。」

「ぼ、僕は須羽颯です。よろしくお願いします汗。」

「よろしくね!」

「・・・ということだ。」

「・・・あの、その子は須羽家・・・ですよね?」

「そうだが・・・それが?」

「あ、いや、少し深入りし過ぎました汗。」

「・・・悪いね。気を遣わせて。」

「いえ。」

こうして俺たちは無事に檜河家で一晩泊まることになった。


~~~~~


「三人ともおはよう。」

「おはようございます。」

俺たちは久々にゆっくりと眠ることが出来た。

「起きて早々悪いんだが、君たちは何か予定とかはあるのかな?」

「あ、えっと・・・。」

「(出来ればすぐにでも現代に帰りたいけど、その方法が分からないから実質今はどうしようもないし・・・)特には・・・無いよな?」

「そ、そうだね・・・。」

「そっか。なら暫くはうちで過ごしてもらうことになるわけだ。」

「そうですね汗。」

「(なら・・・)蒸雨。やっぱり霜太の所に行った方が良い。」

「そうね。」

「?」

「漿郗ちゃん。ここは男所帯だから寛ぎたくても寛げないでしょ?だから、もしあなたさえ良かったら私の知り合いの家の所にどうかな?」

「(・・・いつ帰れるか分からない。だったら情報は二手に分かれた方が効率は良いかも。)私は良いですけど・・・どう?」

「良いと思う。」

「やった!じゃ、お願いします!」

「じゃあ決まりね!」

「ところで、その知り合いの家って何処なんですか?」

「直系の建侯家よ。」

「(あの可愛い子に会えるんだ!)そうなんですね!」

ということで、漿郗と俺たちは暫く別行動を取ることになった。


~~~~~


「じゃ、行ってくるわね。」

「ああ。」

「蒸雨。気をつけろよ。」

「分かってるわ。念の為、水の多いルートを使うから。」

「分かった。」

こうして漿郗は檜河家を出発した。

「にしても、漿郗ちゃんって不思議よね。」

「何がですか?」

「ご両親のこととか、力のこと全部。」

「・・・私たちはこの場所とは別の所で過ごしてきたのであまり実感が無いんですけど・・・そうなんですね。」

「ええ。漿郗ちゃんのところの五神家は随分と平和的な暮らしをしていたようだけど、うちの方はそうじゃなくてね。つい最近まで仲が悪かったの。」

「そのあたりって、詳しく聞いてもいいですか?」

「良いわよ。」

「ここの五神家ってどんな感じなんですか?」

「まず、うちの所はさっき会った私の旦那が檜河家直系の筆頭よ。」

「(筆頭・・・本家ってことかな?)そうなんですね。」

「あなたのとこは誰が筆頭なの?」

「わたしのとこだと、さっき居た無水のお父さんが筆頭ですね。」

「(ってことは彼は遠縁の筆頭の息子ってことか・・・)へぇ、そうなの。因みに他の筆頭は?」

「火の筆頭は私の母です。」

「(彼女も筆頭のご令嬢なのね・・・)へぇ、お母さん凄い人なのね。」

「そんなことないです汗。」

「笑。・・・うちのとこの火は・・・今は灯華ちゃんね。」

「・・・その人って、私と同じくらいの年の女の人ですか?」

「・・・あったことあるの?」

「・・・蒸雨さんの所に来る前に恐らく。」

「そう。なら話が早いわね。」

そうして話をしていると、風太のお母さんの所有している霹靂神社とうり二つの建物の所に着いた。

「天露!霜太!いるー?」

ガラッ!

「誰かと思えば・・・蒸雨じゃない!何しに来たの?」

「その理由は・・・この子よ。」

「あれ、君・・・。」

「あ、森にいた人です!」

「あなた、あの時の!」

「ど、どうも・・・汗。」

「知ってたんだ。」

「ええ。ちょっと前に彼女と他二人の男の子たちに救われてね。」

「なら、早速うちに上げてもらえる?」

「分かったわ。」

ということで、私は建侯家にお邪魔することとなった。


~~~~~


建侯家に上がり、私は蒸雨さんたちに会うまでの成り行きを話した。

「へぇ・・・そんなことが。」

「ええ。だから私たちはこの漿郗ちゃんをうちに置くことは構わないわ。」

「よかった。」

「にしても・・・あなたって私と同じ毘之家だったのね。」

「は、はい。そうなんです汗。」

「でも、漿郗さんたちって何でこの土地に来たんですか?」

「確かに。あなたのとこってうちと違って平和だったんでしょ?」

「え?漿郗ちゃんってここ周辺の土地の子じゃないの?」

「ええ。しかも混血。」

「なになに?どういうこと?」

私は自分たちの両親の話とこの土地の五神家ではないことを話した。

「え、あなたの両親って家が違うの?」

「はい。」

「ね?驚きでしょ?」

「聞けば聞くほど不思議だな・・・。」

「ホントね・・・。」

「(やっぱ、不審がられてる・・・汗。)」

「・・・でも、なんかいいですよね。」

「?」

「なんか、漿郗の話を聞いてると理想の未来を見てるみたいで凄く心が温まるわ。」

「・・・確かに、争わない五神家なんて私たちから見たら想像できないけど、嫌な気分にはならないわね。」

「・・・だな。」

「(そっか・・・この人たちは何も争いたくて争ってたわけじゃないんだ・・・うん。そうだよね。考えれば当たり前だよね。)」

「じゃ、私は帰るわね。」

「ええ。」

「あ、ありがとう御座います!」

「良いのよ。ま、何かあればまた来るから。」

「分かったわ。」

そう言うと、蒸雨さんは帰っていった。

「・・・あの。」

「ん?どうしたの?」

「この土地って勢力図・・・っていうか情勢?みたいなのってどうなってるんですか?」

「あぁ、遠くから来たからここの情勢は詳しくないのか。」

「はい!なのでそのあたりを教えてもらえれば・・・。」

「・・・うん、そうね・・・まずこの土地だけどここら一帯は五神家直系たちの土地よ。」

「つまり、私たち直系の五神家が統治をしてるの。」

「火は灯華ちゃん。雷は私たち。水は蒸雨たち。土は塵鳳。風は颯くんを直系としてここら一帯を統治してるの。」

「と言っても今は統治も何もあったものじゃないけどね汗。」

「で、ここの土地から少し離れたところにこの土地一帯を古来より守護している陰陽師一族の本拠地が存在するわ。」

「頭目の名前は結野先守。と言ってもこの名前は世襲制によって名乗っているみたいだから本名は分かっていない。」

「守護って・・・どういうことですか?」

「私たち直系の家には其々結界が貼ってあると言い伝えがあってね。それを施した者の名前が結野先守と伝えられているんだ。」

「へぇ・・・。」

「ま、ほんとかどうかは疑わしいけど。」

「そ、そうね汗。実際、結界と言っても何か特別なものは感じないからね汗。」

「で、次がその陰陽師一族のまた少し離れたところにあった——。」


~~~~~


「如月料亭⁉」

「ああ。・・・ってどうかしたかい?」

「あ、い、いえ汗。続けてください汗。」

「・・・如月料亭。これは首都へと繋がる道に並んだ数々の料亭のことを示す言葉だ。」

「あそこの土地は少し特徴的でな。半世紀くらい前から時世の予言を行う者達が出入りしているという噂が立っていたんだ。」

「時世の予言?」

「時の権力者の傍らで予知能力のような力を使う者達のことをそう呼ぶ。」

「あいつらは堅牢な城塞のようにあの土地一帯に根を張り、その力を隠し存在し続けていた。」

「私たちはその料亭の名を取ってその者達を如月と呼んだ。」

「如月はとても情報管理が徹底していてな。以前潜入して情報を探ったが何も出てこなかったんだ。」

「多分、その土地の人たち全員が如月の関係者なんでしょうね。」

「だろうな。だから、あの土地に足を踏み入れた時点で部外者はまるわかりだ。」

「(如月・・・多分、早苗たちの先祖だ!)その土地って、ここから近いんですか?」

「近いって程ではないが遠くもないね。」

「実際俺たちが食べるものの多くはあそこの店から仕入れているのが多いからな。」

「(料亭って言うから、旅館みたいのを想像していたけど、案外商店街の方が認識は近いのかもな・・・。)そうなんですね。」

「風太君たちは如月の名前に反応していたみたいだが、君の所でもその名前は有名なのか?」

「いや、そういうわけではないんです。」

「?」

「俺たちの知り合いに如月の名前を持つ人がいるので、もし同じ一族とかなら何か知らないか聞きたかっただけで・・・。」

「(知り合いに如月か・・・)だとしたら少し酷な話をしてしまったかもしれないな。」

「・・・どういうことですか?」

「その前に、ここから先の話は知り合いに如月の人間がいる君たちにはとても酷な話だ。仮に我々のように同じ名前を持つまったく別の生活をしている別人という可能性もあるが、それでも心持ちの良くない話をこれからすることになるだろう。・・・それでも聞きたいかい?」

「(この時代の如月に何があったのかは分からないけど、知らないと判断のしようもないしな・・・)はい。お願いします。」

「・・・分かった。じゃまずさっきも言ったが事前の情報として如月一族は時の権力者の傍ら時世の予言を行っていた集団だ。」

「(そりゃ全知の力を使えば未来位簡単に分かるよな・・・。)」

「表向きは料亭屋兼旅館屋として。裏では預言者集団として表でも裏でも広く知られていた。」

「ま、俺たちも表は神職として裏では戦争の傭兵として活動してたことがあるからな。」

「昔の話だ。そしてその如月一族。総数は200人ほどと推定されていた。」

「200⁉」

「あくまで推定だけどね。だが一年ほど前、その如月一族は滅びたと噂されるようになる。」

「え⁉」

「満月の夜。腕を一振りするだけで建物を薙ぎ払う異形の力を扱う一人の女子によって、如月一族は壊滅したと噂されている。」

「(くっそ・・・せっかくの手がかりが見つかったと思ったのに・・・!)」

「・・・如月一族は何で壊滅させられたんですか?」

「理由は同族での仲間割れらしい。」

「あとから調べて分かったことだけど、如月一族は壊滅騒動の少し前、裏切者を一族の中から出していたらしい。」

「その裏切者が傭兵を雇って本家を壊滅させたみたいなんだ。」

「で、でも!如月一族って予言が出来るんですよね⁉それなのに・・・!」

「風太君の言いたいことは分かる。実際彼らは幾度となく壊滅を狙われていた。実際私たちも如月一族を壊滅させる手伝いをしてほしいと持ち掛けられたこともある。」

「分が悪いと踏んで断ったけどな。でも、普通の傭兵ならいざ知らず、戦争屋を雇われちゃ壊滅も逃げようがなかったんだ。」

「戦争屋?」

「この土地からはるか遠くの西の都の中心街にて神話のような噂がある。」

「それが、この世界には六人の神を使役する者とそれを束ねる神の力を持つ人間が存在するというものだ。」

「(それって・・・!)」

「その人間の一人と噂されているのがさっきも言った戦争屋。ツィオ・ボンディーレという名の超能力者らしい。」

「なんでも一人で戦局を思い通りに出来るほどの力を使うらしい。」

「・・・そうなんですね。」

「すまないね・・・。」

「冷霧さんが謝ることはないです汗。」

「けどね・・・。」

「(これは、この時代のことをもっとしっかり知っておく必要があるな・・・)続きを、お願いしてもいいですか?」

「(まっすぐな目・・・芯の強い子だ。)・・・分かった。じゃ続けよう。さっきも言ったけど、こことは違う西の都の方では六人の神を使役する者とそれを束ねる神の力を持つ人間が存在するという噂がある。」

「けど、この情報に関してはあまりよく調べられていなくてな。さっき言ったツィオ・ボンディーレと他には剣帝スパード・ヴィータというフリーの殺し屋ぐらいしか噂になっていることを知らないんだ。」

「そうなんですね・・・。」

「あとはそうだな・・・表では知られていないが裏で冷刻の魔女と呼ばれるヒルデガルド・ヨルディエという女がいる。」

「あ、冷酷と刻印の女だっけ?」

「そうだ。そのヨルディエという女は度々町に現れては破壊行為を繰り返すイカレた奴で、破壊行為をした後の町に特異な刻印を残すことからその残虐さを表す冷酷という言葉と刻印の“こく”をかけて冷刻の魔女と呼ばれている。」

「(・・・刻印・・・印紋・・・十中八九ニーレイの先祖なんだろうけど・・・。)」

「冷酷と刻印って・・・なんかめっちゃダサいよな。」

「水正。お前の気持ちも分からなくはないが、人に被害が出ている事柄をそう茶化すものじゃない。」

「分かってる。」

「次が表でも裏でも有名なクルデーレ。表では大戦の英雄。裏では忌むべき平和の象徴として全国に指名手配されている。」

「平和の象徴なのに・・・指名手配されてるんですか?」

「おかしいよね笑。でもしょうがないんだ。理由は彼女の力。20年くらい前になるかな。今の水正より少し若い頃、この世界の国々は多くの争いをしていた。そしてそれは今よりも大規模で激しいものだった。今のような国対国といったものでなく、国々と国々といったもので一度の戦いで何万人もの死者を出していた。その頃、私たち五神家は争いという程激しい争いをしていたわけではなく寧ろ外敵に対してその力の多くを振るっていた。」

「俺たちがまだ傭兵として雇われていた時代の話?」

「そうだ。主に東は五神家の直系派系の手練れたちで構成されていた。そして西の主戦力として構成されていたのがクルデーレの一族だ。彼女の一族の他にも同系統の力の一族が確か戦場で確認されていたんだが、そのあたりは巧妙に隠されていて詳細は掴むことが出来なかった。彼女は一族の中でも群を抜いて才能があったみたいでね。戦場で私たちは常に劣勢に立たされていた。」

「(あの戦いをする人たちが苦戦するってことは、相当なバケモンだな・・・)そのクルデーレはどんな力を使うんですか?」

「確かヨルディエと同じで目に見えない力を使うと・・・あ、思い出した。彼女の一族だ。」

「何がだ?親父。」

「同系統の力の一族だよ。後から分かったことだがヨルディエの一族はクルデーレ一族と共に西側で大戦に参加していたらしいんだ。」

「(・・・昔ってガチで争ってたんだな。)・・・強かったですか?」

「強かったよ。まぁ、水場のアドバンテージの無い戦いだからそう感じたのかもしれないけど、それでも強いと思ったよ。西の土地は殆どが平野だからそこでの戦いは檜河家よりも城堂家だったり建侯家の方がアドバンテージを生かした戦いが出来る。」

「大地が味方だもんな。」

「ああ。それに西は天気が悪い日が多かった。」

「・・・風太。」

「?」

「あの時の・・・。」

「あの時って・・・?」

「覚えてないのか?」

「何を?」

「ほら、俺たちが助けられた・・・。」

「何の話ですか?」

俺たちはここに来るきっかけとなった話をした。


~~~~~


「・・・そういえば言ってたっけ?」

「言ってたじゃないか。“ヨルディエ!”って。」

「(そういえば、言ってた気がする・・・汗。)そうだっけ?」

「そうだった。」

「・・・汗。」

「つまり、ヨルディエとイモータは一緒に居たってことかい?」

「はい。俺たちはその二人に助けられてここまで来たんです。」

「・・・そうか・・・にしても・・・。」

「中々厄介な組み合わせですね。」

「だな。敵には回したくないな。」

「・・・その、イモータって人はどれくらい強いんですか?」

「そうだね・・・ちょっとそのあたりは詳しくないから分からないが、私の勝手な予想だとかなり強いと思うよ。」

「何でだ?親父。」

「まず、ヨルディエを呼び捨てにしているということは彼女と対等かそれ以上の力を持っているから出来ること。そして一緒にいるということは双方メリットがあってのこと。ヨルディエの一族にはヨルディエこそ戦場では見なかったがかなり手を焼いた。それ程の実力を持った一族のお眼鏡にかなうなんてそうそうない。」

「なるほど・・・。」

「ま、でも風太達を助けてくれたんだ。そんなに警戒する必要なんてないんじゃないか?」

「水正。お前はここから出たことないだろうからそう考えるのも無理はない。けどな、世界はそんなに善意で満ちてはいない。」

「・・・冷霧さんの言っていること。僕は身に染みるほど分かります。」

「・・・出来れば身に沁みない時代にしたいけどね。世界はまだそれを許してはくれないらしい。」

こうして俺たちは、危険な時代でも運よく善意に恵まれたが、みんながみんな善意に肖れるわけではないことをこの先知ることとなる・・・。

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