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天使たちとの能力戦線(五章、フォルテの極限集中術)



フォルテ「やぁ久しぶりだね。ミィディア。」

ミィディア「あ、フォルテ。何しに来たの?」

フォルテ「今日は君に集中力のコントロールについて教えに来たよ。」

ミィディア「・・・それって天使に教えてもらう程のものなの?」

フォルテ「・・・集中力は君が思っているより重要だよ?」

ミィディア「そうなの?」

フォルテ「ああ。」

ミィディア「でもフォルテが言ってるのって戦いでってことでしょ?」

フォルテ「違うよ。普段の生活でも重要だよ?」

ミィディア「そうなの?」

フォルテ「ああ。」

ミィディア「どう重要なの?」

フォルテ「感情、思考、行動のコントロールをするのに重要だよ。」

ミィディア「・・・成程ね。」

フォルテ「妙に警戒しているけど何が気になるんだい?」

ミィディア「いや天使に色々と技術を教えてもらえるのはありがたいんだけどさ、正直戦いの技術はもう覚える意義を感じないんだよね・・・。」

フォルテ「まぁ実際戦いの技術は“基本使わない。”からね。」

ミィディア「そうだよ。少し前にオッソにも戦いの技術を教わったり更に前にはパンピやヴェッキと色々な天使に戦い方を教わって来たけど正直今振り返ってみると無駄だったんじゃないかな?って思ってるんだ。」

フォルテ「成程。でも天使たちが本当に教えたいのは技術だけじゃないと僕は思うな。」

ミィディア「・・・どういうこと?」

フォルテ「天使たちが教えたいのは考え方だ。君に技術を通して考えを伝えることで少しでも君の人生を豊かなものにしてあげたいと思っているのさ。」

ミィディア「・・・それが戦いの技術でも?」

フォルテ「戦いの技術でもだ。戦いの技術というのはその技術を編み出した者の考え方が色濃く出る。例えば君が言ったオッソはなるべく体力を温存し相手に対して最大限の損害を与えるような戦い方をする。この戦い方は生き方にも応用出来る。スタンスとしてね。そしてこのスタンスは性悪説に近い。人間は脅かしてくるのが当たり前だから裏切られる前提で普段生きていく。こうした考えをオッソは持っていると感じ取ることは出来る。」

ミィディア「・・・あ、成程。なんかその考え方オッソのイメージにしっくりくるよ。」

フォルテ「そうか。僕も基本その考えだ。さてじゃあ集中力の話に戻ってもいいかい?」

ミィディア「いいよ。俺フォルテの考え方を知りたい。」

フォルテ「良かった。ならまずは集中力とは何かから説明させてもらうよ。」

ミィディア「ああ。」

フォルテ「集中力とはどれだけ意識を安定して継続させることが出来るかを示す力のことだ。そして今回僕が君に教えるのはこの集中力を自在にコントロールする為の技術だ。僕はこれを極限集中術と呼んでいる。」

ミィディア「その極限集中術が出来るようになったらどういった効果があるの?」

フォルテ「これが出来るようになったら普段使う技術の効果を更に高めることが出来るよ。」

ミィディア「それって所謂・・・。」

フォルテ「モードだね。でもコミュニケーションといった戦い以外の場面で使えばとても理性的な人間にみられるよう取り繕うことが出来るよ。」

ミィディア「そうなの?」

フォルテ「それに君は感情が揺れ易いみたいだけどそれも普通の人間くらいには統制出来るようになるし極めればメンタルも強くなる。」

ミィディア「そっか・・・〝そしたらネニアの精神防御術とフォルテの極限集中術でメンタル問題はほぼ解決するかもな・・・。〟」

フォルテ「じゃ次はその極限集中術の練習方法だ。」

ミィディア「頼む。」

フォルテ「練習方法はいたって簡単。感情を激しく揺さぶる出来事を積極的に思い出してその感情をあえて表出するんだ。」

ミィディア「・・・確かに仕組みはシンプルだけどやるのは大変じゃね?」

フォルテ「まあね。でも最初は積極的に無理をして耐えられるぎりぎりで保ち続けるよう努めるんだ。そうすることで体がその感情の負荷に徐々に慣れる。」

ミィディア「けどそんなこと続けてたらすぐにバテない?」

フォルテ「バテるよ。」

ミィディア「だよね。」

フォルテ「だからバテたらしっかりと休息を取るんだ。」

ミィディア「分かった。」

フォルテ「そして精神力が全回復してからまたその作業を繰り返す。それだけだ。」

ミィディア「・・・時間がかかりそうな作業だな。」

フォルテ「まあね。けど何も特別な道具は必要ないからどこでも出来るよ。」

ミィディア「そうだけど・・・。」

フォルテ「あ、そういえばミィディアは恐怖で体が動かななくなったことはあるかい?」

ミィディア「・・・。」

フォルテ「・・・あるんだね?」

ミィディア「・・・恥ずかしながら。」

フォルテ「恥ずかしくはないよ。寧ろ生物としてはあって当たり前だ。それよりいつ恐怖で動けなくなったのかな?」

ミィディア「・・・毒父に初めて叫ばれた時かな。」

フォルテ「成程・・・そういった恐怖で体が動かない時でも極限集中術を使えるようになればある程度動けるようになるよ。」

ミィディア「そうなの⁉」

フォルテ「ああ。思考や感情を完全に統制することが出来れば多少は動けるようになる。勿論動きは少し鈍くなるけど。」

ミィディア「鈍くなるの?」

フォルテ「体が硬直してるからね。だから普段より鈍くなるんだ。」

ミィディア「そうなのか・・・。」

フォルテ「少し体が重くなった程度に捉えておけば良いよ。そうすればパニックになることもない。」

ミィディア「成程ね。」

フォルテ「さて暫く極限集中術を練習して集中力がある程度維持出来るようになったら次はその集中力を技術に乗せるんだ。」

ミィディア「どうやって?」

フォルテ「簡単だ。極限集中術を使いながら乗せたい技術を使うんだ。」

ミィディア「あ、そしたらさ天使の技術にも集中力って乗せられる?」

フォルテ「まぁ天使の技術が使えれば理論上は可能だけど・・・君の場合は人生の途中から天使の技術は使えなくなるから集中力は別の技術に乗せた方が良いと思うよ?」

ミィディア「それについてなんだけどさ、実は別れた後も使える方法があって・・・。」

俺はフォルテに人格術の話をした。


~~~~~



フォルテ「・・・成程。知恵が持つ特性を利用して俯瞰と憑依を擬似再現する技術か。」

ミィディア「ああ。」

フォルテ「それなら普通の技術と同じように死ぬまで継続的に使えるし極限集中術を乗せるのにも何ら問題はないだろう。」

ミィディア「そうか・・・良かった。」

フォルテ「ただ天使の技術を極限集中術で使うのはかなり難易度が高いと思うよ。」

ミィディア「・・・何で?」

フォルテ「人格術の仕組みを聞く限りもうそれを使っている時点で軽いゾーンに入っているようなものだ。それに更に極限集中術でゾーンに入るということは二重で無理をしているということだ。だからかなり正確な集中力のコントロールと技術の熟練度が要求される。」

ミィディア「それとそれを掛け合わせる上手さだろ?」

フォルテ「ああ笑。更に求めるなら持続時間もだ。だから集中力がある程度高まり技術に乗せ始めたら今度は感情・・・つまり思考と行動をリンクさせ持続出来るように努めるんだ。」

ミィディア「・・・どれくらい続けばいいかな?」

フォルテ「最初は30秒続けることが出来れば上出来かな。」

ミィディア「30秒・・・短過ぎるなぁ・・・。」

フォルテ「最初はね。最終的には3分から5分出来るようになるのが望ましい。」

ミィディア「それでも短いなぁ・・・。」

フォルテ「それ程までに体に負担のかかる術なんだよ。」

ミィディア「・・・乗せる技術が天使の技術じゃなかったらもう少し長くなる?」

フォルテ「長くならない。」

ミィディア「え・・・なんないの?」

フォルテ「ならないよ。」

ミィディア「どうして?」

フォルテ「負担の殆どが極限集中術にあるからだ。使う技術は然程影響しない。」

ミィディア「そうなのか・・・。」

フォルテ「ああ。」

ミィディア「何で極限集中術の負担がそんなに大きいんだ?」

フォルテ「それはね、極限集中術っていうのは本来なら一瞬程度の表出で終わる強烈な感情を無理やり持続させるからだ。つまり常に無理をしている状態なわけだ。」

ミィディア「成程・・・なんか捨て身の技術だな。」

フォルテ「まあね。でもこうした切り札を持っているのと持っていないのとじゃ精神的な余裕がまるで違うし生存確率も幾分か上がる。」

ミィディア「まぁ腕一本犠牲にすれば生き残れます・・・見たいなもんか。」

フォルテ「〝・・・人間にしては考えがぶっ飛んできてるな。〟例えはあれだけどまぁそんな感じだ。確実に勝てない状態なら万が一にでも勝てる方法があればそれも縋って使うだろ?でもその万が一の技術も知らないと話にならない・・・あまりこういう考えはしたくないけどいつどこでどんな窮地に立たされるか分からないからね。惨めに見えても生き残る術は教えておきたいのさ。」

ミィディア「いつかは必ず死ぬとしても?」

フォルテ「ああ。死ぬ時まで生きるんだ。死ぬ為に生きているのか生きる為に死ぬのかは分からないけどね。」

ミィディア「・・・死か。」

フォルテ「やっぱり嫌かい?」

ミィディア「そりゃ嫌だよ・・・と言いたいところだけど正直分かんねぇな。」

フォルテ「・・・それはどういうことだい?」

ミィディア「小学生の頃までは絶対に死にたくないって思ってた。」

フォルテ「それはそうだろう。生まれて十年程度しか経ってないんだから。」

ミィディア「まあな笑。だから必死で命を繋ぐ為にはどう立ち回ればいいか考えた。小学生の頃の俺はまずいつまで頑張ればいいか見立てが欲しかったからとりあえず毒親が寿命で死ぬのをゴールとしてその時の自分の年齢を逆算した。ぞっとしたよ。当時の俺の見立てだと40歳になるまでは今よりひどいクソみたいな状況が続くと直感で分かったから。つまり俺はその時勝ち目のない戦いを30年して生き残るかそれまでに死んで終わるかの賭けをしなければならなかったんだ。」

フォルテ「小学生の時にもうそこまで見えていたのか。」

ミィディア「ゴールだけだけどな。大体人間の寿命は80歳から90歳。そして60歳から70歳あたりから高齢者と呼ばれ始める。俺が十歳前後の時親は30前後だったから高齢者に足を突っ込むのは約30年後。しかも30年後まで仮に生き抜いたとしても毒親から解放されている保障なんてどこにもない。ということはそこまで生き抜いても解放される確率の方が少ない。加えて親戚のおじさんから景気がこれから良くなることはないから大変だと耳にタコが出来るほど聞かされていたから社会的な援助も期待は出来ない。」

フォルテ「・・・そうだね。」

ミィディア「だから打てる手は全て打ってきた。いつも徹底的に過剰なくらい対策を打ち続けてきた。何故なら最悪の事態ってのはいつも想像を超えてくる。だからやり過ぎだってくらい対策を打って初めてトントンくらいで対処出来る範囲内に収まると思ったからだ。」

フォルテ「やり過ぎと思って初めてトントンか・・・。」

ミィディア「そこまでしてやっと勝てるんだよ。最悪の事態には。少しでも手を抜いたらあっという間に負ける。」

フォルテ「・・・君のメンタルが揺らぎ易いのは置かれている環境が過酷過ぎるせいもあるかもね。」

ミィディア「そう言ってくれるとなんだか嬉しいよ。なんか今までの努力が認められた気がする。」

フォルテ「若くして知恵を極め過ぎると心がついていかないね。」

ミィディア「まあな。でも天使のフォルテの前でこんなことは言うべきじゃないんだろうけどセイには感謝してるんだ。」

フォルテ「何でだい?」

ミィディア「力を貸してくれたから。あそこで魂を飛ばしてなかったら今も昔と変わらない生活をしてたかもしれない。いやもう生きてないかもしれない。でもセイやモルテ、シェンスたちが俺の前に現れてから俺の考え方や行動は見違えるように変わっていった。」

フォルテ「・・・そうか。」

ミィディア「それに小学生の頃の見立ても良い意味でズレてきた。」

フォルテ「というと?」

ミィディア「妹が大きくなって母親が落ち着いてきて俺も常に気を張らずに生活出来るようになってもう少し先まで見えるようになってきたんだ。昔は心を殺されても泣き寝入りして奴隷のように生きるしかないと発狂しそうなほど嫌な思いになりながらも生きていたが今はその復讐もセイのおかげで出来たし母親も妹もその毒牙から一応引きはがせている。」

フォルテ「まぁ虐げられて怯えるように黙っていた母親が嫌みを言えるほど感情を出せるようになったのは大きいね。」

ミィディア「それに妹の方も喜怒哀楽が欠落せずに成長してくれたのはとても嬉しい誤算だ。あの環境の中俺は手の中にあるまだ赤ん坊だった妹を抱えながら、どうなるんだろう。どうすればいいんだろうと考えていたが今はもうそこまで考えなくても一応は大丈夫だ。」

フォルテ「〝・・・。〟」

ミィディア「何とか自分のことは自分でやり始めてる。」

フォルテ「〝・・・彼がこの強烈な体験を乗り越えたら彼の同年代はまず足元にも及ばないだろうな・・・いや同年代だけじゃない。並の人間じゃ彼を脅かすことすら出来ないだろう。〟そうか。なら次は君自身の幸せを考えないとね。」

ミィディア「それはもう考え始めてるんだ。少しだけだけど。」

フォルテ「・・・どんな感じに考えているんだい?」

ミィディア「まず次はもう二度と何も失わないように二度と誰にも負けないように人格術を使いこなす。そして仕事をして貯蓄をしてあらゆることに備える。備えながら効率の良い備え方を常に模索し続ける。大人になってからは戦い方を180度変えないと負ける時すぐは負ける。」

フォルテ「・・・どうしてそう思うんだい?」

ミィディア「大人になってから気づいたけど学校での評価のされ方と社会での評価のされ方はまるで違う。正反対だ。学校では従順な奴ほど評価が高いが社会はそうじゃない。従順な奴ほど替えが効きやすい。つまり用なしになりやすい。沢山いるからな。だから社会で生きていくことを考えるなら少し周りから出遅れてでもしっかりと自分のスタンス取りをした方が長期的には上手くいく。逆に従順に従い続けて10年20年後に捨てられたら従うことしか能がない無能な30代40代が出来上がって残りの人生巻き返しが難しくなる。」

フォルテ「・・・成程ね。そしたらミィディアは順調に未来への下地を作っているわけだ。」

ミィディア「・・・多分な。」

フォルテ「自信なさげだね。」

ミィディア「この世の中絶対なんてないからな。」

フォルテ「そうだね。じゃミィディアには最後に極限集中術の注意点なんかを伝えてから天界に帰ろうかな。」

ミィディア「助かるよ。」

フォルテ「まず一つ目。一日に使えるのは三回が恐らく限度だ。」

ミィディア「三回か・・・。」

フォルテ「ああ。しかも効果は使用するごとに下がり続ける。」

ミィディア「それってどういうこと?」

フォルテ「一回目が一番高くその後は下がる一方ということだ。」

ミィディア「マジか・・・。」

フォルテ「だからこれを使うのは本当に自分だけではどうしようもない時だけにするんだ。」

ミィディア「分かった。」

フォルテ「それと普段の過ごし方なんだけど普段は感情消費をある程度制限して生活することをお勧めするよ。」

ミィディア「何で?」

フォルテ「感情残量を残しておく為だ。」

ミィディア「でもそれってする必要あるの?」

 フォルテ「あるよ。実は普通に生活している状態は感情消費に結構無駄があるんだ。グラントを思い出せば分かるだろ?」

ミィディア「あー・・・。」

フォルテ「あれは元々の感情残量が多いのと回復速度が速いから成り立つスタンスなんだ。だからこれからは今までの十分の一の力で生活出来るように精神コントロールと体力コントロールをして感情消費を抑えるんだ。」

ミィディア「でもどうやって?」

フォルテ「人格術でオッソかビランチ、またはネニアを憑依させればいい。」

ミィディア「成程!」

フォルテ「それにね、ここまで教えておいて何なんだけどこれはあまり使い勝手が良くない。だからこれは文字通り切り札として扱った方が良い。」

ミィディア「まぁそれは話を聞いていて十分感じてたから大丈夫。」

フォルテ「そうか笑。あとね、使うことが分かっているなら最初から軽く精度を下げてでも使っておくといい。」

ミィディア「何で?」

フォルテ「何故なら使う前に相手から精神を揺さぶられると途端に使えなくなる可能性が高いからだ。」

ミィディア「あ、精神的作用に大きく依存した技術だからその精神を揺さぶられるとそもそもの発動が危うくなるのか。」

フォルテ「そうだ。だが最初から使っておけばもう使っているからその極限集中の効果で精神のゆさぶりは無効化される。」

ミィディア「成程ね。」

フォルテ「だから極限集中は短期爆発モードと長期維持モードの二つを用意しておくといい。」

ミィディア「・・・二つのモードってより長期維持モードを人格術。短期爆発モードを極限集中術って頭の中で考えた方が分かり易いかも。」

フォルテ「そうかい?ならそれでいこう。」

ミィディア「分かった。」

フォルテ「そしたら極限集中術を使う時は人格術をかませた方が良いかもね。」

ミィディア「どういうこと?」

フォルテ「人格術でまず乗せる技術や思考、行動を体に纏わせる。その後その人格術を使いながら極限集中術を上乗せする。そうすることでなるべく無理せずに使うことが出来るだろう。」

ミィディア「成程!」

フォルテ「まぁそんな感じかな。これで極限集中術の説明は終わりだけど最後に君からは何かあるかい?」

ミィディア「大丈夫。極限集中術教えてくれてありがとう!」

フォルテ「ああ。じゃ失礼するよ。」

そういうとフォルテは消えていった。

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