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同等条件世界{四章、術とし道とする}



「誰⁉」

「さぁ、誰だと思う?」

「“この女、どこかで・・・。”」

ニーレイはグラントを使役する女性を煽った。

「新野。お前は一旦休め。ここは俺たちで何とかしてやるよ。」

「何だぁ?たかがクソガキ二人が増えた程度で俺たちをどうにかできると思ってんのかぁ?」

「へっ!うるせぇよ!二対一で一人も殺せないような奴が何調子乗ってんだよ。」

「だとぉ⁉」

「負け犬ムーブかましやがって、小物感が半端ねぇな!」

「言うじゃねぇかクソガキ!だったら俺たちを倒してからもう一度その生意気な口をきくんだなぁ!」

そう言うと長髪剣士は俺たちに向かって切りかかって来た。

「龍一!」

「おうよ!守印!」

龍一は両手に小さな守印を出現させ、その守印で長髪剣士の剣をいなし始めた。

「・・・てめぇ、何故切れねぇ!」

「・・・何でだと思う?」

龍一は推手のように長髪剣士の剣をいなし続けた。

「ニーレイ!」

「分かっている!」

龍一と長髪剣士が立ち会っている間にニーレイは念力女性に向かって走っていった。

「・・・ふっとべ!」

「甘いな。」

念力女性はニーレイに向けて念力を放ったが、ニーレイは強硬印を斜めに出現させ、念力を逸らした。

「・・・!」

念力女性は間合いを詰められるのを恐れ、咄嗟に空に逃げた。

「逃がさん。爆印。」

そう言うとニーレイは念力女性の動線に爆印を出現させた。

「グッ・・・!」

念力女性はモロに爆印を食らったが、何とか持ちこたえた。

「・・・ヴィータ!離れなさい!」

「分かった!」

念力女性がそう言うと、長髪剣士は龍一との立ち合いをきり上げ、全力で何処かへと走っていった。

「これで終わりよ・・・!」

念力女性がそう言うと、周囲の空気がまるで砂漠のど真ん中にいるかのように熱くなり、念力女性の頭の上に上げた両手にはまぶしいほどの光が輝いていた。

「これを防げた人間は、一人しかいないわ・・・!」

「“あれは・・・”龍一。」

「ああ。分かってるよ。」

二人はそう言うと念力女性の方向に手をかざした。

「守空間紋{引}。」

「強硬印{連}。」

二人は守紋に空間紋{引}の効果を付与した印紋を中心に大きなものを一つ。その周りに強硬印を八つ。計九つの印紋を出現させ、念力女性の攻撃に備えた。

「この世の塵となりなさい!念力・水爆殺!」

念力女性がそう言うと、まるでこの世界最強最悪の兵器のような爆発が目の前で起きた。

「・・・!」

「・・・耐えろよ!ニーレイ!」

「貴様こそ・・・ちゃんと吸いきれよ!」

二人は、全身が軋むような圧力に耐えながら爆発を抑え続けた。

二人が爆発を抑えている間にも龍一の守空間紋{引}は爆発を吸い込み続け、ニーレイの強硬印は何度も割れかけていた。

強硬印が割れかける度にニーレイは強硬印を張り直し続けていた。

爆発に耐えている間、印紋外の建物は次々と砕け崩れていった。

「「うおおおおおっっっっ!」」

二人は何とか念力女性の放つ力を抑え込んだ。

「・・・。」

しかし、念力女性の攻撃によって二人の体力は底をつき始めていた。

だがそれは念力女性も同じだった。

「“・・・早くトドメを!”」

念力女性が地上に降りた後、ゆっくりと俺たちに向けて手をかざし、念力を放とうとした。

「・・・ニーレイ。」

「ああ・・・。」

「さあ・・・これで終わりよ。」

そう言って念力女性は最後の力を振り絞って念力を放った。

「・・・空間紋{斥}。」

そう言うと、ニーレイは先ほど龍一が念力女性から吸い取った力を念力女性に向けて放った。

「⁉」

そして、その力は念力女性の念力とぶつかり見事に相殺された。

「・・・貴様。殆ど吸い取れていないではないか。」

「あれを全部吸い取れってか?無茶言うなよ・・・。」

その場にいる全員が満身創痍の中、遥か遠くから物凄い速さで突っ込んでくる存在がいた。

「今度こそ終わりだぁ!」

「・・・守印!」

それは長髪剣士だった。

長髪剣士は俺たちに向かって、剣を振り抜いてきた。

それを龍一は咄嗟に守印で防いだが、その勢いで龍一はよろめいてしまった。

「“よし・・・このままトドメを・・・!”」

「それを俺がさせるわけないだろ。」

ドン!

俺はモードグラントを使って長髪剣士を念力で吹っ飛ばした。

「グッ・・・!」

「新野・・・!」

「・・・二人のお陰で少しは体力が戻ったよ。」

「そうか・・・笑。」

「・・・退くわよ。」

「・・・ああ。」

念力女性と長髪剣士はこれ以上は戦えないと判断したのか、すごすごと歩いてその場を立ち去った。


~~~~~


俺たちは暫くその場に座り込んで話をしていた。

「にしても、よく俺がここに居るって分かったな笑。」

「そりゃお前が指名手配されてりゃな笑。」

「え、俺の指名手配ってそんなに出回ってんの⁉」

「いや、私たちがお前の手配書を見たのはソロモン王国とビジラ王国位だな。」

「他には見なかったぜ。」

「そうか・・・。」

「で、どうするよ?」

「とりあえず、今日は休もうぜ?」

「・・・だな。初っ端から強い奴と戦って疲れちまった。」

ということで俺たちは、近くの空き家で野宿?をすることになった。


~~~~~


「・・・さて、今回は私たっての希望でこの場を設けてもらったわけだが・・・。」

「本当なのですか?ソロモン王国から逃げ延びた盗人がいるというのは?」

「・・・真だ。」

「!」

「ソロモン王の国と言えば・・・咎人を逃さぬことで有名なはずですが、随分な失態を演じたようですな。」

「・・・それを言うならば、その咎人をみすみす逃した私の国も随分な失態を演じることになるということだが・・・それはどう受け取ればよいのかな?」

「それは!・・・大変出過ぎたことを言いました。」

「ふむ。・・・では我が友人ソロモンからことの経緯を話してもらいたい。」

「分かった。だがことの詳細は我の従者であるイモータとヨルディエの方がよう知っている。」

「そうか。ならイモータ。ヨルディエ。話してくれ。」

「承知いたしました。ではこのイモータ恐れながら我が国で起きた事件について話をさせて頂きます。発端は市街地で起きた窃盗事件。現在逃亡中の咎人は我が国で市井の者の売買物を盗みました。その為、我が兵団はその者を追撃しました。しかしその咎人は逃走の際、奇怪な言葉を行使したと追撃を行った兵士から聞き及んでいます。」

「その奇怪な言葉とは何だ?」

「魔言に御座います。」

「⁉」

「追撃を行った兵士によると、咎人の言葉を聞いた際に体の自由が奪われたとのことです。」

「言葉によって体の自由を奪う・・・と?」

「はい。」

「あまりこういった迷信じみた話はうのみにしたくはないのだが、この言葉と聞いて思い当たる存在が我らにはあるはずだ。」

「・・・言葉の女神フェア。」

「そうだ。フェアはこの世に言葉を齎した存在として今現在まで語り継がれている。そしてこのフェアはこの世の全ての言語の始祖だ。」

「つまり、言葉を介する事象を全て支配できるということだね。」

「そうだ。その咎人はどういう訳か知らぬが、言葉の女神の力を有していると考えられる。」

「そんな・・・。」

「まて。話はまだ終わっていない。」

「は、はい・・・。」

「イモータ。続きを。」

「はい。先ほども申しましたが咎人は我ら兵団の兵士十数名を魔言により拘束し、一度は逃げおおせました。ですがその後、私とヨルディエが直接その咎人を捕まえるべく動きました。」

「(ソロモン王国直属の精鋭二人が動いて捕まえられなかったのか・・・?)」

「咎人は我が国の噴水にて腰を据えておりました。」

「その為、我らは人払いをし、その咎人を捕まえるべく攻撃を仕掛けました。」

「・・・結果はどうだったのだ?」

「・・・惨敗でした。」

「・・・その咎人はそなたらの目から見てどれ程の脅威なのだ?」

「・・・クルデーレと同等かそれに近い脅威かと思われます。」

「な・・・それでは、どうしようもないではないか!」

「・・・あまり悲観的なことは言いたくないが私もイモータと同意見だ。」

「ビジラ王まで⁉・・・そ、ソロモン王はどのように考えられる⁉」

「・・・俺もイモータと相違ない認識だ。」

「そんな・・・。」

「恐れながら・・・各国の国王殿。進言のご許可賜りたく存じます。」

「・・・申してみよ。」

「わたくしも咎人と実際に相まみえましたが、彼の者は人の枠を超えています。そして彼の者はフェアの力だけでなく他の神の力も有していると思われます。」

「どういうことだ⁉」

「・・・ヨルディエ。話せ。」

「畏まりました。彼の咎人はわたくしとイモータとの立ち合いにおいて、常人ではありえぬ身のこなしを見せ、その最中目に見えぬ力すら放っていました。」

「目に見えぬ力?」

「はい。それはこの世界で戦争屋と噂されている女子のそれと酷似しています。」

「・・・まて、それじゃあ何か⁉その咎人はこの世で噂される力を持つ者数人分の力を一人で有しているということか⁉」

「・・・恐らく。」

「・・・。」

「俺からもいいか?」

「ソロモン殿・・・。」

「構わない。話してくれ。」

「助かる。まず、皆も薄々感じてはいるだろうが俺は特殊な力が使える。」

「(ソロモン・・・私見を話す為とは言え、そこまで言うか。)」

「・・・。」

「その詳細は聞かれても答えることは出来ないが、俺は今回その特殊な力でその咎人と相まみえた。」

「ソロモン殿も立ち会ったのですか・・・?」

「ああ。・・・結果は知っての通りだが。だが、立ち会ったことで分かったこともある。」

「それは・・・何ですか?」

「件の咎人はフェアの他にフォールの力が使える。」

「⁉」

「そ、それは・・・あの・・・最強神フォール・・・ですか?」

「そうだ。かつて大悪魔時代であったこの世界を一人で変えた神の名だ。」

「72人の魔王を一人で倒した神・・・。」

「・・・私からもいいかな?」

「・・・はい。」

「・・・これ以上不安を煽りたくはないのだが・・・真実を知らなければ対策の打ちようもないから話をさせてもらうが・・・その咎人は最高神ビランチの力も有している。」

「⁉」

「時の審判者ビランチもですか⁉」

「・・・ああ。」

「いったいどうすれば・・・。」

「・・・絶望的な状況ということは各国十分理解出来たと思う。そこで俺から頼みがある。」

「・・・何でしょう?」

「この手配書を各国に配布すること。そしてこの咎人から世界を守る措置を取ること。これらを誓ってほしい。」

「それは勿論!」

「よし。・・・お前たち。ここが人類の正念場だぞ。気張っていけよ。」

こうして各国は傭兵を雇い、自国の兵士を出陣させるなどして新野たちを排除する準備を整えていった。


~~~~~


「・・・なんか、すげぇ見られてね?」

俺たちはソロモン王国でもビジラ王の治める安泰国家でもない名もなき国で歩いていた。

そうしたところ、何故かとても奇怪なものを見るかのような目で見られた。

「なんでだろうな?」

「理由は十中八九あれだろう。」

そう言ってニーレイが壁を指さすと、そこには俺の手配書が大々的に張られていた。

「あっ!手配書じゃねぇか⁉」

「この国にも出回ってるのか・・・。」

「そりゃ、お前が盗みを働いてからもう何日も経っているからな。」

「そりゃそうっすけど・・・。」

「ってかよ、確かに犯罪とはいえ盗み一つで全国指名手配ってどうよ?」

「あ、それなんだけどさ・・・。」

俺は龍一たちにビジラ王との一件を話した。

「・・・成程。そこまで歩み寄ってもらいながらも新野。貴様はその慈悲の手を振りほどいたと。」

「ニーレイさん事実だけど言い方!笑。」

「まぁでも新野の考えにも一理あるよな。もし早苗たちがこっちに来てんなら指名手配は結構なメリットだ。」

「だろ?スマホもネットもない時代じゃ会うのに何年かかるか分からないだろ?」

「だが、早苗たちが私たちを見つけ、落ち合う為には出来るだけ同じ場所で長期の騒ぎを起こし続けないと会えないぞ?」

「確かに。俺たちはあいつらの場所を知らねえからな。」

「これが現代ならスマホで待ち合わせ程度のことなのだが・・・いやはや、難儀だな。」

そうして、俺たちが手配書の前で話をしていると、突然後ろから女性の声がした。

「自分の手配書の前で呑気に談笑とは、中々に面白い奴だな笑。」

後ろを振り返ると、千くんと同じくらいの身長の長髪の女性がいた。

「・・・誰っすか?」

「クルデーレだ。」

「クルデーレ?誰だ?」

「ん?お前たち私を知らんのか?」

「知らねぇ。」

「・・・プッ!ますます面白いな笑。」

そう言うと、クルデーレと名乗る女性はとても楽しそうに笑った。

「・・・で、そのクルデーレさんは何故私たちに話しかけたのですか?」

「何故って・・・(・・・こいつヨルディエにそっくりだな。)」

「・・・どうしたんですか?」

「お前・・・名は?」

「・・・ルシフ・ニーレイです。」

「ニーレイ・・・(・・・ヒルデガルドではないか・・・)そうか。」

「?」

「他の者は?」

「三橋龍一。」

「新野貴智っす。」

「お前らはジャポネーゼか。」

「?」

「それで、クルデーレさん。あなたは何故私たちに話しかけてきたのでしょうか?」

「物見遊山だ。同じ手配仲間がどんなものかと思って見に来たのだ♪」

「同じ手配仲間って・・・あ!」

「どうした?」

「い、いや汗。」

このクルデーレさんの言葉を聞いて俺は念力女性が言っていた言葉を思い出した。

「ま、ということでよろしくな♪お三方。」

「「「・・・は?」」」

何がということでかはまるで分からないが、とにかくクルデーレさんは俺たちと行動を共にすることとなった。


~~~~~


「・・・ほう、ソロモン王国から生きて出てきたのか。」

「生きて出てきたって・・・。」

クルデーレさんは何が目的なのか知らないが、俺たちと一緒に旅をしていた。

「いや、あそこから生きて出てこれる者などこの時代には中々いないぞ?誇るがよい!」

「は、はぁ・・・。」

「で、新野は今まで誰と戦ってきたのだ?」

俺はこの時代に来てからのことを、なるべく未来人だと感じさせないよう大雑把にクルデーレさんに話した。

「・・・ふむふむ。」

そうしたところクルデーレさんは少し神妙な顔になった。

「・・・妙なクソガキにイモータ、ヨルディエ、ソロモン、ビジラか・・・。」

そして龍一達は意外そうな顔をした。

「新野お前・・・割とガチで四面楚歌だったんだな。」

「・・・まあね。龍一たちがあそこで来てくれなきゃマジでやばかったよ。」

そうして話をしていると、神妙な顔で暫く黙っていたクルデーレさんは驚きの一言を俺たちにぶつけた。

「・・・お前たち、能力者か?」

「え・・・?」

「さっき言っていた経緯が本当なら新野。お前は一般の人間の枠を超えている。まず、最初のクソガキ。あいつは幼いながらも目に見えぬ力を放つ。常人では何も出来ずにやられるだろう。次にイモータ。あいつはソロモンの忠臣だ。ソロモン王国はあいつの存在があって成り立っていると言っても過言ではない。それを退けるのはもはや常人ではない。」

「・・・。」

「新野。まだ私に言ってないことかあるだろ?」

「ま、まぁありますけど・・・それはある事情で言えないんですよ汗。」

「・・・そうなのか?」

「はい汗。」

「・・・誰にも言わないと誓ってもダメか?」

「・・・はい。」

「・・・どうやら、その事情は私のような部外者に話すと何かが大きく変わってしまうような事柄らしいな。」

「・・・済みません。」

「よいよい。そのかわり、もっと面白い話を聞かせよ!」

「面白い話って言っても・・・。」

「それより、この時代の話を聞かせてくれよ!」

「この時代・・・?」

「ああ。俺たちクルデーレさんのこととかこの世界のことをよく知らねぇんだよ。」

「(時代・・・世界・・・成程、そういう事情か・・・笑。)そうか、なら話さねばなるまいな!この時代はどういう時代か!」

「頼むぜ!」

「まず、基礎知識として私のことから話そう!私の名前はクルデーレ!世間では大戦の英雄として知られている!」

「大戦の英雄?(自分で言ってて恥ずかしくねぇのか?このおばさん・・・。)」

「ああ!今の時代より20年ほど昔。世の中は争いに明け暮れていた。国々は今よりもずっと多く、戦いは苛烈を極めていた。その争いの時代を生き抜いた実力者ということでそう呼ばれている!」

「・・・ですが・・・英雄なのに・・・指名手配されているんですか?」

「そ・・・それは・・・。」

クルデーレさんはこの時あからさまに動揺していた。

そしてとても複雑な感情の動きを見せた。

「・・・あいつら・・・あの時は散々手伝ったのに・・・世が平和になった途端、お払い箱扱いしやがって・・・!」

「クルデーレさん?」

「・・・はっ!」

「だ、大丈夫っすか?」

「あ、ああ・・・。続けるぞ?とにかくそうした大戦が少し前にあった。そして今現在はその争いが遠い過去になりつつある。しかし、だからと言って前の大戦の時の記憶が消えるわけでもない。今はそうした微妙な時代なんだ。」

「・・・。」

「今の時代には押さえておかなければいけない情勢がいくつかある。最初はお前が盗みを働いたソロモン王国。あそこは小国で有りながら圧倒的な存在感を誇るこの世界で知らぬ者は居ない超軍事国家だ。」

「超軍事国家?」

「おまえたち。小国が何故大国に潰されるか分かるか?」

「そ、それは・・・数で劣るから・・・では?」

「ニーレイの言う通りだ。小国と大国では国軍の数がまるで違う。常識的に考えれば話にならない。だがソロモン王国にはその数の劣勢性を補う方法があるんだ。」

「・・・なんだよ。それは。」

「超常能力だ。あそこのイモータは驚異的身体能力を有している。それにあそこには最近我が弟子のヨルディエもいる。」

「え・・・弟子?」

「あ、言ってなかったか?ヨルディエは私の弟子だ。」

「(印紋術・・・弟子・・・マジかよ⁉)」

「・・・弟子とは何の弟子なのですか?」

「印紋術だ。知っているか?」

「えっ・・・!(マジかよ・・・ってことはこの人俺とニーレイの先祖じゃねーか!)」

「その様子だと知っているようだな。まぁ、何故知っているかは触れないでやろう。優しいからな!私は♪ま、そういうことでソロモン王国は超常能力を有する人間を抱える超常軍事国家。その力で大国と渡り合っているんだ。」

こうして俺たちはクルデーレさんからこの世界の情勢を一通り聞いていった。


~~~~~


「ソロモン王国にいこう!」

「・・・。」

何故か俺たちは世界から売られた喧嘩を正面から買うかのような、世界中を逆なでするかのような行動を、旅行感覚でクルデーレさんに強要されている。

それは何故か。

「新野!お前の強さを実際に見てみよう!」

とのことだった。

「いや、流石にそれは・・・汗。」

「そ、そうだぜ汗。クルデーレさん。何も火の中に自分から飛び込むような真似はよ・・・。」

当然俺たちはそんな旅行のツアー感覚のクルデーレさんの提案を断った。しかし・・・。

「心配するな!もしヤバくなったら私が加勢してやる!」

と言って聞き入れてはもらえなかった。

「いえ、そういう事ではなくてですね・・・?」

ニーレイも加わってクルデーレさんを説得に当たったが、当の本人は

「お前たち・・・若いのに揃いもそろって情けないな!」

と、ひどくご立腹の様子だ。

ということで俺たちは、ほんと意味が分からないままソロモン王国へと向かうことになった。


~~~~~


「・・・おいおい。ヤバくねぇか?これ。」

「ああ。ヤバいだろうな・・・これは。」

「二人とも・・・どうせあともう少ししたらもっとヤバいことになるんだから、気にしてもしょうがないっすよ・・・。」

しばらく歩いた後、俺たちはソロモン王国の領土に近づいたのか、沢山の甲冑兵士を見るようになった。

しかし、その兵士たちは俺たちを襲うわけでもなく、かといって無視するわけでもなく一定の距離を保ちながらついてき続けていた。

「うむ!流石はソロモン王国の兵たちだ!」

クルデーレさんは何故か甲冑兵士たちに感心していた。

「・・・何が流石なんすか?」

「新野。お前は一度この国に来たことがあるのだろう?」

「はい。」

「そして、この国の兵たちと戦ったことがあるのだろう?」

「ありますけど・・・それが?」

「この国の兵たちは自他の力量をしっかりと分かっているということだ。もし今ここで自分たちが攻撃を仕掛ければ、この市街地がどうなるか。この国がどのようなことになるか。それが分かっているからこそ、この行動なんだ。」

「・・・俺たちに反撃されるのが怖いだけなんじゃねーの?」

「阿呆。そんな覚悟で兵士が務まるか。現に彼らがこうして私たちと同じスピードで歩くことでここに住まう人々にとっては私たちとの壁になっていて、私たちは容易に市井の者には手出しできない構図になっている。それに数名の兵士が国王の居る王宮へ走っていくのを見た。恐らく今頃精鋭たちが私たちを迎え撃つ準備をしているぞ?」

「えぇ・・・。」

「・・・今からでも・・・戻りませんか?」

「ならん!」

ということで、俺たちは嫌々ながら、ソロモン王国の中心へと歩き続けた。


~~~~~


「うわぁ・・・。」

俺たちがあの忌まわしき噴水広場に着くと、忌まわしきお三方が既に万全の状態で待ち構えていた。

「久しぶりだな。盗人。」

ソロモン王は万全の装備で俺たちにそう言って来た。

「(・・・クルデーレ様⁉)」

「よう、不肖の弟子。ヨルディエ。」

「ん?ヨルディエ、知り合いか?」

「・・・。」

「おいおい、まさかソロモン王国の忠臣ともあろう奴がもう一人の国際指名手配犯の顔を忘れたのか?」

「・・・まさか、クルデーレか?」

「その通り♪」

「(・・・顔は手配書で知ってたが、思っていたより随分と小柄じゃねぇか。)」

「・・・丁度良い。お前もまとめて刈り取ってくれる。」

「私を倒そうとする心意気はよいが、その前に越えねばならん壁があるぞ?ソロモン。」

「その子供らか?」

「そうだ。」

「実力は知らぬが、そんなものは一刀で仕留めてしまえばいいことだ。」

そう言うとソロモンは指輪を取り出した。

「龍一!ニーレイさん!来るぞ!」

俺がそう言った途端、ソロモンはニーレイの首元に長剣を振り抜いていた。

しかし、その振り抜いていたはずの長剣は首元に入る直前に小さな守印で止められていた。

「・・・!」

「ニーレイ。もう始まっている。気を引き締めろ。」

「は・・・はい!」

俺たちはソロモンの攻撃の速さにビビりながら一歩後ろに下がった。

「(・・・これが噂に聞く目に見えぬ力を使う大戦の英雄クルデーレの力か。)確実にはねたと思ったのだがな。」

「なに、起こりを止めてしまえば防ぐのに大した力はいらんわ。それよりヨルディエ。お前は戦わんのか?」

「・・・。」

ヨルディエは力の師匠がいることで、とても動揺していた。

「ヨルディエ。・・・どうすんだ?」

しかしイモータの問いかけに一息つき彼女の決意は固まった。

「・・・ふぅ。クルデーレ様と言えど、今の平和を脅かすなら容赦はしません!」

「よく言った。じゃ、新野!頑張るのだぞ♪」

そう言ってクルデーレさんは焚きつけるだけ焚きつけて、高みの見物を決め込んだ。

「ということだそうだ。盗人。仕切り直しといこう。」

そう言うとソロモンはバク転で後ろに下がり着地した瞬間、またしても距離を詰めてきた。

「守紋!」

龍一はソロモンの一振りを守紋で止めた。

「攻紋!」

そしてニーレイは攻撃を防がれ隙が出来たソロモンに攻紋を叩き込もうとした。

しかし。

「強硬印{連}!」

ニーレイの攻紋はヨルディエの三つの強硬印によって防がれてしまった。

「させん!(しかし、何だ?あの力は・・・。)」

「(・・・あれは、印紋術か?)」

「・・・成程。そなたらも超常持ちか。」

そう言ってソロモンは龍一によって防がれた薙の攻撃体勢から手首を切り返し、刀を振り上げ、そのまま守紋の外側から唐竹を繰り出した。

『動くな。』

「!」

俺はソロモンに集中してフェアの神力言語を放った。

「助かったぜ!」

龍一はその隙にソロモンと間合いを取った。

しかし。

「その言葉はまだ早いんじゃないのか?」

そう言ってイモータはヨルディエの強硬印を足場にして龍一に横から切りかかった。

「守柔軟紋!」

龍一は守紋に柔軟印の効果を付与した印紋術でイモータをトランポリンのように弾き飛ばそうとした。

しかし、龍一の出した守柔軟紋はイモータの突進の威力によって亀裂が入り、イモータは弾き飛ばされることなく攻撃の威力だけが相殺される形となった。

「終わりだ・・・!」

イモータは龍一の心臓目掛けてスパタを突き刺した。

「まだだ。」

俺は龍一の前に空間移動の渦を出現させ、龍一に突っ込んだイモータを初期地点へと戻した。

「(・・・。)」

「はっ!」

謎の声が聞こえると、何故かソロモンは神力言語の拘束から抜け出していた。

「(今だな。)攻硬爆印(連槍)!」

ヨルディエはソロモンに気を取られている俺たちに、槍の形をした赤い印紋を雨のように降らせてきた。

「・・・。」

「待て。」

「え?」

「俺に考えがある。」

そう言うと、龍一はあることを耳打ちしてきた。

「・・・分かった。空間転移!」

俺はヨルディエの槍の雨を空間転移によって宇宙に飛ばした。

「新野!お前はまずあのやべぇ王様を何とかしてくれ!」

「分かった!」

俺はモードイプノの全力の念力でソロモンを攻撃しまくった。

しかし、ソロモンは俺の飛ばした念力を全て刀でいなすという、今までで一番の離れ業をやってのけた。

俺はその離れ業に驚きつつも、攻撃を緩めることなく、催眠の力を併用した。

「・・・!」

そうしたところ一瞬だけ、ソロモンの精神の中に入ることに成功したが、すぐに追い出されてしまった。

だが、精神に入ったその一瞬だけソロモンの念力いなしは止まり、ソロモンはモロに念力を食らって、死にはしなかったが、戦闘不能となった。


~~~~~


「攻印{槍}!」

「守印!」

「はっ!」

「強硬印!」

俺とニーレイは新野がソロモンを倒すまで持久戦をしていた。

「攻印{剣}!」

「強硬印!」

「・・・ふぅ。そろいもそろって弱ぇな。お前ら。」

「そんな分かりきった挑発など効かんぞ?」

「いや、イモータの言っていることは挑発ではなく事実だ。」

「あのしんのとかいう奴はソロモン王を含む我らと相手をしていたぞ?」

「・・・そうかよ。」

「龍一!ニーレイさん!」

「戻ったか!」

「なっ・・・。」

俺とニーレイは新野が戻って来たのを皮切りに、次の作戦を開始した。

「行くぜ!新野!」

「はいよ!」

そう言うと新野はヨルディエとイモータの周囲を空間移動の渦で埋め尽くした。

「(あれはたしか、場所が入れ替わる渦か・・・。)」

「(あれで、何をしようというのだ・・・?)」

二人が訝しんでいるのを気にせず、今度はニーレイが新野に向けてある印紋を放った。

「空間紋{斥}!」

ニーレイは新野が出現させた入りの空間移動の渦にありったけのあるものを入れまくった。

「これは・・・!」

それは俺たちがヨルディエから受けた印紋である。

この作戦は俺がヨルディエの出した無数の印紋を目にした時から始まっていた。まずは新野にあからさまに空間転移と叫んでもらうことで、俺が密かに空間紋{引}を発動したことを隠した。

そして、新野と一旦離れた後も、飛んでくる印紋は俺が守印と叫ぶことでこれまた空間紋{引}を発動したことを隠し、コツコツと吸い取り続け、攻印{剣}といった直接使用者と触れている印紋は万が一にでも吸い取っていることがばれないように、ニーレイの強硬印でいなしながら、新野が再び戻ってくるまでの準備を整えた。

「くっそ・・・。」

イモータは空間移動の渦から出てくるヨルディエの印紋を全てスパタでいなし始めた。

ヨルディエは自身の周囲に複数の強硬印を出現させた。

ドドドドドドドドドッッッッ!

「・・・ッ!・・・——————。」

どうやら、俺が吸ったヨルディエの印紋の中に爆印付与の印紋があったようで、イモータがいなしている途中でその印紋は連鎖爆発をおこし、その爆発の影響でイモータは黒焦げの状態で立ったまま気絶した。

「(・・・まさか、私の印紋を出してくるとは・・・どういうことだ・・・⁉)」

ヨルディエは強硬印で防いでいたこともあり、ほぼ無傷であった。

立場こそ逆転したが、俺たちは抑々戦い慣れていないこともあり、疲労はピークに達していた。

「(・・・成程な。)」

俺たちが無言で向き合っていると突如クルデーレさんが口を開いた。

「・・・帰るぞ。」

「え⁉」

「・・・ヨルディエ。その二人。早く介抱してやらねば死んでしまうぞ?」

「・・・しかし。」

「ヨルディエ。人が先か国が先かよく考えろ。ここで小さなプライドに拘れば救える者も救えなくなるぞ。先人と同じ過ちは犯すな。」

「・・・。」

「では、新野。この国を出よう。」

「え、でも・・・。」

「東洋には“窮鼠猫を嚙む”ということわざがあったな。ジャポネーゼのお前ならこの言葉が何を意味するかよく分かるだろう。・・・弱者をあまり追い詰めるな。」

「!」

クルデーレさんがそう言った瞬間、ヨルディエという人から激しい殺意を感じた。

「・・・分かりました。」

そうして俺たちはソロモン王国を後にすることにした。


~~~~~


「・・・。」

俺たちはソロモン王国を出た後、何とも言えない空気の中歩いていた。

当然だ。今回は前回と違い普通に国を脅かしたのだ。

しかも理由は俺の力が見たいという、クルデーレさんの一種の享楽のようなもので。

「(・・・。)」

「・・・クルデーレさん。」

「・・・何だ?」

「今回はやりすぎなのではないでしょうか?」

「・・・かもな。」

「かもなってよぉ・・・!」

「だが!お前たちとあいつらが戦い、あいつらが負けた。これは事実だ。」

「・・・それが何なんだよ。」

「・・・お前らは、生きることについてどう考えている?」

「・・・どうとは?」

「人間は生きれるのが当たり前か、生きれなくて当たり前かどちらだと思う?」

「そりゃあ・・・よっぽどのことが無けりゃ生きれることが当たり前・・・なんじゃねーの?」

「ニーレイ。お前は?」

「・・・私は・・・生きるには力が必要だと思います。」

「・・・だから?」

「どちらかと言えば・・・生きれないのが当たり前・・・だと思います。」

「そうか。私もニーレイと同じ考えだ。歴史から考え、人間は今の時代のように朝当たり前のように起き、夜は心穏やかに眠るといった今なら当たり前と言える流れが当たり前に成り立たなかった時間が多くある。だが、ここで立ち止まって考えると、少し違った見方がある。」

「・・・違った見方って何のですか?」

「当たり前に対する見方だ。先程私は朝起きて夜は眠ると言った流れが当たり前と評したが、実はこれは当たり前なんかじゃなく奇跡だとしたらどうだ?」

「奇跡って・・・そんな何かにすがるような考えってよ・・・。」

「だが、少し前まで私は寝ることにはとても躊躇する生活を送っていた。」

「・・・それは、寝こみを襲われるからですか?」

「ああ。争いが絶えない中、人が油断する代表的なものは食事時と寝こみ時だ。まぁ、人間はそうした紆余曲折を経て今の平穏を手に入れたわけだが。」

「・・・で、それが何なんだよ。」

「本題はここからだ。今の平穏。これを成り立たせるには何が必要だ?」

「・・・わかんないっす。」

「力だ。この世は弱い者は排され、強い者は君臨し続ける。人間に限らず生命はそうして今日まで道をのばしてきた。だからこそ生命として残るにはある程度の強さは必要不可欠だ。」

「・・・だから、勝った負けたが重要だと?」

「ああ。勝たなければその先に持つのは滅びだ。ソロモン王国は先ほど一度滅びたと言っても過言ではない。」

「・・・つまり、ソロモン王国への教訓として俺たちを向かわせたと?」

「半分はな。あの国は長らく小国で立ちまわってきた外部から見れば優れた国家だ。だが、その優位性は長らく続けば驕りになる場合がある。平穏な時代を強者が過ごすと誇りが驕りになる。実際、先程のソロモン王には慢心があった。確かに超常持ちにしては多少の研鑽が見られたが、それでも超常持ちの強さはあんなものではない。国王があのざまでは滅びるのも時間の問題だ。それに仮にも我が弟子の一人を抱えてるんだ。あの程度で強国とは名乗ってもらいたくない。」

「(・・・そうか、クルデーレさんがここまで真剣になってるのって、自分の弟子の為でもあるんだ。)」

「(・・・ただの狂人かと思ってたけど、ちゃんと考えることは考えてるんだな。)」

「・・・ま、新野が出来る奴ということは分かった。それに、お前たちが印紋術を使えるということもな♪」

クルデーレさんはしんみりとしながらもちゃっかりと俺たちの力を図っていたのだった。


~~~~~


「うめぇ~~!」

俺たちはクルデーレさん持ちで定食屋に来ていた。

「ごちそうさまです!」

「よいよい♪(・・・にしても、二つに分かれた印紋術がまさかこんな形で続いているとはな。)」

「あ、それ俺が食べようと思ってたやつ!」

「良いじゃんかよ~~いっぱいあるんだから。」

「貴様ら、これがクルデーレさんのおごりだということを忘れるなよ?」

「分かってますよ汗。」

「(生き残る為に身につけた術が、こいつらの時代では生きる道の一つとなっているのか・・・捨てたものじゃないかもな。)よし、お前らそろそろ勘定だ!」

「「「はい!」」」

そうして俺たちは久々に腹いっぱい食べた。


~~~~~


「次は何処に行くんですか?」

「どうするか・・・。」

俺たちは次の国に向かう為、まっさらな平原を歩いていた。

「(・・・ここは、今も変わっていないな。)」

俺たちが平原を歩いていると、突如空が暗くなり始めた。

「・・・なんか寒くなってきたな。」

「そりゃ、天気が悪くなってきたからな。」

「(天気・・・まずいな。)守印。」

そう言うとクルデーレさんは突如直系30mほどの守印を空に向けて出現させた。

そして、クルデーレさんが守印を出現させたのと紙一重のタイミングで何故か俺たちに向けて集中的に雷が連続して落ちてきた。

ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!

「え、雷⁉」

「・・・おまえたち。敵襲だ。構えろ。」

クルデーレさんがそう言うと今度は大地の一部がまるで切り取ったかのように剝がれ、その剥がれた土壁はそのまま起き上がり、俺たちを左右から挟み込もうとした。

「攻印{滅}。」

クルデーレさんは左右に手を構え、挟み込もうとしてきた土壁を一瞬にして消し炭にした。

「(いったい、何が起きてるんだ・・・⁉)」

俺たちがまったく状況を把握できないまま困惑している間も、目に見えない何かとクルデーレさんの攻防は続いた。

「(・・・次は。)」

今度はクルデーレさんが相殺した土壁の砂がひとりでに動き始め、最終的には砂嵐になり、俺たちの視界を遮った。

「(これはやばいな・・・)守強硬印{球}。」

クルデーレさんは砂嵐の中、球体状の守印を出現させ、その中に自身と俺たちを囲った。

その直後、何と全方位から雷が守印に降り注いできた。

「おまえたち!簡潔に問う。五神家は知っているか⁉」

「え、あ、はい!」

「よし!今私らを襲っているのはその五神家だ!お前たちがやるべきことは一つ!自分の身は自分で守れ!」

「わ、分かったぜ!」

クルデーレさんは珍しく余裕のない表情を見せ俺たちにそう言った。

そして、暫くして雷と砂嵐が止み視界が晴れると、9人の男女が俺たちを囲うように立っていた。

「・・・やはりお前か。クルデーレ。」

「先の大戦では随分と世話になったな。」

「誰だ?お前ら。」

「忘れたか?我らの名を。」

「五神の者だろう?それは知っている。」

「じゃあ何故聞いた?」

「何の用だと聞いたのさ。」

「今更お前に用はない。」

「用があるのはそこの小僧だ。」

「・・・成程。この平和な時代に今更傭兵の真似事か。笑わせてくれる。」

「平和な時代?お前こそ笑わせるな。今の何処が平和な時代なんだ。」

「あれからそんなに経ってはいないはずだが・・・まさか忘れたのか?」

「あのクルデーレがそんな小僧を連れ回して何をしている。焼きでも回ったか?」

「焼きが回ったというならお互い様だろう。昔ならこんな手ぬるい攻撃で姿は現さなかったはずだが?」

「・・・確かにな。年を取って感覚が鈍ったのかもしれん。」

「そうか笑。」

そう言うとクルデーレさんは9人の五神家たちの足元に印紋を出現させた。

「攻爆印(連)。」

「上地。」

「天通水。」

「流雷。」

そう言うと9人の五神家は一歩後ろに下がり、クルデーレさんの印紋の範囲から外れた後、足場を城堂家の人が上げ、同時に檜河家の人が空の雲からクルデーレさんの印紋へと一直線に繋がる水を垂らし、その水を通すように建侯家の人が雷を放ち、クルデーレさんの印紋は相殺された。

そして建侯家の雷とクルデーレさんの印紋の相殺で周囲は爆煙に包まれた。

「攻印{穿}(連)。」

クルデーレさんは爆煙の中、爆発前に見た五神家たちとの距離感と当てずっぽうから槍とも剣とも似つかぬ尖った印紋を9本手の内に出現させ、それらを全力で放り投げた。

「流砂。」

クルデーレさんの印紋が爆煙の中に消えた瞬間、突如爆煙は砂嵐によってかき消され、その際にクルデーレさんの印紋も一緒に相殺された。

「お前たち。一瞬でいいから同時に飛べ。」

「え・・・あ、は、はい汗。」

俺たちはクルデーレさんに言われた通りその場で大繩を飛ぶかのように一瞬ジャンプした。

「守強硬印{球}(連)。」

クルデーレさんは俺たちが一瞬ジャンプして地面から足が離れた際に、足場も含めて自身と俺たちを死角ゼロで球体状の印紋を二重に出現させ囲った。

そしてクルデーレさんが俺たちを印紋で囲った瞬間——。

「線針水。」

「鋭岩石。」

空から裁縫の糸程の水と地面から同じく糸程の岩?が無数に俺たちに向かって来た。

ギリギリギリギリギリギリッッッ!

「・・・仕留めたと思ったが。」

しかし裁縫の糸程の水と砂はクルデーレさんの印紋に当たると、滑るように逸れて流れていった。

それはまるで盾で剣を受け流すかのように。

「ここまでが定石・・・だったのだろう?」

「・・・ああ笑。」

五神家の人がクルデーレさんの問いかけに嬉しそうに笑うと、逸れた無数の水の糸は数本ずつ太い一本の糸のように重なり、再び軌道を俺たちに向けてきた。

「鋭岩槍。」

「爆雷。」

檜河家の人の攻撃が俺たちに届くのに合わせて、城堂家の人が俺たちに先程より太い岩を地面から伸ばし、建侯家の人たちが触れた瞬間に爆ぜる雷を雨のように降らせてきた。

ドドドドドドドドドッッッッッ!

・・・バリッ!

「(やはり一つは割れたか・・・。)」

五神家の人たちの猛攻により、クルデーレさんの二重に発動した印紋は一つ割れてしまった。

「・・・。」

「(なんてレベルの攻防だ・・・。)」

「(これが、この時代の・・・いや、争いの絶えない時代を生き抜いた人たちのレベル・・・。)」

息をのむような緊張感の中、クルデーレさんたちと五神家の人たちがにらみ合っていると、暫くして五神家の一人が口を開いた。

「・・・どうやら、早かったみたいだな笑。」

「・・・何がだ?笑。」

「ここに来るのがだよ。」

「だろうな。」

「次はその小僧たちも戦えるようにしておけよ。」

「・・・考えておく。」

クルデーレさんがそう言うと五神家の人たちは瞬く間に退いて行った。


~~~~~


「・・・。」

「・・・大丈夫か?」

「えぇ・・・まぁ・・・。」

俺たちは五神家の人たちのあまりの強さに暫く心ここにあらず状態に成っていた。

「あれが、超常持ちの本来のポテンシャルだ。」

「・・・そうなんですね。」

「今なら分かるだろう。ソロモン王国が如何に危うい状態にあるかを。」

「・・・あの人たちって、五神家の中でどれくらい強いんですかね?」

「そうだな・・・五神家の中でどれ位強いか分からないが、恐らく直系でないことだけは確かだな。」

「直系・・・ってなんだ?」

「五神家には其々の一族に筆頭家族というものがある。それを直系という。この通称直系家族はそれ以外の同族家系をまとめるだけあって、皆化け物ぞろいだ。特に水と風は化け物で私がまだ23の頃には、敵兵の首を片っ端から刈りと取る風使いがいたほどだ。12歳の時にも体内の水分を蒸発させる常識離れした水使いがいた。何をどうやっても勝てない。そうした相手が直系にはゴロゴロいた。逆に派系にはそうした者は少なかった。私がお前らをかばいながら戦えた時点であいつらはそんなに強くない。大方、指名手配の関係で招集された埋め合わせの傭兵擬きと言ったところだろう。」

「・・・。」

俺たちはクルデーレさんの語る強さが、過去であるにもかかわらず遥か先を行っているような気がしてならなかった。


~~~~~


「お姉ちゃん、これって・・・!」

「うん!間違いない・・・!」

過去でとりあえずの安住地を見つけた私たちは、最近ほぼ毎日先守さんの持ってくるこの時代の新聞に目を通していた。

そして今。その新聞に挟んである一枚の全国指名手配の紙にとても見覚えのある人相が書き写してあった。

「この顔って・・・新野さんだよね?」

「そうだよ!あいつだ・・・!」

「三姉。新聞にはなんて書いてある?」

「読むね?・・・ソロモン王国襲撃の大罪人。しんの。この者はソロモンの治める国において盗みを働き、逃亡を図った大罪人である。同人はソロモン王国にて市井の者の売買品を強奪し、国の騎士たち数十名を言葉の女神フェアのような謎の強制力のある言語を用い退ける。その後、兵団長イモータと冷刻のヨルディエ。ソロモン王の追撃も最強神フォールのような立ち回りにて同じく退ける。目的は不明。この未曾有の事態により各国はこの者を世界の脅威としてクルデーレに次ぐ世界的指名手配犯とすることを決定した。」

「新野さんが・・・?」

「何やってんの⁉あいつ・・・!」

「お姉ちゃんちょっと待って。まだ続きがある。・・・手配後もしんのの暴走は止まることを知らず、その後は隣国であるパエチェローゼにて国王と市街地で戦闘を繰り広げる。パエチェローゼでの暴走後はこの騒動の一味と思われる男女2名とクルデーレを新たに加え、再びソロモン王国を襲撃。その後は姿を晦ましている。」

「男女2名って・・・。」

「きっと龍一とニーレイじゃない?」

「でも、何でクルデーレって人と一緒にいるんだろう?」

「あれ、早苗ちゃん。どうしたのかな?」

「あ、先守さん・・・。」

私たちは先守さんにこの指名手配の人物が知り合いで、その人と会いたいという旨の話をした。


~~~~~


「・・・成程。」

私たちは、話し終えた後、少し後悔していた。

何故なら、先守さんからしてみれば私たちが智之さんと同じ如月だとしても、犯罪者と知り合いという奴はどう考えても立場的にヤバいからだ。

私たちがおびえながら先守さんの返答を待っていると、先守さんは意外な表情で口を開き始めた。

「・・・まったく。昔から何を考えているのやら・・・。」

「・・・え?」

「あ、いや、こっちの話だ汗。・・・そうだね。早苗ちゃんたちはこの新野という人間と知り合いなんだね?」

私は覚悟を決めて返事をした。

「・・・はい。」

「・・・まず。私はこの事実を知ってもどうこうする気はないから安心してくれ笑。」

「え・・・?」

「犯罪者と知り合いであるということだけで咎められるなら、まず私からだろう。なんせ、師匠が犯罪者だからね笑。」

「あぁ・・・。」

「よってそこは気にしていない。けど、君の知り合いが私の師匠と行動を共にしている・・・ここにはすごく引っかかっているんだ。」

「・・・というと?」

「前にも話したと思うけどクルデーレは子供っぽい人だ。普段から欲望のままに動く人だ。よって彼女は自分の興味ある事柄にしか惹かれないし、興味のある人としか付き合わない。」

「・・・クルデーレさんが興味を持つ事柄って何ですか?」

「力だね。」

「?」

「もう少し分かり易く言うと強さ。人なら強い人が大好きだ。彼女は今よりも危険な時代を生きてきたせいか力に強いこだわりがある。もちろん私も力は大切だと思うけど、私や早苗ちゃんたちは知っている。力が無くてもそれなりに生きていける世界の一端を。けど彼女はそれを知らないんだろう。近頃この世界は本当に平和になった。けど私が彼女に力を教わっていた時代は本当に危険でいっぱいだった。街を歩けば奇襲は当たり前。しかも私やヨルディエは当時12歳かそこらだった。子供なんて恰好の的だ。遠くない未来に自分を殺すかもしれない若い芽を摘むのにも都合がいい。そんな当たり前が当たり前じゃなくなっていく時代が来ることに師匠はとても悲しそうな顔をしていたよ。きっととても困惑しただろう。戦いに人生を捧げた人が、戦わなくていいと言われた。これから先自分はどう生きて行けばいいのか、自分なら考えてしまう。私も少しはその気持ちが分かる。・・・そんな人が君の知り合いと一緒にいるということは、君の知り合いは師匠の何かに引っかかったんだろう。」

「・・・。」

「その新野という人はどういう人なんだい?」

「・・・。」

私は新野がこの世界で言われている神を使役出来ることを先守さんに話した。


~~~~~


「・・・成程ね。」

先守さんは少し嬉しそうにそう言った。

「・・・さて。早苗ちゃんたちはその新野君に会いたいんだったね?」

「え?あ、はい!」

「じゃ、私と一緒に西へ行くかい?」

「え、いいんですか⁉」

「ああ。私ならクルデーレも話を聞いてくれるだろうし、何故君の知り合いと一緒にいるのかも分かる。ウィンウィンというやつだよ♪」

ということで私たちは先守さんと智之さんを加え新野たちがいる西の地へと渡ることとなった。


~~~~~


「・・・このしんのは君たちの友達なのかい?」

「はい!」

「この指名手配犯がか?」

「そうなんです!・・・おかしなことを言っていると思うかもしれませんが・・・。」

「・・・正直困惑してますけど、漿郗さんがどういう人か私は今まで一緒にいてよくわかっているつもりです!だから・・・!」

「漿郗ちゃんたちがこのしんのって人と会うのに協力したいの?」

「はい!」

「俺も風太たちがどういう奴らかはよく知ったつもりだ。」

「風太さんは悪い人ではないと思います!」

「・・・ふぅ。分かった。協力しようじゃないか。」

「あ、ありがとうございます!」

「ねぇ、私たちがあの地に渡るのって何年ぶり?」

「ざっと20年ってところね。」

「・・・確かあの地には目に見えない力を使う人間がいたわよねぇ。」

「今もいるのかしら?」

「居るんじゃない?だって私たちは生きているもの。」

「私は父さんのように、体の水分を飛ばすなんて出来ないからね?」

「それを言うなら、僕だっておじいちゃんみたいな風は使えませんよ汗。」

「蒸雨。颯君。今回はそんな物騒なことにはならないと思うぞ?」

「いや、霜太。それは分からない。あの地ではそうした油断が命取りだ。冷静に行くぞ。」

「やれやれ・・・無事に見つかるといいけど。」

ということで俺たちと直系の五神家は全員で西の地へ新野を探す為渡ることとなった。


~~~~~


「さて、何を手掛かりにどう探すやら・・・。」

俺たちは冷霧さん、蒸雨さん、塵鳳さんというかつて西の地で戦ったことのある大人たちを中心に新野の手がかりを探った。

しかし、成果はからっきしだった。

「まぁ・・・西の地は広いからねぇ・・・。」

「あまり気負わず気長に探そうぜ!」

「・・・そうですね。」

俺たちが少しがっかりしていると、水正さんが励ましの言葉をかけてくれた。

「私たちも微力ながら協力するからさ♪」

「(灯華さんも優しいなぁ・・・。)」

俺たちが灯華さんたちのやさしさに触れていると、先ほどから少し上の空だった塵鳳さんが真面目な顔でこう言った。

「・・・砂探知に反応アリよ。」

どうやら塵鳳さんは自然神の力で周囲に目に見えないほど細かい砂を薄く広げ、それを探知に使っていたようだった。

「どの方角だ?」

「全方位からものすごい勢いで何かが迫ってくるわ。」

「分かった。」

冷霧さんが塵鳳さんの言葉にそう返事すると同時に、何と周囲を死角ゼロで覆う炎が俺たちに迫って来た。

「水正。」

「あいよ。」

冷霧さんが水正さんにそう言うと、水正さんは俺たちと炎の間に水の壁を出現させた。

冷霧さんも水正さんと一緒に冷気を帯びた水を炎の間に出現させた。

「この人数で視界を遮られるのはまずい。蒸雨。飛ばせ。」

「分かったわ。」

蒸雨さんがそう返事すると、水正さんと冷霧さんが放った水と炎の反応によって発生した蒸気は一瞬にしてはれた。

そして、蒸気がはれた途端、今度はとても細い糸がまるで某有名ゾンビ映画のレーザートラップのように迫って来た。

「(この糸って・・・!)」

「(あれは・・・)あれは水だ。誰か行けるか?」

「なら私が・・・大火炎!」

冷霧さんが俺たちに問いかけると、灯華さんがそれに答え、水の糸は瞬く間に蒸発した。

「・・・どうやら、敵さんはどうしても姿を見せたくないみたいね。」

「・・・どうする?私たちの雷で周囲の森を打ってみる?」

「打つなら、霜太。あなたにして。」

「なんで?」

「あれを仕込んだから。」

「・・・もしかして。」

「そのもしかして。貴方達には忌まわしいあの技。」

「・・・あいよ。」

霜太さんがとても嫌そうに塵鳳さんに返事すると、何と周囲の森は何故か謎の爆発を起こし爆ぜた。

バババババババババババンンンンッッッッッ!

「塵鳳・・・あんた仕込みすぎ。」

「だって命を狙ってくるんだもの。殺される覚悟で来てるんでしょ?これくらい当然よ。」

そうして、周囲の森が一通り塵鳳さんと霜太さんによって爆破されると、その爆発の中から、9名の男女が転がり出てきた。

「まったく・・・同族になんて仕打ちだ。」

「最初にその同族に牙を向けたのはお前たちだろ?」

「なに、直系ならこの程度では死なんと踏んでのことさ。」

「こっちは子供を連れているんだけど?」

「子供を連れている程度でケガするなら、直系剥奪だろう。」

「・・・そうした考えは、20年前までにしてほしいな。」

「何を世迷言を・・・。」

「世迷言はどっちだ?私たちの決定は聞き及んでいるだろう。五神家共々争いは治めよと。今、時代は平和へと向かっている。それなのに何時まで争っている。世を迷っているのはお前たちの方だぞ?線雨。」

「・・・黙れ!」

線雨という女性がそう言うと、先ほどの水の糸を冷霧さんに向けて放った。

「鎌風・断。」

颯君がそう言うと、線雨という女性の水の糸は風がぶつかりはじけ飛んだ。

「・・・!」

「・・・線雨。お前はこれから先の時代も、このような子供を作りたいか?」

「・・・。」

「年端も行かぬ子供が、殺しが上手くなるような世界を作りたいのか?」

「・・・。」

冷霧さんがそう言うと、線雨という人はとても何かに後悔したような表情をした。

「・・・ここに何しに来たんだ。」

「ちょっと人探しだよ。」

「しんのという指名手配犯を探しているの。」

「・・・そいつなら、少し前にこの地から離れたと聞いている。」

「・・・そうか。」

「空振り、か・・・。」

「どうする?」

「勿論まだ探すよな?」

「(・・・風太くんたちの為にここまで来たが、これ以上はちょっとな・・・。)」

「・・・私たちは行く。」

「あ、ああ。」

「最後に一つ忠告だ。・・・平和を考えるなら、その人数での長期探索はおすすめしない。」

そう言って、線雨さんたちは姿を消した。


~~~~~


「・・・どうする?」

俺たちは、線雨さんたちと別れた後、新野をどう探すか・・・いや、探すかどうかを決めていた。

「どうするって、どういうことだよ?親父。」

「落ち着け水正。俺たちは何もこのまま永遠に探さないとは言っていない。」

「私たちは手がかりもなにもないこの状態で、闇雲に歩き回るのは良くないと言っているのよ。」

「この地にはいないって分かったじゃねえか。」

「けど、どこにいるかは分かっていないわ。状況としては探す前より危険なのよ。」

「なんでですか?」

「この地が今争いの真っ只中だからだ。加えてこの人数。捜索は基本1人でやるのが定石。グループで動くにしても最大4人が限度。それを今俺たちは何人で来ている?」

「・・・13人。」

「こんなもの、敵からすれば見つけてくれと言っているようなものだ。現に派系の同族に襲われた。彼らは9人と言っても一族ごとの総計は3人。敵地での行動はやはり少数でやるに越したことはない。」

「・・・そうですけど。」

「・・・でも、このまま闇雲に探し回るよりは一旦戻って情報を集め直した方が見つかる気がするわ。」

「お母さんまで・・・。」

「俺も天露と同意見だ。」

「・・・そうですよね。」

俺たちは俺たちの為にここまで頑張ってくれている冷霧さんたちをこれ以上危険に晒すわけにはいかないと感じ始めていた。

「大丈夫♪新野君はきっとまだ生きてるわ。なんせ世界的に指名手配されるほどですもの。」

「その指名手配ってそんなに凄いんですか?」

「・・・まぁ、ただの指名手配ならそんなに凄くないんだが、世界まで行くのはちょっとレベルが違うんだ。」

「レベル?」

「強さの格が違うのよ。・・・傭兵時代、私の父さんは西の地で目に見えない力を扱う一族を殺しに行っていたことがあってね。父さんは冷霧なら知ってると思うけど、体内の温度を異常に上げて怪我したところからの出血を止まらなくする技。それでいつも能力者を無傷で一掃していたのよ。」

「あのチート技か。」

「そう。で、その技でいつものように西に殺しに行ってたんだけどある日、いつも無傷で帰って来ていた父さんが片腕だけ焦げた状態で帰ってきたの。で、私ビックリしちゃって。誰にやられたのかって聞いたら“クルデーレという小娘にやられた。”って言ってたの。」

「・・・あなたのお父さん。クルデーレにやられたのね。」

「そうみたい。“あいつ、建侯家の技を放ちやがった。”って言って相当キテたわ。」

「そりゃ、当時10歳位の子供に怪我させられたなんて、プライドが許さないでしょうね。」

「・・・ま、世界的指名手配はそんなレベルだ。」

「そんなクルデーレと同じ世界的指名手配なんだから、心配はいらないわ。」

「今、風太くんたちが行わなければならないのは、自分の身の安全を確保しながら、彼らと会う為の情報を集める・・・これに尽きると思うよ。」

「・・・はい!」

俺たちは少し悔しかったが、それ以上に次の可能性に胸躍りながら一旦東へと戻ることとなった。


~~~~~


「クルデーレさん。私たちはいまどこに向かっているのですか?」

「お前たちにとっては安住の地だ。・・・まさかこんな形で訪れることになるとは思ってもみなかったがな。」

「・・・?」

俺たちは今、何にもない平原を突っ切っている。

クルデーレさんはついてこいとだけ言って、行く場所のない俺たちはそれに従うしかなかった。

「・・・戦いで大切なことは何かわかるか?」

「・・・え?」

「現状の把握と打開策の立案だ。お前たちは今の世界でどのような立ち位置か分かっているか?」

「・・・犯罪者でしょうか?」

「間違ってはいない。だが正解でもないな。今私たちの立ち位置は世界の敵だ。世界中が私たちを排そうと躍起になっている。これが現状だ。」

「(なんか、どっかの歌の歌詞みたいな状況じゃねぇか・・・。)」

「この状況で必要なものは何だと思う?」

「・・・わかんねぇ。」

「まずは、安住地の確保。誰も知らない且つ生活のできる地があれば理想だ。今向かっているのは、その理想に近い場所だ。」

そう言ってクルデーレさんはとても嬉しそうに笑った。

「そしてそこから、体制を整え仕掛けるんだ。・・・分かるか?」

「は、はぁ・・・。」

「こら、もっとシャキッとしろ!」

「は、はい!」

ということで俺たちはクルデーレさんと共にその安住地へと向かうこととなったのだ。

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