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同等条件世界{三章、排他の始まり}



「あれ?確か・・・。」

俺はいつものように学校から帰った後、イプノと話をしていた。

しかし、突然目の前が真っ白になり、気づけば見知らぬ外国に飛ばされていた。

「・・・イプノ。さてはまたやったな?」

イプノは時々俺を知らない場所に飛ばす。

理由は見たことない世界を知る為だとか言って。

旅費もかからない旅行だと思えばいいなんて言うが、そんな唐突な旅行は味気ないから俺は少し嫌だった。

しかし、今回の飛ばされ方は少し違った。

「あれ?靴がない・・・。」

いつもなら靴と一緒に飛ばされるのだが、今回はそれが無かった。

「ったく・・・いつも飛ばしてるから、だんだん雑になってるな・・・。」

俺が、俺自身の身に降りかかった異変に気付くのはもう少し後だった・・・。


~~~~~


「・・・どんどん来るわね。」

「・・・ああ。」

「どうする?ビランチ。」

「まずは使役者を使って正体を探るわ。」

「探って・・・どうする?」

「・・・この世界に害をなす存在なら、排除するわ。」

「今の所、如月のとこの小娘たちは上手く適応している。」

「それに、五神家の子たちも混血にこそ驚きしましたが、敵意はないようで一旦は落ち着きました。」

「さて、次はどうなることやら・・・。」


~~~~~


「(・・・ということだ。)」

「ほぅ・・・またですか。」

「(楽しそうだね。)」

「当然ですよ♪未知の存在にはいつも心躍らされる。」

「(ま、くれぐれも気を付けてくれ?何しろ彼らは得体が知れない。)」

「今回は一人でしょう?心配ありませんよ♪私の敵ではありません。」


~~~~~


「最悪だ・・・。」

俺はスラム街から落ちている靴を拾って無理やりはくことにした。

不幸中の幸いだったのは、靴下をはいていたことだった。

こんなの裸足でなんてはけねぇよ。

俺は不満たらたらで、飛ばしたイプノに文句を言ってやろうと思っていたところ、早くもその機会が訪れる。

「・・・彼ですか?」

「(ああ。まずは会話から——。)」

「あ!イプノ!」

「(⁉)」

「やっと見つけたよ・・・。」

「イプノ。これはどういうことですか?」

「(僕にも・・・分からない。“・・・どういうことだ⁉何故僕の名前を知っている。”)」

「・・・その子誰?」

「(初めて会った君に・・・“まて。何故会話が出来る⁉”)」

「初めてじゃないだろ?」

「(“・・・どうする。”)」

「・・・どうします?」

「(“・・・此処は一旦退いて、ビランチに判断を仰いだ方がよさそうだ。”ジオーネ。一旦退いてくれ。)」

「“・・・イプノが撤退を提案するとは・・・それ程なのですね。”分かりました。“ヒュプノ!”」

「“ヒュプノ⁉”イプノ・・・遊びにしちゃ冗談が過ぎるんじゃないのか?」

「(なっ・・・“ヒュプノが効かない⁉”)」

「イプノ。ここは肉弾戦主体に切り替えましょう。」

「(・・・その方がよさそうだね。)」

「はっ!」

千くんと同じくらいの少年がそう言うと、俺は強い何かで吹っ飛ばされた。

「痛っ・・・!」

「(“と言いながら、無傷か・・・。”)」

「・・・あなたは何者です?」

「何者?君こそ誰なんだ?さっきからイプノと一緒にいるけど・・・。」

「イプノ。ここは少し私に任せてもらえますか?」

「(・・・分かった。)」

「イプノ・・・あなたはイプノが見えるのですか?」

「“あ、そういや普通見えないんだっけ・・・汗。”あ、えっと・・・見えないよ?」

「・・・そんな嘘が今更通用すると思いますか?」

「・・・やっぱり?」

「もう一度聞きましょう。あなたは何者ですか?」

「人に素性を訪ねるならまずは自分からって学校で習わなかったのか?」

「・・・やれやれ、何処かの探偵と同じことをいいますね。」

「その探偵って誰だよ?笑。」

「ディクーチェ・オビリオですよ。」

「え?“確かその人って・・・”何百年も昔の人が何で探偵だって分かるんだよ笑。」

「何百年?・・・彼女は今の時代を生きていますよ?」

「そんなはずないだろ笑。」

「何故そう思うのですか?」

「だって、生前の著書が教科書の一つになってんじゃん。」

「・・・その著書の名前は?」

「言葉の使い方。」

「・・・その本はここ最近、ビジラ王、ソロモン王の元から売り出されたものですが?」

「・・・は?」

「・・・はい?」

「・・・え?“なんか割とガチで疑問を呈されている・・・。”い、イプノ!お前なら分かるだろ⁉」

「(・・・悪いけど、僕は君のことを知らない。ジオーネ。)」

「分かりました。念力圧縮弾。」

ジオーネという少年の言葉に危険を感じた俺は、咄嗟に天使の力を使った。

「モードグラント!」

「⁉」

モードグラントとは俺が使役者の始祖たちに教わった天使の力の使い方である。

このモード○○は使役の対象となる天使が近くに居ずとも、天使の力をある程度行使する形態なのだ。

と言っても、始祖たちにはかなり劣るし、始祖たちと同じように天使の体の使い方の癖を自身の体に覚えこませただけに過ぎない。

それでも、その効果は絶大だった。

「・・・何故、何ともない⁉」

「同じ念力で防いだんだよ・・・!」

「なら・・・念力圧縮連弾!」

「瞬間移動!」

「くっ・・・。」

「(“やっぱり同じだ・・・あいつが叫んだ天使の力と!”ジオーネ!もう力を削ぐことは諦めるんだ!)」

「・・・了解です!」

そう言うと、イプノとジオーネという少年は突然姿を消した。


~~~~~


「ビランチ!見ていたかい⁉」

「見ていたわ!」

「とんでもねぇ事態だ。」

「ああ。まさかお前の名前を知っているとはな。」

「それにグラントの力も僅かながら使用していました。」

「あまりにも想定外だ・・・。」

「どうしますか?ビランチ。」

「・・・とても不気味なんだけど、まだ世界に害をなすと決めるのはいささか早計な気がするのよね・・・。」

「僕は・・・早めに排除した方が良いと思う。」

「・・・イプノ。」

「君も見ただろ?あの力。あいつがモードグラントと叫んだと同時に何かのスイッチが入ったかのように天使の力を使い始めた。」

「・・・何なんだろうな。あいつは。」

「・・・とりあえず、今はまだ判断には早計よ。だからこのまま使役者で牽制をしつつ、更に情報を探るわ。」

「了解だ。」


~~~~~


「・・・流石に腹減ってきた。」

俺は、ジオーネ少年と戦った後、近くの小国に立ち寄った。

しかし、突然飛ばされた為、金はなかった。

なので俺は、売り物じゃなさそうなそこらへんに落ちている食べ物を取って食べることにした。

「一番きれいそうなのは・・・これかな!」

「あっ・・・!」

「ん・・・?」

俺はたまたま近くに居た人にビックリされたが、それを気にせず素通りしてしまった。

「ど・・・泥棒ーー‼」

「えっ⁉」

俺は某モンスターダンジョンの如く、近くにいた人に叫ばれた。

俺は最初自分の身に何が起きたのかよく分かっていなかった。

「くっそ・・・何だ、一体・・・⁉」

俺が見知らぬ人に泥棒呼ばわりされながら逃げ、周りを見渡してみるとどういう事かはすぐに察しがついた。

「(・・・どこもかしこも食べ物やら飲み物が無造作に置いてある・・・そういう事か!)」

どうやら俺は無自覚にも盗みを働いた形になっていたようだ。

俺が落ちていると思った食べ物は実は売り物で、俺は周囲の人から見たらその売り物を盗んだ泥棒に見えていたのだ。

「(ったく・・・売り物ならもっと大切そうに置いておけよな・・・!)」

俺は泥棒の見本市のような不満を心の中で呟きながら、とりあえず逃げた。

不幸にも売り物は腹の中。金はない。その中で俺が取れる選択肢はただひたすらに逃げることだけだった。


~~~~~


「・・・済みません。デチーレさん・・・!」

俺はフォールの力を使って、何とか泥棒騒動の中から逃げることに成功した。

しかし、すぐに落ち着けると思ったのも束の間、騒動は更に大きくなって俺の前に立ちふさがった。

「貴様だな。我が国で盗みを働いた輩というのは!」

「・・・誰っすか?」

「我々はソロモン王直属の兵士団だ!」

「我らの国で悪事を働くなど身の程知らずにもほどがある!」

「ソロモン王・・・?」

「我らの王の名を知らぬとは・・・まあよい。貴様は我が主のもとで裁きを受けるのだ!」

「やべっ・・・!」

直感で捕まったらヤバイと思った俺はまたしてもフォールの力を使い、逃げた。

「あっ!待て!」


~~~~~


「・・・しつこいな!」

甲冑を着た兵士たちは思いのほか体力があり、暫く追いかけてきた。

それどころか、逃げれば逃げるほど数が増えるという優秀ぶりを発揮した。

「(こりゃ、逃げるだけじゃ埒が明かないな・・・!)」

そう思った俺は、フォールの力でそのまま兵士たちの中心に行き、フェアの神力言語を使った。

『動くな。』

「・・・!」

この神力言語は現代で言えば呪言だ。

言霊ともいうのだろうか。

この言霊はサラン・ヴァティーラさんから教わったもので、使用方法は心を込めて言葉を発することだそうで、その力は他の始祖たちも微妙な顔をしながらも認めていたほどだった。

「何だ・・・全然使えるじゃないか・・・!」

ビュージュさんたちが微妙な顔をしているから大したことのない力なのだと心のどこかで考えていたけどそんなことはなく、俺を追いかけていた殆どの兵士の動きを止めてしまった。

「なっ・・・どうした⁉」

「体が・・・動きません!」

「よし!今のうちに・・・!」

俺は兵士たちが混乱している間に何とか逃げおおせた。


~~~~~


「・・・ふぅ。」

俺は大きく開けた噴水の近くで腰を落ち着けていた。

「疲れた・・・。」

俺が腰を落ち着けていると、何故か段々と人気が無くなっていた。

そのことに気づいた俺が周りを見渡すと、驚くべきことに、さっきの甲冑兵士たちが壁を作り、噴水の周りを逃げられないように立ち尽くしていた。

「(何だ?これは・・・。)」

置かれている状況に驚いていると、甲冑兵士の中から一人、こちらに向かってくる存在がいた。

「・・・お前か?魔言を使う人間は。」

「・・・誰だ?」

「俺はイモータだ。」

「・・・イモータ?」

「何だ?」

「イモータって・・・ソロモン王国のイモータ?」

「ほう・・・どうやら俺のことはご存じのようだな。」

「(はっ?一体どういう・・・。)」

俺はこの時、初めて自分がいるのが現代ではなく過去だということに薄々ではあるが勘づき始めた。

「えぇ・・・マジで?いや、でも・・・。」

「お前。フォールは知っているか?」

「ああ知っているよ。最強神フォール。」

「そうか・・・。」

イモータと名乗る男はそう言うなり、すぐに切りかかって来た。

「!」

「・・・避けたか。」

俺は咄嗟にオルゴの力を使い、体を動かした。

「(あっぶねぇ・・・)何でいきなり切りかかってくるんだよ!」

「そこは存じ上げねぇと?随分と都合のいいおつむをしてるな。ヨルディエ!」

イモータがそう言うと、甲冑兵士とは装いの違う女性が一人、俺の前に姿を現した。

「イモータよ。やるのか?」

「ああ。あれをやる。」

「?」

「了解した。」

ヨルディエという女性がそう言うと、無数の印が噴水の広場を囲うように出現した。

「強硬印。」

「(強硬印⁉・・・印紋・・・しかもこんなに・・・!)」

直感的にやばいと感じた俺は、オルゴの力とフォールの力を併用することにした。

そして、そう覚悟した瞬間、イモータは物凄い速さで俺に切りかかって来た。

「・・・!」

イモータはヨルディエの出現させた無数の強硬印を足場にして俺に攻撃を仕掛け続けた。

「クソガキ・・・てめぇ・・・よく動くじゃねえか。」

「そりゃ、死にたくないんでね!」

「なら、はなから盗みなんてするんじゃなかったな。」

「まさか盗みになってるなんて、思ってもみなかったんだよ!」

「ほう・・・他人の物を取る行為が盗みだと知らなったって言いてぇのか?」

「そうじゃねぇ!」

「それより、お前は何時まで逃げ回ってんだ?」

「・・・。」

俺はこんな事態になるとは想定していなかった・・・いや、想定していようとしなかろうと、イモータに対抗する武器は持ち合わせていなかった。

このままでは、体力を削られ続け、嬲り殺されると思った俺は、決死の覚悟で天使の力のトリプル使用を試みた。

「はっ!」

「なっ・・・!」

ドン!

「っ・・・!」

俺はフォールの身体能力向上をオルゴの意思力でコントロールしながら、イモータの攻撃を躱し、その攻撃の隙を縫ってグラントの念力を叩き込んだ。

勿論、オルゴの意思力で完璧に制御した念力を。

「ふぅ・・・。」

「イモータ団長!」

「(・・・やったか⁉)」

王道ともいえるフラグを心の中で立てながら、俺はイモータを吹っ飛ばした土煙の方を見た。

やっぱ、分かっていても言いたくなるよ。しょうがない。

心の片隅でそんなことを思っていると、ヨルディエという女性が土煙の方に手をかざし、何かを呟いていた。

「・・・癒印。」

そして、それが終わると俺の方へとゆっくり歩き始めた。

「貴様ら!イモータを運べ!」

「はっ!」

「・・・さて。ここからは私が行こう。」

ヨルディエがそう言うと、突如俺の目の前に先程とは違う模様の印が現れた。

「攻印。」

「!」

俺は咄嗟に後ろに下がった。

しかしその動線に先程のどれとも違う印が現れた。

「爆印。」

俺はその印紋が爆発する直前、咄嗟に全身を念力で包み、身を守った。

しかし・・・。

「・・・攻硬印{槍}。」

ヨルディエは爆炎の中の俺の安否を確認せず、さらなる印紋で追撃を仕掛けてきた。

「(モードビランチ!)」

俺は咄嗟にトリプル使用を解除し、モードビランチによってヨルディエの攻撃を全て宇宙に飛ばした。

「・・・!」

「もう・・・勘弁してくれよ・・・。」

「ほぼ確実に・・・仕留めたと思ったのだがな。」

「でしょうね・・・。」

お互いが無言で向き合っていると、周囲を囲む兵士の間からありえない・・・いや、この国では当たり前過ぎる存在が現れた。

「ヨルディエ。」

「・・・ソロモン殿。」

「その者か?我が王国を混沌に陥れようとする悪魔のような輩というのは。」

「左様でございます。」

「・・・そうか。」

ソロモン殿と呼ばれる男がそう言い、左手に指輪を付けると、ものすごい速さで俺の首元に長剣を振り抜いて来た。

「・・・!」

俺は咄嗟に体を屈めた。

「(イモータ、ヨルディエに続いてこのおっさんも化け物なのかよ・・・!)」

ソロモンはさっきとは別人のような口調でこう言い放った。

「お前の中・・・何人かいるな。」

「⁉」

俺が驚いているのもお構いなしにソロモンは先程首元に向けた剣先をそのまま振り下ろしてきた。

俺はそれを避ける為、地面を蹴り、体を回転させながら横に避けた。

「その身のこなし・・・フォールだな笑。成程・・・こいつらが苦戦するはずだ。」

「・・・あんた、ソロモンじゃないな⁉」

「良く分かったな笑。」

「(くっそ・・・これ以上は本当に戦ってられない!)」

俺は猛者たちとの連戦で体の疲労がピークに達していた。

「だが、分かったところで今のお前はソロモンの国の犯罪者だ。遠慮なく切り捨てさせてもらう。」

そう言うと、ソロモンの中にいる何者かは刀を収め、ものすごい速さで突進をしてきた。

俺はソロモン王が刀を抜く瞬間、最後の力を振り絞り、空に瞬間移動をして、全力の念力移動でソロモン王国を後にした。


~~~~~


「ふぅ・・・最悪だった。」

俺は命からがらソロモン王国を後にし、今度はそれなりに大きな国へと足を運んだ。

「はぁ・・・マジで疲れた。」

俺は道端のレンガに腰掛け、暫くボーっとしていた。

「・・・にしても、ここは平和な街だなぁ・・・。」

俺が今回来た大国はレ・ビジラという人が治めるこの時代には珍しい超安泰国家だ。

ソロモン王国は小国で他国と渡り合うだけあって、色々と血気盛んだった。

兵士は精鋭ぞろいで国民もただの一般人じゃなかった。

兵士から逃げる時に何故か印紋のような抵抗を受けた。

俺が兵士から逃げるのに梃子摺った理由の一つだ。

何故ソロモン王国の国民が印紋を使っていたのか、逃げている時は気に留めている余裕もなかったが、今思えばヨルディエだ。

ヨルディエはフォールの使役者であるイモータが俺を攻め立てる時に印紋を出現させサポートしていた。

空間に印紋で足場を出現させることで、イモータの機動力が格段に上がっていた。

あれほどのサポートは互いのことを余程知っていないと出来ない芸当だ。

天使の使役者と印紋術師のコンビネーション。

俺と龍一達の時とは大違いだ。

俺たちの時はコンビネーションなんて言えるほど連携が取れていなかった。

「グリードの時もあれくらい連携が取れていたら、もっと余裕で勝てていたのかもしれないな・・・。」

そんなことを思いながら、俺はビジラ王の国家で数日過ごした。


~~~~~


「大分慣れてきたな・・・。」

俺はビジラ王の国でそこそこに食べ物を恵んでもらいながら、過ごしていた。

恵んでもらえない時はフェルトさんから教わった食べられるものの見分け方を使い、凌いでいた。

「・・・人間の適応能力って、凄ぇな・・・。」

自分の順応力に関心していると、何処からともなく、高貴そうな男性が現れた。

「・・・君が、ソロモン王国で盗みを働いた者かな?」

「・・・そうですけど誰ですか?」

「私はレ・ビジラ。この国の王をしている者だ。君は?」

「・・・俺は新野貴智です。」

「しんの君か。・・・しんの君。私は君に色々聞きたいことがある。」

「・・・何ですか?」

「一つ。君は何故ソロモン王国で盗みを働いたのかな?」

「それは・・・。」

俺は、ビジラ王に今までの経緯を話した。

「・・・成程。結果的に盗みを働いた形になってしまったと。」

「はい。」

「そっか。うん。君が何故逃げたのかは分かった。けどね、今君の置かれている状況はとても良くない。」

「・・・何でですか?」

「理由はこれだ。」

そう言うと、ビジラ王は一枚の紙を取り出した。

「・・・それは?」

「手配書だよ。」

「え・・・。」

ビジラ王の持つ紙をよく見ると、俺の顔のようなものが書かれていた。

「まだ全国には手配されていない。けど、このまま君が逃げ続ければいずれは世界中に君の手配書が出回る。」

「(マジかよ・・・。)」

俺は、まさか過去に来てデチーレさんと同じ目に会うとは思っていなかった。

「だからどうだろう?ここは私を信じて一緒に来てはくれないだろうか?」

俺はビジラ王の提案を聞いた時、ふとある疑問が浮かんだ。

それは、この過去にいるのは俺だけなのか?という事だ。

もし俺以外にこの時代に来ているのならば、俺の手配書は出回った方が良い。

何故なら、俺以外の早苗や風太、龍一たちに会うには俺が何処にいるか分かっている方が都合がいい。

勿論、俺からも探しはするが相手にも探してもらった方が都合がいい。

それにデチーレさんが俺たちの時代に来た時の最終手段が今回は使える。

それは、ガチでヤバくなったら元居た時代に帰ってしまえばいい。

まあ、この手段はビランチが俺たちを確実に感知していることが条件なのだが。

この時代のビランチは多分というかほぼ確実に俺たちを知らない。

それは最初に会ったイプノの反応で明らかだ。

当然だ。未来から来たのだから。

過去から来たのであれば、デチーレさんたちの時みたいに過去の記憶を読み解き、何とか思い出すという手段も使えるのだが俺たちの場合は使えない。

だが逆に俺たちの時代のビランチは今の異変を確実に感知しているだろう。

問題は俺たちの時代のビランチたちが俺たちを見つけるのが早いか、この時代のビランチたちが俺たちをガチで排除するのが早いかだ。

イプノのあの様子からするに俺たちはこの時代の天使たちに良く思われていないのだろう。

現に今もビジラ王の背後のビランチにガチで睨まれている。

つまり、極端なことを言ってしまえばこの時代のビランチたちは敵だ。

「・・・どうかな?」

「・・・。」

俺はビジラ王に悪いとは思いながらも、モードグラントを使い全力で空に飛びあがった。

「やれやれ・・・。」

しかし、ビジラ王は手を上にかざし、俺の動線に謎の渦を出現させた。

俺は突然のことで飛び上がる勢いを止めることが出来ず、謎の渦に突っ込んでしまった。

「・・・!」

「はい、捕まえた。」

俺が咄嗟のことで目をつぶってしまい、少しして目を開けると、ビジラ王によって、服の襟を掴まれていた。

「まじかよ・・・。」

周りをよく見渡すと、先ほど俺が突っ込んだ渦の他にもう一つ、俺の真後ろに同じ渦が出現していた。

「(成程・・・ビランチの空間移動か。)」

「さて、少し手間取ったが一緒に——。」

ビジラ王がセリフを言い終わる前に俺は、モードオルゴを使い、ビジラ王の腕を掴み投げ飛ばした。

ビジラ王は咄嗟に空間移動の渦を出現させ、建物にぶつかる前に元居た場所に戻った。

「・・・もう、覚悟は良いかな?」

ビジラ王はさっきまでの優しい目とは違う、厳しい目でそう言ってきた。

そして、ビジラ王は自身の真横に空間移動の渦を出現させ、手を突っ込んだ。

「・・・!」

俺は咄嗟にモードフォールでその場を離れた。

そうすると、先ほどまで俺がいた場所に俺が離れるのと紙一重のタイミングで空間移動の渦とビジラ王の手が出現した。

「流石。ソロモンの国から生きて逃げ延びただけのことはあるな。」

そう言うとビジラ王はモードフォールで動いている俺の動線に空間移動の渦を出現させた。

俺は、それを見て今度はモードビランチに切り替え、空間移動の渦を空間干渉によって崩壊させ、相殺した。

「君・・・その目・・・。」

ビジラ王は俺のモードビランチにビランチの影を見たようだった。

「・・・これは、油断できないね。」

そう言うとビジラ王は空間移動の渦を無数に出現させた。

「これで・・・うかつには動けないだろう。」

「そんなことないですよ。」

俺はビジラ王が出現させた無数の空間移動の渦を瞬時に全て消滅させた。

「何・・・⁉」

ビジラ王が動揺していると、何と意外な人物・・・いや、意外な存在が俺とビジラ王の間に入ってきた。

「(ビジラ。変わりなさい。)」

「ビランチ⁉何を言っている?」

「(ビジラ。このままではあなたは死ぬわ。だから、ここは私に任せてくれない?)」

「しかしな・・・。」

「(・・・この人間は天使の中でも少し危険視していてね。少し確認したいことがあるの。)」

「・・・成程。分かった。」

「(ありがと♪)」

この時代のビランチがそう言うと、ビジラ王の中に入り、ビジラ王の目つきはビランチのそれになった。

「・・・初めまして。そして・・・さようなら。」

ビランチの入ったビジラ王がそう言うと、俺の全身は突然球体状の空間によって固定され、その空間は中心に向けて収縮を始めた。

俺は咄嗟に空間移動でその空間から抜け出した。

「あら、どこかでみたような抜け出し方ね。じゃあ、これは如何かしらね?」

そう言うと、ビランチは手を前にかざした。

先ほどの空間消滅で命に指を掛けられた感覚に襲われた俺は、一定の場所に留まっていると危険だと考え、モードイプノの念力移動で空中を高速で移動し続けた。

「(・・・。)」

俺が空中を高速で移動し始めた瞬間、ビランチは俺の周囲を空間固定&破壊で埋め尽くし続けた。

「(あなた、どういうわけか知らないけど、私たち天使の力をとてもよく使い熟しているわねぇ。)」

「それは・・・皮肉ですか?」

「(まぁ・・・半分はね。でももう半分は疑問ね。)」

「まぁ・・・それは・・・そうでしょうね。」

俺は高速の念力移動でビランチの猛攻を躱しながら、一種の賭けに出た。

「(正直に答えなさい。あなたは何者?)」

「・・・未来の使役者です。」

「(未来の・・・?)」

「俺は未来からこの時代に来た・・・と言ったら、信じてくれますか?」

「(・・・。)」

俺はビランチのことをよく知っている。

ビランチはとても合理的な天使だ。

例え相手がどんなとても突飛なことを言っていようと、一度はしっかり聞き入れ考えてくれる天使だ。

俺はビランチの持つこの聡明さに状況打開の糸口があると踏んで対話を試みたのだ。

「(・・・。)」

俺が未来人だと明かしたら猛攻は徐々に緩み、そして一旦止まった。

「(・・・未来人のあなたは、何故此処に来たの?)」

俺の予想道理、ビランチは対話にのって来た。

「分からない。・・・正確には、この時代に気づいたら飛ばされていた。」

「(・・・。)」

ビランチは何かを思考しているような顔で黙って俺の話を聞いていた。

なので俺は更に俺の考えをビランチに話し続けた。

「俺は未来で普通に過ごしていたら、突然この時代に飛ばされた。俺は俺の意思でこの時代に来たわけじゃないんだ。」

「(・・・。)」

「この現象の目星は多分未来のビランチが原因だと思っている。」

「(・・・それは何故?)」

「理由は簡単だ。あんたの力は空間と時間の支配だからだ。」

「(・・・!)」

俺はビランチの警戒心を解く為に初代使役者の話も始めた。

「それに、あんたを最初に使役した人間の名前も知ってる。」

「(・・・誰かしら?)」

「無子陰間。」

この時からビランチは警戒するでもなく普通に話を聞き始めていた。

「(どうやって知ったの?)」

「俺の時代に、初代たちがきたことがあってさ。それでね。」

「(・・・頭の足りなそうな子だったでしょ?)」

「うん。でも凄い良い人だったよ。」

「(あの子は悪だくみが出来ない子だからねぇ。)」

「だろうね笑。」

「(・・・成程ねぇ。じゃあ、あなたが妙に力慣れしてるのも・・・。)」

「教わったんだ。使い方を。」

「(もう・・・全く。)」

ビランチは少し嬉しそうにため息をついた。

「・・・それでさ、少し聞きたいことがあるんだけどいい?」

「(・・・何?)」

「俺以外にもこの時代に飛んできている人って感知してない?」

「(してるわよ。如月と自然神一族に計6人。)」

「そうか・・・!」

俺は初めて未来の時代に帰る糸口が見つかったような気がした。

「(あぁ・・・ちょっと待って。)」

ビランチは体の主のビジラ王と少し話をしている様子だった。

「(これだけだから。・・・じゃあ、しんのとやら。あなたの存在の確認は出来たから私たち天使は消えるけど、消える前に一つだけ言っておくことがあるわ。)」

「何?」

「(あなたは・・・いや、あなたたちは元の時代に帰るまで何としても生き延びなさい。)」

「それは最初からそのつもりだよ笑。」

「(そう笑。じゃ、頑張りな。)」

ビランチがそう言うと、ビジラ王は意識を取り戻した。

「・・・さて。」

ビジラ王がそう言うと、俺は戦いの続きが始まると思い身構えた。

しかしビジラ王は何もせず帰っていった。

「あ、あの・・・。」

俺は思わず、ビジラ王を引き留めてしまった。

「何だい?」

「つ、捕まえないんですか?」

俺の皮肉ともとれる無粋な質問にビジラ王はこう答えた。

「捕まえるよ。でも今じゃない。」

そう言ってビジラ王は俺の前から姿を消した。


~~~~~


俺はビジラ王の国で体力を戻した後、国を出た。

「色々あったな・・・。」

俺はこの時代に来てからのことを思い出していた。

最初はイプノの使役者に絡まれ、その次はイモータが兵団長を務めるソロモン王国の精鋭たち。

「この時代であれだけの猛者たちが揃っているのなら存続も納得だわ笑。」

天使の使役者と印紋術師が一国家に与しているのだから、それは向かうところ敵なしだろう。

加えて国王自身も何か特殊な力を使っていた。

俺は最初国王という役職に就く人物は戦う力が無いものだと思っていた。

それが実際に二人の国王に会ってまるっきり考え方が変わった。

ふんぞり返って優秀な兵士に自分を守らせるのが王だと思っていたけど、そんなことはなく、むしろ率先して自分の国の民を守る為に動いていた。

無論、力を持つ二人の王が特殊なだけかもしれないが、ソロモン王もビジラ王も一賊である俺に直接出向いてきたのだ。

「あれ?確かソロモンって・・・。」

俺はこの時代に来てからのことを思い返しているうちに、ある神話を思い出した。

それはプロイビーの指輪という俺の時代に伝わる神話である。

俺はソロモンが別人のように変わる前に指輪を付けていたのを確かに見た。

確かプロイビーの指輪というのは、天使の知恵と力が込められているとされ、その指輪はつける手によって授かれる力が異なるというものだ。

と言っても、世界史の授業でかじった程度の知識なのでそれ以上は知らないのだが。

授業でやった時は、イプノたちと出会う前だったので完璧に遥か彼方の記憶となっていたが、今思うと真実だったんだなと実感した。

「ったく・・・マジで凄いじゃん。」

文字伝手と実際の体感の違いに浸っていると、背後から妙な気配が迫って来た。

「・・・!」

俺は咄嗟に空中に飛び上がり、足元を見ると、ひとりの剣士が見えた。

「ゔゔおおおぃぃ‼なかなかやるじゃねぇか!」

「でも、二度目は流石に気が抜けるわよね♪」

俺が空中から先程いた場所を見ていると、背後から謎の女性の声が聞こえた。

俺は咄嗟にその女性の背後に指定して瞬間移動した。

「・・・!」

俺が瞬間移動した瞬間、謎の女性が手をかざした動線上の建物の頂上が突然吹き飛んだ。

「何⁉これも避けるの⁉」

「“念力か・・・!”」

俺と謎の女性はそのまま一旦地上に降りた。

「流石、指名手配されるだけあって、一筋縄じゃいかないみたいね。」

俺が着地して目の前を見ると、オルゴを使役している剣士とグラントを使役している女性が目に入った。

「え、何で・・・⁉」

俺は、純粋に何故使役者が攻撃を仕掛けたのか疑問に思い、この言葉をぶつけた。

しかし、その真意を知らないグラントを使役した女性は

「何でって・・・これよ!」

と、ビジラ王が以前俺に見せた手配書を満面の笑みで見せてきた。

「あ、いや・・・今の言葉はあなたに言ったわけではなくて・・・。」

「は?じゃあ誰に・・・。」

「(・・・もしかして、私たち?)」

「そう!和解したんじゃなかったっけ?」

「まて。てめぇ、後ろのこいつらが見えてんのか?」

「(悪いヴィータ。少し俺たちだけで話をさせてくれないか?)」

そう言ってオルゴはこの時代の使役者たちの言葉を制止した。

「(いや~~私たちとしては完全和解とまではいかなくても追及は止めになったのよ?でも・・・)」

「(分かるだろ?俺たちが許しても意味がないって。)」

「・・・あ・・・!」

「(分かったか?)」

俺はオルゴ達に言われて初めてあの時ビランチが消える前に言った言葉の本当の意味を理解した。

そう、あの時の和解は意味がなかったのだ。

正確に言うと、意味が無くはないのだが人間である俺には意味が無かったのだ。

確かにあの時の和解で天使たちは納得し追及することを止めただろう。

しかし、天使が追及を止めたからと言って、人間が止めるとは限らない。

寧ろ俺はあの時ビジラ王が歩み寄って差し伸べてくれた手を振り払ったのだ。

人間の方では俺は完全敵対していたのだった。

「(おまえなら分かるだろ?俺たちじゃ止められないって。)」

オルゴの言う通りだった。

俺は最初和解したはずの天使たちに使役者を仕向けられていると思って疑問を呈したが、今というか随分と昔から力の主導権はオルゴ達にはない。

使役者たちにある。

オルゴ達は使役者を焚きつけることは出来ても、止めることは出来ないのだ。

「(だからさ、ここで見せてよ。あなたの力♪)」

グラント達は少し何かを懐かしんでいるような笑みでそう言った。

「・・・終わったか?」

「(ああ。俺たちの用事は済んだ。)」

「そうか。」

「・・・なんかしらけちゃったけど、ここから仕切り直しよ!」

そう言うとグラントを使役する女性は、俺の周囲の空間を念力で固定することで俺の動きを封じた。

「飛ばすぜぇ!」

そして、長髪のオルゴを使役する剣士は物凄い速さで俺に突っ込んできた。

『止まれ。』

俺は長髪剣士に心を込めて神力言語を使った。

「なっ・・・!」

長髪剣士は俺の神力言語の効果で走っていた体制のまま、体が固まり、地面に倒れこんだ。

「⁉」

「(“へぇ・・・あれって、ヴァティーラの・・・。”)」

「・・・・・・!」

俺は全力で自身の周囲を念力でかき乱すことで念力拘束を解いた。

「くっ・・・!」

俺は念力拘束を相殺したあと、グラントを使役する女性を捕まえる為、ビジラ王と同じ技を使った。

「“これは・・・まずい!”」

しかしそれはグラントを使役した女性に感づかれ、避けられてしまった。

「・・・中々強いけど、クルデーレほどじゃないわね。」

「クルデーレ?」

「知らないの?あなたよりずっと前に指名手配になっている女よ。」

「・・・申し訳ないけど知らないな。」

「そう・・・笑。」

不敵な笑みを浮かべるとグラントを使役する女性は俺に向けて、念力を放とうと力を溜めた。

「“そろそろかしらね・・・。”」

「ゔゔおおおぃぃ‼終わりだぁ!」

「⁉」

突如、後ろから謎の声が聞こえると、なんと神力言語で動けないはずの長髪剣士が俺の方に向かって突進してきた。

「“は?嘘だろ・・・?”」

「じゃあね♪盗人さん♪」

そう言うとグラントを使役する女性は長髪剣士の攻撃に合わせて俺に向けて念力を放ってきた。

「“やべぇ!間に合わな——。”」

「攻紋!」

「守紋!」

俺が二人の使役者の攻撃を捌ききれず、食らうかと思われたその時、見慣れた後ろ姿が俺の視界に入って来た。

「・・・ふぅ、世話の焼ける。」

「おい。怪我はねぇか?新野!」

「あ・・・。」

それは龍一とニーレイだった。

「龍一!それにニーレイさん!」

「全く・・・使役者が聞いて呆れるな。」

「そう言うなよ。こうして知り合いに会えたんだからよ。」

「ど、どうして二人がここに・・・⁉」

「新野。それは後だ。まずはお前を殺そうとした奴らを何とかしようぜ!」

「お、おう・・・!」

こうして俺は龍一とニーレイを加えた3人でこの時代の使役者たちを相手にすることとなったのだ。

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