天使たちの日常戦線(七章、四人の空間神力者)
ソーマ「・・・はぁ。」
チュル「なーにため息ついてんだよ。」
ソーマ「・・・ちょっとな。」
チュル「俺で良けりゃ話を聞くぜ?」
ソーマ「有り難い申し出だが恐らく話についていけないと思うぞ?」
チュル「・・・それはお前たちの神力についての悩みだからか?」
ソーマ「そうだ。」
チュル「それなら心配すんな。俺とチェルは天界の情報が全て頭ン中に入ってるんだ。」
ソーマ「しかし・・・。」
チュル「それに大逆じゃ後れを取ったが戦略を考えたり能力を生かすことを考えるなら俺も得意なほうだ。」
ソーマ「・・・そこまで言うならチュル。一つ聞きたいことがある。」
チュル「何だ?」
ソーマ「俺の空間支配能力をどうやって使う?」
チュル「・・・他の奴らはどう使ってんだ?」
ソーマ「プーロは普通に指定した範囲の空間を自在に操っている。固定も消滅も問題ない。感情の不安定さをビランチさんに指摘されていたがそれもあいつならすぐに直せるだろう。」
チュル「ま、人がいいからな。あいつは。」
ソーマ「ああ。」
チュル「シントスは?」
ソーマ「彼女も空間固定、消滅ともに問題ない。まぁ基本の神力の弱さがあることを気にしていたみたいだがそれも彼女特有の同調を使って充分補うことが出来ている。」
チュル「成程な・・・で、お前は何を指摘されたんだ?」
ソーマ「硬いって言われたよ。空間固定も消滅も問題ないけどコツをつかむと一番崩しやすい空間形成って言われた。」
チュル「・・・。」
ソーマ「どう思う?」
チュル「・・・ビランチからは何かアドバイスは貰わなかったのか?」
ソーマ「当然もらったよ。修行中はゴムボールのような柔軟性を意識すること。そしてもう少し空間形成に穴をあけるようにやってみるといいって。」
チュル「・・・変に気張らず肩の力を抜けってことだな。」
ソーマ「ああ。そうだろうな。それに俺の弱点を克服するキーワードは考え方だと言っていた。」
チュル「〝・・・流石ビランチ。実に的確なアドバイスだ。ただソーマにはあってないんだろうな。なんせここまで分かっていて改善出来ないってことは理屈として頭では分かっていても体では実感できていない。つまりイメージが出来ていないってことだ。〟考え方な・・・。」
ソーマ「何だ?」
チュル「いやそこまで分かっていて出来ないと悩みたくもなるな。」
ソーマ「ああ。ビランチさんの指摘は実に的確だと思う。俺も言われた時に頭の中の靄が取れたようだった。だがどうやればいいかが分からない。」
チュル「・・・ソーマ。今度は俺のアドバイスを聞いてみないか?」
ソーマ「・・・チュルの?」
チュル「ああ。今の話を聞いていてお前が何故こうも的確なアドバイスをもらいながら出来ないのか。多分理由が分かった。だからどうだ?聞いてみる気はないか?」
ソーマ「・・・ここまで来たんだ。聞かせてもらう。」
チュル「了解だ。じゃまずソーマが何故出来ないのか。その理由から話すぞ?お前は頭じゃ分かっているが感覚としてイメージできないんだろ?」
ソーマ「あ、ああ!そうだ!」
チュル「・・・やっぱそうか。」
ソーマ「チュルの言う通り頭では少し肩の力を抜き緩く空間形成すればいいと分かってはいるが体はどうもゆうことを聞いてはくれない。」
チュル「無意識に力が入る感じか?」
ソーマ「そうだ!」
チュル「〝成程な・・・〟そりゃ本来のお前は何事もきっちりする性格だからな。緩めるってことが想像出来ないのも無理はない。」
ソーマ「でも緩めないといけないんだ・・・。」
チュル「・・・本当にそうか?」
ソーマ「どういうことだ?」
チュル「ここで俺からのアドバイスなんだがというか提案なんだがお前は同時に異なる構造の空間形成をすればいいんじゃないのか?」
ソーマ「何⁉」
チュル「今までの話を聞いていて思ったんだがビランチのアドバイスは実に的確だ。けど緩めてみるってやり方はお前にはあっていないと見た。何故ならお前はプーロのように・・・あんま言いたかないが柔軟には出来ないからだ。だったら逆に複数の異なる空間形成を重ねて一つにするっていう少し負荷をかけた方法のほうが空間を崩しやすいって弱点も克服出来るしお前向きだと思ったんだ。この方法なら一つ一つの空間形成も単体の時よりは甘くなるだろうから柔軟性も意図せずして生まれるだろうし・・・どうだ?」
ソーマ「・・・確かにいいかもしれない。異種空間の同時形成はそんなに難しくない。それにその方法なら単体よりも余裕の持たせ方も分かる!」
チュル「〝・・・昔俺には何の強みもないって言ってたがそんなことねぇじゃねぇか。その異種空間の同時成形はビランチでもあんま得意じゃねぇんだぜ?それをあんま難しくないって言えるってこと自体凄ぇんだ。〟そうか。出来そうか?」
ソーマ「ああ!何とかなりそうだ!チュル。ありがとう!」
チュル「例には及ばねぇよ。じゃ後は実践あるのみだな。」
ソーマ「ああ!」
プーロ「おーい!ソーマ!」
ソーマ「・・・プーロ⁉何故ここに・・・?」
プーロ「いやお前が空間支配の修行に思い悩んでただろ?だからビランチよりは位が低いけど参考になりそうな天使を連れてきたぜ!」
ノテルナ「私を捕まえておいて位が低いとは失礼ね。確かにビランチよりは低いけどあんたたちよりは高いわよ!」
チュル「力天使だからな笑。」
ノテルナ「ええ。」
プーロ「ま、そういうことだからさ、ノテルナも加えて四人で話そうぜ?」
ソーマ「〝・・・実はもう解決したとは言いずらいな。〟」
チュル「俺はパスしとく。仕事があるし道示し部門はただでさえ天使の数が少ないからな。」
プーロ「・・・そうか。」
チュル「でもソーマは付き合うみたいだぜ?」
ソーマ「ちょ何を・・・。」
プーロ「そっか!じゃ今から地上に行って話そうぜ!」
ノテルナ「そうね。ここじゃ仕事の邪魔しちゃいそうだし。」
ソーマ「そ、そうですね・・・汗。」
~~~~~
プーロ「はぁ?もう解決した?」
ソーマ「ああ。チュルに異種空間の同時成形を提案されてまだビランチさんには試していないが道筋は見えているんだ。済まない。」
プーロ「なんだよ~~結構悩んでたから心配してたんだけどな~~~。」
ソーマ「・・・済まん汗。」
ノテルナ「ちょっと待って。ソーマの言ってる異種空間の同時成形って成形構造の異なる空間を一か所に集約させること?」
ソーマ「そうですが・・・それが何か?」
ノテルナ「それって確かビランチでも完璧には出来ない結構難易度の高い空間形成のはずだけど・・・。」
ソーマ「そうなんですか?俺はそんなに難しく感じないですが・・・だって異なる空間といっても核となる空間に一つずつ異なる空間を重ねていけばいいんですよ?」
ノテルナ「それが普通は難しいのよ。だってその核となる空間は本当にきっちりと作らないといくら重ねても核が崩れた時点でおジャンになるんだもの。だから異種空間を作る場合は柔軟性よりも精密さや緻密さが求められる。そしてそれが難しくないって感じてる時点でそのやり方は多分あなた向きなのよ。」
ソーマ「・・・そうなんですかね?」
ノテルナ「そうよ。だって本来空間形成は一つに集中したほうが精度は高い。でもあなたの場合はすべてに集中しても精度が落ちない。これは大きなアドバンテージよ。」
ソーマ「・・・!」
プーロ「じゃ実際に作ってみてくれよ!」
ソーマ「いいけどどうやって判断するんだ?」
ノテルナ「私がビランチと同じやり方で干渉する。プーロの場合は私が本気でいったのもあるけど一瞬で崩せた。あなたの場合はどれくらいで崩せるか・・・楽しみね♪」
ソーマ「そうですね笑。」
ノテルナ「じゃ成形開始!」
ソーマ「はい!・・・・・・。」
ノテルナ「成形出来た?」
ソーマ「出来ました。」
ノテルナ「じゃ行くわね?」
ソーマ「はい。」
ノテルナ「・・・・・・はい終了!」
ソーマ「流石中天使ですね笑。」
ノテルナ「まあね~でもあなたも中々だったわ。一瞬で三層作れるなんて。しかも一層一層はプーロの空間とさほど変わらない強度だし。」
ソーマ「今のは安定性を重視したのと最初ということもあって三層でしたがもう少し頑張れば最大七層までは出来ると思います。」
ノテルナ「七層⁉それは凄いわね・・・。」
ソーマ「でもそれは奥の手のような扱いになると思います。普段の最大は空間の安定性も考えると五層程度かと。」
ノテルナ「それでも凄いわよ。だって基本三層を常時発動出来るんでしょ?」
ソーマ「ええ笑。」
ノテルナ「・・・こりゃ他人の心配してる場合じゃなかったわね笑。プーロ。」
プーロ「・・・ですね笑。」
ノテルナ「じゃそろそろ天界に——。」
シントス「あ、ノテルナさんとソーマそれにプーロ。ここで何してるんですか?」
プーロ「シントス!」
ノテルナ「なにソーマが思い悩んでるっていうから相談に乗ってたのよ。」
シントス「思い悩んでる?」
ソーマ「ああ。修行のことでな。」
プーロ「・・・杞憂だったけどな。」
ノテルナ「ええ笑。」
シントス「そうなんですか。」
ノテルナ「で、シントスちゃんは地上で何をしてるの?」
シントス「祠の点検です。」
ノテルナ「点検?」
シントス「ええ。最近は使わなくなった祠と天界の繋がりを切って回ってるんですよ。」
ソーマ「どれくらい減ったんだ?」
シントス「ん~~もう9割以上は切ってると思う。」
ノテルナ「そうなの⁉」
シントス「ええ。何でですか?」
ノテルナ「いや人間たちが今でも熱心に神社や教会にお祈りに行ってるからまだ半数近くは繋いでると思ってたんだけど・・・。」
ソーマ「成程笑。けどさっきシントスが言ったようにもう半数以上は繋がりを切ってありますよ。」
ノテルナ「じゃあ何で人間たちはあそこにお祈りに行って願いが叶っているのよ?」
ソーマ「・・・思い込みじゃないですか?神社に行くことで自信をもらっているんですよ。実際神社やお寺、教会などには天界から力を流していたといってもその力を得ることが出来るのはお守りのように物質にその力を移したり巫女や霊能力者といった神力を媒介出来る者の存在があってこそ。しかしその存在があってもその源に力がなければ恩恵は受けられない。現在は9割がた切っているのでその恩恵は受けられないはず。なのに願いが叶っているってことは人間にはもう自分で自分の願いを叶えていけるだけの力があるってことです。」
ノテルナ「自分で願いが叶えられるなら尚更行く意味ないと思うけどね~~。」
シントス「不安なんですよ。人間も。何か心の支えがないと。」
ノテルナ「成程ね。地上の宗教がなくならないわけだ。」
シントス「ええ。心の支えが欲しい人間にとっては喉から手が出る程欲しい情報が詰まってますから。」
ノテルナ「・・・もう一つ気になったんだけどさ、地上の神社の仕組みってなんか意味あるの?」
プーロ「何かって何すか?」
ノテルナ「例えば祠を中心に囲ったり入口に大きなものや動物の模型を置いたりするのって空間的に何か意味有るのかなーって思って。」
シントス「あれは・・・まぁ地上なら意味ないことはないですね。」
ノテルナ「・・・地上なら?」
シントス「ええ。天界だと幾ら真ん中に置こうが祠自体が動かせない不動のものなので場所さえ分かっていれば壊せますが地上なら空か地下から奇襲でもしない限りすぐには壊せないでしょうから。」
ノテルナ「まぁ人間には特別な力はないからね。」
シントス「ええ。天使にとっては無防備に変わりありませんが人間にとってはそれなりに有効なんじゃないでしょうか?」
ノテルナ「成程ね。」
プーロ「意味っていうなら空間的というより洗脳とか催眠的な意味のほうが強い気がしますけどね。俺は。」
ノテルナ「どういうこと?」
プーロ「例えばですけどあの祠って見た目はそこら辺にある岩と大差ないじゃないっすか?」
シントス「まぁ当時のそこら辺にある岩に繋いだからね。」
プーロ「けど周りを大層な建物で囲うことでその岩が大切なもののように見えてくるんですよ。それに加えてその建物を中心に囲うことで囲った場所一帯がなんか神聖な場所っぽく見えてくる。入口の大きなものも動物の模型も“ここは神聖な場所なんだぞ。”って訴えかけているように見えませんか?」
ノテルナ「・・・確かに。」
プーロ「前ラーナが言ってたんですけど“有るものを無いものとし無いものを有るものとする。”って言葉がまやかしの本質を示すらしいんすよ。だから神社を見た時にその言葉にぴったりな場所だなーって思って。」
ノテルナ「そうね。ただの岩を如何に高尚なものに見せるか。もしかしてイプノたちの影響だったりして?」
ソーマ「・・・だとしても今回は珍しく人間の役に立ってますね。」
ノテルナ「そうね。しかも結構大きな役に立ってる。流石は元熾天使ってとこかしらね?」
シントス「・・・そうですね。」
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