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ピーコック・オア

孔雀が水浴びをした朝は
雲が幼鳥の胸のようにふっくらとして
四月の曇天に 白いブラウスが震えている

自転車を漕ぎ出せば
肺は冷たい空気で満たされ
見慣れた貯水池はすっかり青空だった
わたしは突然 溺れてしまって
体育のプールはどうしていつも寒いのか
青く錆びて動かない唇で文句も言えず
終業のチャイムが鳴るまで太陽を探していた

鳥が四羽 連れ立って飛んでゆく
彼処はきっと暖かいのだろう
(手を引かれて歩く水族館の
流星群のような魚たちは
尽きることない願いごとを
こともなく運んでゆくよ)

仕方がないのだ
息が上手くできないのも
やわらかな羽毛が恋しいのも
仕付け糸を断ってしまったのだから
真紅のネクタイは贋物だけど
飾るために第一ボタンを留めるわたしたちは
はじめから嘘を吐くつもりはない
濃紺の制服が自然と緑青の照りを孕むように
時と共に表面から変化してゆくものだ

おばけトンネルから見る砂川堀は
枝垂れ桜に撫でられ 美しく酸化してゆく
翻る花弁が彼処と此処をかき混ぜて
春を均していた
咲き初めた牡丹の花の密度には未だ及ばず
スカートが膨らむと
わたしはまた少し 寒くなるのだった


(日本現代詩人会  第17期(2020年4-6月)投稿作品)
(令和2年8月22日 一部修正)


あとがき
ピーコック・オア…孔雀色の鉱石
もとは斑銅鉱のことを指していたが、現在は黄銅鉱に酸化処理をほどこしたものがそう呼ばれている。

青や緑、紫のギラギラとしたメタリックカラーは人工的に処理されたものだとしても、その石のもつ性質があってこそのものだ。
染めや熱処理をされた鉱物たちにも、それはそれとしての魅力がある。もちろん天然と偽って騙すようなことはあってはならないけれど!

日常の変化に戸惑いっぱなしだけど、なるべく楽しいほうの見方をしたいと思う。

令和2年8月23日

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