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映画 ラストマイル

アンナチュラルやMIU404が好きな人は必ず行く映画、でしょうけれど、ドラマを見ていない人が行っても、この制作チーム(脚本家・監督・プロデューサー)ががっちりファンを掴んでいる理由がわかる映画だろうと思いました。

エンタメとしてハラハラドキドキ、最後まで気を緩められない展開、奥行きのある人物設定、見ているひとりひとりが他人事ではいられない社会問題への切り込み。

ドラマよりずっと短い映画なのに、主役ふたりの人となりだけでなく、周辺人物もよく描かれていて引き込まれました。

アンナチュラルもMIU404も好きすぎて、7月から両方のドラマを復習してから行った私は、むしろそれぞれの登場人物が、それぞれのドラマの劇伴とともに登場すると感激しちゃって一時的に情報が頭に入らなくなることが弊害だな、と思ったり・・・。

情報量は多い映画なので、あそこってどうだったんだろう、彼らの話すこの人って誰なんだろう、みたいなのが少しずつ残っていて追えてなかったのですが、そこはSNS。帰宅してTLを追うとしっかり見てる人とか記憶力ある人とかすでに複数回見た人による解説があって、そういうことだったのか、と思うところもありました。

 ここからはネタバレします。

物流の現実:今日注文したものが明日届くまでを知る

いろいろ良かったのですが、まずは物流の現実というか、こんなことになっていたのか、と圧倒される冒頭からの物流倉庫で働く人たちの描写。

アンナチュラルでもMIU404でも、私たちの日常の中にある光の当たらない仕事、でも、誰かがきちんとやっていることが大事な仕事が描かれていましたが、今回は物流。

社員9名ほどで派遣700名って、どういうこと?
セール期間になると100名単位で増やして対応。

ひとつの街のように機能する職場はメガネとメモ帳・筆記用具1つ以外は持ち込み禁止。入り口に金属探知機があってIDに紐づけて荷物をすべて預けて入る。

ここまでシステマティックにやっているのかとか、だから安全が保たれているのかとか、そういう人たちの手であの箱に注文したものが詰められて発送されて翌日には届くということの見えなさ加減とか。

自分が何も知らず、知ろうともせず、ネット上で注文して翌日には届く生活を享受している現実をまず知るという映画冒頭でした。

格差:バスかタクシーか、ネームカードは青か白か

そして、関東の最も大きな配送拠点にセンター長として赴任したエレナ。派遣社員が乗る混雑した専用バスの横をタクシーで抜いて行く描写はわかりやすい格差の象徴でした。

首からぶら下げているネームカードのコードの色で契約形態を見えるようにするのは最近の会社では一般的ですが、映画の中でも象徴的に描かれていました。

企業の利益と顧客対応:リスクとコストとベネフィット

問題が起きたときの対応や証券取引所の営業時間を睨んで考えるエレナは間違いなく経営視点を叩き込まれているエリート層。

トラブル発生時に、いかに損失を出さずに、でも顧客への迷惑を最小限にするか、という対応のバランスがすごくリアルでした。

一見、企業側の都合、利益優先の行動に見える。そこは絶対譲れないという線引きがありながら、その上で顧客対応をどうするか、出来る限りのことをしようと動く。

医療用品の配達遅延対応として注文は止めない。でもバイク便をできるだけたくさん手配して医療用品を優先的に配送するように、と指示する場面が象徴的でした。

鮮やかな伏線と回収

あちこちに仕込まれた伏線も見事でした。爆破騒ぎが起きる前に宅配ボックスに配達されていた荷物とか、エレナが注文して倉庫内で回収して自室に持ち込んだから警察の爆発物探知検査を受けてない荷物とか。

爆発物の箱を開けようとしてしまい、手を動かせなくなったエレナが震えながら自分のことを話す場面の満島ひかりの演技がすごかった。本当に震えているようにしか見えなかったし、指に余計な力が入ってしまう感じとか、そんな場面に遭遇したことないけどリアルでした。

現場で働く人のプロフェッショナルな仕事

そして、その爆発物を処理しにきた警察官の対応も本当にステキ。落ち着いた雰囲気で、震えるエレナにまず名前を確認、これからどうするのか説明、もう少しの時間だからがんばってと励ます。

部屋に入ってきた時点で彼らが防具をつけてないのも多分意図的なんだろうなと思いました。少しでも動いたら爆発するかもしれないという恐怖で震えるエレナにさらに恐怖を重ねないためにあえて防具なしで対応しているのかなと。プロの対応。

こういうちょっとした場面で、プロがきちんと対応している姿を描くのもアンナチュラル・MIU404と共通する魅力だなと思います。

MIU404で虚偽通報事件と同じ声での110番通報を、声紋分析の結果虚偽通報だと確定したから対応しないでよいと言われているにもかかわらず、今回は少し声の切迫感が違うような気がするから対応した方が良いのではないかと手を挙げる担当者とか。

あの場面、大好きなんですけど、この爆発物処理の場面はそういう場面でした。(細かすぎて伝わらない好き&私はそういう風に仕事をしたい)。

虚偽通報した高校生の未来

さらにさらに。最高だったのは、アンナチュラルとMIU404から続くキャストの中でも、それぞれのドラマの中で犯罪にかかわった子供たち。

予告映像でMIU404の3話で虚偽通報をして捕まった高校生たちのうちの1人勝俣くんが出演していることはわかっていたのですが、役が!なんと警察官になっている!そんでもって陣馬さんとバディですよ!

勝俣くんがなぜ警察官になったのか、なんてMI404を見ていれば自明のこと。あのとき、MIUのチームと地元警察署の警察官(毛利・向島)が彼らにちゃんと向き合って、ちゃんと対応してくれたから。あんな風になりたいと思わせたからに決まってるじゃん!

さらに、陣馬さんが彼とバディになったとき、彼にどんな言葉をかけたのか、どんな風に彼と日々業務をしているのか、妄想するだけで涙出るくらいうれしい。

それはMIU404で陣馬さんのキャラが奥行き深く隅々まで描かれていたから。陣馬さんが九重とバディを組むことになってからの2人の関係性の変化が丁寧に描かれていたから。あのドラマのすごさが映画に効いてくる感じでした。

許されるように生きろ

もう1人、予告映像には出てなかったのですが、事前に出ているらしいという情報をSNSでキャッチして、注意して見ていたらいました!

アンナチュラル7話で、いじめを苦にして、いじめ加害者が犯人と疑われるようなトリックで自殺した高校生。自殺した友人のことを生配信した白井くん。配信の中で法医学者である三澄ミコトに死因を特定するようにと迫って、最後は自殺しようとした彼です。

自殺しようとする彼が「自分だけが生きていていいのか」と問うたのに対して、中堂が
「死んだやつは答えてくれない。このさきも。許されるように生きろ。」
と言う場面は、アンナチュラル全話の中でも今回の復習で強く印象に残りました。

喪失の後悔に対するひとつの答えかもしれないと思いました。
許されるように生きる。

そんな言葉をかけられ、中堂にナイフを取り上げられ泣いていた彼がバイク便担当で登場。物流が止まって深刻な影響を受ける医療用品だけでもバイク便で届けようという場面で、アンナチュラルの舞台であるUDIラボ(不自然死究明研究所)や当時そこでアルバイトをしていて事件のときにも現場にいた久部が勤める大学病院への荷物を引き受けます。

この映画はシェアード・ユニバース・ムービーと盛んに宣伝されていて、つまり、ドラマ内の世界を共有しているということだと思いますが、白井くんの場面を見て思い出したのは、ラブ・アクチュアリーという映画。

ラブ・アクチュアリーで登場人物がなんだかんだつながってるのは、住んでる地域が近いからなんですよね。みんな同じ中学校の卒業生だったり、子供が同じ学校に通っていたり。

白井くんがUDIラボへ運ぶ荷物を受け取っている場面でそんなことを思い出しました。あのときミコトは、弟がアルバイトする予備校に呼ばれて、弟が面倒をみている学生として白井くんとつながり、事件に巻き込まれました。

白井くんは罪を償って、今も実家で暮らしていて、バイク便をやっているんだな。だから配達エリアにUDIラボが入ってるんだな。そして時々UDIラボへの荷物を運んで、ミコトに「がんばってるね!」って声をかけてもらったり、中堂に肩を叩かれたりしているんだろうなって、また妄想膨らむ膨らむ。

もともと、役者さんよりも役とか物語に惚れ込むタイプのファンなので、大好きなドラマの登場人物たちが今もどこかで生きていて、それぞれの仕事に向き合っていることが描かれている今回の映画は本当に幸せでした。

劇伴はあれでいいのか・・・(ファンとしては良い)

1点だけ、気になったのは劇伴でした。
MIU404チーム登場シーンではMIU404の劇伴、アンナチュラルチーム登場シーンではアンナチュラルの劇伴になっていたこと。ドラマファンとしては、もうテンション上がって情報が一時的に入らなくなるくらいうれしいわけですが、ドラマを見ていない人からすると劇伴が唐突に聞こえるんじゃないだろうか、というのはちょっと思いました。

とはいえ、もうふたつのドラマを見ていない私には戻れないので、知らずに見るとどういう印象になるのかはまったくわからず。

ま、脇役がやたら豪華な映画だなー、くらいで見れるような気もするので、この映画見ておもしろい!と思った人がアンナチュラルとMIU404も見てくれるといいなー、と思います。

もう1回くらい見たいのですが、行けるかどうか。
とりあえず、ドラマを復習したい。

MIU404への熱い気持ちを書いた記事はこちら。


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