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砂糖の味を忘れればいい

滅多に他人に褒められることのない事務職員の私の自己肯定感はゴリゴリ削られる一方で、なけなしの承認欲求は一向に満たされることなく常にカラッカラに乾いている。

振り返ってみれば、三世帯家族の末っ子である私はいつも誰かに構われていたし何をするにも褒められることが多かった。姉2人の行動をよく見ていたのでどういう時にどう行動すれば怒られるかをなんとなく理解し、言われたことを文句言わず淡々とやれば叱られることはまずないだろうという考えのもとで、いつもそのように行動していた。小学校中学年くらいまではそういうスタンスで生きているだけで「しっかりしてるねぇ」と言われるものである。

現在私は仕事でびっくりするほどの数の失敗を繰り返しながら、幼い頃によく育ちまくってしまった承認欲求の沼を持て余している。

いつも自分を認めてくれていた親兄弟のいない狭いワンルームへ帰宅し、仕事やプライベートでの失敗の記憶を掘り起こしてはどんよりとベッドに沈む毎日。

こうやって文字に起こしてみると自分がどんなに甘ったれの小娘かが身に染みてくるけれど、もうそういう風に育ってしまったのだから仕方がない。甘ったれの自分とどうにかうまく付き合っていくしかないのだ。


先日、仕事中にどうもうまくいかないことがあって、過去最高と言ってもいいくらいにドカッと落ち込んだことがあった。あの時ああすればよかったな、ああ言えばよかったなとか、別の作業中もずっとそのことを考えてしまって一日中しんどかった。

終業後、いつもなら真っ先に自宅へ帰っている私はこの時、このまま帰ってもずっとしんどいだけなんじゃないか、とふと思った。シャワーを浴びる気力もなく、メイクも落とさずに真っ暗な部屋のベッドでうずくまる自分のイメージがまざまざと頭に浮かんだ。

これはもうダメだ。今日は遊びまくってやる。うん年ぶりにオールしてやる。こんなご時世だけど遊び歩いてやるぞ(ちなみにこの日はド平日で次の日も普通に朝から仕事でした)

そう思い立った私はまず何をしようか考えた。遊び歩くといっても根っからの陰キャオタクである私は1人でバーやらクラブやらに行くような遊びをしたこともしたいと思ったこともないので文字通り遊ぶだけだ。いつもなら映画館に行っているところだが、今回は受動的な遊びは避けたい。ただ座って画面を見ているだけでは今日の出来事が頭をよぎってしまって絶対に集中しきれないからだ。

色々考えた結果、まず1人カラオケに行った。夜のカラオケは高いけど今夜はもうそういうの一切関係なしということで、とりあえず2時間歌った。ちなみにコロナ渦のカラオケは初めてだったけど部屋もマイクもしっかり洗浄されていて安心安全でした。店員さんありがとう。


カラオケ終了後、私の頭の中にはまだ失敗のことがこびりついて離れていなかったので、まだまだ遊ぶぞということでネカフェへ向かった。

つい最近まで私にはネカフェに行く文化が無かったのだが、先日唐突に「ヒカルの碁を読み返したい」という欲求に駆られて初めて近くのネカフェに行き、全23巻を一気読みしてホクホクして帰ったことが記憶に新しかった。めちゃくちゃ面白い漫画を読めたら仕事のことなんてどうでもよくなるんじゃね?という考えのもとでネカフェの一番安いオープン席で一夜を明かすことを決意した。

席についてから何を読もうかなとネカフェの棚を一通り眺め、私のフラストレーションを消し去ってくれるほどの面白い漫画を求めてぐるぐると歩き回った。本当は「ぼくの地球を守って」が読みたかったんだけど在庫が無かった。ぼくたまってどこのネカフェにも無いんだけどなぜ??

最終的に私が手に取ったのは、浦沢直樹の「MONSTER」である。浦沢直樹が司会?をしているNHKの「漫勉」でよく登場しているのを見て以前から気になっていた。全18巻と夜9時から読み始めるには少々厳しい作品だが今夜は例外なので。浦沢直樹よ私のモヤモヤを吹き飛ばしてくれ、という気持ちで読み進めた。


そして約6時間後。午前3時をまわる頃の私は、めちゃくちゃ元気になって帰路についていた。

MONSTERが想像を絶する面白さだったのである。ハリウッド映画並みに壮大で圧倒的な世界観。リアルに練りこまれたストーリー。個性的な脇役たち。ミステリアスな魅力のヨハンと、追い詰められながらも医者としての誠実さを忘れないテンマ。最終巻ラストの1ページなんて拳を突き上げて叫び出しそうになった。

正直1回読んだだけでは理解しきれない複雑なストーリーだったが、そこがよかった。私の頭の中はMONSTERのあれこれでいっぱいになって、いつの間にやら仕事のモヤモヤは外へ押し出されていたのである。いつもなら狭い部屋でうずくまって悶々としていたであろう夜が最高の夜に変わった。最初はオールしてやると思っていたけれど、結局最高の気分で帰宅してちゃんとシャワーを浴びていつもより短いながらもちゃんと睡眠を摂ることができた。それから1週間くらいはMONSTERの余韻で生きていたと思う。ありがとう浦沢直樹。ありがとうMONSTRT。


なんかMONSTERの宣伝みたいになっちゃったけど結局何が言いたいのかというと、自分の機嫌の取り方を知ってると幸せよねという話。相変わらず自己肯定感がすり減る毎日ではあるけど他人に欲求の沼を満たしてもらえるのを待つのは無謀なので、自分の機嫌は自分で取るのが一番手っ取り早いわな、と改めて思った夜でした。あとオタクは精神衛生上、定期的に創作物を摂取した方がいい。

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