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鏡を覗けば「願い」と「現実」が交錯する。辻村深月氏の『かがみの弧城』から感じた人のキズナ

この物語は希望と願いのストーリーだ

少なくとも私はそう受け取った

5月から翌年の3月30日まで、約11か月間

この期間だけでも友情は育まれ、人は成長する

それは私たちが過去、何の疑問もなく通ってきた「学校」という場所ではなかったとしても

色んな事情はどの家庭にも個人にもあるのだと思う。それは現在ではなく過去もそうだろうし、これからの未来においても同じことが言えると思う

それぞれの事情があり、ある種の「重し」を抱えながら生きている

沈みそうになりながら、もがきながら

本作の主人公である中学1年生の女の子「こころ」もそんな一人だった

そして、同じような境遇で集められた「こころ」を含む7人の中学生たちは約11カ月の間、鏡を通じて自分の部屋とその非日常的な空間である城へ出入りする

城の中にある鍵を見つけ、願いの部屋で願いを言えばどんな願いでも叶う

・願いの鍵を城の中から探し、願いの部屋で願いを言えばどんな願いでも叶う

・願いを叶える事ができるのは1人だけ

・期限は7人が集まった5月から翌年の3月30日まで

・城の開城時間は平日9時~17時まで(それ以外の時間に城にいた場合は罰則が与えられる)

・願いの部屋が開いた時点で3月30日を待たず城は消滅する

オオカミ様と自身を呼ぶことを強調するドレスを着てオオカミの仮面を被ったオオカミ少女が7人に語りかける

そして、それぞれの事情を持つ7人の中学生たちが微妙な距離感を保ちながら物語は展開されていく

大人であること、子どもであること

本作の詳しい内容は実際に手に取って読んで欲しい

読み終わった後は何とも言えない気持ちになるかもしれない。それは読み手の境遇によって大きく変わると想像できるからだ

私個人の感想は「複雑な気持ち」だ

物語(特に下巻)の畳み掛けるストーリー展開にページを読む手が進み、ただ終盤は「はっ」とさせられることが多かった

読み進めたいのに考えてしまう。過去の自分は?これからの自分は?関わる人は?色んな感情や想いを、気が付けば物語の中で躍動するキャラクターたちに重ねてしまっていた

この作品「かがみの弧城」は中学1年生の主人公こころの目線で描かれている

言い換えれば他の6人の子どもたちの視点に立って話が展開されることはほぼない。すべて1人の目線から描かれている。だからこそ、想像の余地がある。いや、想像せざるを得ない状況にいつの間にか立っていた

子どもから見た同世代の人たちに向ける目

そして大人たちから感じる視線

物語を読んで感じた事

私は、いつから大人になったのだろうか?という問いだった

こうした時代もあったなという感想を持つ人もいるかもしれない

こんな子いたよね。こんな先生いたよね。こんな親いそうだよね・・とか

年齢という一つの区切りではなく、純粋に自分の想いだけで「願い」を考えることができるくらい無邪気な感情を持つ瞬間はいつだったのだろうかと

ただ言えることは、人はいろんな経験をしながら形成されていく。そこがどんな場所かが重要ではなく、そこで出会う人によって大きな影響を受ける

その点については改めて本作を読んで個人的に感じた部分でもあった

たった一言でも人は救われる

鏡を覗けば「願い」と「現実」が交錯する

鏡の中に行けば同じ境遇の仲間に会える。ただ、光がなく映し出される鏡は今の自分を映し出す

見たくない現実と、非現実的な仲間との時間

特別な「事情」を抱えた7人は最初から打ち解け合い、時間を共有したわけではない

それぞれが言いたくない過去を持っていて、触れられたくない、でも知って欲しい気もする言葉にできない感情や態度が描かれている

物語の中で何度も「変わる」シーンがある

それは関係性やその人自身が明確に「変わる」場面だ

そこには自分以外の他者の「言葉」が関わっている

本当に一言。時間で言えばたった数秒かもしれない

ただ、その一言だけで人は救われている。確実に

そんな瞬間が散りばめられている。だからこそ読んでいて時折心がじんわりする

筆者である辻村深月氏が誰かに宛てたメッセージにも感じることができた

かがみの孤城というタイトルの意味

ラストまで読んでもらえればこのタイトルの意味を推し量ることができるかもしれない

なぜ弧城なのか?

人は誰しも孤独であり、孤独な瞬間もある

城のように誰にも入ってきてほしくないくらい強固に自分の気持ちを固める

ただ、どこかでこの城を見つけてほしい

門を、扉を開けて、自分を探してほしい

そうした気持ちを重ねることがあるかもしれない

孤城と表現した本作の城の中では、たくさんの感情やキズナが生まれた

物質的には弧城だったかもしれないが、外から見たこの城には、温かい光が灯ってたように思う

そして、この作品を読んだ人の心にも、その温かい気持ちは十分に伝わる。そんな作品でした。少なくとも自分自身にとっては

▼鏡の孤城:ハードカバー▼

▼鏡の孤城:文庫版(上)▼


▼鏡の孤城:文庫版(下)▼

良ければ是非みなさんも手に取ってみてください。そして皆さんの感想も楽しみにしています


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