尿崩症について


はじめに


尿崩症(Diabetes insipidus:DI)とは、体内の水分バランスが崩れ、多飲、多尿になり、水分を摂っているにもかかわらず、のどが非常に渇く病気である。健康な成人の場合、通常1日に約1~2リットルの尿が出る。しかし、重症の尿崩症の成人では、24時間で3リットル以上の尿が出たり、1日に7回以上の頻尿になることもある。その特徴的な症状のため、このまれな疾患の患者には、体外から体内へと摂取された水分と、体内から体外へと排出された水分のモニタリングと正確な水分管理の両方が必要である。
 

原因


尿崩症は、バソプレシンまたはAVPとしても知られる抗利尿ホルモン(ADH)のホルモンバランスの乱れが原因と考えられている。糖尿病と比較すると血糖値の変動がないため、糖尿病とは無関係である。
 

症状


尿崩症の症状には、多飲、多尿、夜間頻尿、冷たい飲み物を好むなどがある。乳幼児では、おねしょ、オムツの大量濡れ、睡眠障害、体重減少、発育遅延、便秘、嘔吐などがみられることがある。
 

病態


血漿と呼ばれる血液中の液体部分は、老廃物を取り除くために腎臓で濾過される。濾過の後、バソプレシンまたは抗利尿ホルモン(ADH)というホルモンが、濾過された血漿が血液中に戻るのを助ける。ADHは視床下部で産生され、脳の下垂体に貯蔵されている。ADHが欠乏したり、その作用が阻害されたりすると、過剰な尿の産生が増加する。ADHレベルの問題は、体液レベルの不均衡を引き起こす可能性がある。
 

分類

尿崩症には主に中枢性尿崩症と腎性尿崩症の2つのタイプがある。場合によっては、バソプレシンを作る細胞が自己免疫反応によって傷害されることが原因となることもある。

  • 中枢性尿崩症:視床下部または下垂体での,ADHの産生、貯蔵、放出などの正常な過程に対しての損傷によって生じる。脳腫瘍や悪性腫瘍、脳感染症、頭部外傷、あるいは手術などが、このタイプの尿崩症を引き起こすことがある。まれに、この病気は両親から受け継いだ遺伝的疾患によって起こることもある。

  • 腎性糖尿病:このタイプの尿崩症は、腎臓のADHに反応する部分の異常によって起こる。慢性腎臓病やリチウムなどの特定の薬剤を長期間服用した場合に起こることがある。遺伝的要因も、このタイプの尿崩症を引き起こすことがある。

管理


尿崩症では、水分の摂取量と排泄量のモニタリング、口渇の増加(多飲)のモニタリング、毎日の体重測定、尿比重と血清浸透圧のモニタリング、尿中および血清ナトリウム値と血清カリウム値のモニタリングなどが含まれる。血液量減少性ショックの徴候(例えば、頻脈、頻呼吸、低血圧)のモニタリングも重要である。のどの渇きのメカニズムに異常のない患者は、排尿量を補うために大量の水を飲むことで体液バランスを保つことがあるため、患者が自由に水を飲めるようにすることが重要である。患者は冷たい水や氷水を好む。ベッドサイドに十分な水分を確保しておくなど、水分摂取を促すことも大切である。

治療

  • 中枢性尿崩症:デスモプレッシンというADHアナログを投与することで、尿の排泄量を正常化させる。経口、経鼻、注射など、複数の形式が利用できる。

  • 腎性尿崩症:塩分の摂取制限や、利尿薬(サイアザイド系)の投与が有効。また、非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)も一部の患者に有効であることが知られている。

まとめ


要約すると、尿崩症は抗利尿ホルモン(ADH)の不均衡により体内の水分バランスが崩れる疾患である。多尿や多飲などの特徴的な徴候や症状がある。中枢性タイプと腎性タイプの2つに大別される。尿崩症患者に対しては、水分管理だけでなく、摂取量と排出量のモニタリングが含まれる。