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平成時代の〝何か〟が成仏した話


初めて持ったPHSは、番号が070だった。

じゃらじゃらと携帯ストラップをつけて、キラキラのシールを貼り、着メロは和音が鳴るように自分で作った。

世の中のお姉さんたちは、頭にでっかいハイビスカスをつけて、ミニスカにロングブーツを履いて楽しそうに見える。

日本の未来はWOW WOW WOW WOWとモー娘。は歌ってたけど、当時の私は全然WOW WOWしてなくて、
小学六年生にして、集団行動の理不尽さを目の当たりにし、好きだった男の子が私の親友と付き合い始め、父親は入院、母は働きっぱなしで兄はガリ勉。

全てが鬱鬱しく、元気いっぱいの真っ赤なランドセルを背負ってるわりに悲観的な感性で暮らす、そんな感じの田舎の小学生だった。


服が好きだとこの頃すでに自覚していた私は、情熱の全てを服にかけていた。
テストでいい点取ったらあれ買ってこれ買って、掃除したらあれ買ってこれ買って。
ローティーンでも物欲は一人前で、物欲ブルドーザーは止まることを知らない。

何かいい感じのものを買ったら、身に付けたら、自分に足りないものが全てチャラになる、みたいな気がしていたから、
狂ってはいるが前向きな気持ちでテストでいい点を取ろうと努力していた。


好きな男の子は、私の親友(絵に描いたような清楚系)と付き合い始めて、そんな2人を見るのは正直、全然いい気分ではなかったけど、
ピチレモンやニコラを読んだり、時々少し遠出して、母親に服を買ってもらうことだけが心のオアシスで、日々流行りの服やら髪型やらをチェックしてると気が紛れたものである。

カッコいい服を着ればカッコイイ自分になれたし、可愛い服を着れば可愛い自分になれた。

私にとっての洋服は、セーラームーンにとってのムーンプリズムパワーメイクアップであり、おジャ魔女どれみでいうところの、ピーリカピリララ ポポリナペーペルトだったのだ。



中学生になると、女同士のマウンティングバトルはものすごい速さで加速して、
「イケてるグループの人たちと持ち物を被らせてはならない」という、謎の縛りが発生し始めた。

ヤンキーとは趣味が合わないので、犬のジャージで喧嘩になることはなかったが、カースト上位の『めちゃモテ☆ナルミヤインターナショナル信仰軍団』の女の子達にはめちゃくちゃ目をつけられた。

可愛いと思ったものを買っただけなのに、
「かぶってんだけど。」とか、「なんで、お前がクレージュ持ってんだよ」とか、
今となっては笑ってしまうほど幼稚なイチャモンが飛び交い、お父さんに買ってもらったバーバリーのマフラーは3日で盗まれ、次の日にはカースト上位の女が「彼氏にプレゼントされちゃったの♡」といってそのマフラーを巻いてるし、好きなものを身につけているだけで、ろくなことが起きなかった。

かといっていじめられるほどでもないのは、私が「服を好きなだけのクソ地味な女」だったからで、少しでも顔が良くて、モテたりしようものなら、きっとひどいいじめを受けていたに違いない。治安の悪い学校だった。

ブスであることも時には役に立つ。
食ってもまずいから誰にも狙われないという理由で生存競争を生き延びたミツユビナマケモノよろしく、わたしは中学校という弱肉強食ジャングルでも、なんとなく嫌な思いをしながらも生き抜くことができた。
もちろん友達など1人もいないし、楽しかった思い出などあの場所にはひとつもないけれど。


そんなこんなで、私は大好きな服や小物を学校で使う時に、他人からイヤなことを言われないために最善の注意を払った。

「本当はこれがいいけど、◯◯ちゃんは最近このブランドが気に入ってるからこっちにしておこう」みたいな感じだ。

それの最たるものが、ベティーズブルーのショッパー問題だった。



私はピンクのイチゴ柄のショッパーを使いたかった。
できることならその可愛い柄のショッパーに、運動着やら楽譜やらを入れて通学したい。
地味なドブネズミ色の我が校の制服に、きっとこのショッパーを合わせたら最高になると思ったからだ。

田舎の公立中学の制服はダサい。夏服も冬服もダサい。なんでそんなに野暮ったい丈感なのか理解できないほど、昭和モダニズムなジャケットを筆頭に、反射材を埋め込まれた安全第一!みたいな通学カバンもダサい。リボンもネクタイもなくて、北朝鮮の工作員が想像だけで作った日本の制服、みたいな感じだった。でも、ベティーズブルーのピンクのショッパーさえあれば、耐えられる。



しかし、その願いは3年間一度も叶うことはなかった。
カースト最上位の女の子が「ベティーズブルーイチゴ柄ショッパー」をヘビロテで愛用していたからだ。

背も高くて、気が強くて、バレー部で実家が金持ちで、その子の何もかもが怖かったので、怒られないようにこっそり、ベディーズブルーの他の柄のショッパーを使い続けた。

途中でヒステリックグラマーの黄色いショッパーにしたり、スーパーラバーズのショッパーに変えたりなどしてみたが、どう考えてもベティーズブルーのショッパーが一番可愛かった。



長々と書いてしまったのだが、
あれから18年、齢33歳にして、夢が叶うこととなる。

なんと、ベティーズブルーイチゴ柄ショッパーが、エコバッグとして販売されることが決まり、私は購入することができたのである!!!!



見て!!!!



ねぇ!!!見て!!!!

ちょーーーー可愛いんですけど!!!!!!





スキーーーーー!!!!!!


もう誰に気を使うわけでもなく、
思う存分、このショッパーを使うことができる。

スーパーで、薬局で、会社でもらったサンプル入れで。
私はこのエコバッグをヘビロテするだろう。
似合う似合わないとかではない。
これは、魂の浄化に関わる問題なのだ。


入れるものは運動着じゃなくなっちゃったけど、心置きなく好きなものを使えるなんて、それだけで最高の気分である。

大人になるって、たまにはいい事あるじゃない。

ブランドの復活、エコバッグの製作販売に関わってくださった、全ての人に感謝を送りたい。長年の夢を叶えてくださって、ありがとうございました。

私の平成時代の〝何か〟が成仏出来そうです。

このお金で一緒に焼肉行こ〜