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掃除しやすくなった部屋

介護用のベットは移動できる。
足についているローラーのロックを外せば、簡単に方向転換や位置の調整ができる。

ぼくは週に2回、介護施設の掃除のパートをしている。いろんな介護施設を見てみたくて、あえて掃除の仕事を選んだ。

そこは老健施設。
介護老人保健施設。

リハビリが中心の施設で、在宅復帰が目的になっている。
3ヶ月から半年で退所される方がほとんど。早ければひと月たたないうちに自宅へ帰る方もいる。
だが入院を許可されず、でもとても在宅復帰ができる状態でない方もいて長期に滞在する方もいる。かといって特養、特別養護老人ホームにいくわけでもない。

行き場のない方もいる。

その老健はひと部屋で4つのベットがある従来型多床室。古い施設はほとんどが共同部屋。

ぼくは居室を掃除してまわる。

点滴や胃瘻・呼吸器を付けてしている方もいる。

清掃は何かと気を使うことが多い。清潔を保つのはもちろん、足元には蛇のようにコードが這いつくばっていて、上からは切れた電線のように点滴のチューブが垂れ下がっている。
呼吸器の電源コードに足を引っ掛けようものなら、ぼくの心肺が停止していまうかもしれない。慎重にかつ大胆に掃除しなくてはいけない。

昨日あんなに綺麗にホコリをとったのに、
今日もまた同じくらいホコリが溜まっている。

シーツ交換の時に落ちる剥がれ落ちた皮膚、けたたましく走り回る介護職員の足跡。水気に付着した綿埃が床に落ちている。栄養が行き届かなかった髪の毛が、束になって寄り集まっている。

絶対に綺麗にはならないのか。
掃除は永遠だ。

ベットの下はとくに手が届きにくく、掃除には一苦労する。
休んでいる利用者さんを起こさないように、T字で持ち手が長いホコリ取りをゆっくり滑り込ませて、ホコリを回収していく。

4つあるはずのベットが、

ひとつごっそり、ベットごと無くなっていた。

そこにいた利用者さんは、自宅へ帰ることのできる状態ではなく、かといって入院できず特養にも入れず。行き場を失っていた人だ。

行き場がないのに、どこへいったのか。
想像したくもない。

ベットごと無くなれば、
ベット下の掃除はたやすい。

かがんでベット下を覗き込み、T字を滑り込ませホコリを集める必要もない。

ぼくは立ったまま、しばらく何度も、
しばらく何度もその部屋を掃除した。

介護は大変。介護職はキツイ。そんなネガティブなイメージを覆したいと思っています。介護職は人間的成長ができるクリエイティブで素晴らしい仕事です。家族介護者の方も支援していけるように、この活動を応援してください!よろしくお願いいたします。