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さよなら、ライオン

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仕事にうんざりして、なんとなーく自殺しようとしたつぼみが目を覚ますと病院。横にはフェルトでできたライオンの面を被った女子高生。彼女に導かれるようにして隣の病室で寝ていた老人の最後…
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さよなら、ライオン。(1)(2)

自分はダメな人間だ。ダメな人間はこの世界にいてはいけない。もし、ダメな人間がダメな人間と恋に落ち、ダメな人間を産んだ場合、ダメな連鎖を断ち切ることができない。

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さよなら、ライオン。(3)(4)



 「ただいま。」つぼみは小さい声で言った。真っ暗に静まり返った家の中から「おかえり。」という返事はない。それに、つぼみも「おかえり。」を期待してはいなかった。

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さよなら、ライオン(5)(6)



 

 つぼみは枕元で母の声と先ほどの医者の声を聞いた。目を覚まそうと思っても、つぼみは夢の世界と現実世界のちょうど中間にいるような感覚で、起き上がることができない。脳は動いているのに体は金縛りにでもあったように目覚めようとはしなかった。

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さよなら、ライオン(7)(8)



 つぼみは新幹線で権蔵の隣に座り、すぐに後悔した。権蔵からは老人特有の匂いがする。

 二人ということで席を隣にして買ったが、そうする必要はない。昼過ぎに新函館北斗に着くまでは、一人でゆっくりと過ごすのもアリだった。それなのに会ってまだ数時間しか経っていない老人の加齢臭に耐えながら函館まで行かなくてはいけないのだ

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さよなら、ライオン(9)(10)



 つぼみはライオンに言われたことをゆっくりと頭の中で考えて見た。

 自分は「かもしれない自分」を助ける旅というのに出されている。

 そしてその「かもしれない自分を救う旅」最初の目的人がこの権蔵という人だ。

 でも、なぜ自分はこんなことをしなくてはいけないのだろう。自殺未遂をしたらこういう罪滅ぼしをしなくてはいけないのだろうか。

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さよなら、ライオン(11)(12)(13)

11

 つぼみと権蔵はJR北海道で美唄に向かっていた。結局到着した新函館北斗駅でも母に電話をすることができなかった。公衆電話を見つけることができなかったのだ。

 それに、一生懸命探せばあったのかもしれないが、つぼみは探しもしなかった。

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さよなら、ライオン(14)(15)

14

 いつもは学校という小さな世界にいる時間に外の世界に出ると、学校の行き帰りで毎日見る光景も、いつもよりも明るく、色鮮やかに見えた。知っている景色も、いつもと違う時間に見ると違った景色になる。

 浩介は五時間目が終わると教室に戻り、カバンを持って学校を抜け出した。

 二人で一緒にいるところを教師に見つかったらまずいと、つぼみも一人でなんとか外に出てきた。

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さよなら、ライオン(16)(17)(18)

16

 浩介はつぼみが探してくれたカプセルホテルにいた。シャワーに入り、ロビーにあった公衆電話から母に電話をし、今日は友達の家に泊まると言い後は眠るだけだ。

 母親は少し心配していたが、友人と遊びに出かけることも少ない浩介に、そうした友達がいるのを知って嬉しくもあるようだった。「いい友達がいて良かった。向こうのご両親にもよろしく言っておいてね。」そう言うと電話を切った。

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さよなら、ライオン(19)(終わり)

19

 本番が始まる少し前。浩介は裏口から外へ出て、つぼみの姿を探そうと思った。

 だが、窓がなくいつも蛍光灯に照らされている室内にいて気がつかなかったが、外はもうすでに暗くなり、建物の周りには長蛇の列ができていた。

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