Sexual rhetoric

　むかし歌い手というものが流行り出した頃のことだが，やはり流行り物には揶揄と冷笑が付き物なわけで，殊に「耳が孕む」や「耳が妊娠した」という彼らへの賛辞・評言がその槍玉にあげられていた。

　私はこれらを極めて優れた修辞だと考えている。

　これもむかしの話になるが，或るエロ漫画に「私だって半分はお母さんなんだよ？」という台詞があった。これは倫理的抵抗力を除けば教科書に載せて伝承すべきレベルの名句だとおもう。主客の関係や情緒，また情況を，かくも品のある短文を以て描写できる者がこの世に何人あろうか。

　さて，セクシュアル・レトリックには，これに特有の妙味をもった名句がしばしば現れるように私にはおもわれる。日陰に屠られ易いジャンルではあろうが，もっと修辞学的な視点から評価する運動があってもよいとおもう。