政府の失敗とはなにか。なぜ起きる?例とともに解説

問:政府の失敗とは何か、150字以内で説明しなさい。


ダメな解答例:

まあ政府が失敗するんやろ



解答例:
政府の失敗とは、経済のメカニズムの中で、政府主導の裁量的な経済政策が意図したような成果を上げられず、経済活動が非効率化することである。市場の失敗に対比して用いられる。市場の失敗を補填するために政府の政策が必要なのであるが、政府も市場と同様に様々な非効率を抱えている。(133字)



政府の失敗が発生する主な原因


 小さな政府の記事や市場の失敗の記事でも述べているように、市場メカニズムは正常に機能すれば効率的であるものの、正常に機能させることは難しい。このような市場の失敗が存在するので、限定的な政府介入はベストな選択ではないにしてもベターな選択ではある、社会の問題を解決することはできないにしても軽減することはできる、ということが一般的に合意されている。現代の日本でもそのようなシステムになっていて、自由競争をベースにした資本主義経済を基本としつつ、一定の法的規制によって民間企業の活動を制限したり、公共性の高い財やサービスについては政府が税金を使って提供するようになっている。
 
市場に放任しておくと起こりうる問題や不満に対して政府が介入しているのであるが、その政府の運営においても非効率が存在する。これが政府の失敗である。「政府は民間経済主体に比べて経済政策の立案能力・実行能力に優れている」というハーベイロードの前提のような考え方もないことはないが、過去の歴史や現代のニュース等を鑑みても、やはり政府が望ましい対応をできない場面というものは少なからずあると言わざるを得ない。どのような原因でどのような失敗が起きるのか、例を挙げつつ確認しよう。


情報の限定性や非対称性

 政府は一個人や民間企業に比べれば大量の情報を簡単に入手することができるものの、それでもやはりわかることとわからないことがある。例えば電力供給一つとっても、原子力発電を続けるべきなのか、核燃料サイクルは実験投資をやめるべきなのか、自然エネルギーの推進をするべきなのか、自然エネルギー特有の問題点としてはどのようなものがあるのか、という事柄について、長期的な国益を確保するためにはどうしたらいいのかは今一つわかっていない状態であるし、識者の間でも意見が分かれる。合意形成の問題がある以前に、誰も正解を知らないという問題がある。行政の官僚も国会議員も、能力の高い人ではあるにしても、全知全能の神ではない。わからないこともたくさんあるのである。

エネルギー分野を例に出したが、他の政策分野でも同様のことが言える。教育、保育、福祉、雇用、経済・・・どれを取っても望ましい政策が事前にわかっているということはなく、トライアンドエラーを繰り返しながら手探りで進むしかないのである。

 また、更に卑近な例であるが、貧困者への再分配政策、生活支援の必要性自体は社会的に合意できるとしても、実際にその貧困者支援政策を行うに当たって、「本当に困っている人は誰なのか」「誰にどのような支援をするべきなのか」ということに関しては、政府側から知ることはできない。本当に困っているにも関わらずそのような行政サービスを受けられない人がいたり、逆に生活保護のお金を使ってパチンコに行っている人がいたりする、というのが現状である。また、貧困者は現金支給を望んでいるのか、現物支給を望んでいるのか、職業訓練を望んでいるのか、といったことも人によって様々であろうし、それを政府が知ることは非常に困難である。知ったとして、個々のニーズに全て応えることは技術的にもコスト的にも不可能に近い。このような現状が望ましいとは到底思えないのであるが、一方で政府が市民一人一人の暮らしぶりを正確に把握することは不可能であるし、また可能である必要もないといえる。(政府が完全情報を握ることになればそれはそれで別の問題が生じる。)
 このような不完全情報のもとでの政策決定は必ず何らかの非効率性を内包してしまうのである。


市場コントロールの限界


 政府が市場をコントロールする方法としては、法的な直接規制や経済的・金銭的なインセンティブを与えること等があるが、それらにも限界はある。

例えば犯罪行為に対する刑罰を決める法律(刑法やそれに準じる個別法)ひとつとってみても、どれくらいの悪事に対してどれくらいの刑罰を設定することが犯罪抑止力を高めるのかということに関しては理論的に明らかになっているわけではない。あくまで試行錯誤の末に今の制度に落ち着いているというだけのことであって、今後人々の価値観や社会情勢の変化によって変更を加えていく可能性や必要性は十分にある。法律を作れば政府の思うように人々が動いてくれるというものでもなく、法制による市場のコントロールには限界がある。

また、税制の変更などによって経済的インセンティブを与えるにしても、その効果を正確に予測することはできない。例えば医療費の自己負担分は現状では3割であるが、仮にこれを4割にしたときに人々の受診回数に変化があるのか、国民の生活負担はどのように変わるか、ということに関しては予測することが大変難しいし、人々の行動をコントロールすることはできない。金融政策なども同じで、銀行の利子率が変わると人々の消費や投資の選好が変わるということは確かであるにしても、具体的に何円分の変化が起きるということがわかるわけではない。財政政策によってどれくらいの乗数効果があるのかということに関しても、統計的・確率的な予測ができるに過ぎず、人々に経済活動を強制するものではない。

更に言えば、政府によるコントロールが成功することが必ずしも良いことであるとも言えない。基本的には市場メカニズムに任せておく方が社会的余剰を最大化できるので、政府が手を入れなくても問題ない場合は手を入れない方がいい。市場の失敗が起きそうなときに政府が政策を打ち出すが、その政策の効果も不確かであるということがこの問題の難しさである。


政治家や官僚の構造的非効率


 現代の日本の政治システムは、国民の選挙で国会議員を決め、その国会議員が立法やその他政治運営をするという間接民主制であるが、その政治家たちは本当に国民全体の利益を考えて行動しているだろうか。政治家や官僚による汚職や賄賂、その他不祥事のニュースはなくなることが無い。政治家や官僚は優秀な人間であるにしても、生身の人間である。当然、国民全体の利益にそぐわない私的欲求やそれをかなえる動機が存在する。

 このように、「人間は自己の利益を最大化することを目的として合理的に行動する」ものであり,社会はそうした利己的人間から構成されるという前提で、政治的な現実や、社会の分析に経済学的手法を用いて体系化した学説を公共選択論という。ノーベル賞を受賞した経済学者の J.M.ブキャナン,G.タロックなどが有名である。

 ごく単純な例として、レントシーキングがある。レントシーキング(rent seeking)とは、
企業が政府官庁に働きかけて法制度や政策を変更させ、利益を得ようとする活動で、自らに都合がよくなるよう、規制を設定、または解除させることで、超過利潤(レント)を得ようという活動のことである。例えば公共事業を民間企業に発注して実施する場合であれば、民間企業は工事の技術を磨きつつコストを削減して、公平な入札によって仕事を受注するのが通常である。しかし、その民間企業が所管の官庁に影響力を持つ政治家に接触して集票活動や政治献金を通じて協力し、特別の便宜を図ってもらおうとするかもしれない。官僚のOBを自社に迎えて特別な情報を流してもらうかもしれない。それらに政治家や官僚個人として十分なメリットがあるのならば、彼らはそういった取引に応じるかもしれない。このようなレントシーキング活動が行われることが想定される。

こういった様々な思惑が渦巻く中で政策決定をしているとすれば、本来あるべき政策とはかけ離れたものになっている可能性も十分にある。森友学園・加計学園の騒動も似たようなものだろう。

政治家や官僚の個人的な利益が国民の利益と一致するとは限らない。国民は選挙を通じて議員を選定し、その議員が政治を作っていくのであるが、それによって必ずしも国民の利益が実現されるわけではない。これは政治家や官僚の倫理的・道徳的な問題でもあるが、構造上起こるべくして起こる問題でもある。

しかし実際問題、全ての政治家や公務員が私利私欲を満たすことだけを考えるかというとそうでもなく、公共選択論における「人間は自己の利益を最大化することを目的として合理的に行動する」という前提は少し極端ではある。公の利益の為に頑張っている人も沢山いる。その点に関してはブキャナンらも自著でそう述べている。ただ、個人的な利益を追求すると社会にとって望ましくない政策を生んでしまうということを理論的に証明した功績は大きい。



※ワンポイントアドバイス


経済学の領域で議論されることが多い政府の失敗ですが、立法論や政治過程論の問題として捉えることもできます。それぞれの学問領域の中で政府機関はどのような位置づけで、どのような役割が期待されているのか、何が原因で非効率が発生するのか、といったことを考えながら学習を進めていくと、より理解が深まると思います。


《おわりに》

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