大きな政府とはなにか。メリット・デメリット、背景を解説

問:大きな政府について、150字以内で説明しなさい。

ダメな解答例:

政府が大きいんやろなあ・・・


解答例:
大きな政府とは、政府が経済活動に積極的に介入することで、社会資本を整備し、国民の生活を安定させ、所得格差を是正しようとする考え方である。基本的人権の保障に適合するものの、公営事業が民間企業を圧迫したり、政府の規制によって市場の自由競争が抑制されるなどして、民間経済の活力が奪われるおそれもある。(147字)



《歴史的背景》


 20世紀前半までは自由な取引をベースにした資本主義経済によって各国は国力を伸ばしていたが、自由競争の中で脱落する者も多数現れた。また、失業者が多くなれば消費にお金を回さなくなるので、技術革新によって大量生産が可能になった割には消費が伸びずに結果的に在庫を抱えてしまうというケースも存在した。

 そもそも自由競争を基本とした資本主義においては社会的余剰が最大になることが理論的に示されてはいるものの、平等や公平については触れていない。例えば人間がA,Bの二人だけだったとして、Aが100円、Bが10円得る場合と、A,Bがそれぞれ50円ずつ得る場合を比較すると、自由資本主義の立場でいえば前者の方が優れているということになる。効率性の理論としては理解ができるものではあるが、実際の生活者としての感覚で言えばやはり不公平感を拭うことができないという人が多いのではないだろうか。
 そこで政府の財政支出によって恵まれない人を守るというセーフティーネットの考え方が必要となった。


《ケインズ経済学》


 ケインズは1936年、『雇用・利子および貨幣の一般理論』において、有効需要の重要性を強調した。有効需要とは、財やサービスに対する実際の貨幣的支出を伴って現実に市場に現れる需要のことである。商品は需要があって初めて生産される。生産しても売れなければ売れ残りが生じ、結局のところ生産は売れる規模にまで縮小される。その際の需要は、人々が頭の中で欲しい、買いたいと思うだけでなく、実際の貨幣支出として市場に現れるものでなければならない。例えば人々が「家を買いたい」と思っていても、代金の支払いが明らかに不可能な状態であれば、その買いたい気持ちが市場に現れることはない。

 そしてケインズは、失業者が多数存在するような状況では有効需要は低下するとして、不況のときに政府が公共投資を増やし、景気の落ち込みを防ぐことを提唱した。公共投資を増やすことで意図的に雇用を創出し、失業者を減らして景気後退を緩和することが必要だとした。また、乗数効果※1によって投じた税金以上の経済効果が上げられると主張した。賃金を低くすれば完全雇用は復活できると論じる経済学者に対し、ケインズ経済学者は、販売されない物品を生産するための労働者は雇われないと断言し、失業は物品・サービスに対する不十分な需要の結果であるとした。つまり、商品が売れないから作らないし、作らないから人を雇うこともなく、その結果失業者が増える、ということである。

経済の動きを市場の自由な取引に任せる「古典派経済学」の見方を覆す理論は「ケインズ革命」と言われ、各国の経済政策に大きな影響を与え、1970年頃までマクロ経済学の主流理論となった。(その後ケインズ経済学は衰退することとなるが、その点は後に詳述する)

※1 乗数効果
乗数効果とは、経済現象において、ある経済量の変化が他の経済量に波及し、最終的にそれらの効果の全体が元の効果の何倍にも達することである。誰かの収入が増え、それを消費に回し、それがまた誰かの収入になり、それを使い、それがまた誰かの収入になり・・・という過程を繰り返すことによって投資額以上の経済効果が得られることが理論的には明らかになっている。
限界消費性向(収入のうちのどれだけを消費に回すか)が0.8であると仮定すると、投資が100円増加すると、100円の生産物に変わり、それが売れることで100円の所得になり、所得のうち80円(100×0.8)が消費され、80円を受け取った者には、80円の所得が生まれ、さらに64円(100×0.82)が消費されて、次の者に64円の所得をもたらす。これを所得がゼロになるまでずっと合計していくと、100+80+64+51.2…=500円の国民所得になる。
一般化すると、投資額がX、限界消費性向がβの時、

画像1

の乗数効果が表れる。



《ケインズ学派の衰退》


1970年代以降、インフレと不況が同時に起こるスタグフレーションに対処できず、ケインズ経済学の影響力は低下した。常識的には、景気が後退すると需要が減少し物価も下がると考えられるが、1970年頃より、スタグフレーションという特異な現象が見られるようになった。
1960年代後半ごろにイギリスにおいて失業率の上昇と賃金の高騰によるコストプッシュ・インフレーションが同時に発生した。さらに、1973年の第一次オイル・ショック時においては、世界同時不況が発生する最中、先進国は軒並み二桁台の率で物価水準が上昇した。ある程度の高い失業率の下でインフレがおこると人々は「まだ物価が上がるのではないか。今のうちに買っておいた方がいいのか」と考え、将来の予想インフレ率が追随して上昇してしまう。不況で消費を増やすような余裕が無いにも関わらず買い急いでしまう。財政・金融政策による引締めでこれを抑制して現実のインフレ率を落としても、予想インフレ率がそれに追随して落ち着くまでは、高失業率と高インフレ率が共存してしまう。これがスタグフレーションである。こうした失業とインフレの共存する現象を説明すべく、ミルトン・フリードマンに代表されるマネタリズム(貨幣主義)は、ケインズ的政策を放棄して、金融政策によって貨幣供給を安定させ、経済の自律性を発揮させることが重要であると主張した。


《大きな政府のデメリット》


 ケインズ学派にしても、マネタリズムにしても、財政政策か金融政策かという違いはあるにしても、政府の役割を重視している点は共通している。それはある意味、政府が健全に機能するという前提があってこそ成り立つものである。現実の政府はそれほど有効な働きをしてくれているだろうか。政治家や官僚による汚職や公文書改竄、違法献金といったニュースは途絶えることがない。税金の使い方や市場への介入の仕方も100%正しいとは思えない。このような政府運営上の非効率を政府の失敗という。(政府の失敗については言及すべきことが多いので、それ単体で一つの記事とする) これは政治家や官僚の道徳観・倫理観や技術的問題でもあるが、システム上必ず存在する構造的問題でもある。いかに優秀な人材を集めても政府の失敗は発生する。特に政府の役割が大きくなるほどに汚職や賄賂だけでなく、行政の肥大化や硬直化といったリスクも大きくなる。
 また、仮に政府が正常に機能していたとしても、大きな政府の運営には困難が伴う。政府の財政支出によって国民の生活を支えようとすれば、当然ではあるが大量の税収が必要となる。政府の財政支出が増えるため、税金や社会保障費などの国民負担率が高くなり、「高福祉高負担」となる傾向がある。例えば福祉制度が充実していることで知られているスウェーデン等では消費税が20%を超えているが、それでも十分な財源が確保されているとはいえない。更に言えば、税率を上げてもそれ以上に消費額が減ってしまうと税収は増えない。
税率を上げても景気が後退しないほどの経済の体力が必要なのである。つまり、資本主義型の福祉国家は経済成長を続けなければ維持することができないのである。少子高齢化や雇用の流動化が問題となっている現代の先進国においてそれがかなりの難題であることは明らかであろう。


※ワンポイントアドバイス


政府の市場介入については、マクロ経済学と並行して財政学の入門書を読むことをオススメします。時代背景やそれぞれの学者の理論的背景も併せて調べればより理解ができると思います。また、学派ごとの主張の大枠を捉えておくことも重要です。ケインズの考え方に関連してルーズベルトのニューディール政策について取り上げられることが多いですが、ヒトラーの経済政策も見るべき点が多くて面白いですよ。


※追記

ここまで読んでいただいてありがとうございます。
学びがあったと思っていただけましたら、SNS等でシェアしていただけますと幸いです。

また、現状としては読者の方がどういった点を解説してほしいのか、どういったテーマを掘り下げてみたいのかということがあまりわからないまま記事を書いています。
ご意見やリクエスト等、コメント欄に打ち込んでいただけないでしょうか?
「こういうことがわかりました」「こういうことが難しかったです」といったアウトプットの場にしていただいても構いません。
よろしくお願いいたします。

放送大学在学中の限界サラリーマンですが、サポートは書籍の購入にあて、更に質の高い発信をしていきます!