そうじきのマキタさん
ふしゅっ、ふしゅんっ。うしゅっ。
みみちゃんが、なんどもくしゃみをくりかえしている。
さいきんのみみちゃんは、くしゃみと鼻詰まりのひんどが高くなってきているような気がする。
ぼくはスティック掃除機のマキタ。
みみちゃんの健康のために、おへやのホコリをぜんぶ吸いきるくらいの覚悟でいつもお掃除をしている。
みみちゃん、大丈夫かなあ。
ぼくはしんぱいになる。
どんなにぼくとベルジェさんががんばっても、くるまの排気ガスは「りゅうし」というのがとてもこまかいらしいから、ぼくらだけではげんかいがある。
なんとかならないかなあと思っていたある日、みみちゃんがお姉さんにでんわで「引っ越そうかなって思ってるんだ」と話しているのを聞いてびっくりした。
ついに、みみちゃんが、おひっこし。
ぼくらはみんな、こころの中でしずかにざわついた。
住みなれたおうちさんからおひっこしするのはさみしいけれど、みみちゃんの健康のためにはしかたのないことだ。
みみちゃんもぼくらも、この町がとても好きだ。
おいしいごはんのお店やおしゃれなケーキ屋さんがあって、おおきな公園があって、うつくしいみみちゃんとぼくらの町。
だけどみみちゃんの住むたてものは大通りぞいにあって車もたくさんとおるから、やっぱりみみちゃんには似つかわしくない。
ここにひっこしてきてからみみちゃんは鼻詰まりのオンパレードで、ねむれない夜もおおいのだ。
みみちゃんがひっこすというのを聞いてしまったその日から、ぼくらはなんとなくソワソワとした心もちになったし、おうちさんの気持ちをおもうとせつなくもあった。
鼻詰まりがひどかったある日の後の土曜日に、ついにみみちゃんが行動をおこした。「不動産屋さん」というところに行ったのだ。
ぼくらはみんなみみちゃんがどういうけつだんをしたのかとても気になったけれど、ちょくせつ聞くことはできないから、みみちゃんがまたお姉さんに電話するのを待っていた。
よくじつの日曜日に、みみちゃんはお姉さんにでんわで「今住んでいるところって、場所の割にかなりいいんだって。内見もさせてもらったけど、住みたいって部屋はなかったし、とりあえず引越しは見送りかなあ」って話しているのを聞いて、ぼくらはぜんいん「はあーっ」ってむねをなでおろした。
よかった。みみちゃん、ひっこさないって。
いつかきっと、みみちゃんはおひっこしをするだろう。
だってそのときのみみちゃんには、それがお似合いだからだ。
でも、ぼくらとおなじようにみみちゃんのことを大切におもっているおうちさんが、みみちゃんと1日でもながく一緒にいられたらいいなととぼくはおもう。
ぼくらはみみちゃんとお姉さんのいつものながでんわに耳をすませて、少しだけほっとしたきもちでみみちゃんの休日をみつめていた。
この小さな物語に目を留めてくださり、 どうもありがとうございます。 少しずつでも、自分のペースで小説を 発表していきたいと思います。 鈴木春夜