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スポーツの公式情報が意外と詳しくて驚いています。

パリオリンピック、始まりましたね!
紙面でも選手たちの熱い戦いを連日お伝えしています。

というわけで(?)、今回はスポーツ記事の校閲でお世話になっている、妙に手厚い公式情報のお話です。


公式情報が手厚いと嬉しい

運動面の校閲において確認しておきたいポイントはたくさんあります。
そのときにまず参照するのが公式の情報。
競技を統括・運営する団体や選手の所属先などが出しているデータです。
これが詳しくて確認が取れる要素が多いと、校閲記者としてはとても心強いのです。


余談:「チェックポイント」というフォントがあったので、
ここぞとばかりに題字に使いました


実のところ、公式の記録や情報は校閲記者になってから初めてまじまじ見たというスポーツばかりなのですが、校閲作業で調べていると「ここ見たらこんなこと分かるの!?」と驚くことも。
「助かっております…!🙏」という深い感謝の気持ちも込めて、ちょっと語らせてください、というのが今回の趣旨です。





サッカー

Jリーグであれば公式サイトのテキスト速報が各試合の流れについて、シュートやゴール、セットプレーからパスの流れやらブロックやらまでかなり詳細に伝えてくれています。
さらに今シーズンからはゴールを決めた選手の写真やスタッツのまとめ画像などが入り、視覚的に訴えてくるようになりました。

しかし、全国高校サッカー選手権大会(いわゆる高校サッカー)にはJリーグのようなテキスト速報がありません。
えっ、地元の学校の試合があったときに校閲に使える情報、なんにもないの!?

いや、JFA(日本サッカー協会)の出す公式記録がある!



試合詳細ページからひっそりとPDFファイルがリンクされています。
「せめて出場選手と得点時間、交代くらいはこれで分かるといいな」と思いながら開いたのですが、侮れなかった。
よく見ると下の方に何やら記号が並んでいる得点経過なる欄があり、読んで字のごとくゴールが決まったプレーの流れがざっくりと記録されています。

先ほどリンクを貼った第102回大会決勝の記録であれば、例えば近江高校の1点目は「ピッチ中ほどのMF浅井選手からゴール前あたりのDF金山選手を経由してMF山本選手にボールが渡り、後半2分に右足でシュートした」という流れだっただろうと読めます。

この場面、記事では次のように書かれていました。


2024年1月9日付 中日新聞 朝刊14面


0-1で折り返した後半開始直後MF浅井がペナルティーエリア手前まで突き進み、左ウイングバックの金山がゴール前に走り込んでパスを受ける。そこからクロスを入れ、味方が押し込んだ。(以下略)

太字の部分が、公式記録で確認できるところ。
金山選手のポジションが左ウイングバックだったかなどの詳細はさすがに分かりませんが、それでも何も情報がないよりはいくらか納得して締め切り時間を迎えることができます(個人の感想です)。



フィギュアスケート

フィギュアスケートといえば演技内容とジャッジスコアが載ったプロトコルですが、今回は別のものを紹介します。

ISU(国際スケート連盟)の選手バイオグラフィーです!!



実にさまざまな情報がまとまっていて、初めて見たとき感激しました。
オリンピックや世界選手権など過去の主要大会での順位、自己ベストの点数やそれを記録したのがいつかという情報も載っている。
今シーズンのプログラムで使っている曲も、コーチ・振付師も書いてある。

英語のページなのでさすがに名前や所属の漢字表記は分からないものの、それを差し引いてもおつりが来ます。
「これで各試合のプロトコルにもリンクしていたら最高なのにな~!」と思うのは、わがままが過ぎるでしょう。

ISUはスピードスケート選手のバイオグラフィーも詳しいのですが、フィギュアの場合はパソコンで見ると画面にほぼ収まるサイズに情報がまとまっているのが個人的にうれしいところです。
ただし字は小さい。



テニス、バドミントン

選択した選手2人の対戦に関する情報がまとまっている、H2H(Head to Head)というページ。
これの存在を知ったときの、目の前がぱっと開けたような心地といったら…!

というのも、テニスやバドミントンの試合を伝える記事では「過去○勝●敗の相手」「前回対戦は□-△で競り勝った」など、過去の対戦データに言及することが間々あるのです(特にシングルス)。



BWF(世界バドミントン連盟)ATP(プロテニス選手協会)WTA(女子テニス協会)それぞれにH2Hのページがありますが、BWFは対戦結果の一覧に日付が明記されているところがポイント高め。
日付が分かれば、その試合を伝えた過去の記事や関連情報をさらに探すための当たりをつけやすいからです。
校閲は締め切りまでの時間が限られた作業ですので、時短につながる要素にはありがたく乗っかっています。



大相撲

日本相撲協会の力士情報ページ下部に、いつの間にか各力士の過去の星取表がずらりと並ぶようになりました(昔はなかったはず)。
それまでも過去の取組結果自体は見られましたが、場所別のまとめだったので任意の力士の成績を振り返るという場面では手間取っていました。



「〇場所ぶりの勝ち越しを決めた」「△場所連続の休場」といった情報の確認で重宝しています。
当時の番付上の地位や、各取組の相手が載っているのもありがたいところです。
「今場所2桁勝利できれば大関昇進が確実」のような記述があっても、「今場所は関脇で、過去2場所は三役で計23勝しているから、OK」などの確認が力士紹介ページの星取表を見るだけでサクッとできるってわけです。

また、最近は場所中、トップページに各取組の概要が表示されるようになりました。
当日のみの掲載かつ結構端的な内容ではあるのですが、取組の流れについて「右手でまわしをつかんだ」などの決まり手以外の要素を公式情報で確認できると、儲けた!と思います。



まず公式情報ありき



公式から示される情報が少ないとしても、確かめられる限りの情報は確かめます。
タイミングの問題でまだ出ていないとか公式発表がそもそもないということは間々ありますし、時間との戦いもありますが…。


ひとつ、公式情報の確認に関する思い出話をしましょう。

柔道の記事を校閲していたときのことです。
ある試合を決した技が「一本背負い」と書かれていたのですが、大会公式のリザルトでは一本背負い投げを示すISNではなくSONと記録されていました。
SONとは背負い投げのこと。

もしかして一本背負い投げと背負い投げを混同している…?

念のため当該選手の全試合を確認したものの、一本背負い投げで決した試合はありません。
その旨を公式のリザルトを添えて指摘したところ、「背負い投げ」に修正されてきました。

あの記録は選手名と勝敗、あとは時間と技くらいのシンプルなものでしたが、それらはまさに試合の根幹をなす情報でしょう。


ちなみに当時、ネットでこの試合について調べると「一本背負い投げ」としている記事も「背負い投げ」としている記事も両方出てくる状況だったと記憶しています。
そういう状況で違和感を抱いたとして、現地で試合そのものを見て記事を書いている取材記者に対して外野にいる校閲記者が「ネットで言われているのとなんか違うから確かめてほしい」と言うのと「公式の記録と食い違っているから確かめてほしい」と言うのとでは、だいぶ印象が違うと思います。
その意味でも、校閲作業では公式によって立つのが基本です。
これはスポーツに限ったことではありません。



取材記者と違って校閲記者は、熱気に満ちた試合そのものに立ち会っていません。
現地ではなく記録越しという一歩引いた立ち位置に、少しの引け目を感じることがあります。
でも、この距離があるからこそ、落ち着いて記事を見ることができるんじゃないかな、とも考えます。

今回語ったさまざまな公式のデータも、驚いて面白がるばかりでなく、しっかりと冷静な校閲作業に生かしていきたいと思っています!



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