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記者ハンドブック。新聞校閲もまずはここから。

記者ハンドブック第14版発行(2022年3月15日)に伴い、2021年7月26日公開の内容を再編集しました。

はじめまして。校閲記者17年目、上田貴士です。

今回は校閲部長の「心強い新人」の回でも触れられていた、共同通信社発行の『記者ハンドブック』を紹介したいと思います。私たちにとって欠かせない相棒です。

共同通信とは

中日新聞の紙面には、頭に【ニューヨーク=共同】、最後に(共同)とついている記事があります。

この「共同」というのは共同通信という通信社のこと。通信社は国内外のニュース記事や写真、CGを新聞社や放送局などに配信しています。中日新聞は共同通信の加盟社としてこれらの配信を受けています。

新聞表記

そして、記事をどういった表記基準で書くのかも中日新聞は共同通信社が発行するハンドブックを参考にしています。というか、ほぼこれに沿っています(全部ではありません)。

現行の記者ハンドブック。開かない日はありません

たとえば、新聞で使われている漢字。どの漢字はそのまま使えて、どの漢字は使えない(平仮名などにする)のか。これは国が漢字使用の目安として定めた常用漢字表を土台に決まっているのですが、このような漢字についてをはじめ、いろんな新聞表記の基準がこのハンドブックには示されています。



具体的な内容

では具体的にどんなことが書かれているのか、私たちがよく使う項目から少しだけご紹介していきます。

(注)以下『記者ハンドブック』の内容に関する部分は現行の第14版を基に紹介しています。ハンドブックは数年に一度改訂されますのでご承知おきください。

使用頻度第1位は、先ほど触れた漢字についてでしょう。「この漢字使えるかな」「これどっちの漢字で書けばいいかな」と迷うことがあります。そんなときはたいてい用字用語集を開きます。

用字用語集は、本の厚さでいえば半分くらいを占め、国語辞典のように五十音順に見出し語が並んでいます。

たとえば、「国会で野党が与党を〝ついきゅう〟する」といった場合、漢字はどう書くのが適切か確認したいとしましょう。

〝ついきゅう〟を引いてみます。

ついきゅう
=追及〔追い詰める〕責任を追及、容疑者を追及、余罪の追及
=追求〔追い求める〕幸福の追求、真実の追求、目的を追求、利潤を追求、理想の追求
=(追窮)→追究〔追い究める〕学問を追究、原因を追究、真理を追究、本質を追究

「追及」「追求」「追究」の語義、使用例が示されています。今回の例の場合は〝追及〟が適切だということが確認できます。

入社したとき、「知識を〝いかす〟」といった場合〝活かす〟とは書けないと知ってちょっと驚いた記憶があります(ちなみに私は経済学部出身です。常用漢字など知りませんし興味もありませんでした)。

「活」は常用漢字表の音訓では音読みの「カツ」が示されているのみで、「い・かす」の読みはありませんので、共同通信の記者ハンドブックでも「い・かす」の読みは認めていません。中日新聞では原則「知識を生かす」と表記します。

次に私がよく使うのは、カタカナ表記を確認したいときでしょうか。野球では「グローブ」ではなく「グラブ」と書き、「ボウリング」は球技ですが、地盤を掘削するときは「ボーリング」です。外来語などをどのように表記するか、主なものは一覧で見られるようになっています。


こんなことまで

その他にも、
▽動植物名は原則カタカナで書きましょう
▽「ATM」は「現金自動預払機(ATM)」としなくても、初出から「ATM」と略語単独で使用していいですよ(前の版のハンドブックまでは長らく原則初出は日本語の全表記が必要でした)
▽道府県庁所在地と政令指定都市は初出から道府県名を省いていいですよ
▽西暦の初出は4桁で次出以降は下2桁でいいですよ

などなど、記事を書く上でのいろんな目安が示されています。
(なお、実際の新聞では必ずしも上記のようになっていないことや、動植物名についてはもう少し細かい基準もあります)


お役立ちツール

例えば
▽大正11年生まれの人が2022年の誕生日で何歳になるか、年齢早見表を見ればすぐに分かります(100歳です)
▽新一万円札の肖像・渋沢栄一が生まれた天保11年は西暦何年かを知りたいときは、年号・西暦対照表を参照します(1840年です)
▽記事に「バンコクで22日午後9時(日本時間同日午前10時)」とあれば時差表を見て現地時間と日本時間が整合しているか確認します(全然違います)

他にも
一般的な地名は「霞が関」で地下鉄の駅名は「霞ケ関」、マヨネーズのおいしい会社名は「キューピー」ではなく「キユーピー」、「足元をすくう」ではなく「足をすくう」など、気を付けたい地名、会社名、慣用句などもまとめられています。

最後に

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
記者ハンドブックの「まえがき」には、「新聞、通信、放送だけでなく、社会全般の文章表記にも役立つことを願っています」と書かれています。
もちろん普段の日常生活の中では「知識を活かし・・・」と書いてもいいわけで、このハンドブックで示される表記がすべて「正しい」というわけではありません。
ですが、みなさんが文章を書くときに何か表記の基準になるものを必要とするなら、もしかするとこのハンドブックは一つの助けになるかもしれません。一般にも販売されている物ですので、興味をお持ちの方は一度手にとってみてはいかがでしょうか。

職場にあったこれまでのハンドブック。
1990年発行の第6版(左上)から。
2006年入社の私は下の4冊にお世話になりました


この記事を書いたのは
上田 貴士
2006年入社、名古屋本社校閲部。11年北陸本社校閲課。13年名古屋本社校閲部。現在はニュース面を担当。最近の楽しみはMr.Childrenのファンクラブ会員限定コンテンツ「誰も得しないラジオ(仮)」。