犯罪者って不良品なの?【法律】
松本人志さんの発言
川崎の殺傷事件で、世間では様々な議論が巻き起こっています。
子供の安全対策、引きこもりの問題、「一人で死ね」という意見についての賛否。
中でも僕が気になったのは「犯罪者と不良品」の話題です。
某情報番組で松本人志さんの発言をきっかけに起こった議論。
いつも録画している番組なので問題のシーンを確認してみました。
「人間が生まれてくる中で不良品が何万個に一個あるのはしょうがないと思うんすね。それをみんなの努力で、何十万個、何百万個に一個に減らすことはできるのかなと思う。正直、僕はまあ、こういう人たちは絶対数いますから。もう、その人たち同士でやりあってほしいですけどね」
特に文脈があったわけではなく、事件についてのコメンテーターの意見を順に述べていくところでの発言でした。
この話を聞いた時、僕はなぜか、大学の大教室の光景とロンブローゾが書いたイラストを思い出していました。
ロンブローゾの衝撃
大学時代の授業について覚えていることは少ないのですが、なぜか「ロンブローゾ」の話は鮮明に覚えています。
犯罪学の歴史に名を残し、世界に猛烈なインパクトを与えたであろうイタリアの学者ロンブローゾ。
彼は「犯罪者となるかどうかはある程度、遺伝的特徴で決まっており、顔の特徴で犯罪者(予備軍)かどうかが判別できる」という、いわゆる「生来性犯罪者」が存在すると考えていました。
「生来性犯罪者(せいらいせいはんざいしゃ)」
つまり、生まれながらにしての犯罪者が存在するという考え方です。
ロンブローゾが書いた生来性犯罪者のイラスト
この話を授業で聞いた時、僕自身、なんて野蛮な発想なんだろうと驚くとともに、そういうことも実はあるのかもしれないという気持ちがじわっと湧き起こり、その考えを必死でかき消したことを覚えています。
平和VS個人
ロンブローゾの説については、今はもちろん支持する人はいません。
科学的な裏付けの問題もあると思いますし、こういった考え方は、その人が犯罪を起こす前にどこかに隔離しちゃおうとか、場合によっては殺してしまおうという恐ろしい考えに結びつきやすいものでもあります。
それに、実際に犯罪が起きた時に「遺伝子レベルで犯罪を犯すことが決まってた」ってしちゃうと(そんなことできないんですけど。)、なんでその人が犯罪に走ってしまったのか、それまでの経緯や生い立ち、それを未然に防ぐ環境づくりなんかを考えることなく、思考が停止してしまいます。
カテゴライズすることって物事を整理する時に便利だけど、便利すぎて考えることをやめてしまう。
僕も犯罪者になったかもしれない
僕はこれまで弁護士の仕事を通じて、犯罪を犯した人とたくさん話しましたし、その人の生い立ちや罪を犯すまでの経緯を聞いてきました。
そこでいつも、本当にいつも思うのが、「あ、めちゃくちゃ普通の人だ」ということ。
それと「自分が全く同じ境遇だったら同じ犯罪者になってたかも」ということです。
(もちろん、不遇であれば犯罪を犯してもいいという話ではありません。犯罪を犯したことを肯定する意味は全くありません。)
刑法の世界では、”なぜその人は罰せられるべきなのか”ということを考える時、「規範に直面していたのにあえてそれを乗り越えたから」という表現をします。
つまり、「あ、今目の前にあるお弁当を盗んだら犯罪だな」って思ったのにそれ盗んじゃったらそれは責められるべき行為でしょと。
でも考えてみると、僕はこれまで「お弁当盗みたい」って思ったことないんですよ。そんな「規範」に直面することなく生きてこれたんです。
つまり僕がお弁当泥棒になってないのは、僕が「何が何でもお弁当を盗まない強い精神力」を持ってるからではなくて、そんなこと考えなくていい環境にいたからなんです。
何が言いたいかというと、犯罪者って生来性の別人種でもなければ、気が狂ったやばい人ってわけじゃないんです。あなたと同じ普通の人間です。
不良品との生き方
今回の事件については無関係な僕だってやりきれない気持ちになりましたし、理解できないし、許せないです。
生まれつきそうでなくても、結果的にこういう犯罪を犯した人は、社会から見れば「不良品」と言われても仕方ないのかもしれません。
でもこれまで言ったように、その人はもともと「不良品」だった訳ではありません。
今回の犯人のことは僕は何も知りませんが、その人が生きてきた環境、境遇、関わった人間、学校、地域、テレビ、ネット、その他もろもろの何かが彼に影響を与え、こういう行動を起こさせたことは間違いありません。
こういうことをやっちゃう特別な人間なんだ、と思うと楽ですけど、本当はそうじゃないんです。
想像力を持って、それが自分だったかもしれない、隣の友達だったかもしれないと思って、事件について考えるようにしています。
すごく難しいことですが、そうしないといけないと思っています。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?