【0014】えむしたのこと「心の声が飽和する」
「あーくそっ、やっと見つけた」
あの日のカンナさんにまた引きとめられたのかと思った。
「あらら、えむちだ」
銀行での両替待ちが思ったよりもスムーズに済んで、ビニール傘を軽い足取りで開き、歩きだした瞬間だった。
「ひさしぶり」
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1,019字
ルームシェアをしながら、歌い手活動をしている「明日」と「えむち」。明日の部屋の一輪挿しが枯れ、花瓶の水が澱みはじめた頃、えむちはようやく今回の失踪が普段の気まぐれとはどこか違うのではないかと察する。不安は的中しており、明日の体には常盤色化と呼ばれる異変が生じはじめていた。植物の蔦を模したようなしみが皮膚に広がり、やがて全身を覆ってしまう奇病。一方、えむちはある事件をきっかけに人前で歌うことができなくなっていた。移り変わってゆく、彼女たちの季節を追う物語。
小説「えむしたのこと」
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