【0010】えむしたのこと「わたしたち、気があうと思う」
ほどなくして、わたしと明日のルームシェアは開始された。明日という人間は、せっかくの大学進学を固辞したかと思えば、あっさりわたしとの共同生活を受け入れたり、どうにも掴みどころが図りかねる人物だった。言いつつ、それほど仲がよかったわけでもない明日に対して、配信という共通点だけで強い親近感を抱いたわたし自身も大概なのかもしれないが。
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ルームシェアをしながら、歌い手活動をしている「明日」と「えむち」。明日の部屋の一輪挿しが枯れ、花瓶の水が澱みはじめた頃、えむちはようやく今回の失踪が普段の気まぐれとはどこか違うのではないかと察する。不安は的中しており、明日の体には常盤色化と呼ばれる異変が生じはじめていた。植物の蔦を模したようなしみが皮膚に広がり、やがて全身を覆ってしまう奇病。一方、えむちはある事件をきっかけに人前で歌うことができなくなっていた。移り変わってゆく、彼女たちの季節を追う物語。
小説「えむしたのこと」
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