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「問い」をめぐる読書⑦ダン・ロススタイン、ルース・サンタナ著 吉田新一郎訳『たった一つを変えるだけ』新評論 2015年

 どうも名著らしく、色々な人が実践記録を公開したり、関連本を出版したり、勉強会を開催したりしている。知らなかった。不勉強が身に染みる。

 「はじめに」を読んでテレビショッピングみたいな話だな、と思ったら、「おわりに」に「テレビショッピングのようにできすぎた話だと思われるかもしれません」と書いてあった。成功事例を並べたてているのが広告めいた雰囲気をもたらしているのだけど、それは自覚的だったらしい。

 ともあれ、一読して僕が自分でやってみたくなるくらいには、刺激的な本だった。

 近いうちにみてやってみよう。ここではアイディアだけ書いておく。

 なお、主要参考文献として、『たった一つを変えるだけ』に加えて、井澤友郭『「問う力』が最強の思考ツールである』(フォレスト出版)、および安西勇樹・塩瀬隆之『問いのデザイン』(学芸出版社)を参照した。

1,材料

 現在高校一年生を対象に、『方丈記』の通読を試みている。五大厄災についての記事が終わりそうなので、これをテーマとできそうだ。
 5つの災厄のうち3つは『平家物語』にも記事がある。うち2つはすでに渡してあるが、再度まとめて渡し、材料とする。


2、概略

 『たった一つを変えるだけ』の事例報告風に、概略を作ってみた。

   古典文学を考える
教科―高校古文
クラスの人数―35人前後
質問の焦点―鴨長明は1212年に書いた『方丈記』の前半に、1177年~1185年の間に発生した5つの災厄について記した。
質問づくりを使う目的―レポートの目次作成※
 ※『方丈記』の五大厄災を記述した部分について、問いに基づいたレポートの「目次」を作成する。レポートそのものは希望者のみ。

 勤務校は中高一貫校であるため、高校一年生は古文を学び始めてから3年目になる。中学2年で文法を一通り学習し、中学3年時に文法を復習しながら徒然草などをつまみ食いしてきた。コロナによる休校を経て、本年度は6月から授業を開始。それから3ヶ月ほどかけて『方丈記』を冒頭から読んでいる。
 ここまでは「音読/書写/単語・文法調べ/現代語訳」というストイックな授業を続けてきた。それなりにノートを作ることが可能で、平均的な学力はかなり高い。
 とはいえこのまま淡々と上記スタイルの授業を続けていけば、次第に思考が停止していきそうである。ここらで少し、生徒がアクティブになれる時間を作りたいと考えている。


3、一時間目:導入と土台作り、質問作成(20分程度)

①通知と材料(平家物語抜粋プリントの配布。3分)

 『方丈記』五大災厄部についてのレポートの「目次」を書くことを伝える。目次は一つ一つの項目を問い(疑問文)で示すことをルールとして共有する。

 問いを作る目的は、『方丈記』後半を読解するための視座とすることである。後半を読み終えた後、目次にしたがって改めてレポートを書くことを考えている。


②「質問の焦点」の提示(「鴨長明は1212年に書いた『方丈記』の前半に、1177年~1185年の間に発生した5つの災厄について記した。」)

 平安末期や鴨長明という言葉だけでは、生徒が自分と焦点との距離を遠く感じすぎて脳が働かないだろうと予想した。授業内では『方丈記』という語をなんども使っているが、鴨長明という語は数回。何より、文庫で『方丈記』を持たせている。生徒達は『方丈記』を物理的に感じることが可能。
 現在も更新中。

《候補(更新中)》
   ①「鴨長明の無常観」…高校生に「無常観」は縁遠すぎる。また、誘発力に欠ける。
→②「方丈記の見ているもの」…伝わりやすくなったとは思うが、依然として誘発力に欠ける。もう少し刺激的な、挑発的なコトバが欲しい。
→③「方丈記の警告」…求める物に近づいてきた。
→④「方丈記の思惑」…これも誘いがあって良い。下心を感じさせる。
→⑤「鴨長明が方丈記に書いた災厄」…③、④は格好良すぎて、焦点化ができていないような気がしてきた。そこで挑発性には欠けるが具体性を押し出した。②に近づいたが、より行為をイメージしやすくした。
→⑥「災厄について、鴨長明が方丈記に書いたこと」…⑤はあまりにも色気がないので、ちょっと村上春樹の『走ることを語るときに僕が語ること』を意識して書き直してみた。
→⑦「災厄について語るときに、鴨長明が語ったこと」…完全にパクってみた。多くの内容があり得る中で、鴨長明が選んで語ったこと、という含みを持たせられる。
→⑧「鴨長明は1212年に書いた『方丈記』の前半に、1177年~1185年の間に発生した5つの災厄について記した。」…事実を具体的に書いた。書いた時期と記録された時期のズレ、比較的短期間のうちに巨大な災厄が5つもあったということ、などに気づきが生まれ、質問の契機となりそうだ。


③ルールの紹介(『たった一つを変えるだけ』による。3分程度。)

 質問の記録用紙を配布。その冒頭に以下のルールを記す。 
 まずはルールそのものについて考察すべきことを伝える。まだ質問を作ってはいけないことを注意。

・できるだけたくさんの質問をする。
・(それらの質問について)話し合ったり、評価したり、答えを言ったりしない。
・発言のとおりに質問を書き出す。
・肯定文として出されたものは疑問形に転換する。

 初めての「質問作り」であるため、「ルールを使う際の難しさ」をグループで話し合う。どれが難しいルールになりそうかを予想し、その理由を共有する。

 ルールが守られることにより、誰も無視や否定をされない空間にすることができることを伝える。


④質問づくり(8分)

 ルールに則り、質問を作る。
 記録者は全員の質問を全て記録する。自分の質問も、発言後に記録する。

 8分経過後、質問の記録用紙を提出。


⑤「閉じた質問」と「開いた質問」を書き換える。(5分)

 二時間目の開始。

 質問リストを「閉じた質問」と「開いた質問」に分類する。閉じた質問には○を、開いた質問には△を記す。 

 それぞれから1~2つ、書き換える。
 作業を通して思考を誘発させられるだろう。思いついた質問を書き足しても良いことにする。

 この作業の説明は『「問う力」が最強の思考ツールである』第1章の説明がわかりやすい。

 オープン・クエスチョンとは、疑問詞が使われて自由に答えることができる問いのことを指します。一方、クローズド・クエスチョンは、いくつかの中から答えを選ばせたりする問い、Yes/Noで答えられる問いなどを指します。
 オープン・クエスチョンである「ポストはなぜ赤いのですか?」は、疑問視(なぜ)を取り除くと「ポストは赤いですか?」となり、Yes/Noで答えられるクローズド・クエスチョンになります。



4、二時間目:発表に向けて(30分程度)


①優先順位の高い質問を選択する。(5分)

 優先順位をつける際、自分の「物差し」が何であるかを言語化させる。「一番目は○○という観点で大事だと思いました。二番目は△△という点で必要だと思ったからです。…」と、別々の物差しを投入してしまう可能性もある。だがその時も、○○の観点で選ばれたものを最優先し、△△の観点で選ばれたものを二番手とした理由まで言語化するように求めることもできる。


②各グループで優先順位の高い質問を発表する。(各グループ1分以内、計10分ほど)

 ポスターで張り出し、口頭で説明する。発表後はポスターを貼りっぱなしにする。


③各生徒が自分のレポートの中心になる問い(レポートテーマ)にしたい質問を選ぶ。(5分)

 口頭発表を終えた後、生徒は各グループの質問を自由に閲覧する。閲覧後、自分のレポートの中心になる問いにしたいものを一つ選び、用紙に書き写す。

④問いの分解・加工。「導入になる問い」/「足場の問い」/「ゴールとなる問い」を作る。(10分)

 「導入になる問い」

 これは、レポートをその筆者が自分ゴト(自分に関わりのあること)として書くために用いる問いとなる。例えば一般論になりがちな地球温暖化問題を論じる導入として、「史上最強クラスの台風が来ると報道されていたあの日の前の晩、あなたは何をしていただろうか」などという問いを設定するのがそれだ。無論それは自分自身への問いかけでも良い。レポートを読む人に、「あるある」と思わせられれば勝ちだ。


 「足場の問い」

 中心となる問いが抽象的である場合、考えを進めるために設定するのが「足場の問い」だ。
 この問いの概念が提唱されてから数十年が経つため、その方法は多岐に渡る。ここでは安斎勇樹・塩瀬隆之『問いのデザイン』(学芸出版社)に紹介されている方法をいくつか提示する。

①点数化    
 「地球温暖化対策について、自分の生活習慣を点数で表すと何点だろうか」「生活習慣点を後5点高めるためには、何が必要か」などを問う方法。

②ものさしづくり

 「地球温暖化対策として思いつく方法を、3つ示し、有効だと思う順に並べよ」「その有効性は、何を基準に決めたのか」など、価値基準を問う方法。

③架空設定

 「もしあなたが合衆国大統領だったら」など、架空の設定で考察を進める方法。

④喩える

 「現在の地球の状態を、病気や怪我の具合に喩えたら」「現在の日本の地球温暖化対策に関わる政府のあり方を、学校の生徒会のあり方に喩えたら」など。 


「ゴールとなる問い」

 これは「中心となる問い」とほぼ同義となる。最初に選んだときは、抽象的で格好良く、それだけにどう進めれば良いかわからなかった「問い」が、導入や足場を通して具体的にイメージを掴めるようになり、答えを自分の言葉で表現できるようになっていると良い。そうなるように、導入や足場をしっかりと作るべきだろう。


⑥レポートメモを完成させて提出する。(5分)

 ⑤で分解した問いを項目とした目次を作成させる。
 用意したレポートメモ(レポートの目次と補足等)を提出させる。

 レポートメモは後日返却し、各自の『方丈記』の裏表紙あたりに目次を書かせる。

⑦振り返りを行う。


 以上。


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