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たけうちこうた
2020年11月6日 20:53
二学期もあと少しで終わるという頃── 藍染川学園3年、室山美加は、美術準備室を整頓していた。 学園祭も終わり、美加たち3年生は先月いっぱいで美術部を引退していた。 後輩たちのためにも、部屋の何割かを占領している私物は持って帰らないと。そう思ってはいたのだが、あまりの私物の多さに、少しずつ持って帰ることにした美加だった。 すでに他の部員たちは私物をすべて片付けていて、残るは美加の私物ばかり
2020年11月5日 20:34
とある日曜日。 安芸月依子は、前羽根市内にある遊園地にいた。 依子の住んでいる藍染市には遊園地らしい遊園地がなかったので、わざわざ電車で隣りの前羽根市までやって来たのだ。 なぜ、自分はここにいるのだろう? と彼女は不思議に思う。 遊園地に来ることなんて、彼女の兄がまだ生きていた頃以来だった。「ねえ。私ね、遊園地に行きたいな」 恋人にそうねだったのは、確かに依子自身だったはずだ。 別
2020年11月4日 12:56
◆1◆ ずっと、右側ばかりを見ていた。 買ってもらった雑誌やノベルズを読み終わって何も読むものがなくなってしまうと、私は右側を向いていたことが多かったように思う。 私のいるベッドから見て、右側には窓があった。 藍染厚生病院の私にあてがわれた個室の窓から見えるのは、病院の駐車場と、その向こうに見える藍染市の見慣れた風景だけ。 背の低い建物と雑木林、遠くに見える山々。 何の変哲もない日常の