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#31 一緒にかえろ!

「一緒にかえろ!」

この言葉に込められた人間のいろんなむずかしさを取り除けたならどんなに楽だろうか




毎週私が数学を教えている女子高生はなんだか今日はテンション低めなご様子。

だいたいそういう時は眠いが原因だがどうも今回はそうではないようだ。

「人生について悩んでるんです」

そんなあまりにも大雑把な悩みを言われて、私は反応に困ってしまう。

「まあ、自分も高校生の時とかは常に何かしらの悩みがつきまとってたよ。そういうお年頃ってのもあるね」

そんな、当たり障りのない、でも事実だったことを私は言った。

「やっぱりそうですよね!」

ちょっと元気になる。

「進路の問題?そういえば期末テストも終わった頃だけど」

「それもあるかも!」

そういっておもむろに期末テストの問題を彼女は取り出した。

「今日はこれ解きなおす?」

そんな感じでテスト問題の解きなおしをすることに。いつもなら問題を解き始めれば眠気とかは我慢できるそうだからいいけど、今日はまだ元気がなさそう。

「数学っていいですよね、答えがあって」

そんなことを力のない声で呟いている。

「じゃあ今答えのない問題に悩んでるんだ」

「テスト終わりからずっと考えてる、ガチ気まずい」

ついにタガが外れたのか、彼女は愚痴をこぼし始めた。



普段は明るく元気な彼女をここまで考え込ませる原因は、端的に言うと「一緒に帰る人」だった。

彼女にはAさんというほぼ毎日一緒に帰る人がいた。家が近いのと仲が良いのと部活が一緒なのが主な理由だ。

先日、Bさんという、普段は家が逆なので一緒に帰ることは無い人と、Bさんの家に遊びに行くことになった関係で一緒に帰ることになった。

彼女はBさんともとても仲が良く、むしろ久しぶりに会えて話せてとても楽しかったそうだ。

だがそれをAさんは良くは思わなかったらしい。

それは彼女がBさんと一緒に帰った日にAさんにそのことを伝えずに帰ってしまったことにあった。

ただ、彼女がAさんと帰っているのはいつも成り行き、習慣であり、約束して待ち合わせているわけでもない。

彼女とAさんはクラスが違い、その日は終業時間が違ったそうだ。

だから彼女的には言うタイミングもなかったのだ。

Bさんと帰った次の日、彼女はAさんに冷たい眼差しを向けられたらしい。

「私は他の人と帰ることをしないで○○ちゃんに合わせてるのに、どうしてそんなことするの?」


この言葉に彼女は強い違和感を覚えたらしく、

「だいたい、約束してるわけでもないのに合わせてるってどういう意味?」
「めちゃくちゃ束縛じゃん」
「私は合わせてあげてるんだよ感もすごい嫌だし」

と怒涛の勢いで私に言ってくる。

歯に衣着せぬ物言いが特徴の彼女だが、そのときは大人の対応をしたらしく、ぐっど飲み込んだようだ。

それが今一気に解き放たれた。

ああ、女子って大変だなあと思う一方「一緒にかえろう」問題は私にも似たような経験があったのでとても共感できる話だった。

帰り道が一緒だから一緒に帰る友達とは別の友達と帰りたいときだってある。誘われるときだってある。「一緒にかえろうぜ」って。

でもいつも一緒に帰る友達に、それをどう伝えるのか。

「今日は別の友達と帰るから」

なんてとげの効いた言葉とてもじゃないけど言えない。

じゃあ

「ほんとにごめん、今日他の人に誘われて、、、」

ってとげをなくしたからってきまずさが消えるわけでもない。

そっちを優先したんだって思われそうなのも嫌だ。

なら

「みんなでかえろ!」

が一番平和的解決なのだろうが、現実問題、さらに気まずいことになる。

悩んでいる彼女にAさんとBさんを引っ付けることはできないのか聞いてみたが

「それは無理すぎる」

と一蹴りされてしまった。

「むしろAさんがBさんに嫉妬してて怖い」

と恐ろしい状況になっていることも知った。

三人が手を取るどころか彼女は両腕を引っ張られていたのだ。

本当に、人間てむずかしい、、、





「明日もAさんと会うんよね、ガチ気まずい」

そのいざこざの後、いったん仲直りはしたそうだが、その時のAさんの言葉も彼女は引っかかっているらしい。

「○○ちゃんのこと、嫌いになりたくないから」


「なにそれあなた次第なんだよ感出してきて!!!メンヘラかよ!」

あちゃー。彼女はAさんの地雷を踏んでしまったのだろう。これから大変だろうが、数々の「気まずい」を乗り越えてきた身としては時が解決するとしか言えない。

「人間なんて答えのない生き物のことばっかり考えてるといろいろと疲れちゃうし、気分転換に答えがある数学でもやってみる?」

「そうしよっか!」

一通り吐き出したことで彼女はいつも通りのテンションに戻りつつあった。

自然な流れで数学に誘導して、その後は彼女は集中して問題を解いてくれた。

帰り際、

「まあなんとかしますわ」

と言ってさよならーと帰っていった。

彼女の気持ちが少しでも晴れたなら良かった。

何一つ実用的な答えは出せなかったけどね。


誰と帰るかなんてその場のノリとテンションでその日ごとに決めちゃえられればいいのになあ。ダブルブッキングしないように神様が操作してくれないかなあ。

一人で帰りたい日を察してくれる機能とかないかなあ。

そんな楽な世界になって欲しい。


おしまい

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