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【アメコミ】ディズニープラスのスタン・リードキュメンタリーに不気味なシーンがあるという話【マーベル】

どうも、コウタローです
みなさん スタン・リーはご存知ですか?

マーベルコミックで「スパイダーマン」「XMEN」「ファンタスティック・フォー」を共同で手がけ、それらを実写化したマーベルの映画にも数多くカメオ出演したことでもお馴染みの人物です

ほとんどすべてのマーベル映画にカメオしてる彼ですが

ついにはなぜかライバル会社のDCコミックの映画にまでカメオ出演しています

ティーンタイタンズGO!ザムービー

…なんで?


そしてヒーローと並びフィギュア化までされています

すご………


そんな最早キャラクター扱いされているくらいアメコミ界で愛されている偉大なクリエイターであるスタンですが、残念なことに
2018年に95歳の生涯を終えました

多くの人が死を悼み、悲しみました
それはアメコミ映画でも顕著で

死後に公開された映画「キャプテンマーベル」ではマーベルのロゴに挟まる映像がすべてスタンになる特別版が流されたり

当時見に行った時笑ったと同時に寂しさを感じた

アニメ映画「スパイダーバース」ではエンディングで彼のトレードマークであるサングラスと共に

「困っている人が居たら迷わず救いの手を差し伸べる それが真のヒーローだ」

という言葉で映画が締めくくられました

そして死後から4年ちょっと…
ディズニープラスで6月16日にある作品が公開されました

「スタン・リー」

彼の名を冠した直球のタイトルのドキュメンタリー映画です

この映画ではスタン・リーの親しみやすい生前の語りと共に彼が生まれてからタイムリーコミック(マーベルの前身)で様々なコミックを生み出した誕生秘話やクリエイターを引退後様々な映画にカメオ出演するまでの道筋を辿っています。

再現ドラマは人間が演じる代わりに手作りのフィギュアで描かれたり、紹介されたコミックがアニメーションするなど非常に愛溢れる映画です

また、日本人には馴染みが薄い昔のアメコミの作り方も触れられていて

①アーティストと話し合ってプロットを決める
②プロットに沿ってアーティストがコマ割りやストーリー展開を肉付けする
③スタン・リーがナレーションや吹き出しをつける

といった「マーベル・メソッド」と呼ばれるスタン独特の手法も解説されています

そんなスタンを知ることが出来るこのドキュメンタリーですが

似つかわしくない違和感を感じる
不気味なシーンが存在します…

それは時間にして1:03:38の
アーティスト ジャック・カービーへラジオ番組がインタビューを行う実際の音声の再現シーンです

知らない人のためにカービーについて解説すると
彼はジョー・サイモンと共にキャプテン・アメリカを作り上げ

そしてスタンと共にファンタスティックフォーを作り

アベンジャーズ も作り上げ

他にもXMENやインヒューマンズなどの様々なキャラクターを生み出したアーティストです

彼の絵は非常にダイナミックでエネルギーと勢いに溢れ


壮大な宇宙や独創的なデザインの神々を描き


コミックにコラージュを多用するなど常に表現の最先端を行く

などなど…後のアメコミに与えた影響は多大で
「コミック界のキング」
とも呼ばれる人物です

そんなカービーが1970年にマーベルをやめてから17年後、ラジオ番組の粋なサプライズとして元同僚のスタンがゲスト出演して話します

最初はカービーへ
「ジャック、誕生日おめでとう!」
と告げカービーも
「わあ!スタンありがとう!これからも元気でいてくれよ!」
と和気藹々と会話していたスタン

そこからマーベルでの仕事について語り
スタンは
「一緒にやってきたことは永遠に議論されるだろうが目に見える以上の価値がある、ちょっとした魔法が効果を及ぼしていたんだろう」

と懐かしみながらも語り、カービーも

「私にとっても最高の経験だったよ。いい作品が出来れば満足だった」


とスタンリーのフィギュアとジャックカービーの後ろ姿のフィギュアで再現されたお互い当時マーベルで描いた様々な仕事を振り返る微笑ましい一幕が流されます

番組の司会は
「結局、誰が何をやったかはもはや関係なく…」
と良い感じにまとめようとしたところ

「台本のセリフはすべて私が考えてた」

スタンは司会の言葉を遮り食い気味に答える
困惑しつつも苦笑する司会に追い討ちをかけるようにスタンは

「全作品のね」

と補足しました
司会は
「ここで言い争うのはやめよう」
となだめようとするも売り言葉に買い言葉
カービーも
「各コマのセリフは私も書いたことが…」
と反論する
司会はどうにかして流れを戻そうとするもそのカービーの言葉を受けたスタンは

「印刷されてないだろう、完成したストーリーを読んだのか?一度も読んだことがないだろ?
いつも次の作品を描くのに忙しかったはずだ」

先程まで朗らかに落ち着いて話していた様子から一変し捲し立てるように話した
ここからBGMも何やら不穏な曲が流れる

対してカービーは

「何を書くかは…あー…私はアクションに興味があったんだよ」
とあくまでも冷静に話すも

それがスタンの逆鱗に触れたのか
「セリフは誰でも入れられる?大事なのは絵だとでも言いたいのか?私はそうは思わないがね!!!」

とヒートアップ
言葉もだんだんと刺々しくなってきた

加熱するスタンに対してもまだカービーは
「そうじゃなくて台本の執筆や作画というのは一人でやるべきだ。最初から最後まで自分でやってみるといい」
と語り口は変わらず冷静ながらもスタンの言葉に対して苛立ちを感じている様子を見せた

見かねた司会は
「マーベルが成功したのは魅力的なキャラのおかげでありスタッフのエゴは関係ないだろう!?」
とかなり引きながらもなだめようとする

しかし、スタンはそれでもなお反論
「最近、どちらがやったのか?という問題が浮上したが私とジャックが働いていた頃はそんなことは問題にならなかったはずだ」
と先程よりは落ち着いたものの冷徹に語る

そしてこの音声はカービーのこの言葉で締めくくられます

「実際に当時どんな状況だったのかは今ならわかるだろ?」


この後場面は転換し、ラジオ音声の内容については触れられることはなかった…

と、まあわかりやすく言い回しを変えたりしましたが大体こんな感じのシーンが唐突に挟まれました

全体的にほのぼのドキュメンタリーの体でスタンの功績を褒めまくっている映画なだけにここだけ

・緊迫したBGM
・顔が映されないカービーのフィギュア
・ナレーションなどでこの音声の内容が触れられることがない

など明らかに浮きまくってる不気味なシーンとなっています

どうしてこのシーンがあるのか?

考えたところ、この映画について寄せられた
ある「抗議」につながると考えます

これはジャック・カービーの孫娘のジリアン・カービーのツイッターに彼女の父、つまりカービーの息子
ニール・カービーがこのドキュメンタリーについて書いた抗議文を代理投稿したものです

英語ばかりでよくわかんないと思うのでGoogle翻訳で訳した文をどうぞ


内容としてかいつまむと
「このドキュメンタリーはスタンのみを誉めていて私の父であるジャック・カービーが多大なアイデアを出したことについては触れず、あたかも彼一人の功績のように描いている
父の死後スタン・リーは映画に出演して無知な観客たちへ知名度を上げているので、この知名度に乗じてこのまま全てスタンが作ったことにするのか?」

とドキュメンタリーの「スタン神格化」
について当事者の息子として鋭く切り込んでいます。

これは何もこのドキュメンタリーから始まったことではなく、スタンの功罪の罪の方として

「功績をスタンが独り占めしがち」

といった部分がよく挙げられています

こちらのカービーと親しい人物が執筆したジャック・カービーの伝記ではマーベルに安い給料で馬車馬のように働かされながらも功績はスタンのものとされ

マーベルを買収した会社の上役が
「バカなことを言うな。スタンが全てを創造したのでありアーティストはあくまでも指示に従っただけだ」
とカービーは蔑ろにされ、

のちに2009年の裁判においても
スタン自身も
スタンはカービーを様々な書籍やコミック再版の序文で共同製作者として認めてるのでは?
という質問に対して

「ジャックがこれを読むとわかったのでそう書いただけであり、彼と私が作ってるように見せればジャックは良い気持ちになるだろうと思ってのことです」

とあたかも自分のみの功績であるかのような発言が記録されているなど
アメコミ残酷物語か?
って程にはカービーが虐待された話がてんこ盛りでした

でもこれはカービーの伝記なのでカービー側に有利なように描いてるだけでは?
と思い

この伝記を翻訳したキャプYさんこと吉川悠氏にイベントで質問をしたところ

「これでもまだ著者は容赦している方で、本当はもっと描けないようなひどい話も多かった」

との答えを頂きました
(かなり前なので違ったら申し訳ないです)

また、カービーだけではなく
スタンと共にスパイダーマン、ドクターストレンジを産んだスティーブ・ディッコものちにスタンリーを皮肉るようなコミックを描いています


話をドキュメンタリーに戻すと、ディズニープラスのドキュメンタリーはニール・カービー氏が言うようにスタンのみを賛美しているのが目につきます

ファンタスティック・フォーの製作秘話、スパイダーマン製作秘話には不自然なまでにアーティストへの言及が無いどころか

「会社を離れたディッコが自分がスパイダーマンの生みの親であると主張していた」

というスタンの言葉が訂正なしで流されているなど
逆にアーティストへのイメージも悪くなるような描写もありました

これはMCUなどカメオ出演での露出で知名度のある彼をキャラクター化したグッズを売りたいが為のディズニーならびにマーベルによる神格化であると感じました

しかし、先程紹介したラジオの音声はそんなディズニーとマーベルの方針にギリギリ逆らわず
スタンの功罪の罪を視聴者に

「察してくれ」

と言いたいがためにわざと違和感のある不気味なシーンをねじ込んだのでは?と思いました

スタンリーの全てを語るにはやはり色々難しいところはあるもののこのシーンをあえて入れた製作側についてはよくやったと感じざるを得ません


ここまでスタン・リーの罪について話してきましたが
そうは言っても偉大なクリエイターでありながら親しみやすい人物としてメディアの前で自らマーベルの広告塔として活動していた功績については色褪せることはないでしょう

ベスト・オブ・スパイダーマンに収録されているオクトパスの基地を脱出するスパイダーマンのこのセリフは非常に激アツ!!!

他にもスタンが様々な物語をアツくし、ヒーローに人間らしさを与えた功績は偉大です

カメオ出演や各種インタビュー、ファンとの交流では親しみやすい人物として穏やかに答え

マーベルコミックの宣伝の為ならば

裸にすらなる(なんで????)

という実生活やコミックでの仕事では寡黙かつ厳しく自らを「JJJに似てる」と称した姿とは真逆の
「スタン・リー」というキャラクターを生涯をかけて演じた姿勢はプロ根性を感じます

しかし、ドキュメンタリーでも最後に
「スタン、カービー、ディッコ、誰かが抜けていたら今のマーベル出来なかった」
と言われていたようにスタンと同様の功績を残したアーティストについても世間で評価されて欲しいと思います

興味がある方は邦訳なり原書で彼らの著作を読んだりインターネットで調べて頂けるとありがたいです…

アメコミにそんな詳しくない身での駄文で長くなりましたがここまで読んで頂きありがとうございました

最後にこの記事を書くきっかけになったラジアクさん

ならびにカービーの伝記など様々なアメコミ邦訳を手がけ、日本語で読める貴重なスティーブ・ディッコの解説をしてくださったキャプYこと吉川悠氏にお礼を申し上げます


この二人はマジでアメコミに詳しい方々なので是非フォローしてください……

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