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株価を上げる方法 | 企業の価値創造力

ここでの「株価を上げる」は、投資家側ではなく、企業側での話です。また、本稿を読まれても、株式投資に成功することにはならないと思いますので、予めご了承ください。

株式を上場されている企業ならば、「安い株価よりは高い株価にしたい」という思いが経営者にあり、それは上場企業としての命題だと考えます。

金融関係の領域にいたおかげで、いろいろな企業の「株価を上げる」、かっこよく言えば、企業価値の向上という場面を手助けることがあります。

株式参加者である投資家側では、集中的な売買で株価を吊り上げる方法もありますが、いわゆる「仕手」と呼ばれるものです。ここではそうではなく、企業側で株価を戦略的に上げるという方法について論じてみたいと思います。

以下の理論を頭に入れておく必要があります。


1: 古典的な株価形成理論:PER(株価収益率)

企業価値を算出するのに、DCFのような将来獲得できる利益を試算するロジックもあります。

ここでは簡単な方法として、古典的な株価形成理論から「PER」という考え方を持ってきます。

PERとは何かといえば、

PERとはPrice Earnings Ratioの略で、株価が1株当たり純利益(EPS:Earnings Per Share)の何倍まで買われているか、すなわち1株当たり純利益の何倍の値段が付けられているかを見る投資尺度

簡単に式で表すと、
・株価 = 一株あたり純利益 × PER
あるいは
・時価総額(企業価値) = 純利益 × PER
というような計算式の関係があります。

PERは、業種等により異なります。
たとえば、最近では
・東証一部全体:PER 15.3
・某IT企業: PER 30.4
・某消費財メーカー:PER 11.0
 (東証全体のPERは2020年4月末時点、企業のPERは2020年5月時点)
というような値となっています。

PERとは、株価と利益の倍率で、投資家からの期待値的なものが現れています。一般的に、IT系企業のPERは高く、重厚長大型のPERは低くなる傾向があります。(これは、IT系企業の方が、設備投資が少なく利益を稼ぎやすかったり、また資本全体で生み出す利益率が高かったり、といった要因も関係します。)

財務的な指標では、「流動比率は200%以上あるのが望ましい」などのような基準値があります。このPERでは、どのくらいだったら割安・割高という明快な基準はありませんが、市場平均と比べたり、同じようなビジネスを行っている同業他社と比べたり、そういう使い方ができます。

自社のPERについて、歴史的な推移を集めれば、平均値的なものとして「平均PER」を推計できます。なお、平均PERは、市場全体のPERの浮き沈みには少し反応します。


1-1: 利益を増やせば株価があがる

株価 = 一株あたり純利益 × PER

自社の平均PERをもとに、上式を見れば、株価は利益と連動していることがわかります。

来期の増益の発表をすれば株価が伸び、減益の発表をすれば株価が下がる、というのは、このロジックです。一方で、発表しても株価がほとんど反応しない場合もあります。それは、利益の増減が投資家側ですでに織り込み済みという状態で、増減が想定範囲だったということになります。

また、上式を見られて、「利益が赤字の企業はどうするのか?」と気づかれた人もいるかと思います。計算上、赤字の利益にPERをかければ、株価がマイナスということになりますが、実際はそうはなりません。利益が赤字の場合は、別の場で紹介したいと思います。

企業の事情を無視した投資家側の見方として、「株価を高くするために、利益を増やせ」ということになります。売上や利益は、その企業で働く社員の努力の結晶であり、「来年は今年の2倍売ってこい」などと指示して、そうなるほどビジネルは甘くはなく、そう簡単には利益は増やせません。

ビジネス形態によっては、毎年同規模のセールス・リソースで、収益基盤を積み上げていけるような、ストック型ビジネスがあります。しかし、すべての企業でそういうモデルにできるわけではありません。

利益が大きく増えない状況で、株価を高くしたいとしたら、次の方法があります。


1-2: 一株あたりの利益を増やせば 株価が高くなる

さきほどの「利益を増やせ」と何が違うのかと思われるはずです。

ここでは「一株あたりの利益」です。

時価総額(企業価値) = 純利益 × PER

企業の税引き後利益にPERをかけると、時価総額と呼ばれるものが算出できます。

両辺を発行済株式数で割ると、

株価 = 一株あたり純利益 × PER

という式に戻ります。

パイやケーキを何等分かするようなものと一緒で、発行済株式数が多いと一株あたりの利益は減り、株価も低くなります。逆に発行済株式数が少なければ利益が増えて、株価も高くなります。

株式マーケットでは、「自社が自社の株式を買う」という、いわゆる自己株式の取得というアクションがあります。

この自己株式の取得が、発行済株式数を少なくすることにつながります。(厳密に言えば、その後、取得した株式を消却という作業が必要となります。)

自己株式の取得を繰り返していけば、一株あたりの利益が濃くなり、株価が高くなりやすい、ということになります。


2: 株主数を増やす

前述したPERや利益とは別の視点で、株価を高くする方法もあります。

「株主数を増やす」ことです。

東京証券取引所で売買される自社の株式は、IPOや売出しで市場に流通したものです。株式分割や株式併合等を行わない限り、増えることも減ることもありません。

この流通している株式数を品薄の状態にできれば、株価は高くなりやすくなります。売る人と買う人のバランスで日々の株価は形成されていて、売る人が多ければ株価は下がり、買う人が多ければ株価は上がりやすくなります。

昨今の不安定な社会情勢で、買う需要が集中し、トイレ紙やマスクが品薄となり、転売サイトで高額で取引されたのと同じ原理です。

そのためには、株主を増やし、その株式を固定化することができれば、流通する株式数が減ることになります。

しかし、投資の原則として、自分が買ったときよりも株価が高くなれば、その時点で売却して、利益を取ります。

一般の投資家は、IPO時のベンチャーキャピタルのように、一定期間、株式の売却を禁じるロックアップのような処置を行うことが出来ません。

そのロックアップに代わる方法で、株式保有を固定化する必要があります。


2-1: 株主に株式保有を固定化するには

株主、とくに個人投資家を固定化させる方法として、「株主優待」というものがあります。その株主優待をもらいたいから、株主であり続けるというインセンティブを作るわけです。

しかし、実際のところ、1年間通じて株式を保有する必要はなく、株主を確定させる日、いわゆる権利日に株式を保有しておけばいいので、かならずしも固定化できるわけではありません。

最近では、保有期間や保有株数等に応じて優待内容が変化させる企業が増えてきたのは、従来のような、権利日だけ瞬間的に株主になることを少しでも回避することの現れだと思います。それでも、固定化できるわけではありません。


2-2: 機関投資家に買っていただく

中長期的な事業の成長と、現在の株価の位置に投資妙味がありそうならば、機関投資家に買っていただく、というのも、株価を高くできる手段の一つです。

投資された場合、個人投資家よりも購入金額が大きいので、市場に流通する株式数を少なくすることにつながります。また、機関投資家が購入したことで、他の投資家への安心感のようなインパクトも与えられます。

ただ、機関投資家に買ってもらうには、それなりにハードルが高くなります。独自の投資眼で企業を選別しているような個性的なファンドは別にして、一般的なファンドは、投資するための基準を設けています。時価総額、流動性、また最近ではESG等の投資要件です。


2-3: 株式分割

株式を分割することで、投資しやすい価格にして、投資家を増やすということも可能です。

流通する株式数は逆に増えてしますが、株式の売買を活発にさせることで、適正な株価に形成させることが出来ます。(株価が、従来よりも高くなるのか低くなるのかは、適正次第です。)

また、あまり理論はありませんが、株式を分割し、数年すると、同じ株価に戻ることが多いです。

また、株式分割をすると、少単位で投資される個人の株主には、売れる株式が増えますので、それを利用して、株式を保有しながら売れる機会を設けることで、企業によい印象をもっていただくことができます。株式の評価損や売却損というのが、個人投資家にとって大きな不満の一つです。


まとめ

今回は、企業の利益と株式の売買需給という2つの点で、株価を動かす方法を紹介してみました。

しかし、ここで書いてあるように行っても、株価がその通りになるとは限りません。株価が企業側の思ったようになれば、私のようなところに相談されるということもないわけですが、現実として、株価はマーケットという変化する状況下で形成されますので、いろいろな施策を行うことが出来ます。

自社の株価の振る舞いを分析したり、対策を考えるには多少なりとも役立てれば幸いです。