『関心領域』考察/残酷な心のヴィジュアル化
2024年5月24日公開された映画『関心領域』(The Zone of Interest:ゾーン オブ インタレスト)をミハマ7プレックスで鑑賞。
投げかけられていたのは人間生来の残酷さと、現在へ向けたメッセージだった。ラストシーンで垣間見える本当の恐ろしさまで、ネタバレありで徹底考察していく。
映画『関心領域』考察
タイトル「関心領域」の意味
日本語では関心領域だが、英語では「the zone of interest」。
ドイツ語では「Interessengebiet」となる。
「Interessengebiet」はナチスドイツ当時のアウシュヴィッツの近郊40平方キロメートルを指す言葉で、そこでは強制収容所に勤めるナチス軍人たちが暮らしていた。映画のヘス中佐の所長一家が住んでいるのもここだ。
意味としては関心がある領域・区域、興味がある分野となる。だたこれらは婉曲表現で、映画における意味は「搾取できる領域、うまい汁を吸える場所」といったニュアンスだろう。
ナチスドイツと所長一家にとっての関心の矛先は、何万ものユダヤ人の命ではなく、彼らから搾取した富なのだ。
幸せな家庭 VS アウシュヴィッツ
冒頭から突きつけられるのは、ヘスと妻・ヘートヴィヒを中心とした幸せな家族の夢のような暮らしと、すぐ隣にあるアウシュヴィッツ強制収容所の対比。
関心のある領域(家庭)と、無関心な領域(アウシュヴィッツ)の対比構図である。
妻のヘートヴィヒ視点で考えるとわかりやすいが、彼女が関心を持っているのは大きな家と子供たち、広い庭、美しい花や植物だけ。
隣のアウシュヴィッツからはユダヤ人を虐殺して遺体を燃やした死の煙があがっている。ヘートヴィヒの目にはそんな光景は見えていないかのようだ。
ヘートヴィヒたち家族が無関心を装う心理とシンクロするかのように、ユダヤ人虐殺の場面は徹底的に覆い隠され画面に映らない。叫び声や銃声だけが家族の日常の背後でこだまするが、子供含めて家族の誰も耳を貸さない。
途中でサーモグラフィで撮影したモノクロの映像に切り替わり、夜の闇に紛れてリンゴをユダヤ人のために作業場に埋めている少女が映し出される。(この少女は実在したポーランドの女性/アレクサンドラ・ビストロン=コウォジェックのこと。強制収容所の中のユダヤ人に食べ物を届けていた)
所長は娘にヘンゼルとグレーテルを読み聞かせていた。いっぽうの少女はリンゴで生きるための目印を残していたかのようだ。
色合いが反転したネガのような映像にしたのは、所長一家から見て“ユダヤ人を生かす努力が無関心の領域だった”との意味も汲み取れる。
ヘートヴィヒたちは経済的な成功と幸せのために、ユダヤ人の虐殺に徹底的に無関心になっている。
彼女ら特有の冷酷さなのか、それとも人間の本能なのか? 本作からの究極の問いかけだ。
アウシュヴィッツ内部を見せずに人間の残酷さを暴く構造は革新的というほかない。
ラストの不協和音にも、この構造を利用した恐ろしい意味が込められている…
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