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映画「PERFECT DAYS」が良かったので感想と考えたことを書いておこう

現在公開中の映画「PERFECT DAYS」が本当に良かった。
備忘録として、つらつらと感想記したり、作品から受けた問いについて考えていくことにする。

👇 作品はこちら

監督:ヴィム・ヴェンタース
主演:役所広司

作品のあらずじ

東京・渋⾕でトイレ清掃員として働く平⼭(役所広司)は、静かに淡々とした⽇々を⽣きていた。同じ時間に⽬覚め、同じように⽀度をし、同じように働いた。その毎⽇は同じことの繰り返しに⾒えるかもしれないが、同じ⽇は1⽇としてなく、男は毎⽇を新しい⽇として⽣きていた。その⽣き⽅は美しくすらあった。男は⽊々を愛していた。⽊々がつくる⽊漏れ⽇に⽬を細めた。そんな男の⽇々に思いがけない出来事がおきる。それが男の過去を⼩さく揺らした。

『PERFECT DAYS 公式サイトより』

本作は第76回カンヌ国際映画祭で最優秀男優賞を受賞したほか、第36回東京国際映画祭ではオープニング作品として上映され、大きな話題となった作品。


ここからは感想を書いていく。

作品の感想

役所広司演じる平山は非常に無口な男だ。毎朝近所の住人がほうきで掃除をする音で目覚める。そして、毎日同じように朝の支度を済ませ、缶コーヒーを買い車で仕事へ出かける。

彼の仕事はトイレの清掃員だ。The Tokyo Toiletと背中に大きく書かれた青いつなぎを着て渋谷区の公衆トイレを掃除して回る。平山と同じく清掃員のタカシは平山のことをとても仕事ができて真面目だと語る。平山はトイレ清掃員という仕事を愛しているし、決して手を抜かずに自作の道具まで使い清掃する。掃除した直後に公衆トイレを利用するひとのことを少し嬉しそうに眺める。

そんな毎日同じようなルーティンで生活する平山は、1日1日を愛している。一見同じような生活に見えるが、小さな出来事や発見を楽しみながら暮らしている描写が随所に登場する。1度として同じ1日はないし、退屈な1日もない。

平山は作中会話という会話をほとんどしない。おそらく1日誰とも話さない日も多いのだろう。会話はしないが、平山の表情から伝わるものは多い。トイレ清掃を終えて満足げな表情。タカシが平山のカセットテープを売ろうとして少し不機嫌になる。小さな苗木を見つけて嬉しそうに持ち帰る。甥っ子が家出をして訪ねてきたときは、今は疎遠の妹との関係について悩む。平山の表情からは多くが伝わってくる、言葉は必要ない。これは役所広司の演技の賜物だろう。

平山は毎日寝落ちするまで小説を読む。車では70〜80年代のカセットで音楽を聞く。孤独を生きる彼にとって、なくてはならないものなのだろう。
たとえ孤独で生きていても、社会的に見れば底辺の仕事かもしれないトイレ清掃員をしていても彼の生活は充実しているように見える。人生の充実とは何なのだろう。何から得られるものなのだろう。彼の生活をみているとそう思う。

当たり前に過ぎている毎日をどれだけ楽しめているだろうか。どんな発見をできているだろうか。面白いことを発見できているだろうか。本当はもっと世の中の溢れているはずなのに、見つけられていないだけではないか。
様々な感情や考えが巡る作品だった。ラストシーンのただ平山が車を運転しているだけのシーンの味わい深さはしばらく忘れないだろう。


作品から受けた問いについて考える

平山の仕事はトイレ清掃員。渋谷区の公衆トイレを周り清掃するのが彼の仕事だ。平山の妹が登場するシーンで「本当にトイレ掃除してるの?」と怪訝な表情で問いかけられるシーンがある。他にも、公衆トイレで泣いている男の子を見つけ、手をつなぎ母親を探すシーン。母親は子供を平山から取り上げ抱き寄せるとウェットティッシュで子供の右手を拭いた(右手は平山と手を繋いでいた側)。

トイレ清掃員という仕事を下に見ている人は多いかもしれない。でも、どんな人よりも平山は仕事に懸命に取り組むし、清掃後のトイレをみて非常に満足げな顔をする。

私は会社員だけど、はたして彼ほど仕事に満足感を得たりやりがいを持って充実して仕事に取り組めているだろうか。あんなふうに働けている人はどれくらいいるんだろうか。なぜ彼はあのように仕事に取り組めるのかと、自分はどうだろうかと考えた人も多いのではないかと思う。

平山は毎日家を出ると空を見上げる。そして微笑む。平山は錦糸町・押上あたりに住んでいる。空を見上げているのかスカイツリーを見上げているのかはわからない。それでも平山は何かをみて、何かを感じている。
平山は仕事終わりに銭湯へ行く。毎回銭湯に来る老人をみる。どこをみているのだろう。

そして、浅草の行きつけの居酒屋でお酒をのみ常連客の人間観察をする。そこでもなにか感じ取り表情に現れる。平山は代々木上原の神社でサンドイッチと牛乳でランチをする。上を見上げると木々が茂り、木漏れ日が降り注ぐ。それをフィルムカメラで写真に収める。現像した写真を残すもの、残さないものに分けて何年も収集している。同じような写真入見えても、彼にとっては1つとして同じものはないのだろう。

同じように見えて同じ日はない。それはおそらく平山が自分の内側も外側も観察し、感じ取り、何かを見出して、それを楽しむことができているからだろう。

「最近面白いことなくて〜」という人をたまに見かける。

ほんとにそうだろうか。

本当は面白いことも、素晴らしい風景も、いつもと違うこともたくさんあふれているのに気が付かないだけじゃないか。平山のように空を見上げてみてはどうか。自作で道具を作ってしまうくらいに創意工夫して仕事をしてみてはどうか。同じように見える場所でも、もう少し周りに目を凝らしてみてはどうか、新しい発見はそこら中に転がっているのではないか。


社会で忙しく生きているうちに、なにかに囚われて自分を見失っていないだろうか。

平山は自分の世界を生きているように見える。作中でも、平山は「妹とは違う世界に生きている」と甥っ子に言う。平山は独自の価値観、基準を持ち自分に即した人生を送っている。自分は自分の人生を生きているか、他人の人生に侵食されていないか。

様々な問いかけを受けた作品だった。劇場でぜひ。

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