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"KIND OF BLUE"(1959) ~モードジャズとは何だったのか?

モードジャズ(Modal Jazz)という「レッテル」―― 普段は蔑称として用いられることのないこのテクニカルタームをレッテルと呼称するのは腑に落ちないかもしれない。しかし、このコンセプトがやたらと一人歩きしてしまったがために1960年代以降のジャズを却って捉えづらいものにしてしまったというのもまた事実なのだ。このことを、最も的確に説明したのは音楽学者キース・ウォーターズだろう。

2011年に出版された彼の著書『The Studio Recordings of the Miles Davis Quintet, 1965-68』(Oxford University Press; New York, Oxford)を読んでいただくのが最善なのだが、そう簡単にはいかないので抜粋を掲載しているページをご紹介しよう。英語が苦手な方もご安心いただきたい、主に見てほしいのは掲載されている2つの画像なのだから。

The Book Cooks: Excerpts from The Studio Recordings of the Miles Davis Quintet, 1965-68 by Keith Waters

簡単にいえば、ウォーターズの見立ては次の通りだ。

1)モード/フリー以前の「伝統的なスタイル」に存在している下記5つの要素が、「フリージャズ」では全て捨て去られている[画像1]
・Hypermeter…小節のまとまり(楽節)
・Meter…小節
・Pulse…拍
・Harmonic progression…コード進行(ハーモニーの変化の有無)
・Harmonic rhythm…コード進行によって生じるリズム

2)これまでモードジャズと呼ばれてきたコンセプトは、この「伝統/フリー」の間に位置しているものなのではないか[画像2]

ウォーターズの著作が扱う範囲は、いわゆる「第二次黄金クインテット」と「ロストクインテット」時期のスタジオ録音アルバムであるため、この[画像2]のなかに《カインド・オブ・ブルー》の楽曲は位置づけられていないが、「レベル3」寄りの「レベル2a」とご理解いただければ実情に近いと思う。

「レベル2a」にあたるHypermeter(小節のまとまり)が緩くなってしまっている状態が一番はっきりと聴き取れるのが〈フラメンコ・スケッチ〉だ。コルトレーン(テナーサックス)とアダレイ(アルトサックス)のソロで、不規則的な小節構造が生じているのを、是非とも和音が何小節ごとに移り変わるのかを指折り数えながら、ご自身の耳で確かめてみてほしい。

もう1曲、〈ブルー・イン・グリーン〉では、ビル・エヴァンス(ピアノ)のソロに入った瞬間、いきなり倍速で(それまで2拍ずつだったのが、急に1拍ずつで)コードチェンジが発生する。これもHypermeterの変更である。

こうした変化の行き着く先には1975年の《アガルタ》《パンゲア》があるのだから、マイルスは本当に面白い。

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