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高校でキャラ変

私が進学した高校は、同じ中学からは全く人気のない、隣の学区の山の上にできてまだ10周年くらいの新設校だった。同じ中学からは14名しか進学しておらず、偏差値高めの英語科ではなく普通科にそのまま進学した。

地元の母も叔母も通った進学校は少し厳しいかもという理由で〝ワンランク落とした″つもりだったが、その認識は非常に甘かったと後で知る事になる。

学年は200人、A組からE組の5クラスで、E組だけが少しだけ偏差値の高い英語科であった。

1年C組、誰も同じ中学出身の者はいない。さて1から友達づくりの日々だ。

出席番号順で私は運悪く1番前の席になった。
しかし右隣の女子は清純派アイドルのような髪の毛サラサラの麻衣ちゃん、左隣はボブヘアで顔が小さく〝こんな人この田舎にいたの?″と感じるほど垢抜けた少しギャル系のユキちゃんという女子だった。後ろはクラスを仕切りそうなタイプの千景という女子だった。どうやら右隣の麻衣ちゃんも左隣のユキちゃんも、その周りも隣の市の同じ中学出身らしかった。

なんてこった!いきなり超美少女たちに囲まれてしまった…わたくし、女なんですけどめちゃくちゃ嬉しい…(小声)。
同じ中学に居た〝一軍女子″も綺麗な子が多かったが、垢抜け度が違った。
隣の市は元々アケミが居た中学もあり、小さいがデパートもり新幹線の駅もある。地方の中の都会だ。

私は昔から、人でも物でも美しく綺麗なものを眺める癖があり、特に左隣のユキちゃんをずっとガン見して観察していた。
ダサいと言われていたブレザーの制服もユキちゃんが着ると見事にサマになっている。時計もお財布も当時流行ったアニエス・bを持っていた。小柄で引き締まったウエストに形のよい小尻、少し色黒で髪は少し茶色い、いつもアイプチで綺麗に目元を整えていた。私は用事を作っては話しかけた。 

めちゃくちゃ可愛い!しかもオシャレだ、ユキちゃんと仲良くなりたい。しかしユキちゃんには既に〝取り巻き″が居た。巨大な7人グループのユキちゃんを始めとした、右隣の麻衣ちゃん、後ろの席の千景、ミエちゃん、明菜ちゃん…隣の市の同じ中学、近隣中学の垢抜け女子グループができていた。ボスは後ろの席の千景だ。

あーめんどくせぇな、〝イケてる美女軍団″ってとこか…中学ん時のテニス部女子の一軍みたいだな…あんな巨大グループそのうちすぐ崩壊するわ…と自分がそのグループに入れない事を半分ヒガミ根性で見ながら、友達づくりをせねばならない。
ユキちゃんの観察だけは毎日続けた。

男子を見渡すとパッとしたのがいない(自分を棚に上げ何様発言!)
皆クソ真面目なツラをしている。隣のD組と英語科にパッと目をひくイケメンが居たが、あとは大人しく暗めの印象でメガネ率が高い。あーおもんない!(最低)


しかし何でだ?同じ中学に居た淳一やミッちゃんのようなのがどこにも見当たらない…それに毎日の授業、特に英語、難しいんですけど…先生に当てられても皆スラスラ答える。

そういえば…ココも〝一応″進学校だったわ!
なるほど、謎は解けた!
だからクソ真面目なツラをした生徒だらけなんだ。メガネ率高ッ、しかも牛乳瓶の底みたいなメガネだ。中学の頃のアケミ…助けてくれ…。

英語は中学まで母のスパルタ鬼指導のおかげもあり、まぁ得意教科だった。が、英語に力を入れている高校とは噂には聞いていたが、毎日の授業についていくのがいっぱいいっぱいだ。

高校に入る時、ひとつだけ決めていた事があった。それは〝ピアノを弾いている″事を徹底的に隠し通すこと。
高校はある意味〝リセットメンバー″なのだ、私の過去を知る者は少ない。とにかく小・中とピアノが人より少し弾けるというだけで、散々な目に遭った。もうあんな目に二度と遭いたくない。もし誰かに聞かれても『あー、なんかテキトーに習ってるんだ〜』と答え他の話題に変える、間違っても伴奏者に選ばれないよう細心の注意を払った。

音楽の授業か…あー教科となると、そこだけは譲れないわ…ていうか教室移動する時、誰としよう…誰もいない…教科書一式持って皆の後をついて行くと、目の前に制服のブレザーがフケで白くなっている、ブロッコリーみたいなショートカット頭の女子が居たので声をかけてみた。大人しそうで色が白くて何とも歯切れが良くない…『一緒に音楽室まで行ってくれない?』…『はぁ…ええけど…』とブロッコリー頭の女子は答え、友美という同じく大人しそうな少し髪が茶色い天然パーマのツインテール女子を連れてきた。
しばらくはこの人らと一緒に行動しよう…次の友達ができるまでの〝つなぎ″だ。後で聞くと彼女らも私の事をそう思っていたらしい。

そのブロッコリー頭女子のブレザーのフケが気になる私は、彼女のブレザーの肩についている白い粉を毎日払った。一緒に居た友美は話してみると意外と面白く、どうやら吹奏楽部に入るらしい、中学の頃もパーカッション専門でやっていたそうだ。ブロッコリー頭のフケ女子は何とフルートを吹くというではないか!マジで!?

部活は1年生はとりあえず必須だったが、合唱部も放送部もない。文化部で入りたいものがひとつもない。
吹奏楽ねぇ…私何もできないんですけど…新しい楽器はピアノの練習とケンカするから無理だ…そうだ!リズム感養うためにとりあえずパーカッションで入るか、という単純な動機だけで彼女たちと同じ吹奏楽部に入部した。

体格の良かった私は当初顧問からチューバを勧められたが断り、リズム感養いたいので、と顧問だけにピアノをやっている事を話し、無事友美と共にパーカッション配属となった。

〝つなぎ″でいようと思っていたブロッコリー頭女子と友美とはお弁当を食べる仲になり、気がつくと吹奏楽部でも一緒、とりわけお笑い系の彼女らは今までに居ないタイプの友達だった。

中学までは『レナちゃん、レナ』と皆に呼ばれていたのに、高校になると『ハッシー』に変わった。男子からもハッシーと呼ばれた。あ、私って女と思われてないな…女じゃないんだな…心がチクリと痛んだ。

これは大いなるキャラ変だ!

まぁ仕方あるまい。背が171cm、63キロにまで太ってしまったのだから!
しかもJUDY AND MARYのYUKIに憧れておかっぱ頭にしたまでは良いが、一重まぶたのデブ化した自分が真似すると、ただのお菊人形になった。あわわ…中学時代と正反対になってしまった。レナからハッシーへ名前変更というわけだ。(ついでにキャラも)

スラムダンクの〝安西監督タプタプごっこ″をして大笑いしたり、ブロッコリー頭女子のフケ頭をワサワサしてからかったり、その頃社会問題となっていたカルト教団の〝尊師マーチ″を友美と2人でマリンバやシロフォンを使って連弾したり…友美はエレクトーンも習っていたのですぐにコードで伴奏ができる。〝尊師マーチ″はどうやら校内中に響き渡っていたらしい…帰宅する者が音楽室の前を通る時、必ずこちらを見てくる。
吹奏楽部で来る日も来る日も、マリンバやシロフォンで〝宗教音楽″ばかり連弾していた私と友美は、さぞかし熱心な信者と思われていたのか、変人だと思われていただろう。
(後々同窓会で、いつも放課後になると、尊師マーチが聞こえてきていたのは何だったんだと、ある男子が言っていた)

ブロッコリー頭女子の同じ中学出身のしおりんとも仲良くなった。D組のしおりんはトランペットを吹く美女であった。
部活を終えると山の頂上から私は自転車で、ブロッコリー頭女子としおりんは電車通学なので徒歩で、3人で毎日山のふもとにある小さな駅まで歩いた。ヤバい、その小さな駅の真横に堂々とピアノ教室がある。私が通っているK先生の教室だった。バレないようにしなければ…。

それにしても不思議だ。
中学の時の友達と、えらい種類が違うが、これはこれで楽しいな…皆彼氏どころか好きな人もいない、処女だし(自分もだが)でも話は面白いし、なんていうかお笑い系っていうの?よくわからんが、とても居心地が良いメンバーだった。頭も良さそうだし…ガリ勉?にしては明るいし、よくわかんねーけどまいっか!
気づくと、私はブロッコリー頭女子と友美3人で行動するようになった。


同じくユキちゃんたちのイケてる女子軍団は早くも仲間割れし、7人のグループが3つに分かれていた。やっぱね…女の集団なんてロクなもんじゃなねーんだわ、と心の中で悪態をついた。



私の後ろの席の千景とミエちゃん、後に仲良くなり行動を共にするようになった。



ユキちゃんはサッちゃんというオシャレ女子と2人になった。



後にユキちゃん本人から聞いたのだが、入学式でまず知らない男子3人から告られ、1学期の間だけで10人以上もの男子に告白されていたらしい。『スゲ〜!あの暗い男子どもが!!やっぱ私、女見る目あるわ…』となぜか私がガッツポーズした。
右隣の麻衣ちゃんも同じく1学期の間だけで10人以上の男子から告られていた。
ぬおおおお!両手に花とはこの事だ。右を向いても左を向いても学年中からモテる華やかな女子が隣の席に…目の保養だ…引き続きユキちゃんをガン見しては話しかけ、何だかクラスの中で私を避ける女子が日に日に増えているような気がした。男子もこっちを見てヒソヒソ言ってる。


ま、どーでもいーや!


ブロッコリー頭女子のブレザーのフケを私と友美で毎日バンバン払い大笑いしては、昼休みにお互いを安西監督タプタプごっこでどつきあい、クラスの女子で平和だったのは私たち3人だけだったという事にある日気づいた。

ブロッコリー頭女子はそのうち〝つぶやきシロー″に似ていると評判になり、つぶやきシローにあだ名が変わった。


私があまりにもからかうので、体格差もあり(私は171cm、つぶやきシロー女子は153cm)一時期『ハッシー、美妃ちゃんをあんまり虐めたらダメよ』と他の女子から注意された。英語の教科担任は『何か辛いことがあったらいつでも言ってきなさい』とつぶやきシロー女子にひそかに話しかけていたらしい。
どうりで英語の授業ではその女教師からバンバン当てられ、〝制裁″をくらった。

もちろん、私もつぶやきシロー女子も友美も、そんな自覚はまるでなく3人で大騒ぎしていたのだが、周囲からは私がつぶやきシロー女子をいじめていると誤解されていたようだ。
やれやれ…体格がいいと色んな誤解される…自分の身長の高さを呪った。

色々考えた挙げ句、つぶやきシロー女子は美妃という名前だったので、みっきーと呼ぶ事にした。美妃が生涯の親友になるなんて、その時は思いもしなかった。

今でもたまに美妃と会うと、まず頭や肩にフケが飛んでないかチェックする事から始まる。


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