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sin,cos,tan,〜エガちゃん踊り

中間テストでついに学年最下位の称号を手にした私は、これはもう何としてでも最下位脱出をせねばならない!!

だいたい学年最下位は、勉強しなくなった男子が取るものだと勝手に想像していたが、現実は甘かった。共に最下位同点ゴールを手にした南原と仲良くなった。

よく友だちからは
『ハッシーはやればできるんだよ、やらないだけだよ』という慰めの言葉をいただいたが、

『そうなんだよねぇ…』では済まされない。

母がよく言っていた。
『努力できるのも才能のうち、やればできるなんてただの言い訳』

その通りである。

とりあえず1学期の数2、数Bは“2″だろう。学年最低点を取った私が2じゃなかったら、誰が2を取るんだ。
とにかく期末テストで挽回せねばならないことは明白であった。

私は自分の周りにいる友だちでも“いかにも勉強してます真面目オーラ″を放っている者以外は、おそらく自分と成績はそこまで大差はないだろうと呑気に思っていた。

3バカトリオ(私、南原、野球部の山本くん)と一緒にバカ騒ぎをしていたユースケに一度成績を聞いてみた。ユースケは
『オレ、こう見えて一桁よ!』とニヤリと笑う。
一桁とは…すなわち、後ろから数えての一桁だと思い、お前もかー!と大笑いしていたら

『ハッシー、何言ってんの?オレ常に10番以内よ、だいたい6番か7番…一緒にすんなよ』と大真面目に言われ、非常に驚いた…あ、一緒にしてすんません…(軽くショック)

マジで⁈ 一桁って…全然勉強しているように見えない。いつも私達とバカ騒ぎしては笑い転げていたメンバーなのに!


そういえば3バカトリオの南原も山本くんも、実は学区外から5%入学してきた人たちだった!

一緒につるんでいたミナは、テストの前日まで私とミスドでペチャクチャ喋って、長電話もする。全く勉強しているように見えないのに、何と古典はいつも100点、低くて96点、現代文も90点以上…そう、ミナは“国語ができる天才″だった。

『国語を制する者は全てを制する』いつも言っていた母の言葉をまた思い出した。

ミナはその言葉を体現したような人物で、ガリ勉しない、テストの前日でもカラオケに行く余裕があるのに常に20番代だった。
私は不思議で仕方なく、ミナに勉強のコツを聞いてみた。

『あのね、時間なんかかけないんだよ、古典なんてね、五段活用そのまんま覚えりゃいい、要点をチャチャッとやるだけだよ』

私はミナが勉強している姿を学校で一度も見た事がなかった。家で“チャチャッと″やっていたのかもしれない。
母に話すと、『ミナちゃんは国語の点数それだけ取れてたら、他の教科なんて余裕なんでしょう、アンタと地頭がチガウ』と言われ、そんなもんかと思った。

友美も非常に成績が良かった。通知表は5と4ばっかり。

そういえば皆、『本当なら◯◯校行けたと思うんだけど、ワンランク落としてこっちに来た』と話していた。私も高校受験の時、同じ気持ちだった。地元1番の進学校の入試の足切り点を、担任のおぐちゃんから聞いた時、『なーんだ、私でも通ってたじゃないか…』と思った事がある。

皆考えている事は同じだったのだ。
地元で1番優秀な進学校で真ん中へんをいくより、ワンランク落として今の高校で上位をキープする、成績が優秀な者は“指定校推薦″で国公立でも難関大学に入れる。
そこまで考えていたとは!!

それからは“友だちと勉強してくる″と半分嘘をつき、ミスチル好きなSくんの家に毎週通い、ノートを写させてもらった。母は、男女交際禁止!電話もダメ!ってくらい厳しかったので、ミナと勉強してくるとか適当な嘘をつき、Sくんの家に入り浸った。


Sくんとは単なる男友達の仲だったのだが、彼のお母さんやおばあちゃんは“息子にやっと彼女ができた″と思い込んでいたらしく、私がお邪魔するたびケーキセットやお菓子、お茶やジュースを嬉しそうに部屋まで運んでくれる…あの、ノート借りに来てるだけなんですけどね…なんて言えるはずもなく、愛想笑いをして誤魔化した。

Sくんは学校では非常に大人しい、かといってガリ勉タイプでもない、私の好きなTと同じ部活で、ときどき情報提供もしてくれる。Sくんにもきちんと好きな女子は居た。
ある時、何で学校であまり楽しそうにしていないのか尋ねてみた。
彼はマイルドセブンを吸いながら気だるそうに、『高校ってさ、俺の中では単なる通過点なんだよね…』と返された。
通過点か…冷めてるな…高校生活をそんな風に思った事なんてただの一度も思った事がなかった私は驚いた。
彼からすると高校とは、大学に行くための予備校みたいな単なる“手段の一つ″だったのかもしれない。


色んな考えの人がいるなぁ…。

Sくんの家にはテスト期間が終わっても暇さえあれば遊びに行くようになった。恋愛話をしたり、ミスチルを一緒に聴いたり、タバコも吸える、本当に気楽な男友達であった。


本当にバカなのは私だけなのかもしれない。


親友のみっきーはコンタクトの調子が悪いと、牛乳瓶の底みたいなメガネをして、頭をポリポリかきながら勉強している。しおりんと2人でいつもテスト期間中は踊り場の静かなところで勉強していた。


ちょうど大嫌いな数2で三角関数が出てきた。

もう数字を見るだけでも眠くなるのに、サインやらコサインやらシータやら意味不明の文字がたくさん…こんなものが文系のクラスに、しかも音大に行こうとしている自分に何の関係があるのか、自分の将来に100%役に立たないであろう、これらの数学に憎しみを覚えながらも、とにかくやらねばならない。
最低でも期末テストで60点はとらねばならない。マストだ。

哀れに思った友人の誰かが、サイン、コサイン、タンジェントを江頭2:50の振り付けつきで、おもしろおかしく教えてくれた。
なるほど!それなら私にもできる!



『サイン、コサイン、タンジェント〜♪』のエガちゃん踊りはバカウケし、クラス中の男子、いや隣のクラスにまで広まっていた。

(今でもできる、さっき久しぶりにやってみた)

もちろん理数科のA組の連中や、元々数学が好きな者は冷ややかな目で見ていた。


そんな事をしているうちに、その分野だけなぜかやる気が出て頑張ってみた。
きっかけなんて何でもいい。

初めて死ぬ気でその分野だけ勉強し、期末テストでは無事、数2、数B共に60点をクリアした。
赤点は間逃れたが、中間テストが悪すぎたのと、1,2限にある数学の授業をことごとくサボって出席していなかった為、評定は両方2がついた。

音楽だけ5、数2、数Bが2、あとはオール3、平均したら評定3.0ギリギリだ。


とにかく2学期からは、数学がせめて3になるよう頑張ろう。
じゃないといくら音大でも推薦の枠に入らなくなる。


私の机の上には、ほとんど手をつけていない“チャート式″の黄色い本がうず高く積み上げられていた。



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